やっと童貞人間が活躍。彼は本作では殺せんせーやお館様に重宝される中間管理職です。
サン・ジェルミがシャイロック8世との和平交渉が終わってから、三日後。
オルテ帝国東方の海上、グ=ビンネンの沖合の岩礁で大破擱座する装甲艦「煉獄」に、客人が乗り込んだ。
「おおおおっ! いい船だな、おれのオーロ・ジャクソンよりデケェ!!」
そう目を輝かせているのは、大海で暴れ回った海賊王ロジャー。
かつて苦楽を共にし、仲間達と共に海を制覇した自らの船よりも大きな軍艦に興奮している。
「スペンサー銃にガトリング砲……結構な重装備ですねェ」
そして艦内の兵器に目を通して感嘆するのは、元超生物の殺せんせー。
死神の通り名で殺し屋を営んでいたため、武器の知識が豊富な彼にとって、この装甲艦には惹かれるものがあった。
そしてこの煉獄の所有者こそ、先日合流した
「他の武器は?」
「ねェよ。抜刀斎とつるんでるトリ頭のせいで海の藻屑だ」
志々雄はどこか呆れたように呟いた。
爆装や燃料もほとんど失墜したも同然で、船体自身も大きく損傷している。煉獄を復活させ、海を渡ったり軍艦としての機能を果たすのも不可能に近い。船を直せる技術があろうと、何十年かかることか。
しかし、志々雄は不敵な笑みを崩さない。
「この世界は、元いた世界じゃあ化石同然の火縄銃すらも脅威になる。
「火薬という
「銃を盗まれても、火薬爆薬を造れなきゃ効果は発揮できねェ。造ろうにも何年かかるか見当もつかねェ。連中の技術的進歩は数年で変わるこたァまずねェだろうな」
志々雄は、漂流者の連合軍も黒王軍も中核は個々の実力になると語る。
その上で、殺せんせーにこんなことを尋ねた。
「なあ〝死神〟、おめェ人にモノ教えんのうまいらしいな」
「!」
「……この煉獄にある全ての武器、耳長や小人共に使いこなせるように仕込めるか?」
志々雄の言葉に、殺せんせーは悩んだ。
物事において、人間には必ず向き不向きがある。それはエルフやドワーフも例外ではなく、武器の使用において銃火器は両者共に経験がゼロな上、勝手が違うので教え込もうとしても結果が実を結ぶかは別だ。
「難しいですね……サン・ジェルミ伯の精鋭ならば問題ないでしょうが、この船の銃火器は少し厳しいかと。火縄銃とは構造が違いますし、何より
「……あのオカマの軍勢は500人ぐれェだったな。あいつらにはガトリングやアームストロングの方を叩き込みてェ」
その言葉に、殺せんせーは顎に手を当て頷く。
やはり志々雄なりに考えた上での提案のようだ。
「おいおい、ションベン玉に全部任せるのはダメだろ。大事なのはてめェの腕っ節だぜ」
「あなたのいた世界とは違うんですよ、ロジャーさん! 剣一本で艦隊滅ぼせるような怪物は一人としていないんですから!」
「まあ、この世界の人外や人間は俺達が思うよりも弱かったりするからな。戦国乱世の落ち武者狩りの方が腕も度胸もあるだろうよ」
「しかし、このまま放置するわけにも行きませんね……」
殺せんせーは考える。
カルネアデスの陥落、強大化する黒王と
その条件が全て当てはまる場所は、一つだけだった。
「志々雄さん。この
*
その頃、オルテ北部の山岳地帯。
犬族の信頼を勝ち取った漂流者のジョット軍――リーダー格がジョットなので――は、アメーショ率いる猫族をも懐柔に成功し、今後の動向について話し合っていた。
「南のオルテ本国は漂流者が乗っ取ってるでござる。事が起きたら、そこで落ち合うのが一番でござろう」
「晴明の話じゃあ、すでに多くの漂流者が集結しているようだぞ。家康」
「うむ、異論はない」
万斉とやぐらの意見、ジョットは頷く。
「しかし……オルテにいる漂流者についての情報、随分と我が強いのが集まってるじゃねェか。写真が無くても伝わるなんざ」
「我が強いのは、こっちも大差ねェでしょうが……」
「ククク……
酒を飲むコラソンの指摘に、一枚の紙を見ながら笑う高杉。
それは、十月機関から渡された漂流者の情報リスト。氏名は勿論、立ち位置や大まかな戦闘力なども記載されているのだが……総じて
「まあ名前からして強そうなのがいるな。特にこの煉獄杏寿郎ってのは。まあロジャーは規格外だったが」
「ブーーーーーッ!!!」
ロジャーの名を聞いた途端、飲んでいた酒を噴水のように噴き出すコラソン。
噴いた酒は犬族に直撃する。
「おい、汚いぞ」
「ロ、ロロロロ、ロジャー!? まさかゴールド・ロジャーか!? 冗談だろ!?」
「……何か知ってるのか?」
やぐらの注意を無視して動揺するコラソンに、怪訝に思ったのか菜奈は尋ねた。
「ロジャーは……ゴールド・ロジャーは、世界一周を成し遂げた海賊王だ。おれの上司であるセンゴクさんとも渡り合った、文字通りの海の王者」
「ああ、本人から聞いたぜ」
「もし本当に海賊王が味方なら心強いが……制御は不可能だろうな。特に組織に身を置くとな」
コラソンは、上司やその同僚から聞いたロジャーの話を語り出した。
ロジャーという男は、楽天的で仲間想いな性格であるが、仲間への侮辱や危害を非常に嫌う男でもある。共に逃げれば仲間に危険が及ぶからと、船長という立場ながら自らが先陣に立って敵の注意を引きつけ、時には「仲間を侮辱した」という理由だけで一国の軍隊を潰す程に苛烈だったという。
「そこは、おれもわかるぞ」
「家康、そこは共感していいところか?」
ジョットは共感するように深く頷いた。
彼もまた人一倍仲間想いであり、仲間の為に命を張るロジャーに好感を抱いたようだ。
ただロジャーは仲間の悪口でも過剰に反応するだけでなく、日々起こる抗争に苦悩することもあったジョットとは正反対な好戦的な一面を持ってるが。
「……っていうか、
「確かに……
「どうせ踊るなら、アホとよりとんでもねェアホと踊る方が
「……こういう連中がチームになるのかよ……」
どこか楽観的なジョットと高杉に、コラソンは盛大に溜め息を吐いたのだった。
一方。
漂流者勢力の中核である産屋敷軍――総大将が耀哉であるため――の物資を担う一大拠点となっている廃城にて、旧エルフ居留地税務計算官だった
「ミルズさん、やはりここで一括して作業するより、各地で製造させた方が効率的だと」
「弓や剣はそれでもいいと思うけど、火薬は取り扱いが難しい。焦土の硝石化と火薬調合は、手先が器用で用心深いエルフじゃないと。事故のリスクはなるべく減らしたい。管理もしやすいしね」
火薬にかかわるエルフ族に大きな信頼を寄せていると語るミルズに、エルフ達は満足そうに笑みを浮かべる。
殺せんせーに見込まれる形でスカウトされたミルズは、当初こそ元オルテ帝国の役人という経歴ゆえ、エルフ達からの当たりがキツかった。しかし総大将の耀哉をはじめとした元鬼殺隊関係者を介して周囲と打ち解けるようになるのは早く、激しい嫌悪感を向けていたエルフの女性陣ともある程度話せるようになった。
そんな産屋敷軍の要である廃城で重要な立場に置かれている、出来る男臭が半端ない
それは、廃城が手狭になってきたことである。
物資の一大集積地となった廃城は、先日のグ=ビンネンとの交渉が成立したことで、商人ギルドによる物資供給も始まった。
焦土の集積地、弓矢の工房、火薬調合場、馬車荷馬の往還所、
今後を考えれば、集積地拡大は必須だろう。
「マーシャ君とマルク君の曽祖父以前の建造物だと言ってたなァ……」
「例の件ですか?」
ミルズの呟きに、エルフ達は反応する。
現在は遺構程度しか残っていないこの廃城だが、マーシャやマルクの曾祖父の代にはすでに廃城と化しており、それ以前に大きな戦があったために大勢の人々が亡くなったと言っていた。しかも彼らの曽祖父が存命だったのは四~五百年は前の頃。少なくとも五百年以上前の建造物だという事実が判明している。
数百年以上前の大戦で使用された廃城は、一体……。
「ミルズさん。例の調査の件はどうなったかな?」
「産屋敷さん!」
そこへ、ミルズの提言からエルフに廃城周辺を調査するよう頼んでいた耀哉が、しのぶと共に顔を出した。
「前々から、この廃城のことは気になっていた。誰が何の為に作ったのか……私はこの城から、漂流者と廃棄物の戦いに終止符を打つ
「お館様……」
するとそこへ、廃城を調査していたフィゾナ村の若いエルフ達が帰還した。
「ミルズさん、産屋敷さん」
「調査が終わったんだね」
「この廃城、デカいよ」
その言葉に、ミルズ達は目を見開いた。
調査の結果、どうも廃城の範囲は現在認識されるものよりも広く大きなものらしい。調査の際に地図を描いて視認しやすくしたところ、崩れたり土に埋まってたりしているが、今いる部分は廃城全体のごく一部だということが判明し、周囲の山や丘全体を包む様に遺構があったのだ。
「余程の大戦で使われたんだと思う」
「大戦か……オルテ帝国の蛮行さえなければ、伝記や言い伝えで何かわかると思っただろうに。とても残念だ」
「うっ」
エルフの長老の昔話や伝説の書物などに記録が残っていればよかったが、最終的にはオルテがメチャクチャにしてしまったせいで何も残っていない。
直接かかわってないが、ミルズは落ち込んでしまう。
「――とにかく元の城の縄張りを、少しずつでいいから使えるようにしよう。ドワーフ達にも頼んで壁を直して、堀や井戸を掘り返してもらおう」
「壁や堀まで?」
「ふむ……そうだね、念の為にやっておくことに越したことはない」
その廃城の、ある場所。
遺構となった城壁や柱が野晒しにされてる中、ポツンと置かれたサイコロ状の石碑に、誰にも知らされてない二人の人命が刻まれていた。
築 光月おでん 徳川茂茂
一番最後の石碑に関しては、ご想像にお任せします。
漂流者達は、この石碑の存在を知りません。当然廃棄物も。