お待たせして申し訳ありません!
ついに互いの存在を確認することになったLと
戦局はさらに混沌と化す。
「
十月機関の長――稀代の天才陰陽師・安倍晴明は呪文と符を用いた陰陽術で竜を調伏した。
廃棄物を除き、黒王軍の強大な戦力の一部を奪うことができるのはかなり大きい。ましてや晴明は、戦国乱世の天才陰陽師・十三代目花開院秀元と共に術を強化しているため、一度に複数の獣を従えることができた。
「よし、入った!」
調伏が完了したところで、晴明は命じた。
「黒王軍の人ならざる者達を滅却せよ!!」
その一言で、次々と晴明に服従した龍が飛翔。
口から吐く炎の火力でゴブリンやコボルト、オークだけでなく巨人すらも攻撃。
戦場を掻き乱していく。
「やるじゃねぇか、陰陽師」
「これでこちらの負担は少なからず減ります。今のうちに――」
その時だった。
ドクンッ!
『!?』
突如、見えない何かが襲い掛かり、身体が金縛りのように動かなくなった。
晴明だけじゃなく、その場にいるもの全員が、だ。
その直後、血塗れの刀を片手に黒い傘を被った男が晴明に迫った。
「死ね」
「っ!」
「大師匠様!!」
地獄の底から響くような声で、男――廃棄物となった鵜堂刃衛が晴明の心臓を突き刺そうと突っ込んだ。
が、それは一振りの刀によって防がれてしまう。
「二階堂兵法と片手平突き……いい太刀筋してるじゃねェか」
「ほう……!」
志々雄と刃衛は、凶暴に笑いながら睨み合う。
「抜刀斎に負けた狂犬さんよォ、あんなフザけた野郎に尻尾振ってんのか?」
「うふふ……俺は人を斬りたいだけだ。あっち側の方が都合がいいだけに過ぎんよ」
「そうかい、じゃあ――」
ガシッ!
「ぬっ!?」
志々雄は刃衛の首元を掴むと、すぐさま炎を纏った無限刃を手袋の甲部分に当てた。
次の瞬間!
ドォォン!
「なっ!?」
「仕込み火薬!?」
志々雄のカウンター技に、一同は驚く。
〝弐の秘剣
しかし、そこは人類廃滅を謳う廃棄物の一人。そう簡単にやられるような相手ではない。
「うふふ……殺しは剣にこだわらない、か」
「お前の前にいるのは〝極悪人〟だぜ? 聖者だと思われる方が反吐が出る。――おい、助兵衛野郎」
「誰がスケベですか!?」
「ははは、お前さん以外いねぇだろ」
激昂する殺せんせーだが、志々雄はお構いなしに告げる。
「こいつは俺と同じ、幕末の匂いを知ってる人斬りだ。人斬り同士愉しませてもらう」
「わかりました。必ず倒してくださいね」
「それと一言言わせてもらうが……」
志々雄は殺せんせーを見据え、目を細めて言い放った。
「
『!?』
同時刻、右陣山上の難民連合陣地。
そこには、思い悩む公子がおり、その隣にはあのラスプーチンがいた。
「幾ら悩んだ所で、道はもう一本きりしかないでしょう? 公子」
ラスプーチンは、黒王軍に寝返る様に呼びかけていたのだ。
巧みな話術で次々と説き伏せ、すでに反対しているのは公子ただ一人。他の将も公子の部下さえもラスプーチンに同意している。
「慈悲深い黒王様は約束された。今この時、ただ今に転ぶならば、君達の祖国を分けて与えよと」
寝返りやすい様に相応の手土産まで用意していたラスプーチン。
そんな相手に必死に抵抗する公子だが、それすら見越して卑劣に笑う。
「あなたは名誉の死を望んでも、あなたの家族やあなたの将の家族、そして兵達の家族はたまったものではないでしょう」
何と、家族をすでに捕縛しているとラスプーチンは脅し方を変えた。
「美しい奥方にかわいいお嬢さんだ。6歳でしたかな? あなたの部下や兵らの家族も捜しましょう」
「っ……!!」
「元の土地に戻って国を再建しなさい。今転べばあなた方に国をあげる」
優しい言葉で公子を説得しようとするラスプーチン。
好条件を提示されるも信じられないと一蹴した公子だが、ラスプーチンは「たとえ処刑場の列の最後尾に周るだけだ」と語り、今断れば今日女房子供がオークの昼飯になると断言した。
「公子、どうか決断を」
公子は、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべ、戦争という局面で迷う己を呪いながら声を上げた。
「全軍聞け!! 故あって寝返る!! 寝返るのだ!!」
その言葉に、ラスプーチンは勝ち誇ったかのように満面の笑みを浮かべた。
しかし、彼は寝返りを打たせたことへの成功に酔いしれて、失念していた。
それすらもひっくり返せる〝海の覇者〟が、漂流者として参戦していることを。
*
公子の寝返り。
その動きは、瞬時に察知された。
「おい、こりゃあまさか……!」
「ええ、寝返ったようですね……!! 今はまだマゴついているだけでしょうが……」
志々雄の忠告が現実となり、連合軍の中枢は揺れた。
たとえ全軍が転んでいなくても、一部が雪崩れ込んで来たら一溜りもない。
殺せんせーは、どこでしくじったのか必死に考えるが、Lは考えるだけ無駄だと諭した。
「事情はどうあれ、寝返られた以上は計画を変更します」
「!? まさかまだ戦うのか!?」
Lの言葉に、緊急要請を受けて降り立った菜奈が声を荒げた。
敗戦が濃色だというのに、これ以上戦うのは無益な被害を拡大させるだけだ。
市民を護るプロヒーローだった彼女にとって、到底受け入れられない
「今ここで少しでも意識を我々に向けねば、別動隊の皆さんの努力が無駄になる。少しでも引きつけ、北壁を壊滅状態に追い込まねばなりません」
その言葉に、一同は目を見開いた。
Lの真の目的は、北壁の壊滅。本体が離れている内に拠点を使い物にならなくさせることで、敵軍全体のチカラを削ぎ落とすこと。
その為には、このマモン間原に黒王軍を一分一秒でも留めねばならないのだ。
「……そういうことです。そして個人でそれを実現できる人もいる。――ロジャーさん、出番です」
《わはははは! 任せとけ!》
水晶球から、豪快に笑う男の声が響いた。
*
水晶球をコートに仕舞い、ロジャーは笑みを深める。
「おうおう、おれに構ってくれるのは嬉しいが、ちょっと多すぎやしねェか?」
ロジャーは軽くフットワークしながら、眼前の
(どうすっか……まさか分身を作れる奴がいたとはな。おれが行って正解だったぜ)
ロジャーは分身を作ったラバースーツのマスク男――トゥワイスを見据える。
見たところ、彼の能力は複製を生み出すらしく、自分自身だけでなく他人のも可能なようだ。しかも性格と能力もコピーできるようなので、いくら天災に匹敵する強さを持つロジャーでも骨が折れる。
他の漂流者が行ってたら詰んでただろう。最強の漂流者であるロジャーだからこそ、彼らと対等に渡り合えるのだ。
「変なひげだな! カッコいいぜ!」
(あとアイツ、言動が
一人で二人分の会話を行っているような喋り方をするトゥワイスに、ロジャーは興味津々。
戦闘中でも童心は忘れないようだ。
「さて、どうする漂流者。大人しく死んでくれるのなら、何人かは見逃してやってもいい」
「それかワシの実験台になるのなら、お前も助けてやってもよいぞ」
いつの間にか戦場に駆けつけたザボエラも、勝利を確信したように悪い笑みを浮かべた。
先の寝返りも知った以上、普通なら誰もが異能を操る恐ろしい者達に降伏するだろう。だがロジャーは違う。
「わはははは! やなこった! おれは〝支配〟が嫌いなんだよ廃棄物!」
ロジャーは豪快に笑い飛ばす。
廃棄物の言葉は、自由であることにこだわり、それを信念とする者には通じない言葉だった。
「ぬぐ……おのれェェ……!! 構わん、消せ!!!」
ザボエラは交渉決裂と即断し、始末するよう命じた。
一斉にロジャーに襲い掛かる武装した化物達だったが、次の瞬間には全員が事切れていた。
「な、何ィ!?」
突然の出来事に慌てふためくザボエラ。
そこへ現れたのは……。
「わっはっはっは! 来たか、巌勝!」
「……待たせたな……ロジャー……」
『黒死牟!?』
黒王軍から離反し、漂流者に寝返った黒死牟だった。
「おのれ、裏切り者めが! 黒王様への反逆は万死に値する!!」
「笑止……あの男にも、鬼舞辻にも……貫く忠義はもう無い……!!」
得物を構える黒死牟に、黒王軍は眉をひそめた。
黒死牟の強さは、強大な鬼の中では悪名高き鬼舞辻無惨に次ぐ程。廃棄物の中でも上位に君臨し続けた彼を相手取るのは中々に面倒だ。
それに、その隣には彼を
どうしたものかと考えた時だった。
「よォし……一発やるか!」
「無論……!」
黒死牟は諸肌を脱ぐと、得物である虚哭神去を三本の枝分かれした刃を持つ長大な大太刀に変化させ、ホオオオ……と呼吸を整える。
ロジャーも愛刀のエースを腰から抜き、刀身に〝覇王色〟の覇気を纏わせ、黒い稲妻を帯びさせる。
「わっはっは、うっかり足滑らせんなよ!」
「ふっ……誰に言っている……!」
軽口を叩き合いながら、二人の怪物が構えた。
その瞬間、空気が激しく震え、押し潰すかのようなとてつもない〝圧〟が放たれた。
それは遠く離れた黒王の本陣にも伝わり――
「っ!? 撤退せよ!!」
黒王の緊急の号令が響き渡る。
それを聞いた
余裕綽々であった黒王の、ただならぬ声色。それはこの戦局が一瞬でひっくり返る、恐ろしいことが起こるということだ。
「息を……合わせよ……!」
「そりゃこっちの台詞だァ!」
ニィッ……と獰猛に口角を上げる両者に、マキマ達の背筋が凍った。
――
「な、何をしておる!! 逃げるぞ!!」
「無理だ、避けきれねェ!!」
トゥワイスは断言した。
あの二人は、逃がすつもりなど毛頭ない。いや、たとえ逃げようとしても、この威圧感でわかってしまう。
――逃げても無駄なくらい、大きな攻撃が来る。
「行くぞ、ロジャー……!!」
「おうっ!!」
二人は地面に亀裂が入る程に強く踏み込み――
「「〝
ズンッ!!
ロジャーと黒死牟は同時に渾身の一振りを繰り出し、月輪を纏った巨大な衝撃波を放った。
天地を吹き飛ばす最強の海賊の「意志の力」と、数百年に渡る研鑽と強化を経て至った最強の鬼の「絶技」……二人の頂点が背中を預け放った〝災厄〟は、人類廃滅を掲げる廃棄物達を呑み込まんと迫った。
「ちょっと反則じゃないか!?」
「クソッ!!」
ドガアァァン!!!
戦場が、激震する。
海の覇者と鬼の侍が放った、この世の理すら破壊するのではと錯覚してしまう程の一撃。
あまりの破壊力に、敵味方問わず絶句した。
「……」
「……よもや」
「えー……冗談でしょ……?」
それは、遠く離れた冷気漂う死地でも確認できた。一進一退の攻防を繰り広げていた童磨と柱二人は、上弦の鬼と海賊王の合体技に呆然としていた。戦場を一変させる文字通りの異次元の攻撃に、童磨は思わず「俺、寝返ろっかな……」とボヤいてしまう。
それだけじゃなく、斬り合っていた志々雄と刃衛、さらには巨人達と交戦していたジョットとやぐらも唖然と見つめていた。
「……ちょっとやり過ぎじゃないか?」
「ちょっとやり過ぎどころか、禁術レベルだぞ!! あんなの連発されたら
思わず頭を抱えるやぐら。
しかし、彼ら彼女らの声が届くわけもない。
「……おっ!」
「ほう……さすがだな」
一方の例の二人は、極大の射程を誇る災害級の攻撃にも五体満足でいられた廃棄物達に感心した。
が、被害状況は甚大そのもの。化物の軍勢は軒並み全滅、トゥワイスとザボエラは瀕死の重傷、悪魔であるマキマと角都も無視できない程の深手を負っている。
「……何やら……ラスプーチンが……企んだようだが……これで振り出しだな……!」
「次はどいつだ? 全員まとめてかかってきてもいいぞ!!」
(全く、どっちが悪魔だよ)
支配の悪魔は、目の前で笑う二人の〝鬼〟に顔を引き攣らせた。
ロジャーと黒死牟が放った〝覇極〟は、カイドウとビッグ・マムが放った〝覇海〟と同じくらいの破壊力だと思ってください。