今回はそれについて少し触れます。
無数の扉が並ぶ、例の空間にて。
人ならざる悪しきもの「
「何がドリフよ。
圧倒的な能力と指導力で人類を絶滅させようと動く黒王。
超自然的な能力を会得したカタチで召喚された、世界を憎む黒王の配下達。
そして、突如として異世界に現れ猛威を振るう人喰い鬼や謎の
これら全ては、
今までの
「無駄な足掻きはしないで素直に敗北を認めたらどうなの? 紫!」
が、そこには紫の姿はなく、代わりに「終了しました」と書かれた看板がかけられていた。
「……む、紫ーーーーーーーーーーーっ!!!」
顔を真っ赤に染め、怒りを露わに叫ぶ
*
オルテ北部の山岳地帯。
ここは
そこには、一人の
「〝鳥神様〟!! 空から人間が降ってきました!!」
「ブーッ!!」
煽った酒を盛大に噴き出す。
犬人達に〝鳥神様〟と仰がれる、黒い羽毛のコートを羽織りハートをあしらった服を着用した男。体格は屈強というよりも華奢という言葉が似合うが、見上げるような長身はどこにいても目立ちそうだ。
彼もまた、
その名は――
ドンキホーテファミリー幹部 〝コラソン〟 ドンキホーテ・ロシナンテ
(こんな夜中に人が迷い込む? いくら何でも無茶が過ぎるぞ)
怪訝な表情を浮かべながらも、煙草を咥えて犬人が発見した人間の元へ向かう。
彼はこの世界に飛ばされた際、運がいいのか悪いのか犬人達の縄張りに迷い込んでしまった。侵入者として攻撃を受けそうになったが、その長身と服装に気圧され、さらに犬人達を皆殺しにしようとしたオルテの軍をたった一人で全員殴り飛ばして制圧したために〝鳥神様〟と呼ばれるようになったのだ。
ちなみに鳥神様の名の由来は、常時羽織っているコートからである。
「おい、こんな夜中に不用心だぞ。例の兵士達が襲い掛かるかもしれねェって――」
呆れ半分で現場に到着したロシナンテは、犬人が発見した人間を視界に捉え瞠目した。
黒い上着とズボン、赤い腰飾りに白いマントが特徴の女性だ。しかし戦闘の後だったのか、痛々しい傷を負っている。
重症という程ではないが、意識を失った手負いの女性に、ポロリと煙草を落としてしまう。そしてそれは、見事にコートに燃え移ってしまった。
「お、おい! あんた大丈夫かっ!? しっかりしろ!!」
「鳥神様!! それこっちのセリフ!!」
「水だ、水ぶっかけろ! 鳥神様が香ばしい焼き鳥になっちまう!!」
「もうやだ、この人ドジで!」
静かな山岳地帯に、
時同じくして。
オルミーヌは縄で縛られ殺せんせー達の尋問を受けていた。
「あなた方のように
十月機関の目的。
情報量が多すぎるせいか顔を顰め理解に苦しむロジャーとしのぶだが、大学教授に化けられる程の明晰な頭脳を持つ殺せんせーは独自に咀嚼し整理した。
「成程。十月機関は私達を
「!? な、何でわかったんですか!? まさか知ってたのですか!?」
「あなたの言い方で大体事情は察しますよ。それで、実際はどうなんですか?」
「……その通りです」
オルミーヌ曰く。
現に黒王を筆頭とした
「このままでは彼等にこの世界を壊されてしまう。ですからあなた達ドリフの力を貸してほしいのです!」
縄に縛られたまま頭を下げるオルミーヌ。
本来ならば、右も左もわからない状況下で世界を救えと言われても、困惑するだけだろう。しかし
オルミーヌは
「おれァ乗るぜ」
「「!!」」
「えっ!?」
何とロジャーがまさかの承諾。一番思い通りに行かないであろう男が、オルミーヌの懇願を受け入れたのだ。この場で一番強い
「ロジャーさん、なぜ?」
しのぶの質問に対し、ロジャーは理由を告げた。
が、承諾した理由は三人が夢にも思わない言葉だった。
「気に食わねェ」
「「「は!?」」」
何と義憤や正義感ではなく、ただ単純に気に入るか気に入らないかの問題だった。
オルミーヌはおろか、殺せんせーとしのぶも唖然とする。
「世界滅ぼし軍だか廃棄物だか知ったこっちゃねェ。自分のやりてェようにやって、見てェ夢を自分のやり方で叶え、生きた証を自分の生き方で世界に響かせる。それが〝生きる〟ってこった。それを奪う連中を気に入るわけねェだろ?」
それは、晩年を不治の病に冒された海の覇者だからこそ言える言葉だった。
自分の冒険に限界が見えたロジャーは、生き急いだ。限りある人生を我武者羅に生き、無茶をすることも多々あった。その末に〝海賊王〟という形で実を結び、故郷の処刑台で己の残り火を世界中へ燃え広がる炎へと変えることができた。
ロジャーの信念は「自由」だ。海賊の本分は「支配」であると豪語する宿敵〝金獅子のシキ〟とは戦争レベルで対立し続けたように、自由を奪う人間や他者を支配する人間とは非常に折り合いが悪い。思うままに生きる自由を廃滅という形で奪おうとする黒王には、一発ブチかまさなければならないとロジャーは思ったのだ。
「おれは行くぜ。その黒王ってバカを早くぶっ飛ばさねェと気分が悪くて仕方ねェ!! そうだろう? オルミーヌ」
「へ!? あ、えっと…………」
オルミーヌは困惑する。
ロジャーは世界を救うために戦うのではない。「自由」であるために戦うのだ。廃棄物と戦うと決めたのは、その首領たる黒王が己の自由を妨げる〝敵〟と判断したからで、オルミーヌにとっては今までにない理由で戦う人間である。
「おめェらはどうする? 第二の人生だ、好きにしろ」
「そうですね……今世ではあなたのように自分のやりたいように生きるために、共に戦いましょう」
「私も同じく」
「そうか! じゃあ正式におれの〝仲間〟だなっ!!」
事実上の仲間入りに、二ィッと笑うロジャー。
だが二人の心中は、別にあった。
((まあ、一番はあなたを敵に回したくないことですけど……))
二人は理解していた。
ロジャーという男が、自分達よりも遥かに強く滅茶苦茶であると。雰囲気だけで恐ろしく強いとわかるのだ、敵に回したらどうなることか。
だが、それ以前に気になることがある。
「さて、オルミーオッパイさん」
「オルミーヌです!」
「私のいた世界と彼らがいた世界は、どうも価値観も理も違う。歴史も異なる。これをどう説明するおつもりですか?」
殺せんせーの質問に、オルミーヌは目線を逸らした。
「それは……ある廃棄物の出現を境に
「ある廃棄物? 何者です」
「それがわからないんですよ! 何しろ情報が少なすぎるんです! せいぜいわかるのは見た目……縦長の瞳孔をした黒髪の男ってことだけですよ?」
その一言に、しのぶの顔色が変わった。縦長の瞳孔は、彼女が今まで倒してきた鬼の特徴の一つであるからだ。
まさかと思い、鬼気迫る表情でしのぶはオルミーヌを問い詰めた。
「その男の特徴を教えて! 知っている限りでいいから!」
「え!? えっと……今わかってるのは見た目では縦長の瞳孔、黒髪、白い肌です。あとは……そうだ、紅梅色の瞳だったそうですけど……何ですか急に」
しのぶの脳裏に、あの男が蘇る。
決して忘れやしない、産屋敷邸でのあの一瞬。
人喰い鬼の原種にして首魁。千年もの時を生きる、全てを超越した残忍無慈悲で残虐非道な怪物の姿。
「鬼舞辻、無惨っ……!!」
「キブツジ? そいつァ確か、おめェがいた世界の鬼の元締めだったよな」
しのぶは拳を握り締め、瞳に憎悪を宿らせる。
無惨によって罪無き人々が喰われ、鬼にされた。多くの同胞が殺された。敬愛し心服する「お館様」である産屋敷耀哉を苦しめた。姉である胡蝶カナエを殺した
存在自体を許してはいけない生物が、異世界においても悪行を重ねている。その事実に、しのぶは怒りを露わにしていた。
「その無惨って野郎が黒王とタッグを組んでるってことか」
「鬼舞辻無惨って言うんですね、その廃棄物……それだけではありません。今までとは異質の
「フム……」
殺せんせーは三人の様子を見ながら、頭の中で情報処理を進めていた。
しのぶの持つ情報では、鬼は怪力と不老不死性、そして数多の人間の血肉を食べたことで会得する血鬼術なる異能を有している。一方で日光を浴びれば灰となって消滅し、日輪刀と呼ばれる刀剣で頚を斬り刎ねれば殺すことができ、藤の花の香りを嫌うといった弱点も存在する。
しかし人喰い鬼の首魁ともなれば、事情は変わる可能性が極めて高い。しのぶの情報では日光を浴びることは死に繋がるために避けているようだが、それ以外は弱点となりえないと判断した方がいいだろう。
つまり遭遇した場合、日の出まで持久戦を繰り広げなければ勝つどころか生き残ることもできないということだ。
「日の入りから日の出までの時間は緯度や経度、季節で異なると思いますが……私の見立てでは、最低半日はぶっ続けて戦えるようでなければならないようですね」
「それって、要は日が昇るまで戦い抜けば勝ちってことだろ? 案外大したことねェな、おれの周りにゃ三日三晩ぶっ続けで戦う奴がわんさかいたぞ」
「まあ弱点があるからには必要以上に恐れなくてもいいという点では賛同しますよ」
「だろ?」
(お館様、私がおかしいんでしょうか? 彼らがおかしいんでしょうか?)
自分より先に旅立ってしまったお館様に、思わず助けを乞いたくなるしのぶ。
もっとも、そもそも生きた世界がそれぞれ異なるため、摂理や法則も変わってくるのだが。
「……話の流れでは、その鬼舞辻無惨がこの世界に飛ばされたことで色々なことが起きてるようですね」
「はい……少なくとも言えるのは、今まで飛ばされてきた
「やはり我々の前にも飛ばされた方々がいましたか」
「ええ、お師匠様も東方の人間の王国「オルテ」の国父もそうですから」
オルミーヌの言葉に、殺せんせーはある結論に至った。
この世界は、度々
あくまでも殺せんせーの仮説だが、こう考えると辻褄が合ってくる。
「そうとなれば、味方の戦力を増やすことを優先しなければなりませんねェ。日光以外で鬼を殺せる手段を持つのはしのぶさんだけですし、廃棄物と鬼だけが敵じゃないでしょう」
「マジか! あ~、こういう時に相棒とかギャバンとかバレットとかがいてくれりゃあなァ~!」
ロジャーは、猫の手ならぬ伝説の元船員の手も借りたいと嘆く。
すると殺せんせーは「そこでですが……」と人差し指をピンと立てて提案した。
「戦力ならば、ちょうどいいのが近くにいますよ。彼らを取り入れましょう」
そう言って指差す先にあるのは、先程立ち寄ったエルフの村だった。
*
その頃、北壁を陥落させた黒王はラスプーチンという男から損害の報告を聞いていた。
ラスプーチンの本名はグレゴリー・ラスプーチン。帝政ロシア末期に皇帝ニコライ二世に取り入れられ政界入りし、奇怪な逸話や容貌から〝怪僧〟と呼ばれた男である。彼は黒王軍においては参謀を務めており、頭目である黒王の目的達成の為に様々な策をめぐらせている。
「損害は少なかったですが、あの
「うむ」
黒王にとって、志村菜奈という
異能を駆使する怪人や人喰い鬼の恐怖に屈さぬ心。異形の大軍を相手に素手で渡り合う技量。そして一撃一撃が衝撃波や風圧を生む、あまりにも強烈な能力。戦力的な面で言えば、あの場で仕留められず逃がしてしまったのは後の憂いにもつながるだろう。追撃して殺さねばならない。
が、その前にやるべきことが黒王にはあった。
「傷を負った者を集めよ」
「
「当たり前だ。ゴブリンもコボルトも竜も全て我が
「
黒王はオークの一人の元へ向かい、左肩の傷口に触れる。
すると傷口はあっという間に塞がり、痕こそ残ったが何事もなかったかのように完治した。兵達はその
黒王の異能は〝生命の増殖〟。命あるものならば細胞でも食料でも無尽蔵に増やすことができ、兵糧においては無類の強みを発揮するため敵対する軍からすれば悪夢としか思えない能力なのだ。
「北壁が落ちたこと、諸方に伝えよ、ラスプーチン。されば今まで人間を恐れていた者共も、人の世が終わることを信じなかった者共も我らの軍勢に参ずるだろう」
黒王はかつて、人を救おうとしたが拒絶され、人に絶望した。その経験から人間とは他を道連れに無理心中する道路であるという結論に至り、賢すぎる上に大きな可能性を持つゆえに世界を滅ぼす存在と見なした。
人間によって世は滅びると解釈した黒王は、人間を滅ぼし人間ではない者に世界を継がせることが救世だと判断した。だからこそ、人間を滅ぼすのだ。
「逃げた漂流者達を追え」
黒王は追撃を命じた。
草の根をわけても
「それは私が平伏させた漂流者共もか? 黒王」
「……否。
無惨の質問に、黒王は遠回しに「好きにしてよい」と答える。
自分はあくまでも
黒王は同胞や同志には心から誠実に接するのである。
「私は不退転。歩き回り叫ぶ不退転の災厄である。人類廃滅の旅は終わらぬ。一人も残さぬ。一人
人ならざる者の為に立ち上がった黒王は、鉄の意志を杖と共に掲げた。
空神様は志村菜奈が襲名しました。(笑)
次回はエルフ村で作戦会議、そして続々と出てくる廃棄物達をお送りします。