JUMP DRIFTERS   作:悪魔さん

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第2幕:海の王者と鬼を殺せる女

 廃城の中は思いの外散らかっておらず、それなりに広々としていた。

 部屋の奥では、殺せんせーよりも二回り以上のガタイを持つ男がグビグビとラム酒を飲んでいる。その後ろをよく見ると、波のような口ひげのついたドクロの旗が飾ってあった。

「おお? こいつァまた面白(おもしれ)ェ奴が来たな! 柔な面にしちゃあ強そうだな」

「開口一番鼻血を出した助平さんなんですけどね」

「ちょ、それ今言います!?」

 見かけによらずかなりの毒を吐く。

 殺せんせーは顔を引きつらせた。

「おう兄ちゃん、野宿同然の部屋だが寛いでくれ」

「わざわざ申し訳ありません。助かりました」

「わはははは!! そう固くしなくてもいいんだぜ?」

 廃城の主である男は豪快に笑う。

 男は黒髪のボサボサの頭髪に三白眼、横広がりの大きな口髭が特徴の中年だ。ブラッドレッドのコートを袖を通さず肩に羽織り、首元にはスカーフを巻いたその姿は、一般的にイメージされる海賊のような風貌である。見たところ極悪人みたいな顔をしているが、性格は豪放磊落な楽天家のようだ。

 しかし殺せんせーは、他者に畏敬し畏怖されるような威圧感を感じ取った。例えて言うとすれば、王者の風格といったところだ。

(この廃城の主が17世紀末から18世紀の海賊船の船長、そしてあちらの女性は大正時代の日本人……と言ったところでしょうか。ひとまず二人共日本語が通じてよかった)

 男の方がなぜ日本語が通じるのかはわからないが、最低限の意思疎通(コミュニケーション)はできるらしい。世界中を渡ってきた殺せんせーは数多の言語を使えるが、使い分ける必要は無さそうだ。

「御二方、御手隙ですか?」

「ん?」

「ええ……どうしましたか」

 女剣士が取り出したのは、二羽の野鳥。

 それをズイッと男性陣に突きつけた。

「むしって下さい」

「鬼をぶった斬れるのにそりゃねェだろ」

「むしって下さい」

 笑みを浮かべたまま圧を掛けてくる女剣士に、海賊のような男は呆れ返った。

 すると、殺せんせーはコンバットナイフを取り出した。

「ヌルフフフ……ここは私にお任せを」

 殺せんせーはコンバットナイフを用い、目にも止まらぬ早業で鳥を捌いた。

 神業とも言うべきその手捌きに、二人は目を輝かせる。

「ついでですので内臓を取り出して血抜きもしておきました」

(はえ)ェな! 料理人か猟師でもやってたのか?」

「お見事です! 気色悪い笑い声でしたね」

「余計なことを!」

 

 

 捌いた鳥の串焼きと野草のお吸い物を食べ終え、殺せんせーは二人を見やった。

「あなた達は一体何者ですか? 只者ではないと見受けましたが」

「そりゃあこっちのセリフでもあるがな」

「そうですね……では、私から自己紹介と行きましょうか」

 そう言うと女剣士は刀を抜いた。刀は切っ先と柄付近を残して刃の部分を大きく削ぎ落した特殊な形状で、殺せんせー自身初めて見る代物だった。

 そして軽く弄ぶように刀を操り、ポーズを決めた。

 

「私はしのぶ。()(さつ)(たい)蟲柱(むしばしら)胡蝶(こちょう)しのぶ……鬼を殺せる毒を作った、ちょっとすごい人なんですよ」

 

「……ポーズを決める必要はあったのですか?」

「おれん時もそうだったな」

「殺しますよ?」

 男性陣の言葉に笑顔で凄むしのぶ。

 中年の男は笑いながら「悪かった」と詫びた。

「鬼を殺せる毒……ですか。それは確かにすごいですね」

「そうなんですよ、わかってくれますか! もっとも、私は〝柱〟の中で唯一鬼の(くび)が落とせない剣士ですけどね」

 しのぶ曰く。

 鬼とは日光以外では死なない不老不死性と、超人的な身体能力や怪力を持ち、中には妖術のような特異な能力を使える人喰いの生き物であるという。その首魁は人喰い鬼の原種である()()(つじ)()(ざん)なる者で、人間を鬼に変えることができるという。物理法則を完全に無視した現象を引き起こすこともできる一方で弱点もあり、日光に照らされたら灰化して崩れ去り、藤の花を嫌い近づくことすらできず、日輪刀という武器で頚を刎ねることで殺せるとのこと。

 そしてしのぶは、人喰い鬼を狩る力を有した剣士達が集まった政府非公認の組織「鬼殺隊」の最高位に立つ九人の剣士〝柱〟の一人であり、鬼の弱点の一つである藤の花から精製した特殊な毒を操る鬼退治のプロだった(・・・)のだ。

「それにしても、毒を作る女性……懐かしいですね」

 殺せんせーは思い出す。

 大事な教え子の一人・(おく)()(まな)()は化学の才能に非常に長けており、自ら劇薬を生成できる程だった。強力な下剤は勿論、悪臭化合物にカプセル煙幕まで作り出す、理科の才能が特化していた素晴らしい生徒だ。

「次はあなたですよ」

「おう、そうだったな」

 しのぶに促され、男はゆっくりと立ち上がって腕を組んだ。

 

「おれはロジャー……〝海賊王〟ゴール・D・ロジャー。〝東の海(イーストブルー)〟出身の海賊だ」

 

 ニィッと愛嬌ある笑顔を浮かべるロジャー。

「海賊、ですか。成程、道理でそのような恰好を」

「今じゃ一味も解散しちまったし、船もねェ一文無しだけどな!」

「それはそうと……〝東の海(イーストブルー)〟ってどこですか?」

 わっはっはっは、と笑っていたロジャーの顔が、一瞬で凍りついた。

「んん? んんんんん!? 待て待て、()()()()東の海(イーストブルー)〟を知らねェだと!? 史上初の世界一周成し遂げたおれもか!?」

「ええ、史上初の世界一周を成し遂げたのは探検家フアン・セバスティアン・エルカーノのはずですよ」

「な、何だとォ!? そっちはおれより先に海を制した野郎がいるってのか!? っつーか誰だそいつ!?」

 ロジャーは目を大きく見開いて詰め寄った。

 まるで自分の中の常識が根本から覆されたような様子だ。彼の言葉ではしのぶとも同じやり取りをしていたらしいが、未だに信じられなかったのだろう。

「じゃ、じゃあ世界政府は? 古代兵器は? 〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟はどうだ?」

「全く聞いたことないですね。私は職業柄ゆえに世界情勢にも学問にも精通していましたが、初耳ですよそんな単語」

「しのぶとほぼ同じ反応じゃねェか……やっぱりおれはおめェらとは違う世界で生きてたんだな!」

 ロジャーはショックを受けて落ち込むどころか、むしろ大喜びだ。この中年、見た目の割には子供のように単純かつ真っすぐなようだ。

 一方の殺せんせーは、ロジャーの発言を聞いて確信を得た。

(つまりここに集っているのは、それぞれが異なる世界の住人ということなんですね)

 自分と共にいるこの二人は、自分がいた世界とは別の世界にいた人物である。ロジャーも然り、しのぶも然り、全員別々の世界で名を馳せていたのだ。俄に信じがたいが、そう考えると互いの認識のズレについての説明がつくし、辻褄も合ってくる。

「さァ、今度はおめェの番だぜ」

 ロジャーに促され、殺せんせーは優しく微笑んだ。

 

「私は〝死神〟と呼ばれた殺し屋です。とある事情で1年間教師をしたので、教え子達からは殺せない先生……「殺せんせー」と呼ばれました」

 

 誰もがその顔を見て安堵するような、柔和な笑みで挨拶をする殺せんせー。

 しかしロジャーとしのぶは気づいていた。美しい顔に浮かんだ優しい笑みとは裏腹に、闇に蠢く凄腕の暗殺者ならではの冷徹な眼光が黒髪の奥で輝いていたことに。

 殺しの道を極めた伝説の暗殺者の殺気は、異世界においても健在であった。

「道理で人を殺めたことがある目をしていると思ってましたが……凄腕の殺し屋だったのですね」

「殺し屋が先生とは世も末だな、おい!」

「ニュヤッ!? 何を言うんですか! 私達の業界では弟子を持つ殺し屋なんかうじゃうじゃいますよ!」

「わはははは、女受けのよさそうな顔の割に面白(おもしれ)ェ声出すんだな!!」

 プロの殺し屋すら恐れ戦く彼の〝圧〟を、しのぶは意にも介さず、ロジャーに至っては笑っていた。

 この二人を敵に回すわけにはいかない――殺せんせーは、自分の直感がそう訴えているような錯覚を覚えた。

「よしっ! じゃあ殺せんせー、酒はどこまでイケる口だ?」

「そっち呼びですか!? しかもいきなり絡み酒!?」

「頭良さそうだからな!」

「頭良さそうって……まあそうですけども」

「やっぱりな!」

 顎に手を当て、ドヤ顔で笑みを深めるロジャー。

 世間から「鬼」と形容される程に恐れられた男だが、こういった無邪気さが関わった人間から好感を集めるのだ。

「ん? 世界情勢にも学問にも精通っつってたな? だったらそっちの世界について教えてくれ!」

「私が生きた世界、ですか?」

「おうよ! しのぶの世界はすでに聞いたが、殺せんせーはどうなのか気になんだ。酒の肴にゃもってこいだろ?」

 ロジャーはグラスにラム酒を注ぎ、殺せんせーに手渡した。

「では、私から話しましょう。私がいた世界は――」

 

 

           *

 

 

 殺せんせーとロジャーは、互いが生きた世界の話を終えた。

 地理や文化、文明に歴史、思考と思想……一致している所もあれば全く異なる部分もあり、殺せんせーは久しぶりに一対一の会話を楽しむことができた。

「中々面白い話だったぜ!! おれとしちゃあまだ物足りねェけどな!!」

「私も驚きましたよ、同じ人類でも生きている世界がこうも違うとは。――ところでロジャーさん、あなた先程しのぶさんに「処刑された」って……詳しく教えてくれませんか?」

「おう、そうだったな……よし、教えてやろう。半年前の話だ」

 ロジャー曰く、生まれ故郷であるローグタウンの処刑台で刑を執行された直後、奇妙な空間で目を覚ましたという。

 真っ白な廊下、周りに無数にある扉のような物、中央のデスクに座っている七三分けの正体不明な男――彼がロジャーの姿を視認した途端、手元の書類に万年筆でこう書いたという。

 

 ONE PIECE Gol D. Roger Captain of the Roger Pirates

 

「そうしたら石でできた扉に吸い込まれ、ここへ来たってこった。処刑人の剣二振りに貫かれたはずの体はどこも傷ついてねェし、かねてより患っていた末期の不治の病の症状もここで半年過ぎても全く出なかった。おそらく()()()()()んだろうな」

「私もそうでした」

 しのぶも続けざまに言葉を並べる。

 彼女は姉の仇である冷気を操る人喰い鬼・(どう)()との戦闘の末、全身の骨を砕かれてしまったという。しかし次に目を覚ました時には負っていたあらゆる傷が全て元通りになっており、ロジャー同様「例の空間」にいたという。

 ちなみにその時、男は書類にこう書いたという。

 

 鬼滅の刃 胡蝶しのぶ 鬼殺隊〝蟲柱〟

 

「私もです。皆に見守られながら教え子に止めを刺されたら、光に包まれて……目覚めたらあの空間に――」

「おめェ教え子に殺されたのか……女子に相当恨まれることでもしちまったか?」

「なぜ女子限定!?」

 心当たりがある分、何とも言い難い複雑な気分になる殺せんせー。

「しかし、これで少なくともわかったことがあります」

 

 ――ここにいる三人は、何らかの形で死亡している。

 

 しのぶの言葉に、ロジャーと殺せんせーは目を細めた。

 ロジャーは生まれ故郷で処刑され、しのぶは姉の仇に殺され、殺せんせーは教え子の手で穏やかな最期を遂げた。

 一般的には死んだ者はあの世に行き、場合によっては天国に行くか地獄に落ちるかだ。だが自分達は生きている。あの空間にいた男は、死者を蘇らせ異世界に送り込む力があるというのだろうか。

「あの野郎は何も言わなかったが……おれァあの扉に引きずり込まれてる時に〝声〟が聞こえた」

「!」

「何も言わなかったということは、心の声ですか?」

「だろうな。確か……」

 

 ――世界を回せ。世界に「あるべき形」など無い。

 

(私達の力で何かを変えたがっているのか? ともすれば、一体何を?)

 それぞれが異なる世界で死んだとはいえ、死者をわざわざ蘇らせて転送するとなれば、相応の理由があるということになる。

 残念ながら現時点ではその理由までは辿り着けないし、自分達がこの世界に来た意味も理解しかねる。いずれにしろ、自ら動かねばこの世界に飛ばされた理由を理解できないだろう。

「ロジャーさん、しのぶさん」

「「!」」

「私はこの世界に来て間もない。差し支えないのであれば、この世界に関する知識を教えてはくれませんか?」

 知識を身に付け技能(スキル)の幅を広げるのは、殺せんせーの得意分野。ならばこの異世界に関する知識を少しでも深めておく必要があるのは明白だ。

 しかし殺せんせーの頼みを、ロジャーとしのぶは快く承諾はしなかった。なぜなら――

「んなこと言われてもなァ、殺せんせー。おれァこん中じゃ一番乗りだが、この世界に飛ばされてまだ半年しか経っちゃいねェんだ。さわりの部分しか話せねェぞ?」

「ロジャーさんの言う通りです。私に至っては一月半ですよ?」

「構いません、大まかな筋さえわかればいいので。あとは自分の知識で補っておきます、少なくとも私はあなた達よりも遥かに多くの知識と技能を持ってますから」

「わははははは!! そいつァ頼もしいな!!」

 ロジャーは酒を片手に背中をバシバシと叩き、豪快に笑い飛ばした。

 すると殺せんせーは、右手の人差し指を立てて笑った。

「あと一つ言っておきますが、さわりの部分は「要点」を意味するのであって「最初の部分」ではありませんよ?」

「うわ、こいつスゲェ腹立つ。クロッカスの小言より質が(わり)ィじゃねェか」

 

 

 30分程の説明を受け、殺せんせーは顎に手を当て考えた。

 数多の死線をくぐり抜けた暗殺者の洞察力は、常人と比べ物にならない程に高い。ましてや地球上で最高の殺し屋と称された〝死神〟ならば、その力は「心眼」と言っていいだろう。

(この世界では人間・動物の他に亜人という人種やドラゴンのような伝説上の生き物が横行している。ロジャーさんの世界と似ている部分はあるが、文明的な遅れが顕著で交流はほぼ皆無に等しい)

 ロジャーのいた世界は、人間以外にも巨人や小人、魚人に人魚など、あらゆる人種が生活していた。現にロジャーの一味も種族に対するこだわりはなく、魚人族や巨人族の船員もいたことから、人種間の交流の深い面もあったのだろう。

 だがこの世界の場合、人間が他の人種を徹底的に弾圧しているようだ。特にこの廃城のすぐそばの村に住むエルフ族という種族は農奴として不遇の扱いを受けており、ロジャーもしのぶも男性のエルフは見ても女性のエルフを見たことがないことから、露骨な断種政策を受けている可能性も示唆されている。

「未知の世界で敵をむやみやたらに増やすのは愚策。かと言っていつまでもこの廃城で引きこもるわけにもいきませんね……近場でいいので一度散策してみましょうか?」

「おお! やっぱりそう思うよな殺せんせー!!」

「殺せんせー、この人の場合は外で遊びたいだけですよ」

 子供のように大喜びするロジャーを窘めるしのぶ。

 明らかに一番の年長者が一番子供っぽいことに、殺せんせーは苦笑いした。

「私もお二方も含め、この世界の情勢や文明の進歩度に関する情報が圧倒的に不足しています。地理も具体的に把握できてない。私達は計画的に動かねばならない状況です」

「そこで近くの村のエルフ族と接触を試みて、この世界が何なのかを知る……ということですね?」

「その通り」

 廃城を拠点に活動し、自分達が置かれてる状況をきちんと把握する。言語が通じなければジェスチャーをはじめとした他の手段(ツール)を用いて少しでも有益な情報を得る。

 それが殺せんせーが考えた、即席の方針だった。

(この切れ者ぶり、相棒を思い出すぜ。レイリーも同じこと考えただろうな)

 海に出た時からの相棒であった〝冥王〟シルバーズ・レイリーを思い出すロジャー。

「そうと決まれば話は(はえ)ェ! 明日の朝、村に行こうじゃねェか!」

「あんまり怖がらせないでくださいよ、ロジャーさん。この中で一番の悪人面はあなただけなんですから。もし敵と思われたらどうするつもりですか」

「その時はその時だ!」

 ロジャーの奔放さに、殺せんせーは考える前にまずは動く寺坂竜馬(もんだいじ)の面影を重ねるのだった。




原作のドリフターズをやっと買えました。
原作沿いながら、数多のジャンプキャラから選りすぐりの猛者を敵味方問わずぶち込んでいこうと思います。
感想・評価、よろしくお願いします。
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