今回は少し短めです。
シャイロック8世との商談成立、
「門を開けよ。
黒王の言葉と共に巨大な門が開かれ、ゴブリンやコボルトをはじめとした人外達が溢れ出てくる。その中には重厚な青銅鎧と長大な武器で完全武装した、城壁を越える程の巨体を持つ巨人族もいる。
人類根絶に向け、黒王が廃棄物達と共に集めた、まさしくこの世界で一番の兵力と言えよう。
そしてそれを指揮するのは、
「夜神!
「ぜひお願いします。僕は合戦の無い時代の人間だ、平家を滅ぼした時のように思う存分蹂躙してください」
申し出を断るどころか、むしろ頼み込むライト。義経の戦の手腕は疑いようもなく、それが自然な流れだろう。
その言葉を耳にし、戦の申し子は口角を上げた。
「先行する部隊の大将は、判断も作戦も含めてあなたに任せます土方さん。後方の本軍を待たず、思う存分やってください。ただし無理攻めだけは……」
「しなければいいのだろう……」
ただ一言、冷たく言う鬼の副長。
そこへ、黒王軍の参謀の一人であるラスプーチンが語りかけてきた。
「土方、負傷兵は出すな。黒王様は遍く治す」
それは、決して兵の身を案じての言葉ではない。
黒王は、どんな雑兵でも負傷兵は全て治す。しかし黒王の能力は自身の命を酷使する自己犠牲の能力という一面があり、強力無比なれどその能力の行使には大きな代償が伴う。黒王の寿命を縮めてしまうことを、ラスプーチンはよく思っていないのだ。
「負傷して残るくらいなら、いっそ死なせるか鬼共に処理させろ」
非人道的な注文をするラスプーチンを、土方は無言で睨む。
そんな中でも、ライトは次々と指示を出す。
「アナスタシア皇女は童磨教祖と待機してください」
「戦はあまり好きじゃないわ……暑いし。しかも何であいつと?」
「アナスタシアちゃん、それどういうこと?」
気怠げに答えるアナスタシアの露骨な態度に、童磨はアハハと苦笑い。
しかし二人共冷気を操るという共通点があり、使い方次第では劣勢に立たされても一気に逆転できる。ライトはそれを見抜いており、戦局次第で動かすつもりのようだ。
まるで、チェスをしているかのように。
「ラスプーチンさんは――」
「敵の懐柔だな?」
「はい。少しでも躊躇させるだけで十分かと」
「お安い御用だ」
ラスプーチンとキラは、互いに笑みを深める。
そんな両者に、アナスタシアは人類を滅ぼすのに寝返る者がいるのかと尋ねる。
「皇女様、人は処刑場の前に来るまで自分だけは助かると思うものです」
「そう……処刑の列の後に行くためならば、処刑人に媚を売り、他者を差し出す。僕が裁いた〝悪〟の中にも大勢いた」
「……そうね」
アナスタシアは二人の言葉に頷いた。
するとそこへ、思わぬ人物が駆けつけた。
「キラ!! 私も行く!!」
鬼となったジャンヌ・ダルクだ。
一見は変わってないように見えるが、よく見ると犬歯や爪が鋭くなっており、瞳孔も猫のように縦長のモノとなっている。
何よりも多くの人間を喰らったのだろうか、血の臭いが強い。その変貌ぶりに、アナスタシアは顔を顰めた。
「
鬼としての本能と激情のままに荒れ狂うが、そんなジャンヌに黒王が声を掛けた。
「ジャンヌ」
「黒王様! 命じて下さい私に!」
「そう、お前が無間の闇へ葬るのだ。だから待つのだ」
「……」
黒王の命令に、ジャンヌは渋々従った。
鬼となったジャンヌは、廃棄物としての異能を開花させている一方で鬼としての異能「血鬼術」がまだ開花していない。廃棄物の中で唯一鬼となった彼女が血鬼術を覚醒させれば、いくら規格外の強さを持つ
「ところで童磨教祖……あの人は?」
「無惨様? 何でも「あの化け物がしつこい」って、長征への参加を拒否したんだよ。ついさっきまではやる気だったんだけどね」
童磨曰く、無惨は自分が志々雄真実なる漂流者と接触した際に遭遇した剣士から撤退した際に、今までにない程に恐怖で体を震わせてるという。
四百年掛けてようやくあの男から解放されたのに。長い年月をかけてあの男の悪夢から逃れたのに。
鬼の始祖は、童磨の報告を耳にした途端にそう叫び怯え、無限城に引きこもることを宣言したらしいのだ。
「その剣士と、ロジャーという男は優先的に排除しなければならない。その役はあなた方に任せます、マキマさん、鵜堂さん」
「キミって人は随分と恐ろしいね」
「うふふ」
どこか愉快そうに、悪魔と凶賊は微笑む。
「キラ、蹂躙せよ。北の氷土から南の北壁まで、西の漠土から東の海原まで。生まれる前の腹子から今際の際の老人まで、一人も残すな」
丁寧に几帳面に。
確認し再確認し。
草の根をわけて。
「――一切の差別なく心を込めて、一人も残さず地上から人類を鏖殺せよ」
黒王は宣言した。
すでにジルドレが倒され、ジャンヌや土方が退却を余儀なくされ、黒死牟が寝返った。
油断できない勢力である
「進軍を、開始せよ」
人類とエルフやドワーフをはじめとした亜人族と、コボルトやゴブリンに代表される人外達……そのどちらがこの世界に住み続けるのか。
種の生存を懸けた決戦の
*
時同じくして。
漂流者側の参謀・Lは一人で地図を見ていた。
(カルネアデスは陥落。黒王軍は南下してオルテを攻めるだろう)
地図の余白に筆でメモを取りながら、黒王軍の進軍ルートを予想する。
廃棄物の頂点・黒王の狙いは、人類廃滅。それは人類だけでなく亜人の者達も含み、人間の範疇にある種族は根こそぎ皆殺しにするのは言うまでもない。
そしてこの世界は、オルテやグ=ビンネンの他にも国や村、集落がある。それらをも襲撃・滅亡させ、オルテに攻め込む可能性が極めて高い。
そうなれば、オルテ直行というよりもちり取りで部屋のゴミを端から箒で集め捨てるように、
(そうとなれば、どこで迎え撃つか……)
そう、これが一番の問題点だ。
漂流者の中にはロジャーや縁壱、鯉伴にジョットなど、各々が生きた世界で伝説や神話の領域に達した、個人で国家戦力や天災に匹敵する真の豪傑達が雁首を揃えている。
とはいえ、帝都で迎え撃つのは被害が甚大な上、そもそも帝都自体の防衛機能が存在しない。城壁や関所もないただの平地にあるただの都で籠城など不可能。はっきり言って、こんなところに都を作った者の気が知れない。
(
条件としては、黒王軍の戦列が制限される所で、ヴェルリナへの侵攻の阻止点となる場所。
これらの条件が整う場所は――
(マモン間原サルサデカダン……)
Lが目を付けたのは、ヴェルリナ近郊の間原。
ここならば戦場になっても問題ない。
「サン・ジェルミ伯や産屋敷さんを呼ばなければ」
残念ながら、この地への下見の準備の時間も惜しい。
黒王の軍勢が眼前に迫ろうとする中、やれるのは作戦を練り、いかに早く強固な即興の防御壁を構築できるかだ。
幸いなことに、こちらには白兵戦の玄人が多く、特に戦国時代を生きた継国兄弟は戦争や野営に慣れている可能性がある。相手方の軍隊としての練度は相当高いだろうが、Lが生きた時代と違って
あとは参謀の腕次第だ。
(しかし……どうも胸騒ぎが止まらない。まさかとは思うが……)
かつて自分を葬った青年の顔が脳裏によぎる。
彼があの後どうなったのか、Lは知らない。だが正義が最後に勝つのだから、彼は敗北したのだろう。むしろそうであってほしい。
「警察の指揮はしたことがありますが……今回はキラの時以上の覚悟がいるようです、ワタリ」
その独り言は、誰の耳にも届かなかった。
別の作品でもお伝えしましたが、時期を見計らって新作を投稿します。
優先順位として、多分本作が一番最後になると思います。そろそろ原作に追いついちゃいそうなので。
なので……まあ、気長にお待ちください。