霊感少年の幽雅な生活 (完)   作:ケツアゴ

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旧校舎のディアボロス
プロローグ


ねぇ、幽霊って信じる? 実はこの世界には悪魔や天使が実在していて、幽霊も本当に居るんだ。もちろん普通の人には見えないし声も聞こえないから居ないのと変わらないけど、もし貴方が幽霊に会ったらどうする?

 

怖いから逃げ出す? 話しかけて友達になってみる? うん、それも良いかもしれないね。でも、彼は違った。彼には幼い頃から幽霊が見えるだけじゃなくて、幽霊を従える力と赤い龍の魂がその身に宿っていたんだ。

 

これは本来のスケベで熱血漢の赤龍帝・兵藤一誠の話ではなく、少し残酷で冷めた性格の霊使い兼赤龍帝の兵藤一誠の物語……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい天気だね。君達もそう思うでしょ?」

 

人気のない雑木林の中、その少年はうす暗く曇った空を見上げながら虚空に話しかける。年の頃は小学校に入り前といった所だろうか? 彼の名前は兵藤一誠、一誠が向かっているのはすっかり寂れきって人が寄り付かなくなったお堂。お化けが出ると噂の其処には誰も近づかず、少年のお気に入りの場所であった。手に提げた袋にはお気に入りの漫画とお菓子と飲み物。お堂の前に座って本を読むのが彼の日課なのだ。少年は鼻歌を歌いながら一人で歩いて行く。

 

 

……もし、彼の通った道を他の人が見たら悲鳴を上げただろう。昨日降った雨のせいで少々ぬかるんだ道には、彼の後に続く無数の足跡が残されていたのだから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「追い詰めたぞ! はぐれ悪魔めっ!」

 

「……くっ」

 

一誠のお気に入りの場所では一人の女性が男達に追い詰められていた。女性は黒い着物を着崩しており豊満な体つきをしている。その体には所々に傷が有り彼女は見るからに疲弊していた。対する男達は手に武器を持っており、女性に向けて殺気と共に好色な視線を送っている。

 

「さぁて、殺す前に楽しませて貰うとするか」

 

「隊長、殺すのはちゃんと全員で楽しんでからですよ?」

 

「クズがっ!」

 

にじり寄ってくる男達を女性は睨むが男達は気にせずに寄ってくる。そして隊長と呼ばれた男が剣を振り下ろすと着物が切れ、白い肌があらわになった。

 

「(くそっ! 疲れてなきゃこんな奴らなんかに負けないのに……)」

 

女性は目をギュッと閉じて悔し涙を流す。そして男達の手が彼女に伸びていった時、急に猛烈な寒気が全員を襲った。しかし、それにも関わらず彼女達の体からは冷や汗が流れ落ちる。そして言い表しようの無い不安と恐怖が襲って来ると共に足音が聞こえてきた。

 

「な、なんだ!? ……人間の……餓鬼? なっ!」

 

「な、何だよ、あの悪霊の数は!?」

 

近づいて来た一誠の姿を見た男達は一誠の背後で蠢く者達に驚愕する。巨大な骸骨、人型の靄、巨大な鋏を持ち上半身だけで浮かんでいる幽霊。どれもこれも大勢の人を取り殺せる力を持つ……悪霊だ。普通なら彼らの放つ気に当てられて気が狂う所だが、一誠はその様な存在が大勢後ろにいるにも関わらず平然としてている。その姿はまるで百鬼夜行を従える王。一誠は男達と女性をチラリと見ると直ぐに視線を外して横を通り抜けようとする。すると、男達の内の一人がその背中に向けて斬りかかった。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「ば、馬鹿っ! よせぇぇぇぇぇっ!!」

 

その瞳は悪霊達から発せられる気によって錯乱しており、隊長が止めようとするにも関わらず男は止まらない。そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギャァァァァァァァ!!」

 

一誠の後ろに居た悪霊達が男に群がってその体を覆い尽くす。辺りに男の叫びとボリボリと硬いものを噛み砕く音が響き、悪霊達がその場から離れた時には男の姿は消え去っていた。一誠はそれを興味なさそうに見ると男達の方を向く。

 

「……オジさん達も僕を殺そうとするの?」

 

その瞳は黒く濁っていた。男達はその目に驚き、背後の悪霊達に目をやる。全ての目が彼らに向けられており今にも襲いかかろうとしていた。

 

「い、いや。……お前ら、ここは退くぞ」

 

「へ? た、隊長!? 黒歌を殺すチャンスなのですよ!?」

 

「……見て分からんのか。此処で退かねば全滅だぞ」

 

隊長はそう言うなり背を向けてその場を離れようとする。部下達も其の後について行き、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一斉に襲いかかって来た悪霊に食い殺された。男達を食べ終えた悪霊は女性の方を向くが興味を失ったかのように顔を背け、そのまま溶けるように消えていった。一誠はそのまま女性の方に向き直り近づいていく。

 

 

「そこ退いて。僕のお気に入りの場所なんだ」

 

「……私を殺さないの?」

 

一誠に言われた通りにその場を離れながら女性は尋ねる。すると一誠はその場に座り込んで漫画を開きながら答えた。

 

「別に殺す理由無いし。あいつらの言うにはお姉さんは不味そうだから食べたくないって」

 

「ま、不味そうって……。まぁ、助かったのかしら? 私は黒歌。坊やの名前は?」

 

「一誠。兵藤一誠だよ。なんで襲われてたの?」

 

それは彼女に黒歌に興味を持ったからと言うよりも何となく聞いてみたといった感じの質問の仕方。黒歌は溜息をつくと口を開いた。

 

「実は……」

 

「あっ、長くなりそうだからやっぱり良いや」

 

「……うわ~。人の話はちゃんと聞きなさいって教わらなかった?」

 

「教わったよ? でも、お姉さんって人じゃないじゃん」

 

一誠がそう言って漫画に目を戻した時、黒歌の腹が鳴る。それを聞いた一誠はそっとお菓子を差し出した。

 

「……食べる?」

 

「……ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふ~ん、大変だったんだね」

 

あの後、一誠は黒歌から話を聞かされ適当な相槌を打つ。どうやら他人事だと思って大して興味がわかなかったようだ。漫画も読み終わりお菓子も無くなった一誠はその場から歩き出した。

 

「お姉さん、ついて来て。いい隠れ場所を教えてあげる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一誠が黒歌を連れてやって来たのは小学校……の今は使われなくなった旧校舎。人目を盗んで入り込んだ一誠と黒猫の姿になった黒歌はその裏手に来ている。黒歌はそこで自分達を見つめる見えない誰かの視線に気付く。だが、一誠は特に気にした様子もなく鍵の壊れた窓から中に入り、廊下を進んでいく。そして校長室に入った時、それらは現れた。赤いコートを身に纏いマスクをつけた女性。人の顔をした犬。そして宙に浮かぶ西洋人形。急に現れた化け物達は一斉に二人を見た。

 

 

「あら、また来たのね」

 

「こんにちわ、メリーさん」

 

感情の篭らない声で話しかけてきた西洋人形……メリーに向かって一誠は親しげに話しかける。するとメリーは無機質な瞳をギョロリと動かし黒歌を見た。

 

「また連れてきたのね。此処の事は説明した?」

 

「あっ、忘れてた」

 

一誠がウッカリしていたといった感じの顔をすると、マスクをした女性が近づいてきて黒歌の頭を撫でる。

 

「この坊やが此処に連れて来るって事は訳ありなんだろ? 安心しな。ここは外界とは遮断されているからさ。誰にも見つかりっこないよ。まぁ、少し埃っぽいけどね。……っと、名乗りが遅れたね。私の名は……口裂け女さ」

 

そう言ってマスクを外したその下には耳まで裂けた口があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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