JUMP DRIFTERS   作:悪魔さん

32 / 43
やっと更新できました!


第31幕:タンクデサント

 進軍を開始した黒王軍は、次々と人間と亜人の国や村、集落を侵略して滅ぼしていき、北壁の南に位置する小国ラ・ズナ()(こう)国の国境まで迫っていた。

 その先にはオルテがある。漂流者(ドリフターズ)・Lの予想通りの進軍ルートだった。

「程々でいいぞー」

 義経は笑みを浮かべてケンタウロスの部隊に命令した。

 視線の先には、逃げ惑う難民達の姿が。

「恐怖を植え付けろ」

 その一言を機に、武装したケンタウロスの軍勢が駆け、難民達に襲い掛かった。

 しかし、義経は皆殺しにはしない。皆殺しでは意味が無いのだ。難を逃れて民が隣国に行けば、隣国は逃民達に道を塞がれ都は溢れ、軍を集めるのも軍を動かすのもままならなくなるからだ。そうなれば攻めやすくなる。

 隣国とはすなわちオルテ。漂流者(ドリフターズ)の本拠地だ。

「さあ、どんどん辛くしちゃおうね」

 狡猾かつ的確に攻める、先を見た戦略を取る義経に対し、刃衛は血塗れの刃を疾駆させた。

「うふふ、うふふふふ!!」

 不気味に笑いながら、武装した兵士達を一瞬で鎧ごと斬り捨てる。

 血を浴びてこそ刀は生きるもの。肉を貫き、骨を斬り裂き、臓物を破り……そして絶命。刃から手に伝わるこの〝流れ〟が、刃衛にとっての至福だった。

「んーむ……この感触……いいね」

 そう呟きながら、人の域を超えた膂力(りょりょく)をもって虐殺する。

 恐怖に耐えかねたように襲い掛かる兵士も、逃げ惑う兵士も、次々に斬り裂かれていく。

 その光景は地獄以外に何と例えればいいのか。

「刃衛め、困るんだよなあ。人間は大事な資源なのだぞ? まあジャンヌだったらもっと酷いか……」

「まあ、よいではないか。死んでも使えるであろうに」

 蹂躙ぶりを遠くから眺め、顔を顰めるラスプーチンとニヤけるザボエラ。

 彼らの周囲には、戦死した者達の亡骸が転がっていた。

「人の死体は粗末に扱うな。大事に大事に扱うのだぞ」

 髪は()()()や縄ひもに。

 血肉は飲食料に。

 皮は衣類に皮製品に。

 骨は装飾品に。

 「人間に捨てる所なし」と語るラスプーチンは、黒王の負担を減らすべく侵攻とともに戦後処理を進める。

 一方、そんな仲間達と違い土方は乗り気ではなかった。

(……心が沸かん。だがあの色男との戦いは少し楽しめた。なぜだ? 俺は戦餓鬼だというのに……)

 そんな廃棄物がそれぞれのやり方で蹂躙する中、彼らを指揮するライトはマキマと共にある光景を見つめていた。

 それは、黒王軍の巨人とコボルトとが共闘し、人間の軍隊を蹂躙する光景。それもただの力押しではなく、現代戦の戦闘方法だった。

「〝デサント〟か。只者じゃないとは思ってたけど、まさか実現できるなんてね」

(……竜による空からの支援といい、空から兵を降ろす戦い方といい、黒王はなぜ知っている?)

 マキマが感心する中、ライトは一人考える。

 デサントもとい「タンクデサント」は、戦車に跨乗して移動・戦闘に参加する歩兵の戦術で、兵員輸送車両の不足を抱えた第二次世界大戦中のソビエト連邦が行っていたことで知られている。

 この戦術は歩兵の移動手段となるだけでなく、戦車の生存性を高め、さらに戦車兵にとっては防衛拠点構築や野営を手伝わせることができるという利点がある。反面、戦車に跨乗する歩兵は()()()()()()()()()()()()()であるので死亡率が高く、その危険度はタンクデサント兵の寿命は従軍して一週間程度とも言われる程だ。

 しかし、侵攻作戦において偵察・奇襲などで長く用いられ、第二次世界大戦後もベトナム戦争やアフガニスタン紛争、チェチェン紛争でも用いられている。同乗歩兵には多大な出血を強いるという欠点を抱えつつも、形を変えて現代でも有効な戦術として重宝されているのである。

 そしてこの異世界において、デサントは道にして強大すぎる戦術だった。青銅の鎧で全身を覆った戦車(きょじん)が前面に立って蹂躙し、それに跨乗した跨乗部隊(コボルトやゴブリン)が周囲を警戒しつつ指示と支援に徹する――まさに黒王軍は、現代の軍隊だった。だからこそ、黒王の正体に矛盾が生じたのだ。

 自分の予想通りなら、彼は近代戦術を知らないはずなのだから。

「……マキマさん」

「ん? どうしたんだい?」

()()()()()()()()()()()()()()なのか?」

「……それは私もわからないな」

 その疑問は、支配の悪魔をもってしても結論を言えなかった。

 彼女も同じことを思っていたからだ。

(まあ……彼であろうとなかろうと、私にはどうでもいい話だけどね)

 正体について様々な憶測が味方から飛び交う中、黒王は前進を続ける。

 国も都も、壁も堡塁も尖塔も、何もかもを刈り取って。

 

 

           *

 

 

 所変わって、オルテの首都・ヴェルリナ。

 グ=ビンネンとの交渉がまとまったことで、食料が行き渡るようになったため市民達は落ち着きを取り戻していた。

「秀元さん、竜崎さん、西から続々と敗残兵が……」

「予定通り壊滅したようですね」

 シャラの報告に、Lは砂糖を大量に入れたコーヒーを飲みながら呟く。

 計画通り第二軍と第三軍が壊滅し、続々集まる敗残兵の対応を迫られることになったが、首都まで来たらサン・ジェルミが回収する手筈になってるので問題ない。

 ただし軍隊の再編は殺せんせーとLの意向で、人間とエルフやドワーフは混ぜず、エルフとドワーフは混ぜず完全に分けるという。黒王と廃棄物という強大な〝脅威〟を前にしたからといって、過去に遺恨がある者同士が簡単に団結など出来ないという意見が一致したからだ。

「あと残るは難民ですね」

「難民?」

「黒王のことやで? わざと追い立てるに決まっとる。征服者とは全然ちゃうんやし」

 式神で遊びながら、秀元はそう断言する。

 征服者にとって、民は後の自分の領民・自分の資産であり、絶対に逃散などさせない。しかし黒王の目的は人類廃滅――ヒトを滅ぼすことだ。ゆえに意図して人々が帝都に集まるように進撃し、オルテごと殲滅する算段だろう。

 とどのつまり、本土決戦となる可能性が高いどころか、再び帝都が地獄と化す可能性があるということだ。

「こっちは過去の怨恨を引きずる連合軍……危機が迫ってもその軋轢は無くなりません」

『……』

「ところで、他の皆さんは?」

 Lの問いに、シャラはハッとなる。

「あっ……何か浴場に行ってるらしいですよ」

「風呂かぁ。僕も入りたかったなぁ~……耀哉ちゃんも一緒なんかな」

 日本人と風呂は、切っても切れない関係。

 霊力を維持し、時に高めるために心身を浄化する(みず)()()などの禊は毎日欠かさずするが、純粋に疲れを癒す風呂に入る機会が少ないため、とても恋しくなった。

「まあ、僕は庁舎のシャワーとやらで今日は我慢するわ。竜崎ちゃんはどないするん?」

「いえ、私は面倒なので洗ってくださるのなら」

「そっかー、ほんなら僕と一緒に水垢離しよか?」

「……少しだけ自分でやります」

 さすがに大量の冷水をぶっかけられるのは嫌だったようで、普段は自力でやらないLも渋々従うのだった。

 

 

 そして同時刻。

 それぞれの世界で雷名を轟かせた漂流者(ドリフターズ)の男衆が、大衆浴場を貸し切っていた。

「お館様、お背中お流しします!」

「ああ、すまないね杏寿郎」

 快活な杏寿郎の申し出を受け入れ、色白の肌を洗ってもらう。

 大事な剣士(こども)に背中を洗ってもらうなど、前の世界では耀哉には無かった経験だ。呪いに蝕まれ続けたがゆえだ。

 こうして一人の男として、お館様ではなく()()()()()()耀()()()()()他者と接することができたのも、同じ漂流者にして稀代の天才陰陽師である晴明と秀元のおかげだ。

(……お館様の背に刻まれた、この経文のような文字。これが鬼舞辻の呪いを封じる呪術の式なのか)

 日々の鍛錬で鍛え上げ引き締まった肉体である

 女性にも思えるくらいに細い体躯。その背中にびっしりと刻まれた、古文書に目を通したことがあるにもかからわず、どういう言葉でどんな意味があるのか一切わからない文字。この文字が全て消える時こそ、この世界でも災厄として人々を貪る怪物・鬼舞辻無惨の最期だ。

(無限列車の任務では志半ばであったが、異世界(ここ)では()()()のようなヘマはしない。絶対に逃がさず、赫き炎刀で骨まで焼き尽くす!!)

 そんな決意を胸に、丁寧に優しく耀哉の背中を洗う。

 するとそばで頭を洗っていた殺せんせーが声を掛けた。

「しかし、お風呂はやはりいい物ですねェ」

「この世界ではそうそう入れないからね」

 桶のお湯を被り、泡を洗い流す殺せんせーを杏寿郎は見つめる。

 無駄を削ぎ落した肉付き。しなやかで締まった体型。くっきりと割れた腹筋。世界最高峰の殺し屋として恐れられた男の肉体は、この異世界でも()()()()()()()を続ける杏寿郎にとっても一目置ける程だった。

 ――自分と同じ世界の人間ならば、さぞ腕の立つ剣士となっていたことだろう。

「あなたが鬼狩りならば、間違いなく柱となってただろうな! 殺せんせー!」

「君こそ私のクラスにいたら、まとめ役として申し分なかったでしょうねェ」

 互いに褒め称える中、先に入っていた鯉伴と継国兄弟は、その光景を浴槽から眺めた。

「ハハハ、若いっていいねぇ。何百年も生きるオレにとっちゃ、可愛らしいったらありゃしねぇや」

「……ロジャーには到底及ばぬが、練り上げた肉体……悪くはない……」

「お兄さん、あのおっちゃんが随分気に入ってるようだな。まあ親父と似たような空気纏ってるから、親しみやすいっちゃ親しみやすいな」

 湯船につかりながら、十月機関やグ=ビンネンを介して送られた清酒を煽る。

 すると、物静かに入っていた縁壱が、黒死牟にいきなりすり寄ってきた。

「よ、縁壱!?」

「……」

「あー、嫉妬してんだな? 兄貴の心を鷲掴みにしたあのおっちゃんに」

(縁壱が嫉妬!?)

 黒死牟は驚きを隠せないまま縁壱に視線を向けた。

「……お前も……人の子、だったのか……縁壱……」

「……」

「おい、何か言えよ……」

 無言を貫く縁壱に呆れる鯉伴。

 その直後、バンッ! と豪快に戸を開けてロジャーが登場。

「おう、全員揃ってるのか野郎共!!」

『!?』

 全員がギョッと目を見開いた。

 この場にいる誰よりも広くゴツい肩。数多の修羅場をくぐり抜けたガッシリした肉体。バキバキに割れた腹筋と盛り上がった胸筋。歴史上初めて〝海賊王〟と呼ばれた男の身体つきは、他の面々とは一線を画していた。

 御年五十三の肉体とは到底思えない!!

「……あの、ロジャーさん? 私の知ってる五十路と全然違うんですけど?」

「わははははは! 男はこれぐらい鍛えないとな!」

 豪快に笑い飛ばすロジャー。

「そうは言うがよォ、おめェらも中々だぞ? ガープもセンゴクもニューゲートも、おれと殺し合った奴ら全員バッキバキだったぜ」

「ウソだろ、あんたが前いた世界は青田坊まみれかよ」

 筋骨隆々がその辺にいるような世界と知り、鯉伴は「嫌な世界だな」と顔を引きつらせる。

 その話を耳にした杏寿郎は、「悲鳴嶼さんが無数にいる世の中か……」と感慨深そうに呟いた。

「まァそりゃどうだっていいが……おめェら、大事な話がある」

 お湯でサッと体を流しながら、ロジャーは不敵な笑みで告げた。

 その鋭い目に射抜かれ、一同は体を強張らせた。

「実はよ、おめェらを鍛えようと思ってんだ」

『!!』

 その言葉に全員が目を見開き、一部の面々は口角を上げた。

 最強の海賊の宣言に、どういうことかと殺せんせーは質す。

「敵は軍隊だぜ? それに幹部連中も腕の立つ奴らが揃ってるし、数も向こうが上らしい。だったらおれ達も決戦まで修行した方がいいんじゃねェか?」

「その意見には納得しますし、私も賛成はしますが……あなたが言うと構ってくれる相手がいなくて暇だって副音声が聞こえるんですけど」

「そ、そんなこたァねェ!」

(絶対そうだ……)

 ジト目に囲まれるロジャー。

 もっとも、誰よりも仲間想いなロジャーのことなので、言っていることに偽りはないだろうが。

「しかし、方法は? 向き不向きがありますよ」

「そんなモン、いっちょ()りゃあいいんだよ!」

「全然考えてないじゃないですか!! 死人出ますよ!!」

 やっぱり戦いたいだけの内容に、殺せんせーは青筋を浮かべた。

 すると、そこへ意外な人声が。

「それなら、しのぶに聞いてみればいい」

 声の主は、何と耀哉だった。

「実は前の世界では、柱による隊士達全員の稽古を行っていたんだ。それならちょうどいいんじゃないかな」

「よもや、そんなことを……」

「杏寿郎が死んでからのことだからね」

「そう言えば、全員一回死んでるんですよね……」

 異世界で生きてるからか、一度死んだ身であることを忘れてしまう。

 誰もツッコんでいないことなので、今更だろう。

「そうとなれば、そうそうに決めないとね」

「おい、巌勝! おれと一緒に〝エルバフの槍〟やってみようぜ!」

「何だ……それは……?」

「うわ、早速話聞いてないじゃないですか……」

 話の続きは、とりあえず入浴を終えてからにしよう。

 殺せんせーはそう結論づけ、湯船へと向かった。




ちなみに本作では、作品の枠を超えたスーパーコンボによるオリジナルの合体技とかを出しますので、お楽しみに。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。