いつか、この不幸少年に祝福を!   作:なまこ

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殆どその場の勢いで書き始めたので、続くか分かりませんが……少しでも楽しんで頂ければ幸いです。


プロローグ

「早く、こっち来てよ!いいもの見つけたの!絶対、君も驚くからさ!」

 

 先を歩いていた少女は笑顔で振り向き、後ろで立ち竦んでいた少年の手を取り、駆け出していく。

 そんな二人の子供たちの様子を、俺は後ろから眺め続けている。

 

 明晰夢、というものだ。

 かなりの頻度で同じ夢を見させられている。

 

 少女は無邪気で危なっかしい、それでいて時折全てを愛しむような優しい笑みを浮かべる。

 どこかチグハグな彼女からは、目を離すと消えてしまいそうな儚さを感じていた。

 

 そして、それは現実となった。

 

 

 高校生になった今。

 俺はもう……彼女の名前も、姿も明確には思い出せない。

 

 記憶喪失になった訳でもない。

 まるで、彼女と過ごした記憶だけが、スッポリとくり抜かれているような部分的な記憶障害。

 人生で一番幸せだった筈の記憶は、空虚なものへと成り下がってしまった。

 

 

『大丈夫だよ……私がついてるから!』

 

 

 その夢の中でいつも、その一言だけを俺の心に刻みつけて……少女は何処かへと消えてしまう。

 

 

 目を開いた。

 

 

 見覚えしかない自室の天井を眺めながら、高校生となった少年は呟いた。

 

 

 

「…………嘘つき」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

雛菊(ひなぎく)蒼華(そうか)さん、ようこそ死後の世界へ。あなたはつい先ほど、不幸にも亡くなりました。短い人生でしたが、あなたの生は終わってしまったのです」

 

 目の前には清楚、そして神々しさを感じさせる一人の女性の姿があった。

 透き通る白銀の髪。

 瞳は深い青色で、その表情は慈愛に溢れている。

 白い羽衣に身を包んだ彼女の姿は、正に女神そのものであるかのような美しさだった。

 

 

 しかし、その三十秒後には……

 

 

 

「……なんかもう、本当に……これまで、脆弱な幸運の女神で申し訳ありませんでした!」

「ちょっと、待って。土下座はやめて!?」

 

 こちらへと綺麗な土下座をかます彼女の姿が見られることになる。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 軽く自己紹介がてら、俺とこの女神様との関係について整理していこうと思う。

 

 幸運の女神エリス……俺の目の前にいる女性のことなのだが、彼女はかなり前から俺のことを一方的に知っていたらしい。

 

 なんでも"先輩"とやらに

 

『ものすっっごい運が悪い……というか、もう生きてることが不思議なぐらい、幸運値がドン底な人間がいるんですけど……え、ちょっと、本当にどうして生きてるの、この子。流石に、不憫すぎるんですけど……ねぇ、エリス。どうにかしてあげれないかしら?』

 

 と、俺がぼっち小学生時代を過ごしている際に、紹介されていたらしい。

 俺の私生活が少なくとも女神二人に見られてたとか恥ずかしいんだけど……変なことはしてないよな……多分。

 

 話を戻そう。

 さらに大事なことは、もう一つ。

 

 悲しきかな……幼い時から既に、そんな幸運値だったにも関わらず、俺の不運度は年々上昇していったのだ。

 

 流石に見かねたエリス様が、幸運の女神としての権能を振るうも……その加護すら意に介さずに、不運は猛威を振るい続けた。

 

 ……方法は教えてくれなかったが、エリス様は俺の中学生時代までは、幸運値の低下に抗ってくれていたのだと。

 今思うと、中学時代では、かなりの頻度で死にそうな目には遭っていたが、実際に怪我をした回数は少なかった気がする。

 

 しかし、高校生になるころには抵抗も無意味な程に、幸運値は低下してしまったらしい。

 

 ……幸運の神(エリス)様が対処できない不運()って、なんなんだろ……バグかな?

 

 まぁ、そんな具合だ。

 

 歩いているだけで、ゲリラ豪雨に鳥の糞、植木鉢に蜂の巣など……様々な落下物に遭遇する。

 最終的に危機感知能力が高まって、落下物は避けれるようになったのだが……常にそんな状況下にある俺に、一緒に過ごしてくれる友達なんて、アイツを除くと一人もできなかった。

 

 

 高校生になり、交通事故とかガス爆発とか割と本気で生命の危機を感じるようになってからは、引きこもりになった。

 

 鋏なんて凶器には、近寄らないようにしていたため、ここ一年程は散髪すらできていない。

 服装も黒ジャージ姿であるので、見た目も立派な引きこもりだ。

 

 引きこもりといっても、俺が繊細な電子機器に触れると驚異的な速度で壊れていくので、暇を潰せるのは本だけだった。

 もし、ケータイを使えたとしても、ソシャゲとかいうゲームには、運要素が盛り沢山らしいから、俺には向いてない。

 

 そうして、静かに慎ましやかに生活すること一年程。

 

 もはや、何が原因で怪我をするのかわからない、というまでに幸運値が低下していった俺の生活は殆ど人間として終わっていたのだと思う。

 

 飯を食う。

 寝る。

 本を読む。 

 体力維持のための筋トレをする。

 

 基本これしかやることはない。

 無駄な事をやれば、怪我をするのだ。

 

 時折、家族とも話をしたが、年齢が大人に近付くにつれて、周りを傷つけることが怖くなってきたため、共にいる時間は極力減らすことにしていた。

 

 これが俺の辿ってきた十七年間の軌跡である。

 

 …………我ながら、こんな生活でよく心が壊れなかったと思う。

 

 

 簡単な近況報告と、俺とエリス様の関係についての説明はこれで終わり。

 

 エリス様が謝ってきた理由は、俺の不幸体質に対処できなかったからだろう。

 それが理解でき、スッキリしたところで、俺は自分の死因を聞いてみることにした。

 

 実を言うと、俺は本の買い足しなどで、一月に一回ぐらいのペースだが、細心の注意を払い、外出をしていた。

 そして、今日がその日だったことも確かだ。

 

 しかし、死ぬような出来事に遭遇した覚えは、なかったのである。

 交通事故が怖いので、バスや電車は使用せずに徒歩で移動した。

 さらに、ガソリンスタンドも、交差点もなるべく近づかないように気を使った。

 通り魔に遭遇しないように、警戒状態をずっと保ち続けたりもしていた。

 

 慎重に行動し続けた俺に、死角はない筈だったのだ。

 

 直近の記憶もある。

 

 公園近くを通る際、飛来してきた野球ボールを躱し、続け様に突っ込んできた無人の自転車を回避した。

 そして、自らの鮮やかな回避に調子を良くして、フッとドヤ顔を決めた。

 

 ここまで覚えているのだ。

 いや、最後のは忘れたいけど……というか、無人のチャリが突っ込んでくるって何なんだよ……ペットじゃないんだから管理しろ、管理。

 

 遠い目をしかけてから、頭を左右に振って現実へと目を向ける。

 考えても思い出せそうにないので、直球で聞いてみることにした。

 

「あの……俺の死因って?」

 

 俺の言葉に、悲しそうな顔を浮かべたエリス様は答えるのだった。

 

「…………落雷です」

「そりゃ、無理だよ女神様」

 

 誰が晴天で落雷に注意すんだよ。

 注意してても死ぬわ、バカ。

 

 

◇◆◇

 

 

 

「え、ええと……その、本題に入りますね?」

「……はい」

 

 私は、死因を聞いて呆然としている蒼華さんへと遠慮がちに声をかけた。

 落雷かぁ、落雷なぁ……なんて呟き続けている彼の姿を見ていると心が痛む。

 

「……その、若くして亡くなってしまった方々には、これから先どうするのか、三つの選択肢があるんです」

 

 その言葉を聞いた彼は、キョトンとした表情を浮かべた後、顔を青ざめさせた。

 大方、地獄に叩き落とされる想像でもしたのではないだろうか?

 

「大丈夫ですよ、貴方に地獄行きの選択肢はありませんから」

「……ま、まぁ、分かってましたけど」

「本当ですかね?」

「うぐ……」

 

 コロコロと表情を変える彼の様子に、つい頬が緩んでしまう。

 少し弄ってみたくなるのだが、今は仕事中……公私混同は少しだけにして、真面目に働こう。

 

「それで、選択肢なのですが……まず、一つ目は人間として生まれ変わり、新たな人生を歩む、というものです。二つ目は天国……のような場所で暮らす、というものなんですが」

 

「じゃあ、天国で」

 

「最後まで話を聞いてくださいよ!」

 

 話の途中に即答した彼に、ツッコミを入れてしまう。

 土下座した時点で女神の威厳など吹き飛んでいるわけだが、ここまでペースを崩される相手は初めてかもしれかった。

 

「……コホン。そして、最後の一つですけど……異世界に神様転生って言えば、伝わりますかね?」

 

 少し砕けた言い方になったが、このくらいは別にいいだろう。

 普段はマニュアル通りに丁寧に対応しているのだが、今回の相手だけは例外である。

 

「……まあ、分かりますけど。異世界チート無双系のラノベも幾つか見たこと有りますし」

 

 笑顔を向けてそう尋ねると、彼は若干照れたように、目を逸らしてそう答えた。

 ()()()()()、反応が可愛いので更に弄りたくなってしまうのだが、恐らく私の頬も赤に染まっているので、深追いできない。

 

「その三つの中から、選んでもらいたいのですが」

「天国一択で」

「年頃の男の子的に、その即決はどうなんでしょうか……」

 

 もっと異世界に、胸を躍らせてもいいと思いますけど……結構な数のラノベを読んでるの知ってますからね?

 

「その……あまり大声では言えないのですけど、天国というのは聞こえは良くても、実はかなり暇な所なんですよ。体もなく、娯楽もないので、長い時間を他の方々との世間話だけで過ごすことになるのですが」

 

「……平和に世間話をするとか……俺にとっては、憧れの一つなんですが」

 

「うぐ……で、でもですね。その……」

 

 段々と、話の流れが想定外の方へと向かい始めた。 

 どうしましょうか……できたら、三つ目の選択肢を選んで欲しいのですけど。

 女神的にも、個人的にも。

 

 私がどうしたものか、と唸っていると彼はジト目でこちらを向き、聞いてきた。

 

「なんか……三つ目の選択肢を選んで欲しそうな雰囲気出てますよ」

「…………否定しません」

「……はぁ。とりあえず、話は聞きますよ」

 

 空気が読める子で助かります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気を取り直して、エリス様に異世界転生についての詳細を、説明してもらう。

 

 魔王軍との争いが起きていること。

 異世界で亡くなった人の大多数が生まれ変わりを拒絶するので、人口減少が進んでいること。

 転生した人々には、各々が一つずつ持ちこんだ転生特典を使って、魔王討伐に勤しんでもらっていること。

 魔王討伐の暁には、なんでも(神様が可能な範囲で)好きな願いを叶えてもらえる、ということ。

 

 ……なんか、一つ別ベクトルの問題が混ざってたな。

 

 とにかく、女神的には転生して魔王を倒して貰いたいらしい。

 事情は理解した。

 俺だって男だ。

 異世界や魔法なんかに興味がないわけではない、一つの問題が解消されるならその提案を受けてもいいかな、とは思っていたのだ。

 

「……で、チートを使って、俺の不運は治りますか?」

「………………」

「おいこら幸運の女神、目を逸らすな」

 

 ついタメ口になるレベルの目逸らしだった。

 いや、予想はしていたけどね。

 専門家が全力を尽くして対処できなかった不運体質が、チートの一つや二つでどうにかなるとは思えなかったのである。

 

 一応受け取ったチートのカタログ冊子をペラペラとめくりながらエリス様へ、ジト目を向け続ける。

 

「……じょ、冗談ですよ。日本とは違って、こっちの世界は私の管理下ですし!この世界なら、ある程度は抵抗できますとも!……多分……きっと」

 

 エリス様は、自慢の胸の前で気合を入れるように両手をグーにして、こちらへと言い返してきた。

 なんか、自分自身に言い聞かせてませんか?

 後半も聞こえてるからな。

 

 やっぱり、天国で……そう俺が口にしようとした瞬間だった。

 エリス様が、武力行使(精神的)に出た。

 

「……だめ、ですかね?」

「……はぁ。わかった、わかりましたよ。降参です」

 

 その表情はズルいと思います。

 美少女に両手を胸の前で組み、涙目で首を傾げて頼まれる……これ、男性で断れる奴は性癖が捻じ曲がった奴らだけだろ。

 

「……ありがとうございます♪」

 

 俺の返事を聞いたら、一瞬で笑顔になってるし……嵌められたなぁ。

 だが、この笑顔を見てしまうと、やっぱりやめる、なんてことを言い出せるわけがなかった。

 エリス様、策士すぎる。

 

「それじゃ……転生特典は、エリス様に出来る範囲での、幸運値に関する全力サポートってことで、お願いします」

 

「はい、もちろんです!」

 

 俺が異世界行きを決めたことが、そんなに嬉しかったのか、にやけが抑えられていないエリス様は、俺の足元へ上機嫌に魔法陣を組んでいく。

 鼻歌まで歌っちゃって……可愛いかよ。

 

「それでは、雛菊蒼華さん。あなたをこれから、異世界へと送ります………少ししたら、追いかけるので、また後で!」

「……ん?」

 

 なんか、この子変なこと言わなかった?

 

 言葉の真意を問いただそうと、口を開く……その直前に、全身を眩い光が包み込んだ。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 彼を異世界へと飛ばした後、私は深く息を吐いた。

 

「……久しぶり、だったなぁ。緊張した〜」

 

 ポツリと溢れたその言葉は、誰もいない空間へと吸い込まれていく。

 

 

 少し休んでから、天界へと仕事の代理を立てて貰うための連絡を入れることにした。

 彼の転生特典……全力の幸運バフを与えるには、私が彼と同じ場所にいなくてはいけない。

 そう、これは仕方のないことなのだ。

 きっと彼ならこう答えるだろう、なんて予想はついていたけど……それはそれだ。

 

 ……先輩だって、特典の事情で向こうで暮らしているのだから、問題はない筈だ。

 

「……ふふっ……これからは、向こうで過ごすのも合法だね」

 

 つい、向こうの口調でそう呟いた後……一言だけ、自分自身に誓いを立てるように言うのだった。

 

 

「……次の人生こそ、普通に楽しんでもらわないと!」

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 私に代わって仕事を行うためにやって来た一人の天使が、こちらをなんとも言えない表情で、見ていることに気づく。

 

「あの、エリス様……申し上げにくいことなのですが、今よろしいでしょうか?」

 

「……なんでしょうか?何かマニュアルに問題でも」

 

 クリスの姿になっていた私を見て、天使は少し驚いていたが、気を取り直してその話の続きを伝えてくる。

 

「天界からのメッセージなのですが……先程、お見送りになった雛菊蒼華さんが……その……」

 

「彼に何か問題でも!?」

 

 彼の名前が出たことで、勢いよく飛びついてしまった。

 情報を伝えるか迷うような様子を見せた後、天使は告げたのだった。

 

「彼、言語能力付与の影響で、()()()()()()()()()()()

「……あの子の幸運値の低さを舐めてましたよ!!!」

 

 天使の言葉を聞いた瞬間、天界でもお淑やか、謙虚、真面目……などと評判の幸運の女神様は、全速力で下界へと飛び出していった。

 




アクアが下界で過ごしていることを、この段階でエリスが知っていたのは完全にご都合主義。
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