JUMP DRIFTERS   作:悪魔さん

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「鬼滅の刃」の鬼達が本作のザコ敵と中ボスに向いていることに気づいちゃいました。
鬼滅要素が強くなっちゃう。(笑)

2020年9月14日、一部修正しました。


第6幕:プロはいつだって命懸け

 カルネアデス王国から脱出するため、十月機関と四名の漂流者(ドリフターズ)が馬車に乗って疾走する。

「家康殿、一体どこで馬術など……」

「俺のかつての仲間は有能で頼もしいぞ!」

 わははは、と呑気に笑うジョット。

 彼は前の世界で色んな人物を〝守護者〟として大切にしており、その内の何名かは社交性に富んでいた。その中で乗馬やチェスは貴族の娯楽兼趣味であり、当時の政治家や有力者との関係を築く上で欠かせないため「ボスとしての学問」として叩き込まれたのだ。

 ただジョット自身の成長ぶりが異常だったので「何で私より出来てるんですか……」と泣いたことも多々あったのは秘密だ。

「……で、大師匠さんよォ。その廃城の連中はどこだ?」

「この国の遥か南です。南下すればエルフ族の村と森があるので、そこを拠点にしているはずです。私の部下が監視しています」

「何人だ?」

「三名です。あなた方がいた世界とは別の世界から飛ばされてきた可能性が……っ!」

 突如、前方から黒王軍が押し寄せてきた。

 このままでは囲い込まれてしまう。大師匠は道を変えるべく声を発しようとした、その時。

「〝(すい)(とん)(みず)(らっ)()〟!!」

 

 ドッ!

 

「っ!?」

 やぐらが馬車を引く馬の背に立つと、口から大量の水を吹き出して黒王軍を全員押し流した。それを見た大師匠は、その規格外の威力に唖然とする。

 やぐらがいた世界では、体内の精神エネルギーと身体エネルギーを練り合わせることで生み出す「チャクラ」を用いて多種多様な忍術を操る。先程やぐらが放ったのは水を利用した〝水遁〟の基本術である技だが、忍の頂点たる影であった彼は凄まじい量のチャクラを有しているため、基本の技でも絶大な威力を発揮するのだ。

「これが忍者か! 見事!」

「俺らの知る忍術じゃねーな」

「同じ忍者でもこうも違うとは……」

 ジョットは初めて見る忍術に大興奮し、高杉達は自分達が元いた世界の忍との違いに驚きを隠せない。

「あの大軍を一瞬で……やぐら殿! その術は何回使えますか!」

「オレのチャクラが切れるまでだが」

「それ程の大量の水を使えるならば、上空からの竜の迎撃もお願いできますか!?」

「竜か……やってみよう」

 その直後、巨大な竜が前方に飛来した。

 竜は大口を開けて炎を吐こうとしたが、その前にやぐらの術を食らい、その水圧で弾き飛ばされ撃墜した。

「助けは不要だな、やぐら殿!」

「お前は馬に集中しろ!」

 やぐらに叱咤されながら、ジョットは馬を操る。

 襲い掛かる黒王軍を薙ぎ倒せば、混乱していた民衆が後を追うように雪崩れ込む。まるで付いて行けば助かるとでも言わんばかりに。

「もうすぐ西門です! 急いで!」

 そして唯一の脱出口である西門を突破した。

「よし、出たぞ!」

「家康殿、このまま南へ向かいます! 構成員のセムと合流します!」

「うむ!」

 西門を突破し、一行はセムがいるエルフの村へと目指した。

(お前の好きにはさせん! させんぞ、黒王! 必ず間違いは正す! お前達はここにいてはいけないのだ!)

 

 

 一方。

「ハァ……ハァ……」

 黄色の手袋で汗を拭い、息を荒げる菜奈。その周囲には無数の黒王軍の兵士が倒れ伏し、まるで天災に遭った後のように地面が大きく抉れ地割れも起きている。

 彼女が扱う「ワン・フォー・オール」は、スピードやパワーと言った筋力が爆発的に強化され、強力かつ応用性の高い〝個性(チカラ)〟である。拳や脚による打撃の一撃一撃が破格の威力であり、直撃を食らわなくても攻撃の余波で圧倒できる程。当然その力に耐えられるよう体を鍛えてあるため、菜奈の戦闘力はかなりの脅威と言える。

 しかしあくまでも身体能力の強化であって、体力は別の話だ。数による消耗戦に持ち込まれては、菜奈の方が不利になる。現に彼女はそういう状況に陥ってしまっている。

(クソ、数が多すぎる……)

 ゴブリン・オーク・コボルトによる白兵戦。

 竜による上空の機動戦力。

 それに対処すべく尽力したが、さすがの菜奈もこれには疲弊した。孤軍奮闘の末、いきなり異世界に飛ばされたヒーローの敗色は濃厚だった。

 それでも、菜奈は笑っていた。笑ってる人間が世の中で一番強いのだ。どんなに恐い時でも、どんなピンチの時でも笑顔を絶やさない。それが彼女の正義なのだから。

「弟子に言っといて師匠が実践しないのは筋違いだよな……(とし)(のり)……!!」

 拳を握り締め、己を奮い立たせる。

 すると、先程まで殺気立っていた黒王軍が、次々の武器を下ろし始めた。それと共に得体の知れない気配を感じ取り、菜奈の顔から笑みが消えた。

 本当に危ない奴が来た――その事実を身体が、本能が察したのだ。

「えらい! 頑張ったね! さすが無惨様が目を掛けるだけあるよっ!」

「……!」

 パチパチと盛大な拍手を菜奈に送るのは、無惨の部下である人喰い鬼・童磨。

 ニカニカと屈託なく笑っているが、全身から漏れ出る血の臭いにさすがの菜奈も恐怖を感じた。

(こいつ……(ヴィラン)なんてモンじゃない! ()()()()()()だ!)

 冷や汗が止まらない。今まで出会った悪意(ヴィラン)が可愛いと錯覚してしまう。

 傷一つ負うことなく笑いながら自分に止めを刺した悪の支配者(オール・フォー・ワン)は、悪の権化と言える男だが妙に人間臭さがあった。しかし目の前の男からは、それが感じ取れない。

 それが余計に、恐怖心を煽った。

「本当なら君の全てを貪り食って俺の一部にしたいけど、そういうわけにもいかないんだよな~……とっても美味しそうなのに残念だよ」

「お前……人間じゃないな」

「正解。俺は人を襲い喰らう鬼だよ。何人喰ったかは……ごめん、忘れちゃった!」

 悪い予感が当たった。

 が、菜奈はどこか納得してもいた。正真正銘の人喰い鬼ならば常軌を逸した数々の言葉にも、全身から漏れ出るあの血の臭いにも説明がつくからだ。

「……見た感じ、私を殺す気は無いらしいな。お前がさっき言っていた無惨という者の命令か?」

「その通り! 人間の弱い女の子にしては察しがいいね! 俺感動したよ!」

(こいつ、絶対他人から嫌われる性格(タイプ)だな……)

 菜奈は何となく童磨の性格を掴めた。

 他者の神経を逆撫でしまくるせいで間違いなく孤立する男だと。

「冥土の土産に教えてあげる。君の予想通り、あの方の命令だよ。あの人、君だけなのかはともかく漂流者(ドリフターズ)に興味津々なんだよ」

「そうか……お前が様付けで呼ぶくらいだ、無惨という奴は相当の(つわ)(もの)だな。――だが、()()()()()()()?」

 菜奈は失った笑顔を取り戻す。

 人喰い鬼が何だ。確かに恐ろしい存在だろうが、自分がその脅威から弱き人々の笑顔を守れなくなる方が余程恐ろしい。

 

 負けられない。

 ヒーローは負けない。

 いつだって勝つのがヒーローだ。

 

 ゆえに彼女は、何度でも立ち上がるのだ。

「絶対に勝てない相手だとわかっていて戦い抜こうとするその愚かさ……()()()()と同じくらい、いやそれよりも素晴らしいな!」

 嬉々とした様子の童磨は黄金に輝く鋭く大きな鉄扇を構えた。

「名前教えてよ! 俺は童磨って言うんだ!」

「私は志村菜奈……ヒーローだ」

 互いに名を名乗った、その時だった。

「何をしている童磨」

「!」

 一触即発となった戦場に現れた男。

 鬼舞辻無惨だ。

 童磨以上に濃厚な血の臭いと禍々しい気配に、菜奈は息を呑む。

「邪魔だ」

「無惨様、前より優しくなってる?」

「首を刎ねられたいか」

 無惨に凄まれた童磨は笑顔で両手を挙げる。

 その気迫に気圧されるも、菜奈は無惨に問いかけた。

「……お前が無惨か」

「いかにもそうだ、漂流者(ドリフターズ)・志村菜奈」

 紅梅色の瞳で、眼前の聡明な女傑を見つめる。

 その視線は粘着的なモノで、支配欲剥き出しであった。

「先程まで見届けていた。揺らぐことの無い心、そしてその圧倒的な力……人のままで終わるにはあまりにも惜しい」

「……そこにいる童磨と同じ人喰い鬼なら、私を喰うならやめといた方がいい。筋張った肉の塊で腹を下して死ぬのは嫌だろう?」

「フフ……中々面白いことを言う。しかしお前は自分がどれ程の価値があるかわかってないようだ」

 それは、純粋な称賛だった。

 一人で異形の大軍と渡り合う強さ。四面楚歌の状況でなお失わない気概。そして見る者を安心させるような、朗らかな優しい笑顔。

 あの忌まわしき耳飾りの剣士――(つぎ)(くに)(より)(いち)のように人でありながら人を超越した力を持ち、それでいて太陽のように他者を明るく照らす女。太陽を克服することで「真の〝完全生物〟」を目指した無惨にとって、たとえ太陽を克服できなくても手中に収めたい存在だった。

「お前は私が嫌う鬼殺隊とよく似ている」

「鬼殺隊……?」

「そうだ。大切な者の仇を討つために自分の命を投げ出す、異常者の集まりだ。限りなく完璧に近い私に殺されるのは大災に遭ったのと同じであるのに、それを理解しようとしない」

「……」

 無惨の言う鬼殺隊が何者なのかはわからないが、菜奈は無惨の言い方から察した。

 鬼殺隊は、無惨がいた世界におけるプロヒーローに近い連中だと。

「志村菜奈、一つ問おう。お前の笑顔は、どれ程の屍の上で成り立っている?」

「っ……!!」

「人の域は超えているが、人のままだ。ならば救いきれなかった命はあるだろう。――志村菜奈、お前の笑顔の為に何人死んだ?」

 菜奈を嘲笑する無惨。

 他者の為に自分の命を投げ出すことも躊躇わない人間とは、他者の犠牲というモノに弱い。それは自責の念を駆り立て、容易に心を砕くことができる。今まで出会ってきた人間がそうであったのだ、この女にも必ず通じる。挫けたところで誘惑し、自分と共にいることがいかに素晴らしいか教え込んでやろう。

 そう思っていた無惨だったが……。

「……!」

 真っ直ぐな目で見据える彼女に、無惨は目を大きく見開いた。

 菜奈の心は、ヒビ一つ入ってなかったのだ。

「ハハッ……ヒーローの自己犠牲ってのをよく理解していないな」

「何だと……?」

 後悔・悲壮感・猜疑心が胸をよぎっても、それでも拳を握り締め平和の為に全てを懸ける。それがヒーローの自己犠牲であり、死より過酷な茨の道を辿る哀しき宿命であり、存在意義である。

 時にはこれでよかったのかと、他にも道はあったのではないかと、信念を鈍らせるような迷いもある。理想と現実の間で悩み苦しみ、果ては絶望し悪に堕ちる英雄もいるだろう。だが、それでもヒーローは前を向くのだ。救えなかった者達の無念を背負い、その手にチカラを込め、殴り続けるのだ。

「命を賭して悪意と戦い、そして勝つ。私がヒーローとしてこの世界に来たのなら、お前を倒すのが道理さ」

「……人間はあっけなく死んでしまう弱々しい生物だ。お前も例外ではないぞ」

「それがどうした? 人間の想いと魂は、必ず受け継がれる……未来に繋げられる! 私が弟子に託したように!」

「っ……!!」

 そう笑みを浮かべて力強く告げた途端、なぜか首を掴む無惨の手が惚けたように緩んだ。

 菜奈はそれを見逃さず、無惨の胸に拳を叩きつけた。

「ぐうっ……!」

「……じゃあな」

 

 ドゴォォォン!!

 

「!?」

 即座に菜奈は渾身の一撃を地面に叩きつけた。

 その瞬間、竜巻状の衝撃波が発生して周囲を吹き飛ばした。まるで空に巻き上げられるかのように、黒王軍の兵士達が絶叫と共に吹き飛んでいく。耐えられたのは、無惨と童磨だけだった。

 土煙が晴れれば、そこには亀裂が生じクレーター上にへこんだ地面だけで、彼女の姿はどこにもなかった。

「……逃げたか」

 夜空を仰ぐ無惨は、思考の海に潜った。

 やはりあの女は、鬼殺隊の隊士共とほぼ同じ価値観だ。己が朽ち果てても想いを継ぐ「継承者」が必ずや叶えてくれると信じてやまない鬼狩り達と似ている。しかも腕といい度胸といい、鬼である自分ですら認めざるを得ない程の実力者ときた。

 あの女は、自分が最も欲する存在だ。

「まさか空に逃げるとはね~……って、アレ? 随分上機嫌だね、無惨様」

「……気が変わっただけだ」

 無惨は笑う。

 己に心身共に消えない傷をつけたあの継国縁壱(バケモノ)はいない。鬼殺隊を率いた(うぶ)()(しき)耀(かが)()もいない。鬼狩りを殺し尽くすという己の想いの全てを託した竈門(かまど)(たん)()(ろう)には鬼殺隊の異常者共のせいで裏切られた気分だが、それすらもどうでもいいこととなった。

 鬼を知らぬこの異世界において、太陽の克服さえ除けば無敵の存在となった自分。己の脅威となる者がいない世界。ゆえに一度は潰えた「永遠の生存」を再び目指さんと胸を躍らせたが、漂流者(ドリフターズ)を知ったことで認識を改めた。

漂流者(ドリフターズ)を利用して、私は自然の摂理のような永遠の存在となる。そうだ、私に殺されるのは大災に遭ったも同然なのだ)

 無惨が導き出した答えは、()()()()()()()()()を永遠の存在とすること。それは日の光をも克服した後継者を育てて「日」と「夜」を支配し、前の世界では果たせなかった「永遠の生存」を実現して自らを神格化させるのだ。

 〝鬼の王〟ではない。それすらも超越した〝万物の王〟を無惨は目指そうとしているのである。

 

 受け継がれる意志。人の夢。

 それは完璧な存在ですら倒すチカラとなる。

 ならば自分も成し遂げてみようではないか。()()()()()()()()()

 

(私の後継者候補は……ひとまず志村菜奈だな。だがあの女以外にも漂流者(ドリフターズ)はいるはず。後継者を決めるのは今ではない、焦ってはいかん)

 鬼は悠久の時を生きるのだ。気が遠くなる程の時を生きるのは苦ではない。

 時間を掛けて、じっくりと吟味すればいい。あとはどうとでもなる。

「私は全ての王となり、全てを平伏させる……人も鬼も、全ての生きとし生けるモノの頂点へ昇り詰めよう……!」

 恐れるモノも立ち塞がる壁も無い。無惨は心の底から歓喜した。

 ただし、鬼殺隊をはるかに上回る力を秘めた漂流者(バケモノ)達がこの世界に飛ばされてきていることを彼は知らない。

 

 

           *

 

 

 その頃、「北壁(カルネアデス)」よりはるか南の廃城では。

「大師匠様と連絡取れなくなっちゃうし……ど、どうしよ。まさか北壁が落ちたなんて無いよね? こっちはあのバカ3人組メチャクチャやるし、もうどうしよう……」

 どうしようもない不安に駆られるセム。

 その直後。

「こんばんは。今日は月が綺麗ですね」

「ヒャアーーーッ!?」

 背後からのしのぶの声に、木々がざわつく程の奇声を上げるセム。

 それと共にロジャーと殺せんせーも姿を現す。

「敵意も殺意も無いようなので見逃してましたが……何者ですか?」

「ひ……わ、うわ……ギャーーー!! 殺されるーーー!! 妖怪〝助平系イケメン〟だーーっ!!!」

「誰が妖怪〝助平系イケメン〟ですかっ!!」

 殺せんせーは手刀を炸裂。

 セムはそのままバタリと倒れた。

「密偵でしょうか?」

「それにしちゃあ間抜けだな。サイファーポールよりひでェぞこりゃあ」

「ええ。私の教え子達の方が百万倍優秀ですよ」

「っつーかそいつ、おれ達と同じ言葉喋ってねェか?」

 ロジャーの一言に、空気が変わった。

 誰がどう考えても別世界である場所に、自分達と同じ言語を扱える者が陰でコソコソとしていたらどう思うか。

 答えは一つ。尋問である。

「何か知ってるぞ絶対」

「尋問ならお任せを。こう見えて女性の扱いには長けておりますゆえ」

「いや~~~~~っ!!」

 ヌルフフフとゲスイ笑みを浮かべて詰め寄る殺せんせーに色んな危機を察し、女は口早に乞う。

「わっ、私は「十月機関」の魔術師でオルミーヌと申します!! お師匠様の命令で貴方達漂流者(ドリフターズ)の監視をしていただけです助けてください!!」

「……何言ってるんですか?」

「怖い!! やめて下さいその真顔より怖い笑顔!!」

 しのぶの微笑みに怯えるオルミーヌ曰く。

 この世界において、殺せんせーやロジャーのように〝向こうの世界〟からやってきた人々を「漂流者(ドリフターズ)」と呼ばれている。その人達を監視して集めることが彼女が属する十月機関の仕事であり、廃棄物と呼ばれる者達と戦うためにやってきたというのだ。

 それを聞いた三人は顔を見合わせ、それぞれオルミーヌに一言。

「断ります」

「んだそりゃ、勝手に決めんな」

「何で私達に押し付けるんですか?」

「えーーーーーーーっ!?」

 オルミーヌの絶叫が木霊した。




次回は結構重要かも。
独眼鉄風に例えると「ドリフターズは何ぞや……!!」です。
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