JUMP DRIFTERS   作:悪魔さん

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もしもジャンプのキャラクターが「ドリフターズ」の世界に召喚されたら、きっとこうなるんじゃないかなと思って投稿しました。


第1幕:〝死神〟の名を冠する殺し屋

 3月12日、東京都椚ヶ丘(くぬぎがおか)市。

 裏山の古びた旧校舎で、一人、いや一匹のタコのような生物がボロボロの姿で横たわっていた。その周囲には特殊部隊のような服を着た子供達と、二人の大人が立っている。

 彼はかつて、夥しい数の屍を積み上げた地球上で最高の殺し屋だった。そして落ちこぼれの底辺学級を学年一の優秀さを有する最高のクラスに成り上がられた敏腕教師である、世界最強の生物。しかし全ての感情を込めて唯一の弟子と決着を付け、1年間磨き続けた力を使って一度は絶命した教え子を外科手術で蘇生させたことで力を使い果たした。

 全てが片付いた。思い残すことは無い。

「イリーナ先生、参加しなくていいんですか? 賞金獲得のチャンスなのに」

「私はもう充分もらった。ガキ共からもあんたからも、たくさんの絆と経験を。この暗殺はあんたとガキどもの絆だわ」

烏間(からすま)先生。あなたこそが生徒達をこんなに成長させてくれた。これからも……彼等の相談に乗ってあげて下さい」

「……ああ。お前には散々苦労させられたが、この1年は忘れることはない。さよならだ、殺せんせー」

 教師陣の言葉に、優しく微笑んだ。

「……おまたせしました……では皆さん、出欠を取ります」

 タイムリミットが迫る中、超生物は教師としての仕事を全うすべく、最期の出欠を取った。

 

 若き暗殺者達よ。

 今から1つの命を刈り取る。

 君達は、きっと誰より命の価値を知っている。

 たくさん学び、悩み、考えたはずだから。

 私の命に価値を与えてくれたのは君達だ。

 君達を育むことで、君達が私を育んでくれた。

 だからどうか今、最高の殺意で収穫してほしい。

 この28人の未来への糧になれたなら、死ぬ程嬉しいことだから。

 

「本当に、本当に楽しい1年でした。皆さんに暗殺されて先生は幸せです」

 この1年の思い出が、走馬灯のように駆け巡る。

 スラム街の劣悪な家庭環境に生まれ育ち、殺し屋として世界中を渡り歩き、唯一の弟子に裏切られ、実験台(モルモット)にされたという壮絶な人生の果てが、たくさんの教え子に囲まれて感謝されながら殺される。

 暗殺者が暗殺されるというのは皮肉ではあるが、殺し屋にしてはあまりにも上等で穏やかな死だった。

「さようなら、殺せんせー」

「はい。さようなら」

 涙を流しながらも笑顔を見せる教え子――(しお)()(なぎさ)に、笑顔で応える。

 もう、余計な言葉を口にすることはなかった。

 感謝、惜別、全ての気持ちを刃に込めて。魂を注ぐように。全身で〝礼〟をするように。人を殺せないナイフは、恩師の心臓を愛用のネクタイごと貫いた。

 

(……卒業おめでとう)

 

 視界が真っ白に染まる。

 着ていたアカデミックドレスを残して、椚ヶ丘中学校3年E組担任・殺せんせーは光の粒子となって退職(しょうめつ)した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……」

 ゆっくりと目を開ける。

 真っ白な世界。この世の光景とは思えないそれに、殺せんせーは動じなかった。

(これがあの世なのでしょうね。雪村先生も、あの子も、きっと……)

 しかし、ふいに両手を見た途端、ガバッと起き上がった。

 自らの姿に、文字通り跳び起きた。黄色い触手が特徴の肉体は、血色のいい肌色でそれぞれ二本の腕と足があった。頭を触れば、ツルツルだったはずなのにフサフサとしている。髪の毛が生えていた。服装もアカデミックドレスと三日月をあしらったネクタイではなく、洋装と丈の長いコート。

 それは殺せんせーが殺し屋の頃――()()()()()()の姿だ。そこはいい。一番驚いたのは拍動――貫かれたはずの心臓が規則正しく動いていることだった。

「なぜ……私は渚君に確かに……それに、ここは……!?」

 気づけば、そこは異様な空間だった。

 目の前にはひたすらに真っ直ぐ伸びる真っ白な通路。その両サイドには無数の扉が並び、その中央にはまるでどこかの役所のようなデスクがある。そこに腰掛けるのは、眼鏡にワイシャツ、袖カバーという事務員のような姿をした七三分けの男だ。

「ここは一体どこですか……あなたは何者ですか?」

 殺せんせーは問う。しかし男は答えない。

 その代わりに、七三分けの男は万年筆を持って机の上の紙に何かを書いた。

 

 暗殺教室 殺せんせー 元椚ヶ丘中学校3年E組担任

 

「な……」

 あまりにも非現実的な光景に、理解が追いつかない殺せんせー。

 ふと、七三分けの男と目が合った。

「次」

 七三分けの男は冷たい口調で告げる。

 すると次の瞬間、殺せんせーの体が石積みの枠で出来た扉に吸い寄せられ始めた。

「うぅっ!? な、これは……!?」

 漆黒のそれに呑みこまれ、とある世界(・・・・・)で地球上で最高の殺し屋と評された元超生物兼中学校教師は、姿を消した。

 その直後。彼に続くように道化師のようなメイクをした長身の男が突然現れた。

「……え……ど、どうなってんだァ!? おれは生きてんのか!? ドフィに蜂の巣にされたってのに……ってかどこだここ!?」

 

 

           *

 

 

「困りましたね……」

 全くと言っていい程、何も存在しない夜の森の中。

 道なき道を歩むのは、黒髪の整った容姿をした青年。彼こそが殺せんせー――ある世界で無敵を誇った伝説の殺し屋〝死神〟である。本名、国籍、年齢……いずれも本人にもわからないが、不可能と思われる殺人をことごとくこなし、「「死」そのもの」と呼ばれるに至った男なのだ。

 前世は事実上の地上最強の生物として一年過ごしたが、彼は人間の頃から超人的な技能の持ち主。未開の地で慣れることなど造作も無かった。

「一応持ち物チェックしましょうか」

 来ていた服に入っている全ての物を取り出す。入っていたのはコンバットナイフ、サバイバルナイフ、回転式拳銃、予備の弾丸、ライターの五つだった。

 ナイフは暗殺用とサバイバル用で使い分ければいい。ライターは火を起こすのに非常に重要。拳銃と弾丸は、限りがあるので戦闘における奥の手として取っておくべきだろう。

 ただ、それ以前に一番の問題が発覚した。

「一番大事な水や食料がないとは……」

 思わずトホホ、と言いたくなった。

 優れた殺し屋は万に通じるとはいえ、所詮は人の子だ。水と食料がなければ生きていけない。超生物だった頃は何でも食えたが、人間の姿である以上は超生物だった頃のようなデタラメさは実現不可能である。

 だが知識とサバイバル術は、失ったわけではない。人間の頃から潜入暗殺の為に様々な知識を身に着けているため、大学教授に化けられる程の頭脳はあるし純粋な学力も桁外れである。殺せんせー自身にとっては、元々の姿に戻っただけであるに過ぎないのだ。

(それにしても、あの眼鏡を掛けた事務員のような男……それに果てしない真っ白な通路に無数の扉……その内の一つの扉に引きずり込まれた私。少なくともここは日本ではなさそうだ)

 家族がいるわけでも、帰るべき家があるわけでもない。

 劣悪なスラム街で生まれ育ち、裏社会で夥しい数の屍を作った男に居場所は最初から存在しなかった。ゆえにあの奇妙な男を恨んでもいないし殺意も湧かない。ただ残念なのは、もしかしたらあったであろう唯一の弟子と学び直す機会と前任だった雪村あぐりとの再会ができないぐらいだ。

(二人には申し訳ないですね……)

 そんなことを考えて森の中を掻き進むと、目の前に廃城が現れた。

「……電気はまず通ってないでしょうが、寝床にはできそうですね。井戸があればいいですが……」

 まるで中世ヨーロッパを彷彿させる廃城。

 殺せんせーの中で、ある可能性が浮かび上がってくる。

(これはもしや、異世界転生というモノでしょうか……?)

 かつての生徒達が読んでいたマンガや小説であったジャンル「異世界転生」。ある世界の住人が死後に別の世界で生まれ変わり、新しく人生をやり直すというもので、多種多様な物語設定となっている。

 もしかしたら自分も、その異世界転生の対象となったのかもしれない。

(灯りがあるってことは、すでに誰かいらっしゃるようですね。交渉して寝泊りさせてもらおう。言葉が通じればいいのですが――っ!)

 ふと、背後に感じた気配。

 目にも止まらぬ速さで距離を取り、コンバットナイフを構えるが……。

「まあすごい。気づかれるなんて思いもしませんでした……これでも気配は殺してたんですよ?」

「! おや、これはこれは……」

 殺せんせーの眼前に立つ、気配の正体。それは何と一人の女剣士だった。

 蝶の羽根を模した髪飾りや羽織を着用し、詰襟を着こなした大正浪漫という言葉が似合う物腰の柔らかそうな女性。しかし腰に差した刀や殺し屋の自分の背後に忍び寄れた隠密ぶりから見て、只者ではないことが伺えた。

 一方で、安堵させることもあった。相手が日本語を話せることだ。

 異世界転生において、異世界のほとんどは亜人やドラゴンなどのファンタジー要素で満ちており、時には人語とは違った別の言語が飛び交うこともある。世界中の言語を習得したとはいえ、世界そのものが違えば話は別……意思の疎通は不安要素であったのだが、それは解決できたようだ。

 そして何より……。

「あの……鼻血出てますよ?」

「ニュッ?」

 初めて会ったのが、麗しい女性だったことだ。

 殺せんせーも何だかんだで一般的な成人男性のような性的嗜好をしており、女子大生と仲良くなる妄想をすることもあったくらいだ。人間の姿で、しかも初めて異世界で会えた人物が人間の女性であるのは奇跡に近かった。

「清楚な見た目の割に、随分な助平さんなんですね」

「し、失敬な! 私は健全な男子ですよ!!」

 笑顔で毒を吐く女剣士に、殺せんせーは憤慨する。

 巨乳好きの殺し屋が言えた義理ではない。

「――それよりも、人と出会えてよかったですよ。石の扉に吸い込まれたら森の中でしたから」

「! やはりそうでしたか……どうやら、あなたも私達と同じようですね」

「それは一体……」

 殺せんせーは首を傾げた。

 その時、廃城の中から男の声がした。

「おい、大丈夫か? 強そうな気配がしたぜ」

「ええ、私達と同じ飛ばされてきた人(・・・・・・・・)ですよ」

「おおっ!? そうか! じゃあ歓迎しようじゃねェか! よォし、宴だ!!」

「またそうやってお酒を……あなた自首とはいえ故郷で処刑されたんでしょう? 鬼に全身の骨砕かれた私が言えた義理じゃないですけど、二度目はお酒でポックリ逝ったなんて、格好がつきませんよ」

「何言ってやがるんだ! 嬉しいことに〝仲間〟が増えたんだ、飲まずにいられるかってんだ!!」

 わっはっはっは、と陽気な声が響く。

 処刑されたとか鬼に全身の骨を砕かれたとか、物騒な発言が飛び交ったが、少なくとも話し合いが通じない者達ではなさそうだ。

 寝床を確保した上に協力者を二人、それも片方が女性というありがたい展開に、殺せんせーはホッと一息ついた。

「ではお兄さん、案内しますよ。ちょうど夕飯の準備をしていたところなんです」

「それはどうも」

 殺せんせーは女剣士のあとを追う。

(――そういえば、森の中でこちらを見ている彼女(・・)には気づいているのだろうか。妙な気を起こすようではなさそうですが……しばらく泳がせましょうかね)

 背後に潜む別の気配に気づくも、敵意も殺意も無いようなので見逃しつつ、廃城に足を踏み入れた。

 

 この時、殺せんせーは知る由も無かった。

 廃城に住む二人が、自分がいた世界の人間ではないということを。




始まりました、「JUMP DRIFTERS」。

トップバッターは「暗殺教室」の殺せんせー。本作では人間時代の姿で参戦です。
次話では、ヒガシザメのステーキが好きな伝説の海賊と生姜の佃煮が好きな鬼退治のプロが登場します。原作のドリフターズに登場するキャラもいるので、お楽しみに。

あと、今更になって「鬼滅の刃」にハマり始めました。(笑)
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