漂流者・志々雄真実は、庁舎の前に群がる難民達の前に姿を現した。
その異様な出で立ちと圧迫感に、騒いでいた難民達は一瞬で静まり返った。
「候子様、あれが
「ああ……」
黒王の軍勢に敗れたラ・ズナ士候国の候子は、その姿に息を呑む。
(あの異様な剣士が
候子が志々雄を見極めようとする中、難民達は続々と声を上げた。
曰く、黒王に国も町も奪われたと。
曰く、村も家も焼かれたと。
曰く、家族も家も全て奪われ殺されたと。
だが、相手が悪かった。なぜなら――
「てめェらの
特大の爆弾発言を平然と言い放つ志々雄。
当然のように全くブレずに持論をぶちまけた彼に、難民達は唖然とする。
同じタイミングで駆けつけたしのぶ達も、この発言にはドン引きした。
「ああ……」
「よ、よもや……」
「詰んだ……これ絶対詰んだ」
一斉に頭を抱える他の漂流者達。サン・ジェルミはこのままでは暴動になり、黒王どころではなくなるのではと慌てふためいたが……。
「所詮この世は弱肉強食。強ければ生き、弱ければ死ぬ。弱者は強者の糧となり、糧にすらならない弱者は存在する価値すらねェ。そんなどんづまりに逃げ場なんざねェ」
乱暴な思考のように感じるが、弱肉強食は自然の摂理だ。実力があればどの世界でも自分を貫くことができ、逆に力が無ければ人にいいように使われる。
黒王軍に勝てずとも、各々の国が進行を一刻食い止める程度の
その真実からは、誰も逃れられない。全てが後の祭りだ。――志々雄はそれを突きつけているのだ。
「これは
「!!」
「だが……死んででも
不敵とも余裕ともとれる笑みを浮かべる志々雄。
その言葉に感銘を受けたのか、候子は声を上げた。
「漂流者殿……私は
共に黒王軍と戦うことを宣言した候子に、満面の笑みを浮かべる志々雄。
候子の言葉は響いたのか、つられる様に他の国々の兵士達も共闘を申し出た。
「漂流者の言う通り!! 自ら戦わずして、何も手に入るまい!!」
「追い立てられ追い詰められ、泣きながら獣のように殺されるより、故郷を家を取り戻すため、前を向いて死んでくれる!」
「勝ちに驕る黒王に、廃棄物共に、化け物共に目に物を見せて死のう! 彼らと!!」
『おおおおおおおおお!!!』
何と、あっという間に難民の心を掴んでしまった。
自らの力で明治政府を倒し国盗りを成就させようとした男は、異世界においてもそのカリスマ性は健在だった。
「あ、危なかった……」
「寿命減りますよ、全く……」
しかし、結果としては上手くいった。
非常に危険な綱渡りが成功し、大勢の兵力を手に入れた。
「そうとなりゃあ、兵力を整えねェとな」
煙管の紫煙を燻らせ、高杉は提言した。
「難民をこれから兵の経験者、指揮経験者、そしてズブの素人に分ける。男女老若では分けねェ」
「っ!」
「なっ……」
「――高杉さん、あなた正気ですか!?」
高杉の言っていることは、女子供や老人も戦力にするということ。
非戦闘員であるはずの者も兵力とするやり方は、遥か昔から多くの偉人を苦しめてきた。それに兵力が乏しい現状、効果的か否かと言われれば効果的だ。
しかし、鬼殺隊の面々や平和主義的な思考のジョットからは、反感を間違いなく買う戦術だ。暗殺技術を生徒に指導した殺せんせーも難色を示し、鯉伴も真剣な眼差しで高杉を睨んでいる。
しかしそこへ、黒死牟が言葉を掛けた。
「……女子供でも……火縄銃の玉込覚えのいい者は、射ち方もできる……」
「!」
「その通りだぜっ!」
ロジャーはドカッ! と豪快に座り込み、不敵に笑った。
「おれァ海賊だし、おめェらも
黒死牟は人間時代、群雄割拠の戦国乱世で武将としての経験を積んでいる。
高杉は攘夷戦争をはじめ、多くの激戦地を刀一本でくぐり抜けてきている。
そんなロジャーのあまりにも真っ当な意見に、一同絶句。
「……一番そういうのに疎そうな奴から正論出やがった」
「わっはっはっは!」
するとそこへ、難民達に喝を入れてきた志々雄が戻った。
「そこのオッサンの言う通りだが、正しくは
「……ホンット危なかったのよ? 極悪人は伊達じゃないわね」
「それは褒め言葉だぜ、オカマ」
志々雄はそう言い放つと、Lの傍へと向かう。
「――竜崎。俺の言うことをよく聞け」
「話は聞きますが、判断はそれからでお願いします」
「……フン」
志々雄はニヤリと笑い、提案した。
「まず難民共の中に壊滅したオルテの兵ぐれェ混じってるだろ。オカマはそういうのを集めろ」
「まあタテマエ上、仕方ないわね」
「で、負け犬共は俺に最初に賛同したあのオッサンに任せろ。デキる男のニオイはする。その上で連中と耳長・小人を絶対に一緒にすんな」
勘を働かせている志々雄の、まさかの言葉にざわついた。
「ちょ、今更反目しないよォ?」
「いっくらワシらでも空気ぐらい読むわい!!」
「人心掌握できるのに、疑心暗鬼なんですか?」
「世界の存亡かかってるんですからね? それ把握してるんですよね?」
当事者のシャラやドワーフ長、漂流者達からも反対の声が上がるが、志々雄は却下した。
「呉越同舟とかよく言うけどな。危機が迫れば軋轢や不和がなくなると思ってんのか」
『!!』
志々雄は、相手は必ずしも自分の味方であり続けるとは限らず、些細なきっかけで敵対関係に陥ると語る。
そもそも志々雄は幕末の動乱では幕府要人の暗殺――いわゆる人斬り稼業に身を投じていた身で、言い方を変えれば薩長中心の明治政府の「弱み」を握っている人物だった。それゆえに戊辰戦争の混乱の最中、同志によって刀で額を突かれ、身体に油を撒かれ火を点けられる形で口封じされた。もっとも、生き延びた志々雄はこの出来事を「いい経験」と言ってのけているが。
いずれにしろ、住時の不和は土壇場に限って狙うように露わになるモノで、そのせいで取り返しのつかない事態となり、勝てる戦いも負ける。志々雄はそう言いたいのだ。
「そ……そんなことないッスよ……ドワーフくせえとか人間死ねとか思ってないッスよ……」
「イヤ、ホントそうじゃそうじゃ。エルフきもいとか人間死ねとかもう思っておらんじゃヨ」
「ほら見ろ」
さらに志々雄は、鬼殺隊にも目を向けた。
「戦力として申し分のねェ六つ目のお侍も、
ビクッとする煉獄達。
そう、竈門兄妹はあくまでも例外。鬼殺隊を裏切って十二鬼月の頂点に君臨し、罪無き人々と多くの柱を葬り腹に収めてきた元上弦の壱は、鬼殺隊にとってまさしく不俱戴天の仇。ロジャーという縁壱以上の規格外の人物がいたからこそ、元サヤに戻って人間味を取り戻したのであって、未だに人間の血が必要な鬼であることに変わりはない。
その事実を誰よりも理解している巌勝は、非常に重たい空気を纏って項垂れていた。
「……返す……言葉も……ない……」
「み、巌勝さん! 大丈夫ですよ! とっととくたばれ糞野郎とか、人を殺した分だけ拷問するとか、微塵も思ってませんから!!」
「そ、そうとも!! 斬首するなど一度たりとも考えてないから安心するといい!!」
本音が見え隠れする、何の意味もない宥め方をする二人。
志々雄は呆れた様子で耀哉を睨んだ。
「産屋敷、こいつら抜きでやろうぜ」
「そ、そう言わないでおくれ……私の大事な
「と、とにかく迎撃するとして、
何とも言えない空気を切り裂く、サン・ジェルミの言葉。
ハッとなった一同は、テーブルに広げた地図を見る。
「んなモン決まってる。三つの条件が当てはまるトコだ」
志々雄が言う三つの条件。
まず一つ目、街道の結地である場所。
次に二つ目、黒王の軍の布陣が制限される場所。
そして三つ目、帝都侵攻の阻止点となる場所。
この三つ全てが当てはまる地に、強固な陣あるいは砦を設けるという。
「……とすれば、ここはどうだ?」
やぐらは決戦の地の候補に、オルテの西に存在する「マモン
「昔ここには関所があったわ。オルテの建国で無くなったけど、守るにはいいかも……」
「地形を利用して、身を隠す堀や土塁を造るといいかもね」
「なら水関係は俺が
「野営には……心得がある……私も加わろう……」
サン・ジェルミや
「そうとなりゃあ、少し戦力を分けるぞ」
「え?」
「ただ勝つだけじゃ意味がねェ。勝った上で敵の本拠地をガタガタにしねェといけねェってことだ」
煙管を咥え、志々雄は獰猛に笑った。
*
同時刻。
漂流者勢力の一大拠点である廃城で、ミルズはエルフ達と調査をしていた。
きっかけは、手狭になってきた廃城の集積地拡大。今後を考え、調査の時間を多くとっている。
そんな中で、事件は突然起きた。
「ミルズさん! 壁の下から、地下への入り口が!」
「何だって!?」
どよめくエルフ達の前に出て、ミルズは確かめる。
視線の先には、人が一人通れる程度の穴が。よく見ると階段が整備されており、明らかに地下室が存在している。
「……穴のつくりは思ったより頑丈そうだ。一回調査しよう、使い道はいくらでもある」
準備を終え、ミルズはエルフ達と地下室へと入り込む。
そこには、驚きの光景が。
「これは……!」
「スゴイ、こんなに武器が!」
それは、武器庫だった。
武器と言っても近代的な代物ではなく、大抵は刀剣と槍、飛び道具も弓矢と火縄銃ぐらい。だがその数は相当なモノで、戦国大名の本隊に匹敵する程の量だ。それも刀剣は日本刀だけでなく、サーベルやレイピア、野太刀など多種多様。
まるで、この先に起こる巨大な戦いに備えているかのようであった。
「一体誰が……ん?」
ふとミルズは、すぐ傍の戸棚に手を伸ばし、ある本を手に取りめくった。
「……これって、そんなまさか!!」
ミルズは驚愕のあまり、体を震わせた。
その本は、何と大昔に飛ばされてきた
大昔に飛ばされた漂流者達は、おでんと茂茂以外にも当然います。
誰がいたかは、次回以降紹介します。