JUMP DRIFTERS   作:悪魔さん

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今回、エルフと兵士達が使うオルテ語は〈〉表記とします。ご了承下さい。


第3幕:異世界での初陣

 灯りが消えた丑三つ時。

 廃城の外では、眼鏡をかけたツインテールの女性が双眼鏡を覗き込んでいた。

「鼻毛なのか口髭なのかわからない中年と妙な恰好をした女剣士の次は、助平なイケメン? もうどうなってんの……カオスすぎる」

《セム、聞こえるか? 応答しろ》

 ふと、彼女の傍に置かれていた水晶玉から男性の声が聞こえた。

「は、はい! こちらセムです〝大師匠〟」

《様子はどうだ? 補足できたか》

「はい。〝漂流者(ドリフ)〟三人、ひとかたまりになってます。特に不審な動きはないです」

《そうか……わかった、そのまま監視を続けてくれ》

「はい、了解しました」

 

 

 数分後。

 ボロ布を敷き眠っていたロジャーと殺せんせーは、ガバッと起き上がった。

「気がつきましたか」

 しのぶはすでに起きており、外の様子を見ていた。

「襲われてるようです。あそこはエルフ達の村があります」

 かなり遠いが、煙が上がり火の手がちらほら見えた。何者かによる襲撃を受けているのは明白だった。

 すると、ロジャーが突然目を見開き、サーベルを腰に差して一気に駆け出した。

「「ロジャーさん!?」」

「〝声〟が聞こえた!! 死にかけのガキがいる!! 子供に罪はねェんだ、()っていいわけあるか!!!」

 一目散に走るロジャー。

 その背中を、殺せんせーとしのぶは見つめていた。

「子供に罪は無い、ですか……正論ですね。彼が敵にも好かれる理由が理解できた気がしましたよ」

「行きましょう殺せんせー。大分離れてしまいましたし」

「ええ」

 ロジャーに続くように、殺せんせーとしのぶも廃城を出た。

 

 

 暫くして、殺せんせーとしのぶはロジャーに追いついた。

「お? もう追いついたのか! やっぱ(わけ)ェなァ!!」

「中々速いですね。私の教え子達と引けを取らないくらいに。ロジャーさん、あなた(とし)はおいくつで?」

「53だっ!!」

「「ごじゅっ……!?」」

 中年海賊の年齢を知り、絶句する若者二名。

 殺せんせーの知人には腕利きの殺し屋として名を馳せたロヴロ・ブロフスキがいたが、彼では還暦を迎える手前であり、顔を合わせる以前から暗殺家業を引退している。しのぶに至っては彼女が生きた世界の()()()平均寿命が43歳前後であったため、53歳は長寿の領域――言い方を変えれば隠居して余生を送っているはずの立場だ。

 そんな彼が、この場にいる誰よりも頑丈かつ強靭など、俄に信じがたいものなのだ。五十路を超えているにも関わらず、さすが海賊王である。

「年齢は忘れてしまいましたが、とても複雑ですね……」

「私の三倍も年を重ねてるのに……!」

「わはははははははは!! まだまだ負けねェよ、おれァ!!」

 勝ち誇った笑みを浮かべるロジャー。

 しばらく走ると、前方に人影が見えた。

〈た、たす……〉

〈たすけ……〉

「っ!」

 二人のエルフの子供が体から血を流しながらフラフラと走っていた。その背後からは、馬に乗った兵士達が追ってきている。

 それを見たロジャーは、フリントロック式の拳銃を取り出し、一切の躊躇いもなく引き金を引いた。

 

 ドォン!!

 

 爆発音と共に銃口から弾が発射され、先頭の兵士の心臓を鎧ごと撃ち抜いた。

 銃声に怯んだのか、追手の兵士達は馬を止めた。その隙を、殺せんせーは見逃さない。

()()()で暴れるのは久しぶりですね」

 コンバットナイフを手にして殺せんせーは跳び上がり、馬に乗ったままの兵士の喉元を斬り裂く。そして空中で回転しながらもう一人の兵士目掛けて投擲し、兜ごと眉間を貫いた。この間は僅か2秒。殺せんせーの身のこなしには、一切の無駄が無かった。

 エルフの子供達を保護したしのぶは、戦慄にも似た感情を覚えた。

(何て早さ……! まるで死の塊みたい……)

 敵の兵士二人を一撃で屠り、確実に命を終わらせた。

 鎌を持つ死神が命を奪うように。「眼前の生者を死者に変える」、その意味を限界まで凝縮した、人ではない何かにも見えた。

 これ程までに命を奪うことに特化した人間は、しのぶは今まで会ったことがない。日輪刀を持たせれば全ての鬼を殺せるのではないかと、そう思わせてしまう程に彼は殺しの才能に恐ろしいくらい秀でていた。

「久しぶりの感覚……()()()()の影響が無くてよかった」

 そう呟きながらコンバットナイフの刃についた血を払い仕舞うと、殺せんせーはエルフの子供達に話しかけた。

「大丈夫ですか?」

〈あ……!?〉

〈え……!?〉

(日本語はまず通じず。ならば……)

 殺せんせーは日本語が通じないと知るや否や、別の言語で尋ねた。

 英語、フランス語、イタリア語、スペイン語……色々試したが、全く通じない。ただ、ラテン語に関しては他と違って顔を見合わせるという反応をし、相手が自分達の安否確認をしているのかも何となく理解できたのか、首を縦には振ってくれた。

(ふむ……彼らの言葉は、この世界の言語はどうやらラテン語に近いようだ。しかしやはりと言うべきか、どの国の言語にも当てはまらないとは)

 あらゆる言語に精通している殺せんせーは、エルフ達の言葉は非常に独特だがヨーロッパ系の言語、特にラテン語に近いのではないかと推測する。しかし未知の言語ということには変わりなく、理解し扱えるようになるにはかなりの時間を要すると結論づけた。

 そんな殺せんせーの堪能ぶりに、しのぶはきょとんとした表情を浮かべてから微笑んだ。

「気持ち悪いくらい有能なんですね! 驚きました!」

「しのぶさん、笑顔でその言い方は地味に傷つくのでやめて下さい……」

 一方、ロジャーは全滅した兵士達の服装を観察していた。

「野盗や山賊の類じゃねェな、こいつら」

 その言葉に反応したしのぶと殺せんせーは、ロジャーの隣に立って屍を見つめる。

 絶命した兵士の服装は、鎧と兜、そして手にしていた剣……確かに()()()()()()()()()。野盗や山賊というより、むしろ騎士団やここ一帯の領主の正規兵といったところだ。

 ロジャーは口ひげをいじりながら村の方を見て、意識を集中させた。

「――村の方に兵士が……ざっと13。一人は指揮官だな? で、そいつらに取り囲まれてるのが40ちょい……それがエルフっぽいな。見せしめか税収のどっちかで来たのか?」

「!? なぜわかるのですか」

「〝見聞色(けんぶんしょく)〟でわかるさ。まァタネは近い内に教えてやるよ」

 はるか遠くの村の状況を把握したロジャーに、二人は度肝を抜いた。

 彼がかつて生きた世界は、「覇気」と呼ばれる目に見えない感覚――言わば「意志の力」を操る能力が存在する。それは概念的には気合や威圧と同じなので、世界中の全ての人間が持っている素質であるが、実際に体得する人物は極一部と言われている。

 ロジャーが先程使ったのは「〝見聞色〟の覇気」という生物の発する心の声や感情を読み取る力で、鍛え抜けば遥か遠くにいる相手の位置を正確に把握したり完全に気配を消している相手にも対応できたり、極めれば未来予知すら可能となるのだ。

「放っとくのはあまりにも酷だ。おれが潰してくる!」

「ロジャーさん。それについてですが、私に一つ考えがあります」

「?」

 殺せんせーは意地汚い笑みを浮かべて人差し指を立てた。

 

 

           *

 

 

 赤々と燃える炎が、エルフの村を飲み込んでいく。

 四方から家屋の焼け落ちる音が聞こえる中、エルフの民はただ呆然とその様を見つめるしかない。そんな彼らの顔を見て、彼らの周囲をとりまく兵士達は下卑た笑みを浮かべている。

〈これは一体何事です、アラム様! 私達が何をしたというのです!〉

 エルフの村の村長が、巡察隊を率いる騎士武官のアラムに叫ぶ。

(むら)(おさ)。森に入り、漂流物(ドリフ)の様子を見に行っただろう貴様ら〉

 アラムは村長を睨みつける。

 その冷徹で威圧的な目に、村長はたじろぐ。

〈エルフが森に入ること、弓を作ること、漂流物(ドリフ)に関わること。どれも大きな罪だ〉

〈そ……それは……漂流物(ドリフ)が村を攻撃しないよう……〉

 村を護るための行動なので許してほしい、と村長は寛大な対応を求めた。

 その言葉に嘘は無い。現にエルフ達は、廃城を拠点とした彼らが自分達に敵意が無いと知りつつも、警戒はしていたのだから。

 だがアラムは許さなかった。

〈本当に救いようがなく浅ましくて厚かましいな、エルフってのは。漂流物(ドリフ)の管理は全て「(じゅう)(がつ)()(かん)」の魔術師達の仕事だ。お前達亜人種(デミヒューマン)が関わることは大罪に値する。バレてないとでも思ったか〉

〈ふざけるなッ! そもそも無理な話だ!〉

 村長の言葉を一蹴するアラムに、村長の息子のシャラが抗議した。

 エルフ族は40年前の人間との戦争に敗れて以降、農奴として不遇の扱いを受けている。そもそも森に入らなければ薪も木の実も手に入らないし、狩りも出来ない。したこともない農奴にさせられ、村の女衆は連れ去られた。

 これではまるで―― 

〈――俺達エルフに、死ねと言うのか〉

〈そうだ! 速やかに死ぬべきだ。呪うなら戦さに負けた己の父祖を呪え。お前達エルフもドワーフもホビットも、亜人(デミ)達は種族として絶滅する。――だろ?〉

 刹那、アラムが剣を抜いて村長の胸を貫いた。

 噴き出す鮮血と共に引き抜かれると、村長は大きく目を見開いたままゆっくりと崩れ落ちた。

〈間引きだ。何人がいい? 半分まで減らしていいと言われている〉

〈!!〉

()れ〉

 アラムは非情にも理不尽な殺戮を命じた。

 エルフが一人、また一人と殺されていく。心臓を貫かれ、首を刎ねられ、骸と化していく。

〈や……やめろ!! 俺を殺せ! 俺を…!!〉

〈だめだ。お前はまだ若い。体を大事にしろ。お前には未来がある。みじめな農奴としてのな。――ああ、漂流物(ドリフ)に助けを求めに行ったお前の弟らも、今頃はもう死体になってる。森の虫のエサだな〉

 そう吐き捨てた直後、新たに麦畑から火の手が上がり、一人の兵士が慌ててアラムに報告した。

〈たっ、大変です! 麦畑に火が……!〉

〈何だと!? 収穫前だ、税が減る! 私は何度も気をつけろと言ったろう!〉

 アラムは数名の兵士にすぐさま消火活動を命じた。

 それが「彼」の策謀であることも知らず。

 

 

 時同じくして。

 麦畑にライターで火を放った殺せんせーは、燃え広がる様を丘から見下ろしていた。しのぶは思い切った行動をした殺せんせーを質した。

「麦畑になぜ火を?」

「この麦畑は税である可能性が高い。日本が年貢として米を納めたように、エルフ達は育てた麦を納めているのでしょう。村を襲った者達が領主の関係者であれば、税が減るのは一大事。何としてでも消火活動に人員を割くでしょう」

 麦畑を全て焼き払うという選択肢もあったが、あえて中途半端に燃やすことで消火活動に割く人員を確保させて戦力分散を計った。

 目論見は見事的中し、三人の兵士が麦畑へと向かった。

「さてと、私達も行きますか」

 

 

           *

 

 

〈早く火を消せ! 何をしている!〉

 一方、アラムは兵士達に鎮火を命令していた。

 麦の収穫はまだ早く、収穫前に税が減っては自分達の生活に影響してくる。アラム達にとって、エルフとは種族として根絶やしを図りつつも労働力と見なしている。だからこそ、直接自分達に関係することになれば血相を変えるのだ。

〈耳長共の抵抗か……!? 小賢しいマネを――っ!?〉

 不意に、アラムは背後の気配に気づいて咄嗟に振り返った。

 視線の先には、横広がりの大きな口髭が特徴の男がブラッドレッドのコートをなびかせ立っていた。ロジャーだ。

漂流物(ドリフ)!〉

 

 ヴォッ!

 

 ふと、見えない衝撃が村一帯を襲った。

 するとアラム以外の兵士達が、その場で次々に倒れ伏していった。泡を吹き、白目を剥き、意識を失っていく。

〈な、何だっ!? 何が起こっている!?〉

 一人残されたアラムは混乱する。

 ロジャーが発動したのは、数百万人に1人しか素質を持たないとされる、相手を威圧する〝覇王色(はおうしょく)〟の覇気。圧倒的な力量差がある者を威圧感や殺気で一瞬で卒倒させ、コントロールできれば威圧する相手を限定し、極めれば天を割り周囲を吹き飛ばすといった物理的な破壊力を生むという芸当が成せるのだ。

「……てめェ」

 周囲に広がる惨状に、ロジャーは怒りを覚えた。

 理不尽や予想外など当たり前の海賊界の頂点に君臨したロジャーは、決して恵まれた生い立ちではなかった。ゆえに愛する者を失うことを極度に嫌い、船長でありながら先陣に立って殿も務め、仲間を護る時のロジャーはその凄まじい強さも相まって「鬼」と称されていた程だ。

 自分にとってかけがえのない身内や仲間を失うこと……それがどれだけ恐ろしく悲しいことか、ロジャーは人一倍理解している。だからこそ、エルフの村で起きた惨劇を絶対に許すわけにはいかなかった。

漂流物(ドリフ)……邪魔立てするか!〉

「……」

 ロジャーは応えない。

 だが、人とは本当に怒った時には表情が失せるのだ。ロジャーの怒りは、頂点に達していた。

〈言葉もわからぬ(ばん)()め。我らが剣で語るとしよう。漂流物(ドリフ)め、来るがいい〉

〈アラムは他の兵とは違う!! 代官付きの本物の騎士武官だ、いくら漂流物(ドリフ)でも……!〉

 シャラの制止をよそにロジャーは力強く踏み込み、その勢いのままに体軸を思い切り捻りあげ、サーベルをアラム目掛けて投げ飛ばした。

 サーベルは直線を描いてアラムへと飛び、そしてその切っ先が届く寸前……。

〈さかし! 窮したか! 他愛無し!〉

 アラムは剣を振るって弾いた。

 ロジャーのサーベルは甲高い金属音と共に地面へと突き刺さったが――

「ぶっ飛べ」

〈っ!?〉

 アラムの眼前に、黒光りする拳を握り締めたロジャーが迫っていた。

 

 ゴッ!

 

 右腕が腹を抉った。

 アラムは、我が身に起こったことが信じられずにいた。甲冑で守られていたはずなのに、ロジャーの拳はその甲冑を貫通して鳩尾に減り込んでたのだ。

 「〝武装色(ぶそうしょく)〟の覇気」――見えない鎧を身に纏い、武具のように攻守を強化できる能力だ。腕や足といった己の肉体は勿論、応用すれば刀剣や弓矢といった武器にも纏わせることができ、さらに使用量と実力に応じて威力は変化する。直接的に戦闘力の強化に繋がるため、膨大な量を使用すれば島をも叩き割り、物体などに流し込んで内部破壊することが可能となる。

〈バ、カな……〉

 アラムは白目を剥いて倒れた。その光景に、エルフ達は信じられないとでも言わんばかりに目を見開いていた。

 冷酷かつ冷徹なアラムは、その性格だけでなく剣の腕も立つ実力者。ゆえにエルフ族は彼を恐れ続けていた。その彼を無傷で倒しただけでなく、兵士達に一切手を出さず無力化したロジャーに驚きを隠せなかった。

〈これが……漂流物(ドリフ)

 そう呟いたシャラに、ロジャーは笑みを溢した。

「おれがしてやれるのはここまでだ。あとはお前らの自由だ」

 サーベルを鞘に納める。

 すると、タイミングを見計らったように殺せんせーとしのぶが姿を出した。

「……お疲れ様でした」

「おう」

 殺せんせーはロジャーを労うが、目の前の惨状にそれ以上は何も言えない。

 ()()()()なら何も思わない、ある意味で当たり前の光景だった。そんな彼が心を痛めたのは、「彼女」との出会いとE組での一年間を通じて命の重みを深く理解したからに他ならない。

〈あれが……漂流者(ドリフターズ)……!!〉

 明らかに()()()()の人間ではない者達に、シャラはそう呟くしかない。

〈兄ちゃん!!〉

〈マーシャ! マルク!〉

 シャラの下へ、先程殺せんせー達に助けられたエルフの子供――マーシャとマルクが駆け寄った。

 死んだと思っていた弟達との再会。シャラは二人を抱き寄せた。

〈あの人達が助けてくれたんだ〉

漂流者(ドリフターズ)が! あの女剣士は手当もしてくれたんだ〉

〈そうなのか……〉

 シャラは村へ来た三人が、弟達を助けたことから敵ではないと判断した。

 そんな中、件の三人は戦後処理を行っていた。

「ケガを負った者達の手当てをします。殺せんせー、手伝えますか?」

「外傷であればほとんどの応急処置はできます」

「弔いはおれに任せてもらうぞ」

 しのぶと殺せんせーは負傷者の手当てをするべく、ロジャーは死んだエルフ達を弔うべく、それぞれ動いた。

 こうしてエルフ達は、どこかの世界から飛ばされてきた者達に救われたのだった。




「鬼滅の刃」が人気絶頂のまま完結しましたね。
完結記念に、鬼滅キャラの一部を廃棄物側に出そうと思います。ある程度決めてはいますが、乞うご期待。
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