今回は短めです。次から大きな戦となりますので。
黒王軍との総力戦が少しずつ迫る中。
ミルズから緊急の連絡を受け、漂流者達は廃城に集っていた。
「ミルズ君から聞いてると思いますが、先日この廃城の地下から武器庫が見つかりました。近代兵器はありませんが、この先に起こる巨大な戦いに備えているかのように多種多様な武器が揃ってました」
ミルズの直属の上司となった殺せんせーは、彼から渡された本を取り出した。
「この本は、大昔に飛ばされてきた漂流者達の記録が載ってます。重要な手掛かりが描いてあると思います。著者は光月おでん……おでんって本名なんですかねえ」
「お、おでん!? おでんが書いたのか!? おい、寄越せそれ!!」
「あっ!?」
ロジャーは著者の名に驚愕。
目にも止まらぬ速さで殺せんせーから本を奪い取り、最初の一ページをめくった。
「……この筆跡、間違いねェ……!! おでん、おめェも……!!」
「お前の……知己か、ロジャー……」
「――仲間だ。一年だけだったが、大切な仲間だ」
黒死牟に質されると、ロジャーは懐かしそうに目を細めた。
光月おでん――それは、ロジャーが土下座をしてまで旅の同行を懇願した、鎖国国家「ワノ国」出身の
そんなかつての仲間が、自分よりも早くこの異世界へと導かれていたのだ。
何か運命めいている気がすると言い、ロジャーはニッと微笑んだ。
「ロジャーさん、申し訳ないが、中身を読んでほしい。読めるかい?」
「当たりめェだ、仲間の字だぜ?」
ロジャーは本の内容を読み始めた。
一通り読み終え、一同はまず思った。
――これ程の機密情報に満ちた書物、よく
「内容としては、一応は
「しかし、まさかあの英雄まで飛ばされていたとは……」
「彼らはどんな最期を遂げたのか不明な点を残している。きっとこの世界に飛ばされたからなのだろうね」
おでんの記した本の中身に触れたことは、まさしく僥倖と言えるだろう。
耀哉は彼の記録を端的にまとめると、四つに分けられると唱えた。
一つ目。おでんがこの世界に飛ばされた以前から、漂流者は廃棄物による侵略と戦ってきたこと。
二つ目。この廃城は、おでんと共に異世界に来た漂流者達が造り上げた城であること。
三つ目。当時の漂流者勢は、
四つ目。当時の廃棄物は「
つまり、漂流者と廃棄物は必ず総力戦で全面衝突するというのだ。
この記録においては、
「
「だが当時の漂流者を壊滅寸前に追い込んだのだ、相当な猛者なのだろうな」
「いや、それ以前に歴史上の偉人が関与していた方がスゴイと思いますけどね……」
いずれにしろ、おでんの危惧は現実となった。
おでんの記録は、今回の黒王軍は
「記録では当時の他の廃棄物は消息不明のようだ。もしかしたら、彼らの目を掻い潜って生き延び、今度こそ世界を滅ぼせるよう繋いでたのだろうね……もどかしい限りだ」
すると、そこへ緊急の連絡が入った。
Lからだ。
《皆さん、至急ヴェルリナに。最後の作戦会議をします》
『!!』
《黒王軍の軍勢はすぐそこまで迫ってる。今の内にやっておきましょう》
*
ヴェルリナに戻った一行は、作戦会議をしていた。
「サルサデカダンでの迎撃は、堀や土塁を造って砦を造る。これで確定しており、現在築城中です」
殺せんせーはすでに行動を起こしており、エルフやドワーフ達が一生懸命作っているという。
「
「当たり前だ、今まで戦乱と無縁だったんだからな。百姓一揆に毛の生えた弱兵だ」
辛辣な一言を告げる志々雄に、黒死牟は頷いた。
兵の数で言えば、廃棄物は巨大だが漂流者はそれよりも少ない。言わば漂流者側は寄せ集めの雑軍であり、まともに戦うためには支えとなる「柱」が必要だ。
「そこで参考にしたのが、長篠の戦いです」
「長篠……織田信長公か!」
「その通り。防護柵を作り、堀を掘って万全の防御態勢を用意する」
いわゆる野戦築城。自軍にとって有利に戦略を進められる場所に即席の城を作り上げ、相手からの攻撃を待つという作戦だ。
「戦力は本体と別動隊に二つに分ける。本隊は黒王軍と衝突し、別動隊は黒王の拠点を叩く。――皆殺しだ」
「皆殺し!?」
「……当たり前だ……下手な情を挟むと、禍根を残す……」
情けは人の為ならずと言うが、情けは時に復讐を生む。
復讐を生まないために、禍根を残さぬように、一人残らず刈り取るのだ。
「……で、その別動隊は?」
「俺とそこの仏頂面、それと片目と色眼鏡と金髪二人で行く」
「……まあ、おれの能力を考えれば当然か」
煙草の紫煙を燻らせるコラソンは、志々雄の采配に感心した。
コラソンは「ナギナギの実」の能力者であり、周囲で発生するあらゆる音を遮断することができる。地味な能力と言えば地味な能力だが、敵地侵入や暗殺といった隠密行動・工作活動においては無類の効果を発揮する。
志々雄の作戦は、総力戦を囮にするという前代未聞の計略。互いの主戦力がサルサデカダンで衝突している間に、別動隊がナギナギの能力を活用しながら本隊が不在となった
「これをすりゃあ、俺達が負けたとしても連中は拠点の復旧を余儀なくされる。うまく行けば挟み撃ちも可能だぜ?」
「……〝あの男〟は、もしかしたらいるかもしれないのか」
「キブツジって奴のことか? んなモン行きゃあわかる」
そう、廃棄物の軍には鬼舞辻無惨がいる。
おそらくこの戦いで前線に出ることは無い。とすれば、カルネアデスに潜んでいる可能性が高い。ただ黒死牟やしのぶの情報では、鳴女という鬼が管理する異空間「無限城」に無惨は居座ってる可能性があり、討ち取れる可能性はあるだろうがそれ以前に索敵の可能性がゼロに近い。
しかし、不死身の怪物が化け物扱いする人間がいる以上、万が一を見越して直属の手下は控えるはず。縁壱を派遣するのは間違いではないだろう。
「まあ、向こうがどれ程の規模でいつ来るかなんか、どうでもいい!」
どっこいせ、とロジャーは立ち上がる。
「来い、相棒! 手間を省くぞ」
「……こちらから……出向くのか……」
「ああ、ワクワクして仕方ねェのさ」
ニヤリと笑うロジャーに釣られ、黒死牟も笑って立ち上がる。
この二人、作戦を聞く気がないのか。
「ロジャーさん! あなた話聞いてました!?」
「砦はまだなんだろ? それまでいっちょ
「……所詮は、寄合所帯に過ぎぬ……」
二人の言い分は、あながち間違いではない。
敵の大軍に、廃棄物は何人いるのか見当もつかない。ジルドレやジャンヌといった歴史上の偉人も、廃棄物と成れば異能を使う。それに連合軍は全員が一致するわけでもなく、己の頭で何かしら考える。そこには我もあれば欲もあり、情もある。あらゆる可能性を潰しても、何かしら出てくるのが戦いなのだ。
そうなる前に、ある程度敵の戦力を減らしておくのは悪手ではない。悪手ではないのだが……。
(ただ戦いたいだけだろ、あんたら!!)
その思いは満場一致であった。
ロジャーは残虐ではないが好戦的な海賊。歯応えのない敵には「お前らじゃ何も面白くねェ」とボヤき、ライバルとの戦いでは毎度楽しげに笑みを零すなど、ある種の戦闘狂である。
黒死牟は戦国時代を生きた武人であり、敵に対しても実力や研鑽を素直に認めて賞賛し、いつか己を超えると誓う者へはその成長に期待する。
そう、この二人は結構似た者同士であるのだ。たとえ生きた時代・世界が違っても、類は友を呼ぶのである。
「お二人共、もう暫く待ってほしい」
「「?」」
そこへ、総大将の耀哉が微笑みながら声を掛け、二人を制した。
「黒王軍は、明日までには戦場に到達すると思う。それまで体力を温存すべきじゃないかな?」
「お館様、それは……!」
「私の勘が、そう訴えている」
耀哉の言葉に、ロジャーは目を細めた。
ロジャーは見聞色の覇気を扱い、その制度は未来予知にまで達している。耀哉もまた、道理こそ違えど似たような能力を生まれつき持っているのではないか……そう悟り、ロジャーは「それもそうだな」とすんなり引いた。
それに、ロジャーは理屈よりも直感を信頼する。無茶な生き方をしたがゆえだろう。
「……この戦いは、前の世界よりも大きな危機を迎えている」
『!』
徐に立ち上がり、一同を見渡して総大将は宣言する。
「それぞれの世界から集った君達がここにいるということは、それ以外の道が無いということだ。だがここには始まりの呼吸の剣士達だけじゃなく、それぞれの時代に名を残した英傑達が揃っている。皆の武運長久を祈る。必ず……生きて戻っておいで」
その言葉に、一同は口角を上げた。
*
扉の並ぶ通路では、紫が新聞を介して漂流者達の動きをチェックしていた。
新聞には「マモン間原にて決戦」「産屋敷耀哉 開戦を宣言」という見出しがあり、漂流者側の総大将である耀哉や参謀役のL、最高戦力のロジャーの顔も載っていた。
「……」
「地に堕ちたわね、紫!」
真剣な顔つきで新聞に目を通す紫の前の空間が、女性の罵声と共に破られる。
現れたのは、廃棄物を呼び寄せている
「その病人が総大将? 愚かを通り越して可哀想だわ」
「それは違う。人は自ら人智を越える珍妙な生き物だ」
気ままに生き、気ままに死に、そして合間合間で世界を変えるのが〝ヒト〟という生命。
そんな彼ら彼女らを駒のように扱ったことは一度たりともないと断言しつつ、産屋敷耀哉という人間が
「君の言葉は、まさしく継戦器らしい驕った言い草だ。ゲームでもしているつもりか」
「っ――ほざいてろ民生屋!! お前の
図星だったのだろうか、それともただ気に入らず癪に障っただけなのか、ヒステリックに怒って帰ってしまった
紫はそれを見届けると、再び新聞に目を通すのだった。
本作について、作者は漂流者側は「仲間殺しの無いロックス海賊団」で、廃棄物側は「悪魔と鬼の連合軍」をイメージしてます。(笑)