JUMP DRIFTERS   作:悪魔さん

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ついに5話に突入。
黒王が言っていた「童磨の主」の正体が発覚します。


第5幕:進撃の黒王軍

「そんなに憎いか黒王……「漂流者(ドリフターズ)」もこの世界も、何もかも……!」

 進撃する廃棄物に、大師匠は顔を歪めていた。

 黒王軍の戦力展開は、極めて合理的に行われていた。

 壁に登るためハシゴをかけて乗り込もうとするゴブリン達をカルネアデスの兵士達は上から弓矢で落としていくが、あまりにも数が多くて苦戦していた。そこを狙うように竜が現れ、壁の上の兵士達を焼き尽くす。それに加えて竜で戦力を空から送り込む作戦を展開し、ゴブリン達が降下し始めたことで、戦況は国王軍に傾き始めた。

 圧倒的な戦力に、移動能力に優れた機動戦力の活用による迅速な戦力展開。想像を遥かに超えた軍事力に、大師匠は焦る。

「もはやこれまで……助けられぬ!! 漂流者(ドリフターズ)だけは何としてでも……っ!?」

 刹那、大きく頑丈な門がバラバラに破壊され、黒いコートに袖を通した洋式軍装の侍――土方歳三が乗り込んだ。兵士達は斬りかかるが、それに呼応するかのように土方の両脇に霧が生じ、何と二人の〝新撰組隊士〟を形取って必殺の一太刀を浴びせた。

 同時に別の門からは凄まじい怪力で巨大な十字槍を振るうジルドレと炎を操るジャンヌ・ダルクが突入。さらに白いドレスを着た雪のように白く長い髪が特徴のアナスタシアが冷気を用いて兵士達を凍死させ、異能による無慈悲な殺戮で全ての門を破壊してカルネアデスの兵力を削いでいく。

(何という力……! 高杉殿と万斉殿が脱出用の馬車を確保しに行ってくれたが……)

「大師匠! 上です!」

「上だと……っ!! アレは!!」

 カフェトに言われ、上空を見上げると、空に突然あの石造りの扉が出現していた。

 扉が開き、中から出現したのは……一人の女性だった。

 黒い上着とズボン、赤い腰飾りに白いマント……大師匠が生きた時代とは明らかに別の時代の出で立ちだ。しかしその体は鍛えられており、相当な数の修羅場を生き抜いた強者であるのは明白だ。

 空中に放り出された彼女は、そのまま頭から落下した。

「どっちだ?  ()()()だ!?」

「大師匠、もう時間がありません! 早く脱出を!!」

「っ……漂流者(ドリフ)であってくれっ!」

 かの扉から現れた女性が漂流者(ドリフターズ)か否か。

 それを確かめる機会はこの戦場と化した王国には無く、遺憾の意を胸中にその場を後にした。

 

 

「……ん……ここは……」

 妙な浮遊感を覚えながら、女は目を覚ました。

 ――自分は確か、あの〝巨悪〟との戦いで殿となって、その後……気づいたら変な空間に……。

 現在進行形で裏社会を支配する「悪の帝王」と死闘を繰り広げ、敗北を悟り、未来を繋ぐために弟子と盟友を逃した彼女。意識が薄れゆく中、あの男――オール・フォー・ワンの嘲笑を最後に耳にした。そして気がついたら、扉が並ぶ奇妙な空間に倒れていて、謎の男によって石造りの扉に吸い込まれ……。

 そんなことを考えていると――

「って、何だ!? どうなってるんだ!? 落ちてるのか私っ!?」

 ようやく自分が地面目掛けて急降下していることを理解する。

()()()()()()()()、私の〝個性〟!! 発現してくれっ!!)

 地面まであと十数メートルというところで、落下する彼女の体は止まった。

 彼女がいた世界は、全人口の約8割が先天性の超常能力〝個性〟を有している。それは凶悪犯罪にも利用され、〝個性〟を悪用する犯罪者達は「(ヴィラン)」と呼ばれていた。その(ヴィラン)を取り締まり〝個性〟を利用して人々を救うのが「プロヒーロー」なる名誉ある華々しい職業に従事する者達である。

 その中でも卓越した技量と強力な〝個性〟、そして揺るがぬ正義で社会の平和に貢献した、後に〝平和の象徴〟と呼ばれるようになる伝説のヒーロー・オールマイトの恩師だった人物。それが彼女の正体だ。

 その名は――

 

 ワン・フォー・オール7代目継承者 ()(むら)()()

 

「ふう……しかし、何だこれは」

 生まれつきの〝個性〟である「浮遊」を制御し、ゆっくりと地面に降り立ち辺りを見回す。

 万里の長城を彷彿させる巨大な城。それに攻め込む異形の軍勢。空を舞う竜。民衆の悲鳴や兵士達の断末魔。そして血の臭い。

 この世界がどこなのかはわからないが、今がどういう事態なのかはすぐに理解できた。ここは戦場だと。

「まさか、何かの戦争の真っ只中なのか? ……っ!」

 状況把握に勤しんでいると、背後からゴブリンが槍を片手に突撃してきた。

 菜奈はそれを躱すどころか片手で受け止め、そのまま力を込めて槍を引き千切り(・・・・・)、ゴミのように穂先を棄てた。

 鉄製の槍をへし折るどころか紙のように千切られ、ゴブリン達は顔色を変えて後退った。そんなゴブリン達を、奈々は笑みを浮かべて拳を構えた。

「女の顔に傷をつけようなんて、いい度胸じゃないのさ」

 

 ――ワン・フォー・オール!!

 

 菜奈が大きく拳を振るった途端、轟音と共に爆風が発生。

 その強烈な風圧は、鎧を着たゴブリン達を次々に吹き飛ばしていった。

「事情はさておき、人々の笑顔を奪う気なら放っては置けないな!」

 

 

           *

 

 

 その頃、カルネアデスの城の馬小屋。

「馬二頭のお守りたァな」

「この世界は移動手段が限られている。一番早く脱出するには馬車以外無かろう」

「ククク……前の世界がいかに恵まれたか身に染みるぜ」

 一足早く大師匠が手配した馬車があるという馬小屋に辿り着いた高杉と万斉。

 彼らが生きた世界は船や鉄道、自動車など多様な移動手段があった。それは武器にもなれば逃走経路にもなり、遠方へ向かうのには正体さえうまく隠せればどうとでもなったくらいだ。

 この異世界は、徒歩と馬車と船しかない。移動手段が限定されることがこうも影響を及ぼすことに、二人は自分達の環境が恵まれていたものだと自覚するようになった。

「……万斉」

「うむ」

 すると、何かの気配に気づいたのか二人は抜刀した。

 いつの間にか、黒王軍のコボルト達が姿を現していた。

「こうも早く乗り込まれるとは……敵は中々の軍師でござるな」

「万斉。あの二人や()()()共には(わり)ィが、先に祭りを楽しまさせてもらおうや」

 次の瞬間、高杉と万斉は背後から忍び寄ったコボルト二体を一刀両断する。

 今のは確実に隙を突いたはず――そう言わんばかりに、コボルト達は目に見える程に動揺していた。

「相手が悪かったでござるな」

「今は二人だけだが、鬼兵隊(おれたち)は世界相手に喧嘩売ってきたんだ」

 異形の大軍に囲まれ八方塞がり。逃げ場を失い、追い詰められた絶望的な状況。並の兵士なら心がへし折れそうになるが、高杉は揺るがない。

 少し前までなら、こんな状況はよくあった。師を救けるための戦、師を奪った世界を壊す戦、果ては地球どころか宇宙規模の戦……その度に己を奮い立たせ、己の剣を振るい、己の魂を護ってきた。

 そして異世界。異星人の次は魔物ときた。人外の知的生物との因縁が世界をまたいでなお続くことに、高杉は笑いが止まらなかった。

「ククク……! 人間じゃねェ連中とこうも縁があると、運命すら感じるじゃねェか。そういうのは御免だが」

 高杉は口角を上げた。

「来いよ、介錯は俺が務めてやらァ。ここはてめーら全員の首斬り台だ」

 高杉の気迫に呑まれ、コボルト達は体を強張らせた。

 彼らは知らない。高杉が自分達よりも多くの修羅場をくぐり抜けてきた歴戦の将であることを。彼の右腕たる万斉も、前の世界では剣豪として知られていたことを。

「晋助、どうする」

「今のでビビってんだ。練度は大したこたァあるめェ………こんぐらいの数なんざ俺や銀時は物足りねェけど、なっ!」

 高杉は一気に大軍へ突っ込み、まず先頭のコボルトを瞬時に斬り伏せた。鎧ごと斬り裂いたその腕前に、敵は怯んだ。

 その隙を逃さず、高杉は勢いを殺さず暴れ回る。逃げ場を失ったら作ればいいと言わんばかりに、臨戦の構えを取ったコボルト達を次々に斬り捨てていく。それは洗練された無駄の無い太刀筋で、一対多数でも十分に威力を発揮していた。

 しかし数という点では、コボルト達が圧倒的に有利だ。各々剣や槍を片手に、一斉に襲い掛かるが――

 

 ギシィィ

 

「無粋な連中でござる」

 コボルト達の動きが止まる。目を凝らしてみると、細い糸のような何かで拘束されている。

 これが人斬り万斉の真髄の一つ。彼は剣術だけでなく三味線の弦をも武器として扱うことができるのだ。弦は鉄の強度を誇り、無理に動こうとすれば身体が引き裂くため、対象に絡めてトラップとして用いるのである。

「演奏中は黙って曲を聴くのがマナーでござる。もっとも、その垢の溜まった耳では聴こえんであろうが」

 そう言いながら弦を操り、絡めとられたコボルト達の肉を裂く。鮮血が飛び散り、人語ではない絶叫を上げたところで目にも止まらぬ速さで首を刎ねていく。

 今までにない戦術に混乱したのか、コボルト達は動きを止めた。それを見逃すわけなどなく、高杉も愛刀でさらに斬り伏せていく。

「晋助だけではこの数の介錯は苦労するであろう」

「ククッ……」

 余裕に満ちた笑みを互いに浮かべ、コボルト達を圧倒する。気づけば、コボルトの大軍は半数以上減っていた。

 だが戦場や死地という場所は予想外の事態や不条理な出来事がよく起こる。逃げ惑うように撤退するわけなどなく、むしろ援軍が来る場合がある。そして、それは現実となる。

「っ! 晋助!」

「ああ。今度は豚の群れだ」

 コボルトの次は、彼らよりも体格のいい武装したオークの軍。

 ところどころ鎧に血がついており、おそらく兵士達を屠ってきた後なのだろう。もっとも、数がいかに多くても技術は二人の方が遥かに格上なので恐れるに足らない。

「どうやら人間ではない者達は皆、侍の一刀が大好きなようでござるな」

神威(かむい)の奴もそうだったな。俺の一太刀浴びといて笑ってたからな」

 

 ――ヴヴォオオオオオ!!

 

 大地を震わす程の雄叫びと共に、オークとコボルトの連合軍が波のように押し寄せてきた。

 それに対し二人は同時に地面を蹴り、向かってくる魔物達を薙ぎ倒し始めた。

「!?」

「ッ……!!」

 一人、また一人と斬られ、地を這いずり回る。

 蹴るは殴るは鞘で叩きつけるは、何でもありの殺しの剣法――殺し合いに特化した戦い方に異形の者達は後退る。反撃の隙を与えず、互いの攻撃の隙を互いに補うように剣を振るうそれに、太刀打ちできないでいた。

 オークとコボルトだけならば。

 

 バサッ――

 

「竜!?」

「避けろ!」

 無双状態の高杉と万斉の前に、コボルトが操縦する竜が飛来。

 大口から(ごう)()が放たれ、紙一重で躱す。

「晋助っ!」

「ちっ、空は厄介だな……」

 高杉は舌打ちする。

 かつて参加した異星人・天人とそれに屈した幕府政権との戦争。高杉は当時の戦友達と神出鬼没なゲリラ戦を繰り広げて多大な戦果を挙げたが、空からの攻撃にはひどく悩まされた。陸上での白兵戦や船上での乱戦では無類の強さを発揮したが、その分空飛ぶ戦艦からの砲撃と銃撃では多くの被害を出していたのだ。

 忌々しい過去の記憶を呼び起こすそれに、虫唾が走った。

(あの竜の鱗、かなりの硬度でござるな。拙者らの剣でどこまで通るか……)

 まるで鋼鉄を彷彿させる竜の鱗に、万斉は一筋の汗を流す。

 明らかにコボルトやオークが着る鎧よりも硬そうな鱗。並大抵の攻撃では倒れないであろう巨体。そして最大の武器である灼熱の吐息とパワー。

 倒せないことは無いだろうが、二人だけで、ましてや刀一本では彼ら全員を返り討ちにするのは非常に難しい。ここを脱出できても必ず来るであろう追手を迎え撃つ力は温存しておきたいが、そういうわけにもいかない状況だ。

「万斉、来るぞ!」

「さすがに堪えるでござるな!」

 再び襲い掛かる炎。

 軌道を読んでどうにか避けるが、その隙を狙うように敵の軍が押し寄せる。その逆境を突破せんと態勢を立て直した、その直後だった。

「〝死ぬ気の(ゼロ)()(てん)(とっ)()〟」

 

 パキィィン

 

「「!?」」

 刹那、人ならざる者達に襲い掛かる氷。それは津波のように押し寄せ、彼らを呑みこみ氷漬けにした。

 そこへ駆けつけたのが、額に炎を灯したジョットとその一行だった。

「無事か!?」

「……今のは主の力でござるか?」

「ああ。通常の氷結と違って〝死ぬ気の炎〟でのみ解凍することができる」

「成程……その死ぬ気の炎ってのは、アンタの額に点いてるそれかい」

 圧倒的な力で全軍を氷漬けにしたジョットに、侍二人は驚嘆する。

 ジョットがかつて生きた世界における、人間の生体エネルギーを圧縮し視認できるようにした〝死ぬ気の炎〟。使い方次第では宙に浮き自由に飛び回ることや機械類の動力源にもでき、戦闘においては絶大な威力で焼き尽くす。

 その中でも一際異彩を放つのが、ジョットの技。死ぬ気の炎を強力な冷気に変換し、対象を凍らせるという「死ぬ気の炎を封じるための技」を編み出したのだ。冷気に変換された死ぬ気の炎は自然解凍せず、死ぬ気の炎で融かす以外に解凍手段は無い。

「ひとまず、皆無事で何よりだ」

 誰一人欠けることなく集まれたことに安堵し、ジョットは優しく微笑んだ。

(――似てやがる。あの笑顔……()()()()()()()()

 高杉は目を細め、その姿をかつて自分とその仲間に剣の道を教えてくれた恩師・(よし)()松陽(しょうよう)と重ねた。

「……で、これからどうする気だ? この国は敵の手に落ちたぞ」

 やぐらの言葉に、一同は真剣な表情となる。

 カルネアデス王国は、実質失陥した。おそらくこの国は後に黒王の拠点となり、諸国への侵攻の中継基地となる。態勢を立て直して取り返せば黒王軍への軍事的ダメージは相当なものとなるが、今の戦力では不可能だろう。しかし放置すれば世界は滅び、人類は一人残らず殺されるか人権無視も甚だしい扱いを未来永劫受けるかのどちらかしかない。

 絶望的な状況。それでも大師匠は、一抹の希望を懸けて質した。

「諸君……突然()()()にやって来て、突然戦えと言われても困惑するだろう。でも……でもどうか助けてくれ! どうすればあの〝黒王〟に勝てる……いや、勝ち目はあるのか!?」

「…………どうだろうな。連中、オレを殺した「暁」が可愛く思えるような奴らだぜ」

 かつて自分を死に追いやった、各国の凄腕の抜け忍達で構成された小組織「暁」すら凌駕すると断言するやぐら。その非情な現実に大師匠は言葉を失うが……。

「――家康はどう思う?」

「フッ……ゼロではないだろう」

 ジョットの不敵な笑みに、大師匠もやぐらも釣られるように笑う。

 黒王が率いる大軍の強大さと凶悪さは言語に絶していたが、機は必ず訪れる。今は無力でも、多くの力が集まれば必ず打ち倒すことができる。

 イチとゼロとは違うのだ。

(ゼロじゃない……! そして()()()()()()合流したら、まだ望みはある! 廃城の漂流者(ドリフ)達と……!)

 まだ望みは潰えたわけではない。各々の世界で名を馳せた漂流者(ドリフ)達は、この場にいる者達や廃城の彼らだけとは限らないのだ。

 自らの腕っ節と器量で一時代を築き、後世に名を残した者。歴史の陰で人々を守り支えた者。命の火が消えるその瞬間まで自らの信念を貫き通した者。彼らが集えば、世界の廃滅を目論む廃棄物を討ち滅ぼせる。

「では皆さん、馬車に乗って! カルネアデス王国から脱出します!!」

 

 

 時同じくして。

 戦況を見守っていた黒王は、ゴブリンの大軍をたった一人で無双する菜奈を眺めていた。

「人ならざる者達だけでは厳しいか」

 冷静に実力を推し量る黒王。

 漂流者(ドリフターズ)として飛ばされてきた者達が、それぞれ生きた世界の理が異なることを黒王はすでに見抜いていた。理が異なるということは、同じ人でも能力が大きく違うことと等しい。勢いだけで倒せる程、彼らも甘くはないということだ。

 しかしそれは廃棄物(こちら)も同じこと。土方はかつて新撰組に所属していたと言っていた刃衛を知らなかったのだから、認識のズレは確かに存在している。とはいえ、強いことは変わらない上に認識のズレ自体は悪影響を及ぼすわけではないのでスルーしているのだが。

「黒王。あの女は何者だ」

 そこに現れた、一人の男。

 黒い洋服を着込んで白い帽子を被った、紅梅色の瞳と縦長の瞳孔が特徴の容姿端麗な美青年だ。しかし纏う雰囲気はあまりにも禍々しく、黒王と同等の無気味さを醸し出している。

 彼は人を襲い喰らう鬼の始祖にして鬼の頂点。残忍、無慈悲、傍若無人、傲慢……それらの言葉を体現した、人間も人ならざる者も超越した正真正銘の〝怪物〟。

 

 その名は、()()(つじ)()(ざん)

 最強すらも超越した、人喰い鬼の首魁だ。

 

漂流者(ドリフターズ)だ。私がいた世界の者ではない」

「ほう……」

 無惨は興味深そうに目を細める。

 鬼殺隊との壮絶な死闘の末、日の出と共に朽ち果てた無惨は、廃棄物としてこの異世界に飛ばされ黒王と出会った。黒王が掲げる世界廃滅と〝人ならざる者〟による新たな文明の誕生に興味を示し、手を組んで活動を始めた彼だが、最近夢中になっていることがある。

 それが、自分が知らない未知の別世界から来た漂流者(ドリフターズ)の研究である。自身が選別した十二(じゅうに)()(づき)や忌々しい鬼殺隊とはまた違った能力(つよさ)を宿す漂流者(ドリフターズ)を隷属すれば、自分は完璧をも凌駕した存在になれる――そう確信し、無惨は彼ら彼女らの研究を行っているのだ。

漂流者(ドリフターズ)は決して生かしてはおかぬ……必ずや一人残らず殺してくれる。だが貴殿が同族(おに)にしたいのであれば、私はそれを受け入れよう」

「私が生む鬼もまた、貴様が手を差し伸べる範疇ということか……」

 そう呟きながら無惨は遥か先で戦う菜奈を見つめ、笑った(・・・)

 直感的に思ったのだ。あの女の日輪の如き笑顔を絶望に染め上げ、屈服させてやりたいと。鬼にしてその全てを支配し、自分の女として傍に置きたいと。

 あの女のような漂流者(ドリフターズ)は、手駒にすれば強大な武力を得られるだろう。餌として吸収すれば、(まれ)()以上の力を得られるだろう。確固たる根拠がなくとも、そう確信させられた。

「もったいない存在だ、漂流者(ドリフターズ)……人のままで終わらせるのは、あまりにも惜しい」

 無限の可能性を秘めた漂流物に、鬼の始祖は魅入られていた。




あと1~2話で殺せんせーサイドに戻ります。
ちなみに廃棄物側はちゃんと何名か手配してるのでご安心を。(笑)

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