JUMP DRIFTERS   作:悪魔さん

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お待たせしました。
三月最初の投稿です。


第27幕:和平交渉

 二日後。

 ヴェルリナでグ=ビンネンとの和平交渉が行われることとなり、サン・ジェルミは議場へと向かった。

「グ=ビンネンもまさか、ブリガンテを寄越してくるなんてね」

 サン・ジェルミは気を引き締める。

 最初の和平交渉で、グ=ビンネンはいきなり序列二位の重鎮ナイゼル・ブリガンテを向かわせたという。

 優勢でありながら敵地(オルテ)まで来る現場主義ぶりに驚きつつも、常識的に考えて「グ=ビンネンも内実は和平したい」という表れなのだろう。

「気合入れてやらないと……っ!?」

 議場の扉を開けた途端、サン・ジェルミは衝撃を受けた。

 実際に来たのはブリガンテではない。さらにその上の存在――ギルド序列筆頭のバンゼルマシン・シャイロック8世だったのだ。実質、グ=ビンネンのトップに君臨する商人である。

「「物事は単純に素早く、そして単純に」……我が商会の社訓でね。この方が話が早いだろ? やあ、久しぶりサン・ジェルミ」

 社訓に従い自ら現れたという筆頭。

 交渉を素早く進めたいその度胸は、商人として一級品だ。

「まだ私達は戦争中なのよ!! 命知らずというかバカというか……」

「私に傷一つ付けただけで全て終わる。オルテ国民全員、餓死するまで()()

 自分に傷一つつけただけで帝国(オルテ)は詰むと脅すシャイロック。

 だが和平目的である上、そもそも終わってるような国なので、サン・ジェルミは「顔以外全然かわいくない」と言うだけで挑発には乗らず、交渉を始めた。

「まあまあ、そう言わんで。降参したいんだって?」

()()よ」

「まあどっちでも簡単には行かないねェ」

 シャイロックは、この戦争はオルテが仕掛けてきたのであって全てにおいて勝っていると主張。彼に付き添った部下達も、このまま戦争状態を続けてもオルテ内陸を攻めても問題無いと付け加える。

 しかしサン・ジェルミは商人根性の権化と言えるグ=ビンネンを熟知している。占領統治と陸軍運用の経験蓄積の無いシャイロック達がそんなリスクに手を出すわけがないと論破した。

「軍への「浪費」を、とっとと抑えたいんでしょう? それがあなた達! 本当は和平したくて仕方ない!!」

「………煮ても焼いても食えない。どっちがだよサン・ジェルミ」

 内情を見抜かれ、困ったように笑うシャイロック。

 交渉を有利にしようと色々仕掛ける相手に、的確に切り返し反論をする交渉術。それが政略に卓越した策謀家サン・ジェルミ最大の強みだ。

 その上で、帝国の海軍も廻船商人も壊滅したため海を掌握したグ=ビンネンに、要求賠償一切無しの「白紙和平」を突きつける。

「ふん……まあ良いかな? まだ(・・)あるんだろう? サン・ジェルミ」

「それと当面の食料物資諸々と、お金を貸しなさいな」

 帝国と連合が和平成立したと思いきや、さらに立て続けに要求するサン・ジェルミ。

 その内容にシャイロックの側近達は仰天する。

「殺し合いをしていた相手に「飯」どころか、「金」も出せと?」

「これは先物買いというか……先行投資と思って欲しいわ」

 笑みを深めるサン・ジェルミの意図を察し、シャイロックは目を細めた。

 北からは人類廃滅を掲げる黒王率いる廃棄物と人外の軍勢が押し寄せる。その矢面に立つのはオルテであり、オルテを強くしなければ黒王軍を打破することはできず、世界が崩壊すれば商業などは成り立たない。

 黒王に負けて滅べば商売不能――そう考えれば、サン・ジェルミの言っていることは一理あるのだ。

「質に入れるタネならあるわ? 銃よ」

 サン・ジェルミが指を鳴らすと、側近が銃をテーブルの上に置いた。

 グ=ビンネンに特別に卸す腹積もりのようだ。

「漂流者世界の武器か……我々もそれを複製・製造してしまい、君達を介さずとも済んでしまうとは考えないか」

「作れても〝割に合う代物〟かは別でしょう」

『!』

「殺せんせー、あなた……」

 そこへ現れたのは、「漂流者(ドリフターズ)」殺せんせーだった。

 突然の漂流者の介入に、一同は目を見開く。

「別の勢力によって、いずれそうなるのは目に見ています。ですが、あなた達ではどうしようもないものがある」

「ほう?」

 殺せんせーは、銃はオルテという人間帝国でしか生み出せない代物だと語る。

 構造自体は単純なものだが、銃身はドワーフ達の冶金鍛冶、銃床と落とし鉄はエルフの細工・木工で成り立つ、言わば高度技術者による質の高い代物なのだ。

 何より銃に欠かせない火薬の原料は、木炭と硫黄と硝石。木炭は作れるし、硫黄は火山で取れるが、硝石は違う。鉱床が見つかってない以上便所の土からしか採れず、現時点では他に硝石を入手するアテがない。

「……どうでしょうか筆頭。鉱床について調べが足りない上に黒王に対する〝盾〟が無いあなた方にとって、これは必要不可欠だと思いますが」

「……確かに黒王がやってくるその前に、弱ったオルテをマトモにせねばな。――商談成立だ、飲もうその話。利子はきっちり取り立てる」

「言質取ったわよおぉぉぉぉ……」

 最高責任者として食料と資金を貸すと約束するシャイロックに、サン・ジェルミは力尽きて真っ白になる。

 これでグ=ビンネンとの繋がりができたという訳である。

「銃を担保に融資を受ける……まるで武器商人みたいですね」

「んな時代遅れの代物より、もっといいのがあるぜ」

 そこへ、新たなる声が。

 ピリピリと肌を刺す感覚が徐々に強くなり、殺せんせーは警戒する。

「やあマコト。どこに行ってたんだい?」

「下の名前で気安く呼ぶんじゃねェ、気持ち(わり)ィ……俺がどこに行こうが勝手だろうが」

 部屋に入ってきたのは、体中に包帯を巻いた異様な姿をしている剣士。

 漂流者(ドリフターズ)として飛ばされてきた〝炎を統べる悪鬼〟志々雄真実だ。

「しっ……志々雄真実……!?」

 先程まで真っ白に燃え尽きていたサン・ジェルミは、とんでもない大物の登場に絶句した。

(え? ウソでしょ? 一番廃棄物(エンズ)っぽい奴が漂流者(みかた)側なの?)

 味方になれば非常に頼れる戦力だが、それ以上に底知れない野心家である志々雄。

 人の下に付けないタイプの人間が増えてきている現状に、サン・ジェルミは頭を抱えたくなった。

「てめェが本隊の一人か? そんな安物でよく国を取れたモンだな」

「……あなた、ただの悪党じゃないですね」

「ああ、極悪人だ」

 口角を最大限に上げる極悪人(ししお)

 彼はテーブルの上に、袋に包まれた長い何かを置いた。

「殺せんせー……とか呼ばれてたな、アンタ。名乗るような本名はねェのか?」

「ええ。教え子から授かったあだ名が、私の名前です」

「フン……まあいい。アンタは頭がよさそうだ、コイツを知ってるか?」

 志々雄が袋を剥ぐと、そこには意外なものが。

「これは……「スペンサー銃」!」

 フリントロックよりも一世紀以上も未来の兵器に、殺せんせーは驚いた。

 ――この異世界に、まさかこんな高性能兵器が流れ着いていたとは……!!

「殺せんせー、知ってるの?」

「管状弾倉装填式のレバーアクションライフルです。アメリカの南北戦争後に余剰品が世界中に流れ、日本では戊辰戦争で官軍も幕軍も一部の人間が使用してます。銃床から7発の弾丸を込めることができる仕組みで、先込め式のエンフィールド銃と比べてはるかに火力が優れてますし、射程距離もゲベール銃より――」

「もういい! もういいわ、詳しいのはわかったから!」

 ここで区切らねば話が長くなる。

 サン・ジェルミは両手をブンブン振って喋るのを止めさせた。

「ほう……そこまで知ってやがったか」

「あなた、なぜこのような代物を?」

「甲鉄艦の中の武器庫から持ってきた。仕組みがわかってるんなら、話は(はえ)ェ。銃を造るんだろ? こっちにゃもっと質のいいヤツがあるぜ」

 自他共認める極悪人は、戦慄すら覚える程の獰猛な笑みを浮かべた。

 

 

           *

 

 

 その頃、漂流者(ドリフターズ)の総大将・産屋敷耀哉はある人物と面談していた。

「私の代の柱は、戦国の時代、始まりの呼吸の剣士以来の精鋭達が揃ったと思っていたけど……まさかその始まりの呼吸の剣士がお越しいただけるなんてね。とても心強いよ」

「……私はそのような大層な人間ではない。私はしくじったのです、期待されるような才覚の剣士じゃない」

 その相手とは、継国縁壱。

 つい先日飛ばされたばかりの漂流者であり、今回の和平交渉の場に同行した天才剣士だ。彼は鬼の始祖にして最強の鬼である鬼舞辻無惨を類稀なる剣才で追い詰めた、最強の鬼狩りである。

「……何だか冨岡さんと話しているみたいですね……」

「うむ! 冨岡もどちらかと言うと物静かな男だ!」

 面談に同席したしのぶと杏寿郎は、同僚の〝水柱〟(とみ)(おか)()(ゆう)を思い浮かべた。柱は口数が少ない剣士と縁が深いのだろうか。

 その時、ふとしのぶは冨岡と縁壱を重ねて見たことで気づいた。

「……あれ? まさか冨岡さんの言っていた「俺はお前らとは違う」って……自己肯定感の低さだったりします?」

「……」

「……あのような表情で驕ってるようには見えなかったんだけどね……」

 協調性に欠ける人物として認識されている義勇。

 それがまさか、言葉足らずに加えて自己肯定感の低さによって引き起こされたとしたら?

「……今になって気づくなんて……」

「誰が何と言おうと、あいつが自分をどう思おうと、冨岡が水柱なのだがな!」

「ごもっともですよ、煉獄さん」

 しのぶは盛大に溜め息を吐いて頭を抱えた。

 死んで異世界に飛ばされ、似たような雰囲気の人物と出会ってようやく気づいた同僚の真意。長年の不和の原因が、口足らずに加えて自己肯定感の低さだったとは。

「……それで、縁壱殿。なぜそこまで自分を否定するのかな」

「あの時、息の根を完全に止めていれば、あなた方を死なせることは無かった。止めを刺す直前にあの男は自らの肉体を弾けさせ、無数の肉片となって逃亡した。その全ての肉片を斬り捨てれば……」

「そんなことができるのか!?」

「鬼の再生能力ならでは、と言ったところでしょうか……」

 鬼舞辻無惨の能力の全てを、鬼殺隊は把握していない。そもそも遭遇したことがない上、遭遇しても殺されて情報を持ち帰れないからだ。

 だが目の前にいる痣を持つ剣士は、無惨を追い詰めた猛者。それゆえに能力の一部を垣間見ることができた。

「……そうとなると、日輪刀で頸を落とす程度では死なない可能性が非常に高い。やはり日光が唯一倒す手段のようだ」

「お館様……」

「だが勝機はある。こちらには異世界から来た屈強な傑物達が味方してくれている。それも一時代を築いた程のね」

 無惨だけでなく、黒王が猛威を振るう異世界。

 しかし自分達には、それぞれの世界で名を轟かせ、激動を生き時代を変えた猛者が揃っている。彼らと一致団結すれば、いかなる困難も打破できる。

 耀哉はそう確信していた。

「縁壱殿、もう一度力を貸してほしい」

 そう嘆願する耀哉だったが、縁壱は首を縦に振らなかった。

 なぜかと言うと――

「兄・巌勝が産屋敷家当主を殺し、裏切って鬼となった」

「「「!」」」

「私は妻子も守れず、兄一人も救えない。……何の価値もない男なのだ」

 縁壱にとって兄の巌勝は、仲が良かろうが悪かろうが関係なく、大切な存在だった。

 兄が人喰いの鬼と成り果てた原因は、自分にあるのだと。無惨によって鬼と成ったのではなく、自分のせいで鬼と成ったのだと。

 ずば抜けた剣の才能を持ちながら、大切な人間を救えなかったことに、縁壱は後悔していたのだ。

「その兄が、また私達の味方になっていたらどうするのかな?」

「えっ……?」

「巌勝殿、今だよ」

 縁壱はまさかと思い、背後を振り返った。

 そこにいたのは、鬼と成り果てた兄だった。

「縁壱……」

「……あ、兄上……!?」

 それは、時を経て、世界を越え、最強の兄弟が再び対峙した瞬間だった。

 全てを聞いていた黒死牟は複雑な表情を浮かべ、縁壱は動揺を隠せないでいた。

 あの赤い月の夜……もう二度と会うことがないと、分かり合えることは決してないと、完全に袂を分かつことになったのに。

「……」

 今までにない程に、目に見える動揺を見せる縁壱(おとうと)を見て、黒死牟はロジャーとの会話を思い返した。

 

 強すぎるから、出来が良すぎるから、そういった理由で他人に疎まれ恐れられてしまう特別ゆえの苦悩。

 己が縁壱になりたかったように、縁壱は兄に好かれたかったのではないか。

 そしてそれを確かめる機会は今であり、その手段も口である必要もない。

 

「縁壱」

「……はい」

「今宵、手合わせ願おう」

 己の全てであった剣で語ることを決意し、黒死牟は初めて縁壱に決闘を申し入れたのだった。




ちなみに本作の縁壱は、耳飾りをすでに炭吉に手渡しているので付けてません。

次回は縁壱もロジャーに……。
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