JUMP DRIFTERS   作:悪魔さん

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漂流者も廃棄物も豪華な面子で揃えようと思ってます。
本作の登場人物の設定に関してはいつか投稿する予定です。


第4幕:カルネアデスの漂流者(ドリフターズ)

 殺せんせーやロジャーが飛ばされる(・・・・・)前に来た、謎の空間。

 その主とも言えるかの男は、煙草を吹かし新聞を読んでいた。

「……!」

 ふと、男の読んでいたページの文面が水をこぼしたように滲み始める。紙面上で文字や写真がゆっくりと形を変え、それらは新たな記事へと生成されていく。

 新しい記事は「海賊王ロジャー、エルフの村で巡察隊を瞬殺」……エルフの村でのロジャーの活躍が載っていた。

「……フッ」

 

 ヒュボッ

 

「!」

 ふと、男の前方が暗闇に包まれた。それと共に無数に並んだ様々な種類の扉が、ワイヤーフレーム状の扉に変わり始めた。

 それと共に暗闇の奥から黒いワンピースを着た少女――EASY(イーズィー)が現れ、ニヤニヤと笑みを浮かべていた。

「まだそんなムダなあがき(・・・)をしているのね、「紫」」

 EASY(イーズィー)は服と同じく真っ黒の長い髪を掻き揚げると、フンッと小馬鹿にしたように鼻を鳴らした。

「あなたがいくら頑張ったところで、あなたがいくら漂流(ドリフ)を送り込んだところで、私の勝ちなの。あなたがいくら頑張っても、全ては無駄なことなの」

「失せよ、EASY(イーズィー)。間違いは正さねばならない」

「!」

 男――紫は冷静に、冷徹に告げる。

「失せよ、EASY(イーズィー)。お前の好きにはさせぬ。哀れな女」

「…………哀れなのはあなたよ。やれるものならやってみなさい」

 その時、紫が手にしていた新聞の記事が再びぐにゃりと文面を変え、今度は「(こく)(おう)、南征開始さる」となった。

「あなたの漂流物(ドリフターズ)なんかで、私の廃棄物達が倒せるわけがない」

 

 

 場面転じて、ここは北方の王国「カルネアデス王国」。

 この国の国境には「カルネアデスの北壁」と異名を取る堅牢な要塞がある。ゴブリンやコボルトといった人外の知的種族〝人ならざる者〟の南下を数百年に渡って阻止し続けていた鉄壁の砦だ。

 その城内の廊下を、白い制服を着こなした黒髪の青年――大師匠が部下を連れて水晶球でセムと連絡を取っていた。

《こちらセム、こちらセム! 大師匠!! 連中やっちゃいましたよ!! これ以上野放しにするのは危険です!! すぐにそちらに連れて行きます!!》

「いやダメだ、間に合わん。セム、彼らをこちらに連れてきてはいかん。お前もこちらに来るな」

《え……じゃ、じゃあ……》

「そうだ、始まった。……始まってしまった!!」

 城壁の歩廊に出ると、かなり遠いが大きな狼煙が上がっていた。

「見えるか」

「はっ、まだ見えませんが感じます。おそらくすぐにでも」

 遠方の煙に、大師匠の顔が強張る。

 それに対し、カルネアデス王国の兵士達は真逆の表情と態度であった。

十月機関(オクト)の方々はなぜそれ程恐れなさる? 北方の化け物共がいくらやって来ようと、この壁を越えられたためしなどありませぬ〉

〈この壁の向こうに奴らが追いやられて数百年。ここは我らカルネアデスの民の鎮守する壁〉

〈化け物共に何が出来よう〉

 完全に慢心しきった様子で高笑いする兵士達。

 その様子を見た大師匠は、踵を返した。

(ダメだなこいつらは。2日と()つものか)

 兵士達だけでは、この国を護れないと確信した大師匠は足早に歩く。

「ここは任せる。カフェトの方に行く」

「あの漂流者(ドリフ)達の下へですか」

「そうだ、彼らが指揮し戦わねばここは滅ぶ!!」

 大師匠は急ぐ。

 この国に迷い込んだ漂流者(ドリフターズ)は、その実力の片鱗を見せていない。しかし人を惹きつける何かを生まれながらに持っているような面々であり、指揮権を譲りさえすれば「奴ら」を返り討ちにできるのではないかという希望を見出せた程だ。

 自らが率いる導師による結社「十月機関」は、国をまたいで漂流者(ドリフターズ)を捜索・集結させて人類を救うための組織だが、独自の軍隊や兵力は持ち合わせていない。だが〝彼ら〟はその穴を埋められる可能性を秘めている。

 今すぐにでも指揮権を一度譲渡させてもらい、迎撃せねばならない。その為には兵士達を説得せねばならない。その考えに至った大師匠は自ら説得に赴いたが……。

〈ふざけたことを言うでない!! 兵の指揮を寄越せだと!? その妙な漂流者(ドリフ)に!? バカなことを言うな魔術師共!!〉

「しかし彼らに任せなければ負けてしまいます」

〈我々を愚弄するか!! たかが魔術結社如きが何を言うかっ!!〉

〈たかが漂流者(ドリフ)に何が出来る!!〉

 眼鏡をかけた構成員・カフェトの説得に耳を貸さない兵士達。

 そこへ、一人の漂流者(ドリフターズ)が近づいた。

「何を揉めておるのだ?」

 カフェトに声を掛けたのは、手の甲に「Ⅰ」の字が刻まれたグローブをはめ、黒スーツの上に黒いマントを羽織った金髪の男。その優し気な眼差しとは裏腹に、決して揺らがないであろう熱意を孕んだ瞳をしている。

 彼は元いた世界の裏社会で、こう称されていた。

 曰く、自身が気に入った人物は誰であろうと受け入れ、彼の下には国王や宗教家、かつての宿敵が集まったという。

 曰く、「全てに染まりつつ全てを飲み込み包容する大空」を唯一体現した歴代最強とされている男だという。

 曰く、仲間思いで名誉や富よりも人々の平和を優先した人格者だという。

 そんな彼の名は、ジョット。この世界に飛ばされる前は母国イタリアで市民を守る自警団を率い、晩年は日本に帰化し「(さわ)()(いえ)(やす)」と名乗ったイタリア人だ。しかし彼が生きた世界の後世(・・)では、本名や改名よりも〝肩書き〟の方で名を轟かせていた。その肩書きは――

 

 ボンゴレファミリー初代ボス ボンゴレⅠ世(プリーモ)

 

「いえ、そのう……あなた方にここの指揮権を渡そうと」

「それはいきなり無理だろう」

 バッサリと切り捨てるジョット。

 しかしカフェトは無理を承知で頼んでおり、やらなければ皆死んでしまうと告げる。

「フム……やぐら殿はどう思う?」

 ジョットは紫色の眼で左目の下に傷がある子供のような風貌をした男・やぐらに知見を求めた。

 このやぐらという者も、かつて生きた世界――強大な力を持つ忍者が統治する世界ではこう呼ばれていた。

 

 四代目(みず)(かげ) (たちばな)やぐら

 

「オレに振るのか? 家康」

「オレと違い、そなたは政を執っていただろう? 政治や軍事に対する理解も深いはずだ」

「それは洗脳されていた頃の話だぞ……」

 掘り返されたくない黒歴史を振られ、やぐらは目に見える程に落ち込んだ。

 しかし、そこはかつての忍の里の長。若年なれど統治を任された手腕と思考は健在だ。

「国も里もどこも一緒だ。当地の支配者が余所から来たどこの馬の骨ともわからない輩に指揮権を渡すわけないだろう」

「!!」

「いいか? 敵がいかに強大であっても、領主という者は軍権を絶対に手放さない。敵の大軍に最後の最後まで追い詰められて自決か戦死するまでな。机上でいくら頭をひねったところで、これは変わらない」

 やぐらの細論にカフェトは目を見開き、彼の主張を聞いたジョットも感心したように見据えていた。

(これは……これが四代目水影か。屈強な忍者達の頂点ともなれば、若年であろうと政治力も優秀なのだな)

 やぐらが生きた世界では、隠れ里という忍者の集落を持つ国の中でも特に強大な力を持つ忍五大国が世を統治しており、隠れ里の長である「影」は忍の頂点たる存在だ。戦闘力は勿論、里内の貧富の差や国境地帯の治安悪化、小国の情勢不安に臨機応変に対応できる政治力も問われる。

 やぐらは水影時代に色々と(・・・)あったが、生まれながらに持っていた類まれな才能を活かした戦闘力と政治力は相当なモノのようだ。

「少なくとも言えることは一つ。お前ら十月機関は兵権の保持に固執する支配者の心理を理解できてない」

 その辛辣な一言に、カフェトは何も言えなかった。

「――お二人共、脱出の準備をなさってください」

「「!」」

 大師匠はやぐらとジョットに声を掛けた。

「もうすぐここは修羅場となりましょう。我々十月機関も撤退します。黒王軍との戦闘が始まる前に、何としても漂流者(ドリフターズ)は脱出せねば」

 その言葉に、ジョットの顔が曇った。

 彼が「前の世界」で自警団を設立したのは、町を守るためだ。住民を脅して金を巻き上げ、言うことを聞かなければ暴力で訴え、警察もアテにならない無法者の天国から市井を法律に代わって守るためなのだ。

 そんな悪政と暴力から人々を守るための自警団を作った自分が、この世界では民を守らずに逃げねばならない――そんな状況に置かれ、ましてやかつての仲間もいない中で決断せねばならなくなった。

 沈痛な面持ちのジョットに、やぐらは首を横に振って脱出を促した。

「家康、ここはもう無理だ。諦めろ」

「だが……」

「オレだって里長だった男だ。情報と時間さえあればやれることはいくらでもあった」

 ジョットを理想主義者とすれば、やぐらは現実主義者だ。

 やぐらは戦争というモノを知っているがゆえ、何をどうすれば国力の疲弊を最小限に抑え被害を食い止められるかを理解している。その上で必要だったのが、敵に関するあらゆる情報と策を練る時間だった。

 しかし、今回ばかりはやぐらでもどうしようもできなかった。それぐらい切羽詰まった状況下にいきなり置かれたのだ。未知の敵に何の考えも無く挑むのは自殺行為だ。

「っ……」

「それでも道中にできることなら、オレはいくらでも手を貸す。この世界に飛ばされて参ってるのはお互い様だろ?」

「……ありがとう」

 その時、大師匠が手に持っていた水晶球からセムの声が途切れ途切れで聴こえてきた。

《セムです。こち、セ……そち……じょ……》

「!!」

「魔導妨害です!」

「しまった、来るぞ!!」

 一気に慌ただしくなる城内。

 そんな中で、二人組の漂流者(ドリフターズ)が壁にもたれかかりながら言葉を交わしていた。

「この感じ……攘夷戦争を思い出すぜ」

 含み笑いを浮かべて煙管の火皿に火を点けるのは、蝶柄の派手な着物を着用して左目を隠すように包帯を巻いた侍。

 男はかつて、元いた世界の戦場で「近代兵器をものともしない戦術」「軍艦二隻を瞬く間に落とす戦闘力」と評され恐れられ、鬼のように強い義勇軍を率いていた。終戦後も国家転覆を目論み、その後は袂を分かった友と剣を手にして背中を預け、強くしなやかに美しく魂を懸けていた。

 実に数奇な人生を歩んだ彼の名は――

 

 武装集団「()(へい)(たい)」 総督 (たか)(すぎ)(しん)(すけ)

 

「懐かしいでござるか? 晋助」

 そしてこんな緊急事態でありながら、悠然と三味線を弾くロングコートを羽織った漂流者(ドリフターズ)。彼は高杉晋助の右腕的存在であり、その剣術の腕前から人々は彼をこう呼んで恐れていた。

 

 武装集団「鬼兵隊」 人斬り (かわ)(かみ)(ばん)(さい)

 

「ククク……まァな」

 肩を振るわせ笑いながら紫煙を燻らせる高杉。

「似蔵の奴は()()()にゃ来てなかったらしいな」

「影も形もござらん。地獄に先に行ったのであろう」

「来たぞ! 〝黒王〟が!!」

 大師匠の声に、緊張が走る。

 ついに来たのだ。世界廃滅を掲げる黒王とそのおぞましい軍勢が。

 

 

           *

 

 

()(シン)(セイ)! 御親征! 御親征ノ時来タレリ!! 耳アル者ハ聞ケ! 目アル者ハ見ヨ! 口アル者ハ吼エヨ! 全テヲ伝エヨ!」

 空を飛ぶオウムが、人語を響かせる。

 その下にはコボルトやゴブリン、オーク達が武装して侵攻している。一部のコボルトはドラゴンの背に乗って上空からの襲撃を始めている。

「御親征! 御親征! 御親征! 世界廃滅ノ旅ノ始マリデアル! 参集セヨ! 参画セヨ! 全テノ権力ヲ黒王ヘ!! 全テノ権力ヲ黒王ヘ!!」

 全人類への宣戦布告を宣言したオウムは、擦り切れたローブを纏いフードを深く被った謎の人物――黒王が手に持つ蜻蛉の装飾をした杖に留まった。

 黒王はそれを皮切りに、背後に並ぶ一騎当千の怪人物達に呼び掛けた。

「土方歳三。ジャンヌ・ダルク。アナスタシア・ニコラエヴァ・ロマノヴァ。行くがいい」

 黒王に応じるかのように、彼ら彼女らは一斉に死地へ赴いた。

 幕末の動乱を戦い抜いた新撰組元副長、神格化もされた百年戦争の「聖女」、帝政ロシア末期の皇女――後世に語り継がれる英傑達が、人類に牙を剥いた瞬間だった。

 そんな中、一人の男がこれから起こる殺戮に期待の眼差しを向けていた。

「とうとうおっ始めたわけだ。本当に世界を無くすつもりかい?」

貴殿(・・)の〝主〟も、私に同意なさっただろう」

「そうだね。愚かで気の毒な人間を救って幸せにしてやるのが俺の使命だし」

 頭から血を被ったような文様の髪をした、洋風の着物を着た青年。

 屈託のない笑顔を浮かべるその陽気さは、到底世界と人類を滅ぼす立場の者とは思えない。その手に持つ千切れた女性の腕を食らっている点さえ除けば。

「この戦い、貴殿はどう動く? (どう)()殿」

「君と同じだよ。俺は優しいからね」 

 腕を喰い終えた童磨――かつて胡蝶しのぶを殺してその遺体を喰らった鬼は無邪気に笑った。 

「……お前はどうだ、()(どう)(じん)()

 黒王は黒い傘を被った着物姿の剣士――鵜堂刃衛を問う。

 双眸に鬼火のような光を輝かせる彼は、人を斬り殺したいという欲求に従う。童磨とはまた別の類の危険人物だ。己の殺人欲を満たす彼は魔物と評されており、あえて標的の警備を厳重にさせることでより多くの人を斬ることを好む。

 今回の虐殺に積極的に手を貸すと思われたが……。

「うふふ……今回は待つ(・・)とするさ」

「ほう」 

 刃衛は意外にも手を引いた。

 その真意を、黒王は問おうとはしなかった。すでに理解しているからだ。彼がこの虐殺にあえて参加しないのは、強敵との斬り合いに至高の快楽を見出す男にとって北壁の兵士は雑魚以下だからだと。

「お前さんの言う漂流者(ドリフターズ)とやらに、必ず剣の使い手がいる。それも俺がいた世界とはまた別の世界のな」

 うふふふ、と獰猛に笑う刃衛。

 彼が最後に戦った相手は、幕末最強とまで謳われた伝説の人斬り〝()(むら)(ばっ)(とう)(さい)〟だ。長年不殺(ころさず)を貫いてきたために殺し合いとしては不満な部分こそあれど、その決闘は己自身満足が行くものだった。

 そして異世界。黒王の勧誘を承諾した彼は次々と人を殺めていったが、緋村抜刀斎の時のような感覚を味わえずにいた。漂流者(ドリフターズ)のことを聞くまでは。

「別世界の強者達とギリギリの殺し合いをする……それもまた面白い人斬りだ」

「それなら俺みたいに鬼になればいいじゃないか。殺したい放題、斬りたい放題、食べ放題……君の欲は全て叶うよ?」

「うふふ……ダメだな。何度も言っているだろう、それじゃあつまらないと」

 懐から煙草を取り出し、口に咥えて火を点け吹かす。

 童磨はいくどとなく刃衛を人喰い鬼へなるよう勧誘しているが、刃衛はそれを蹴り続けている。彼にとって殺し合い、すなわち生死を懸けた命のやり取りこそ至上の幸福である。人喰い鬼となれば不死身にはなるが、それでは殺し合いの価値が失われてしまうと考えているのだ。

「もったいないなぁ。そんなにいい素質を持ってるってのに」

「うふふ……命は失うモノだからこそいいのさ」

 殺戮の夜は、始まったばかりだ。




廃棄物側は原作に出てくるキャラに加え、本作ならではのジャンプキャラも交えて暴れさせます。
敵役にも注目してください。

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