金柑頭・光秀のポジションは、あえて彼にしました。
あと、オルテ語は〈〉で表記します。
鯉伴は土方と新選組の亡霊達を相手取っていた。
新選組の亡霊達は、相手の物理攻撃を無効化するが自分達の攻撃を通すことができる。土方本人の剣の技量も相まって、一個師団以上の力を発揮する。
しかし鯉伴も、認識に干渉するぬらりひょんの畏の活用で敵を惑わすのを得意とする。半妖ながらも妖怪としての能力は非常に高く、土方は苦戦を強いられた。
「副長さんよ、そういやあお前さん他は召喚できないのかい?」
「……? 何を言っている」
ギィン! と刃をぶつけ、鍔迫り合いに持ち込む。
「隊士はいるが、他の組長はいるだろう。沖田とか永倉とか」
「っ!」
「……もしかして、まだ未完成なのかい?」
「……」
土方は無言を貫いた。
廃棄物となった鬼の副長は、隊士達を召喚はできても幹部格の召喚は一度たりとも成功していない。沖田総司や永倉新八、齋藤一といった新選組でも随一の剣豪の召喚ができていないのは、まだ能力が覚醒しきってない可能性があるのだ。
その可能性を見抜いた鯉伴に、舌打ちしながらも肯定した。
「ちっ…………ああ、確かに今の俺は勇さんや総司を召喚できない。だが……」
「!」
「今の状態でも、お前達を殺すには十分だ」
「……そうかい」
互いに距離を取り、再び得物を構える。
その時だった。
ドォン!
「っ!? な、何……だと!!」
「……あ~、そういうことね」
土方は顔色を変えて驚愕した。
何と乗っ取るはずの議事堂が爆発し、激しく燃えたのだ。
時同じくして、議事堂は阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
議事堂に黒王軍が突入したのだが、それは罠であり、エルフ達が放った火矢で油の入った樽を引火・爆燃されたのだ。
〈脱出しろ!〉
〈逃げろ!〉
〈焼き殺されるぞ〉
オルテ語で撤退を促す黒王軍。
しかし出入り口に向かった途端に「石壁」で塞がれ、逃げ場を失ってしまう。それならばと窓を割って〝残された逃げ場〟から脱出しようとするが、もれなく銃兵が配置されていた。
〈敵が!〉
刹那、銃口から火が吹き、弾丸が次々と黒王軍を屠っていく。
「こんなに簡単に死ぬのか……! こんなに簡単に殺せるのか……!!」
「ま……また私の札がひどい事に使われている……」
石壁で逃げ場を無くした上での殲滅戦。
兵器として使うなど考えたこともなかったオルミーヌと、あっけなく敵が死んでいく姿にサン・ジェルミの精鋭達は衝撃を受ける。
一方、その様子を見ていた殺せんせーとLは勝利を確信していた。
「敵の目的はこれで見失いましたね」
「潮目はこれで変わりました。この戦いはこれでチェックメイトです」
場面変わって。
火が上がった議事堂を目にし、茫然とする土方。
まんまと罠に嵌った黒王軍は壊滅し、これ以上の戦いは無益となった。
〈――土方、もはや潮である〉
「!」
土方の頭の中に、黒王の声が響く。
それは、撤退命令だった。
「まだだ! まだ俺は負けていない!」
〈そうだ、負けていない。勝ちだ。だがこれ以上は勝てぬ〉
「っ……」
この戦いはオルテの都も傷物にできたため、紛れも無い黒王軍の勝利であるが、
黒王の言葉の意味を察し、土方は悔しそうな表情を浮かべつつも愛刀を鞘に収め戦線離脱を決めた。
それに合わせるように頭上から竜が現れ、土方は飛び乗った。
「奴良鯉伴と言ったな。次は必ず殺す。なますに刻んでやる」
「……そうかい。じゃあ、それまで楽しみに待ってやるさ」
「ぬかせ」
土方は竜に乗って飛び去っていった。
その姿が見えなくなるまで、鯉伴は空を見続けた。
そして完全に見えなくなったところで翻し、その場から離れていたドワーフ達と合流した。
「小僧」
「うまく切り抜けたの」
「ああ。どうやら、ここはこれまでのよう――」
ドォォン!!
『!?』
突如、轟音と共に夜空が明るくなった。
見上げてみると、赤黒い稲妻と大小様々な月輪が天に向かって昇っていた。
「な、何じゃあ!?」
「おいちょっと待て、あっちは確か杏寿郎が向かってた方向じゃねぇか!!」
*
同時刻。
炎柱・煉獄杏寿郎は、〝天災〟の衝突に固唾を飲んで見守っていた。
いや、見守るしかなかった。
「「オアアアアアアアア!!!」」
地を震わせる、ロジャーと黒死牟の咆哮。
それと共に、両者の剣が激突。衝撃波が発生する鍔迫り合いが繰り広げられた。
「ぐうぅっ……!!」
自分の身を護るのが精一杯で、その場から一歩も動けない杏寿郎。
目の前で行われる攻防は、人智を超越していた。上弦の鬼と生身で戦った経験があるからこそ、鬼殺隊の柱として人々を護り鬼を滅し続けたからこそ、目の前のぶつかり合いがいかに異次元の戦いであるか容易に理解できた。
(……俺は、何もできないのか……)
強き者ですら弱者となり、助太刀が足手まといになる。
何者も寄せ付けない真の最強である者のみが足を踏みいることを許される領域――「頂点」の前では、鬼狩りの最高位ですら間合いに近づくことすらできないのだ。
「うりゃああっ!」
ロジャーは強引に斬り上げ、黒死牟の体勢を崩す。
体をよろめかせ、隙を見せた彼に豪拳を一発ブチ込むと、そのまま飛び上がってサーベルを薙いだ。
「〝
空中から放たれる海賊王の剣技が、上弦の壱に襲い掛かる。
すると黒死牟は、三又に枝分かれした大太刀を横薙ぎに振るった。〝捌ノ型
「がああああっ!」
黒死牟は真っ向から受け止めると、それをロジャーに弾き返した。それと共に無数の月輪が襲い掛かるが、ロジャーは覇気を纏わせたサーベルを振るい、次々に打ち破っていく。
すると黒死牟は大太刀を両手で持ち、飛び上がってロジャーと斬り結んだ。空中で繰り広げられる凄まじい高速戦闘は、両者がぶつかる度に赤黒い稲妻と月輪が迸り、周囲の大気が震える。
(ロジャー殿の剣は日輪刀ではない……日輪刀を持つ俺が行かねば、あの鬼は倒せない! だが、体が拒否している……!! 柱として、鬼殺隊の隊士として、不甲斐無さすぎる!!)
杏寿郎も人の子だ。
だからこそ、人としての生存本能が鬼殺隊としての信念を抑えつけていた。
恐れや怯えは一切無いが、体が気づいているのだ。
(また、私は醜い化け物に成り下がったのか……)
熾烈を極めた戦いの中、黒死牟は己に絶望していた。
ロジャーのサーベルの刀身に反射して何度も映る、侍の姿から遠くかけ離れた異形の怪物。〝日の呼吸〟の使い手ではない者達に頚を落とされた、あの時と同じ姿だ。
仲間も家族も人であることすら捨て、高みへと手を伸ばし続け、一人孤独に塵と還った黒死牟。
仲間を見捨てず裏切らず、この世の全てを手にし、自らの死で時代を変えたロジャー。
同じ〝最強の男〟でありながら、一度目の生き様と死に様が対極に位置する二人。
さらなる強さを求め続けた者と、自由を求め続けた男とでは、こうも大きな差があった。
(……もうよい。もうよいのだ、ロジャー……お前は私を、唯一〝侍〟と呼んでくれた……もはやそれ以外はいらぬ……)
このまま消えて灰になりたいと、自分自身への怨毒が湧いてくるのを覚えた。
鬼となったことを、今になって後悔し始めた。鬼は剣士には成れても〝侍〟には成れないのだと。ロジャーに惹かれた時点で、
それでも、己の強さも想いも全て受け止める、この海のように広い男と同じ世界に生まれ、剣を握って同じ時代を生きたかった。
――この異世界でも、同じ過ちを繰り返すのか。
「ロ、ジャ……」
「巌勝っ!」
空中から再び地上へと戦局が移った途端、黒死牟は刀を手放して膝を突き、それに気づいたロジャーは剣を止めた。
遠くから見ていた杏寿郎は、急ぎ二人の元へ向かう。
「ロジャー殿!」
「! おめェ……杏寿郎だったか?」
「その鬼は、もしや〝上弦の壱〟か」
鬼殺隊にとっては不倶戴天の敵である十二鬼月の頂点。
それ程の強力な鬼が、あの禍々しい殺気と威圧に満ちていた鬼が、どういう訳かは不明だが戦意を失っている。
今はその頚を斬り落とす絶好の好機。杏寿郎は日輪刀の鯉口を切るが――
「そいつァ何の冗談だ? 杏寿郎」
ズンッ!
「っ!?」
ロジャーが睨んだ途端、杏寿郎は今まで感じたことの無い圧迫感に襲われた。
急に体が重くなる。息が荒くなる。怖気が止まらない。
気風は読めないが快活な楽天家と見ていた杏寿郎は、ロジャーが本物の王者であることをその身を以て思い知った。
「丸腰の相手にそれは無粋だろ?」
サーベルを納刀するロジャーに、杏寿郎は汗を拭う。
戦わずに敵を屈させることも、海の王者にとって造作も無いことなのだ。
「……すまない、早とちりだった」
「気にすんな! おめェも
先程の覇気はどこへやら。
ニッと笑うロジャーに、杏寿郎は苦笑いした。
「……で、どうなんだ巌勝」
ロジャーは腕を組んで黒死牟に向き直る。
黒死牟は、本来の双眼から涙を流していた。
(鬼が、涙を……!)
「……私は……もう、疲れた……」
黒死牟は、少しずつ言葉を紡ぐ。
「見ないで、くれ……この、醜い姿を……!! ……
強く焦がれ、強く求め、その果てが二度もなった今の姿。
一度目は戸惑って精神が揺らぎ、二度目は己自身に絶望した。
今の黒死牟にとっては、時に不敵に、時に豪快に笑うロジャーの顔が、死よりも恐ろしく思えた。それ程までに追い込まれていたのだ。
しかしロジャーは、絶望すら塗り替える言葉を投げ掛けた。
「――おれを超えると言った時のおめェは、生き生きしてたぜ」
「!!」
「巌勝、おれァ「答え」を聞いてねェ……だから教えてくれ、おめェはこれからどうしたいんだ?」
ロジャーは、ニカッと歯を見せた。
それは、必ず期待通りの言葉が出ると信じて疑わない、確信を持った顔だった。
「……ロジャー……!」
「おう」
「私は……お前に勝ちたい……!!」
それは、かつて「最強の侍」という夢を持った男の本心。全てを犠牲にした男が、全てを手にした男の強さに惹かれていた証拠だった。
黒死牟にとって、ロジャーは特別な存在だった。
嫌悪も慢心も傲慢も、剣技もろとも真っ向から受け止め、鬼となった自分を〝侍〟と呼んだ唯一の男。人間が自分を打倒し得る領域に至ると、強い苛立ちを覚えていたのに、ロジャーにだけはそれが湧かなかった。
それは、ロジャーという人間に憧憬していたことに他ならなかった。
「……そっか! じゃあおれと一緒に来るんだな!」
「無論……」
黒死牟の答えに満足したのか、ロジャーは子供のように大喜びした。
「……よもやよもやだ。まさか鬼を、それも上弦の壱を……」
杏寿郎は唖然とする。
数百年もの間、十二鬼月最強として君臨し、人々を貪ってきた上弦の壱。それ程の怪物と真っ向から渡り合ったロジャーの強さと、鬼となったことで負の面が肥大化した男の想いを受け止める器の大きさに、敬意すら抱いた。
「歓迎するぜ巌勝! ……と言いてェが、その前に顔と背中のをどうにかしねェとな」
ロジャーのさりげない一言に、黒死牟は落ち込んだ。
今の黒死牟の異形ぶりは、確かに色々とマズイだろう。
「そういうカッコ
「俺に振るのか!?」
「この手の類はおめェの方が詳しいだろ」
海賊であるロジャーとは違い、杏寿郎は鬼狩りであり、鬼という存在の知識はある程度把握している。
ただ、知っているだけだ。鬼の息の根を止めることはできても、その力の抑制は全くの無知なのだ。
「………………胡蝶に任せようっ!!」
考え抜いた結果、杏寿郎は同僚に一任することにした。
こうして、ヴェルリナでの防衛戦は幕を下ろした。
首都は奪われなかったものの壊滅的な被害を受けたため、完全勝利とは決して言えない。しかし幸いにも漂流者側は死傷者はおろか負傷者すらおらず、黒死牟という最強の鬼を軍門に下すという奇跡と言える戦果を挙げた。
*
「も……申し訳、ありませぬ……。みすみす黒王様の兵を……しかもあの黒死牟が……」
「いや、兵は無駄死にではない。威力偵察の成果は高い。オルテの都も傷物にできた」
征圧されたカルネアデスの城内で、ラスプーチンは険しい表情で体を震わせた。
今回の作戦は、オルテ帝国首都の破壊。黒王は威力偵察と都を傷物にするという本来の狙いを達成できたと評価しているが、目的の達成度は中途半端な上、廃棄物を除いてヴェルリナに投じた軍勢を皆殺しにされるという大損害を出した。
そして何と言っても一番の痛手は、剣技を極めた最強の鬼・黒死牟が漂流者に寝返ったこと。黒王軍にも剣術に長けた廃棄物はいるが、その中の頂点と言える黒死牟が漂流者側に寝返ったのは想定外。黒王軍の人間関係や士気にも関わる一大事だ。
しかし黒王は、それを意にも介さず淡々と告げた。
「ジャンヌが無惨殿の血に適合し、黒死牟に匹敵する力を得ようとしている。我が軍に加わる同志も増えた。いずれにしろ、次の遠征まで時間はかかる。それまでに戦力を拡大させよ」
黒王の命令に、ラスプーチンは「御意」と頭を垂れた。
その後、黒王はその場に居合わせた新たな廃棄物に顔を向けた。
「それに奴らの指揮系統も大よそ把握できた。その一人と面識があるようだな〝キラ〟」
「ああ。あの声、間違いない……間違えようも忘れようもない」
声を発したのは、黒いスーツを纏った青年。
「また僕の邪魔をする。「新世界」創生の邪魔をする」
青年は立ち上がり、フードで顔が見えない黒王を見つめる。
そして、氷のように冷たい微笑みを浮かべた。
「Lを殺せるのは、この
夜神月。
名前を書いた人間を死なせることができるという死神のノート「デスノート」を使い、犯罪者のいない理想の世界を創ろうとした、稀代の大量殺人者〝キラ〟。あらゆる面において卓越した才能を発揮する天才にして独善的かつ歪んだ正義感の持ち主であり、異世界に
「ノートは無いが、僕には新世界の神に相応しい頭脳がある。今回の作戦はLが勝ったよ。だけど次は僕が勝利に導く」
戦乱の陰で、冷酷無情な〝狂気の正義〟が廃棄物の王と共に世界に牙を剥こうとしていた。
皆さん、意外でした? それとも期待通りでした?
今後の展開次第で漂流者・廃棄物は追加しますので、乞うご期待。