ゆるるんポケモン滞在記   作:社畜系ホタテ

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8 三人称視点
9 主人公視点


第五話

 

 ナナミの合図によりエリカは自分のパートナーが入ったモンスターボールをバトルフィールドに投げた。

 相手はクチートがとことことフィールドの真ん中に歩いてるのが見えたので、ソラが一番の相棒でバトルをするのがわかった。

 もともとこのバトルはクチートの運動不足のために行われているものだから、それはそうだと思いつつ、自分も信頼のおけるパートナーであるラフレシアやキレイハナを出そうと思っていたが急遽変えて違う子を選択した。

 

 そもそも、はがね・フェアリータイプのクチートはくさタイプを専門とするエリカにとってはタイプ相性が悪いのだ。

 ジムリーダーとして普段から対策はしているものの、はがねタイプの相手をするにはさすがにラフレシアやキレイハナでは部が悪い。

 

(だからあなたに託します。ソラ兄さまに一泡吹かせてやりましょう!)

 

 モンスターボールは宙で回転し、草地に落ちてその反動でボールは開かれた。

 

「バナァッ!」

 

 ボールから出てきたのはフシギバナだ。

 

 ぜんこくNO.003

 フシギバナ

 くさ・どくタイプ

 

 フシギバナは草ポケモンが苦手とするほのおタイプやはがねタイプを相手取るために育てたポケモンであり、草タイプならではの絡め技の多さと物理または特殊攻撃力の高さで数々の挑戦者を葬ってきた。

 

 例え相手があの兄貴分であっても十分に相手取ることができるいわば秘密兵器といっても過言ではない。

 エリカは兄貴分に自分がフシギバナを使っているところを見せたことがなかった。

 

 久々に会ったのだ。

 ジムリーダーとして一生懸命にジム員とともに切磋琢磨し合いジムを守っていたので見せる機会がなかったという方が正しい。

 

 今の自分は昔のただのお嬢様だった時とは違う。

 これまでの成長を兄貴分に見せつけてやる。

 そんな意気込みでエリカはバトルに挑んでいた。

 

「へぇ、フシギバナか。これまたよく育ってる」

 

 ソラはフシギバナを見てもそれほど反応しなかった。

 心のどこかでそうだろうなと思う自分がいた。

 

 相手は自分が幼い頃から知っている兄貴分である。

 

 エリカは彼のバトルが異質であることを知っていた。

 彼自身、たまにいじわるになるときがあるが、普段は優しくて暖かい人だ。

 だが、バトルになると途端に人が変わる。

 雰囲気が変わる。

 

 現に先程から肌を刺すようなピリピリとした空気が放たれていた。

 圧倒的な威圧感、プレッシャーが辺り一面に広っていく。

 それによって場が支配させるのをエリカは感じ取った。

 

 だごしかし、まだバトルは開始直後、飲まれるわけにはいかないと、エリカは一層気を引き締めた。

 

「フシギバナ! 先手必勝ですわ! メガシンカ!」

 

 手首につけたキーストーンが入ったブレスレットを天高く掲げながら体の奥底から叫びあげた。

 そして、その叫びに応えるようにフシギバナに持たせたメガストーンであるフシギバナナイトが反応し、フシギバナは光に包まれた。

 

「バァァナァァッッ!」

 

 強い生命力を帯びた光の球体から殻を破り、真の力を解き放つように新たな姿を得たフシギバナ、メガフシギバナはけたたましく叫びこの場に現れた。

 

 メガシンカとは進化を超えた進化である。

 ポケモンの秘められた潜在的なパワーがバトル中に一時的に開放することにより、急激に強化することができる。

 どこかの研究では『メガシンカとは「進化」ではなく真価を発揮するという意味での「真価」であると解釈されていたりするらしい。

 各論を端的に纏めると進化の限度を突破した更なる進化、それがメガシンカである。

 

 メガシンカするにあったってある程度条件がある。

 一つ目の条件は、先程エリカが使ったアイテムである『キーストーン』『メガストーン』といったアイテムである。

 二つ目の条件はポケモンとトレーナーとの間にある強い絆である。

 この二つの条件が現在研究されている中での絶対条件ではあるが、メガシンカはまだまだ不明な点が多い。

 

 なにせ、メガシンカを目撃されているポケモンの数が少ないのである。

 ポケモン全匹がメガシンカできるのではない。

 いや、できるかもしれないが、確認されていないのだ。

 

 トレーナーの問題か、はたまたポケモン自体の問題か。

 不明ではあるが何らかの要因があるに違いない。

 

 メガシンカとは特別だ。切り札といっても過言ではない。

 そんなものを序盤から使うのは、いささか間違った選択かもしれない。

 

 だが、エリカは自信をもって正解だと考える。

 あの兄貴分には最初から全力で行かない以外の手などないのだ。

 

 自分の持つ力を全て、最初から最後までフルパワーで駆使していかないと、勝つことができないとエリカは感じていた。

 

 だから、初手のメガシンカ。

 勢いをつけるための一手。

 

 だが、その勢いを止めるかとように相手の攻撃が飛んできた。

 

「バナっ!?」

 

 突然フシギバナ目掛けて樹木が飛んできたのだ。

 文字通り樹木が『飛んで』きた。

 それはもうロケットのような勢いで、おまけに縦に回転しながらフシギバナがいる場所に寸分の狂いなく正確に飛んできた。

 

 あれはバトルフィールドに生えている樹木の1本だった。

 

「焦っちゃダメですわ! ハッパカッターで切り刻みなさい!」

「バ、バナァッ!」

 

 フシギバナは突然の出来事で驚いたが、エリカの声を聞いてすぐに冷静さを取り戻し、指示のとおりハッパカッターで飛んでくる樹木を切り刻む。

 だが、飛んでくる樹木は1本ではなかった。

 切り刻むと同時に2本、3本と次々と樹木は飛んでくる。

 

 フシギバナは、それらをすべて撃ち落とすが如くハッパカッターを繰り出した。

 だが、それが悪手だった。

 

「っ!? フシギバナ!」

「バナ?」

「……くー」

 

 エリカは気づいたようだったが、少し遅かった。

 樹木の一つを盾にして、飛んでくる樹木をおとりにしてクチートが近づいていたのだ。

 平均的なクチートの大きさは0.6メートルである。

 例えハッパカッターで樹木を切り刻んだとしても、相当な数飛んでくる樹木一つ一つを小間切れにすることはできない。

 

 間に合わないのだ。

 樹木のスピードと数のせいで。

 

 その隙を『クチート』がついたのだ。

 

 そして、クチートはフシギバナの顎の下に潜り、そのまま握りこぶしを引いた。

 パキパキと引いた拳に冷気が溜まっていくのがわかった。

 

 あれは……。

 

「フシギバナ、『れいとうパンチ』がきます!」

 

 『れいとうパンチ』だ。

 

 はがね・フェアリータイプのクチートが唯一覚えるこおりタイプの技。

 タイプ一致ではないのでこおりタイプが使う『れいとうパンチ』よりも威力は劣るが、あのクチートの特性は『ちからもち』だ。

 物理タイプの攻撃の威力を上げる特性をもっている。

 

 そんなクチートの一撃を草タイプのメガフシギバナは、例えメガフシギバナにメガシンカしたとしても手痛い一撃になるのは目に見えていた。

 だから、回避の行動をとらせようとするが、それはできないと悟った。

 

 至近距離で相手はもう攻撃モーション移っていのだ。

 

 万事休すだ。

 

 しかし、エリカは諦めなかった。

 

「気張りなさいフシギバナ! 『ねをはる』!」

「っ!? バナァ!!」

 

 フシギバナはエリカの指示を信じ、地面に根を張った。

 それと同時に顎に強烈な衝撃がフシギバナを襲う。

 

 クチートの氷を纏った右アッパーがフシギバナを打ち抜いたのだ。

 拳を引いたときに力を蓄え、攻撃の際に全てを解き放つように回転する。

 回転が勢いを生み、勢いが力を生んだ。

 クチートの完璧な体重移動により、何倍と傘増しされた力がフシギバナへと伝わった。

 拳を振りぬいた衝撃は、例え相手が『カビゴン』であったとしても吹き飛ばすほどの威力だろう。

 

「……間に合ってよかったですわ」

 

 だがしかし、フシギバナは吹き飛ばされなかった。

 多少は浮いたものの、すぐさま元居た場所に戻り、そのまま真下にいたクチートを前足で踏みつ、のしかかるように抑え込んだ。

 

 原因は『れいとうパンチ』を放つ際に使った『ねをはる』だった。

 フシギバナから伸びた無数の根が地面とフシギバナを固定して吹き飛ばすほどの勢いをフシギバナは耐え凌げることができた。

 

 根は何本かぶちぶちと千切れてはいたものの全ては切れていなかった。

 そのため、フシギバナはもといた位置に戻ってこれたのだ。

 

 クチートはフシギバナに抑えられるもなんとか逃げようじたばたする。

 しかし、いくら『ちからもち』のクチートでも寝転がり抑えられた状態で重さが155.5㎏あるフシギバナの全体重を持ち上げられことはできない。

 

「さぁ、これでは相手は逃げられません。フシギバナやり返してあげなさい。『じしん』」

 

 はがねタイプに効果が抜群な地面タイプの技『じしん』。

 試合を決めかねない一撃がクチートを襲う。

 襲うはずだった。

 

「…え?」

 

 攻撃するはずだった、『じしん』でエリカに勝利を与えてくれるはずだったフシギバナは『じしん』を放つ前にその場に倒れてしまった。

 倒れた勢いで地響きが鳴った。

 

 エリカは何が起こったかわからなかった。

 

『フシギバナ戦闘不能! よって勝者ソラ』

「よくやった、くー」

「……くー」

 

 わかったことはバトルが終わり自分が負けたという事実だけだった。

 

 

 

9

 

 バトルの時は普段と意識を変える。

 バトル用の脳味噌に切り替える。

 

 五感を全てフル稼働させ、勝利に必要なピースを手繰り寄せる。

 

 バトルとは準備だ。

 どれだけポケモンに技を仕込み、戦い方を仕込み、勝利への勘を仕込むかだ。

 勝つためにどう動けばいいのか、トレーナーの指示をくみ取れるか。

 技の選択は? タイミングは? 

 勝つために必要な行動とは?

 

 そのための仕込みをしなければならない。

 

 ポケモンたちが自分で勝利を得るために考え、トレーナーが指示する前に最善の行動を移す。

 それができればまず負けることはないと俺は考える。

 

 いちいちトレーナーが指示し、ポケモンがそれを聞きつけ、そして行動に移す、なんて手順を踏んでいたらだいぶ時間が無駄だろう。

 

 だから、そのための仕込み、準備。

 できる事の幅を増やすためのお手伝い。

 

 それが、育成である。

 

 ポケモンの秘めた力は無限大である。

 できない、なんてことはまずあり得ない。

 トレーナーの指示を待つだけのただのデータではないのだ。

 

 弱いポケモンなんてのはこの世にいない。

 

 彼、彼女たちはこの過酷な世界で生きている、生き抜くための頭がある。

 ポケモンはもしかしたら俺たち人間よりも遥かに賢く、気高く、そして、美しいのだ。

 

 だが、それでも一ポケモンとして勝利を見逃してしまうことがある。

 

 それもそうだ。

 彼、彼女たちは勝利のために必死になって戦ってくれているのだ。

 相手を倒すため技を繰り出したり、相手の技を避けるように回避したり、常に体は動いている。

 恐怖や興奮、油断、焦燥が勝ち負けを狂わせてしまうことだってある。

 

 それを正すのがトレーナーの仕事だ。

 狂ってしまったのなら正せばいい。

 選択が間違っているのなら教えてあげればいい。

 

 そのためにトレーナーは存在している。

 

 だから、俺は指示を出さずに冷静にバトルの状況を見る。

 俯瞰的に観る。

 客観的に視る。

 

 大事な局面で間違わないように、勝利が狂わないように。

 

 俺はただただ静観するのだ。

 

 それは今回のバトルでも変わらない。

 

 バトルが始まりエリカちゃんが出したポケモンはフシギバナであった。

 カントー地方特有のいわゆる御三家の一匹だ。

 

 フシギバナは開始直後にメガシンカした。

 初手メガシンカにはさすがに驚いたが、メガシンカっていうのは案外弱点があったりする。

 

 その一つといっちゃなんだが、メガシンカ時に周りが見えないというものがある。

 

 そりゃそうだ。

 とてつもないエネルギーを使う進化に集中しなければならないのだ。

 周りを見ている余裕なんてないだろうよ。

 

 だから、その隙をくーはついた。

 手当たり次第の樹木に『グロウパンチ』を放ち、フシギバナ目掛けて殴り飛ばしたのだ。

 

 そして、メガシンカが終わった直後、タイミングよくフシギバナに樹木が飛んでいく。

 『グロウパンチ』は殴る度に攻撃力が上がる技だ。

 そのため、殴られた樹木は数が増える度にとんでもない勢いで飛んで行った。

 

 大半がハッパカッターにより樹木は切り刻まれてしまったが、これでいい。

 くーは、樹木をぶつけてダメージを与えようなど甚だ思っていないのだ。

 

 そうこれはおとり。

 

 くーは、樹木の中で一際大きい大木を殴り飛ばした際、その大木に隠れるようにフシギバナに接近した。

 多少のダメージは覚悟の上だ。

 それにくーの体長はそれほど大きくないのでダメージが入ったとしてもそれは微々たるものだろう。

 

 そして、くーは狙い通りにフシギバナの懐というか顎の下に潜り込んだ。

 

 あとは『れいとうパンチ』をぶち込むだけだ。

 『グロウパンチ』により底上げされている攻撃力で放たれる『れいとうパンチ』だ。

 タイプ一致じゃないにしても、最悪この一撃で勝負が決まってしまってもおかしくない。

 

 現にくーは決まると思っていたのだろう。

 『れいとうパンチ』を綺麗に顎を打ち抜いたとき、くーは油断してしまった。

 気を抜いてしまった。

 

 だから『ねをはる』で張った根によってその場に戻ってきたフシギバナに対処できなかった。

 フシギバナにのしかかられ身動きがとれなくなってしまった。

 あとはフシギバナが持つはがねタイプへの有効打の『じしん』が放たれるだろうけど、そうはさせない。

 

 そのための(トレーナー)なのだか。

 

「くー、ふいうち」

 

 俺の言葉を聞き、くーは頭から伸びるもう一つの口をなんとか動かし、フシギバナが『じしん』を打つ前に顎へと一打。

 さすがに体力は限界に近かったのだろう。

 一打を受けたフシギバナはそのまま倒れたのだった。

 

『フシギバナ戦闘不能! よって勝者ソラ』

 

 最後はヒヤッとしたが、なんとか勝てた。

 さすがエリカちゃん。ジムリーダーになるだけはある。

 

 俺はようやくフシギバナから抜け出したくーのもとへと近寄った。

 

「よくやった、くー」

「……くー」

 

 肩で息をしていたくーは、近く俺に気づき、恨みがましく俺を見上げた。

 そんなくーの態度に苦笑いするも、くーの頭に手を置き、優しく撫でてあげる。

 

「お疲れさん。危なかったけど本当によくやったよ。あとでマッサージするから今はボールに入ってて」

「くー」

 

 くーは、くたくただよと言わんばかりに一度鳴くとそのままをボールに入っていった。

 

 おつかれさん、ありがとう。

 

 トレーナーのために頑張ってくれるポケモンは本当に尊い生き物だと改めて思うのだった。




主人公 2
名前はソラ。
バトルは基本放任主義。
ポケモンが自分で最善を考えて戦うのがベストだと思っている。
なので、育成の段階でポケモンたちに戦い方の方法を提案し、ポケモンたちは自分に合った戦い方を身につけさせた。
だが、それでも大事な局面でポケモンが間違った選択をすればそれを『正す』ために指示を出すことがある。

クチート 3
ニックネームはくー。
特性『ちからもち』。
完全物理特化の脳筋姫。
育成の段階で主人公から様々な格闘術を教え込まれた。
現在主人公の母とともに通信講座で『サバット』を習っていることを主人公は知らない。

フシギバナ
エリカの手持ちの一匹。
メガシンカできるほどのエリカとの絆がある。
ジム挑戦の際、よくほのおポケモンを狩っていた。

エリカ 3
ぶっちゃけ勝ったと思い、ガッツポーズの用意までしていた。
負けたと分かり、すぐに引っ込めたが高性能カメラで録画され、後日その動画をジム員内で回覧されてしまうが本人は気づいていない。
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