霊感少年の幽雅な生活 (完)   作:ケツアゴ

100 / 123
これで通算百話 あ、地蔵菩薩newさんとのコラボが決定しました。今の所アチラ様が書いてくださる予定です。私は私でエクストラ編をしようかと マユリの発明の効果で分身を異世界に送り、ありす(同じく送られた霊感の)をマスターにイレギュラークラスで召喚された一誠を書こうかと。ラスボスは勿論……ふふふふふ


九十一話

雪が深々と降る田舎の温泉宿に一台の送迎バスが到着した。バスの塗装は既に禿げており、宿周辺にはろくに店が無いが、ノンビリと過ごしたい人達には丁度良いだろう。そしてバスの扉が開くと一人の少女が中から飛び出した。

 

「雪だぁ! 雪よ、わたし(アリス)! 三人とも早く早くぅ!」

 

「ほらほら、転ぶわよあたし(ありす)。オジさんとオバさん達も早く行きましょ」

 

ありすとアリスは目的の宿目掛けて走って行き、一誠の父母は荷物片手に二人の後を追っていった。

 

「なんだか一足早く孫が出来たみたいだね、母さん」

 

「そうねぇ。ところであの子達だけ残して来たけど、本当の孫の顔は何時見れるのかしら?」

 

四人がたどり着いたのは老舗の温泉宿。江戸時代から細々と営業している温泉宿で、外観もかなり古めかしい。扉を開けて中に入ると女将らしき女性が頭を下げてきた。

 

「いらっしゃいませ、ご予約の兵藤様ですね? 当旅館の女将で御座います」

 

「ええ、そうです」

 

「それでは離れにご案内いたします」

 

一誠が用意したのは離れの一室。景色も最高で露天風呂にも近い部屋だが、誰も借りたがらない理由があった。ここ数年、離れに泊まった客は心霊現象を体験していた。旅館もお祓いを頼んだりするものの効果はなく、封鎖しようとすると本館まで影響が出るので、仕方なく格安で貸し出しているのだ。

 

 

 

「……見た? 今回のお客さん、子供連れよ」

 

「あ~あ、可哀想に。噂を知らないのね」

 

「女将さんも泊まるお客を選べば良いのに。……まぁ、一定周期でお客を泊まらせないと此方まで影響が出るから仕方ないけど」

 

従業員達は四人に同情するような視線を送りつつも、自分の身に災いが降りかからないように何も言わず仕事に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

「あ~! こんな所に御札が貼ってある~!」

 

女将が逃げるように去るなり、ありすは持ち前の好奇心を発揮させて離れに飾ってあった掛け軸の後ろの御札を発見し、ベタベタ触りだす。すると一誠の母がありすの体を抱き抱えた。

 

「ほらほら、駄目よ。ありすちゃん達も幽霊なんでしょ?」

 

「は~い! でも、この御札効かないよ? 何の力も篭ってないもん」

 

一誠の母に抱えられたありすは足をバタバタさせながら御札を指さす。そもそも何故この二人が両親と一緒に居るのか、それは数日前まで遡る。

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、護衛はどんな奴が良い?」

 

「そうねぇ。あまり見た目が怖いのは嫌だわ。怖くて落ち着かないもの」

 

一誠が母と旅行の打ち合わせをしていた時の事、突如ドタバタと足音を立てながらありす達が部屋に入って来た。

 

「お兄ちゃ~ん! クレヨンが無くなったから、新しいの買って~」

 

「お絵描きしてたら全部使っちゃったわ。新しいの買ってくれる?」

 

ありすは元気一杯に飛び付き、アリスは落ち着いた様子で一誠の袖を引っ張る。そして二人を見る母の目は輝いていた。

 

「あらあら、可愛い子達ね。この子達に護衛としての力があれば頼みたいくらいだわ」

 

「あるよ? 殴り合いとかは出来ないけど魔法は強いし、怪物とか創り出せるし護衛としての能力はあるよ。あ~、でもノンビリしたいなら子供の世話は出来ないよね?」

 

「ねぇ、二人共。温泉旅行に行きたくない?」

 

「行きたい!」

 

あたし(ありす)が行くならあたしも行くわ」

 

「……あの~、母さん?」

 

母は息子(一誠)との話より可愛い女の子(ありす達)に夢中になり、そのまま二人が護衛を引き受ける事なった。なお、父は事後承諾で聞かされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こういう御札は霊力のある人が書かないといけないって玉藻(オバ様)が言ってたわ。だから今まで悪霊が好き放題してたのよ」

 

「わたしも聞いたよ! 此処に住んでた質の悪いのは、人にチョッカイ出すのが好きだけど、長い間此処から離れられないから本館にはあまり行かなかったんだって。お兄ちゃんは地震か何かで霊道に穴が空いたから出て来たって言ってたよ!」

 

アリスは淡々と述べ、ありすは自分の事のように胸を張り自慢げに話す。その可愛らしい姿に二人に顔には笑顔が浮かぶ。一誠は幼い頃は落ち着いた子だったので、元気いっぱいな孫が出来たらこの様な感じなのだろうか、と二人は思っていた。

 

「霊道って霊の通る道だろう? 穴が空いてるって危なくないのかい?」

 

「危ないよ? でも、お兄ちゃんが塞いだわ。質の悪いのも退治したし。後は無害な霊だけよ。ほら、あの桜の下に女の人が居るでしょ? お気に入りの桜の下にいる時に殺された人らしいわ」

 

「……え?」

 

アリスが指さした中庭の桜の木の下には着物を着た女性が立っており、ジッとあらぬ方向を見ている。そしてその体は浮いていた。

 

「何でも江戸時代に神器が発動して、化物扱いされた末に殺されちゃったんですって。無害だし、もうすぐ寿命が尽きる桜と一緒に居たいって言ったからお兄ちゃんは放っておいたらしいわ。全く、お兄ちゃんの部下にも『神器被害者の会』を結成しているのがいるし、天界って本当に迷惑ね」

 

「ま、まぁ、あの子が無害だと判断したなら大丈夫だろう。……それに美人だし目の保養にも」

 

「……アナタ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……違う! 違う違う違う違うチガウチガウチガウチガウチガウチガウ!」

 

「わ~お。図星刺されて錯乱してるよ」

 

一誠に自分の恋を中途半端だと指摘された八重垣は狂ったように叫びだす。駄々っ子のようにその場で足を踏み鳴らし地面を蹴り続けるその姿からは正気が感じられず、その手には何時の間にか禍々しいオーラを放つ剣が握られていた。

 

「あっ! あの剣はっ!」

 

「何っ!? 知っているのか雷で……やめとこう。あの腐れ天照の部下の雷神の名前だ」

 

「しかも、あの剣は腐れ天照の所の天叢雲の剣ですよ。けっ! とことん迷惑かけてくれやがりますねぇ」

 

二人は同時にその場から跳ぶ。次の瞬間には剣から伸びた八匹の蛇が地中から飛び出していた。その蛇からは呪詛が流れ出している。それを見た玉藻の顔が引きつる。

 

「げげっ! 八岐大蛇ぃ!? 気を付けて下さい、ご主人様! アレに触れたら呪われますよ!」

 

「……うわ~。あれで復讐してるんでしょ? 恋人の為に信仰は捨てれないのに、自分の為にする復讐にの為には信仰に反する魔剣や邪龍の力を使えるんだ。やっぱり君の想いはその程度だったんだね。断言しよう。君はクレーリア・ベリアルに恋したんじゃない。初心な聖職者が恋に恋していただけ。その対象がたまたま悪魔だったんだから同情に値するよ」

 

「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇぇぇぇぇっ!!」

 

一誠は馬鹿にしたような笑みを浮かべながら八重垣を指さし、八重垣は激しく怒り狂う。その怒りに反応するように八岐大蛇は激しく動き一誠に襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!」

 

「うん。やっぱりこの手は有効だね♪」

 

そして、一誠に牙が迫ったその瞬間、八重垣は八岐大蛇を剣に戻す。一誠の前には一人の女性悪魔が立っていた。

 

「ク、クレーリア!?」

 

「そう。彼女こそ君が恋していたと思っていた相手であるクレーリアさん。まぁ、魂すらボロボロだったのを何とか今の状態にまで戻したんだ。今は意識は朧気だけど……俺なら簡単に戻せるよ」

 

「……条件はなんだい?」

 

八重垣は天叢雲のオーラを鎮め、警戒した目で一誠を見ている。それに対し一誠は笑顔で右手を前に差し出した。

 

天叢雲(それ)、頂戴♪」

 

「……分かった。だが、絶対に約束してくれ。彼女の精神を元に戻した上で彼女を俺に渡してくれると」

 

「随分警戒してるんだね。俺がそんなに信用できない?」

 

一誠は心外とでも言いたそうな顔をしているが、八重垣はフンッと鼻を鳴らす。

 

「今までの君の行動を振り返ってみろ」

 

一誠は腕を組み、首を傾げて自分の行いを思い出す。

 

「……あれ? 信用されない要素が何処にもないぞ? ねぇ、玉藻。俺って清廉潔白だよね?」

 

「いや、それは無理がありますよ、ご主人様」

 

「だよね~♪」

 

呆れ顔の玉藻に巫山戯た態度の一誠。そのやり取りを八重垣はジッと見ていた。

 

「早くしてくれないかい?」

 

「あ~、めんごめんご。ほら、復✩活!」

 

「正…臣……?」

 

「クレーリアァァァァ!」

 

一誠が手を振るとクレーリアの瞳に理性が宿り八重垣の名を呼ぶ。八重垣は思わず駆け出そうとするが、一誠が手を突き出してその動きを止めた。

 

「じゃあ、さっさと頂戴。あ、安心して? 渡した後で俺や玉藻が君を攻撃したりしないから」

 

「……そうだな。ほらっ!」

 

八重垣は天叢雲を一誠に手渡し、クレーリアを抱きしめる。その時、八重垣の口角が僅かに吊り上げったのを玉藻は見逃さなかった。

 

「ご主人様っ!」

 

玉藻は咄嗟に叫ぶも時すでに遅し。刀身から現れた八岐大蛇の首が一誠に襲い掛かる。それを見た八重垣の高笑いが響き渡った。

 

 

 

 

 

 

「あ~っはっはっはっはっはっ! 僕とクレーリアの愛を侮辱するからだ! ごふっ!? クレー…リア…?」

 

そしてクレーリアの手刀が八重垣の腹を貫く。八重垣は困惑しながらクレーリアの姿を見て固まる。そこにいたのはクレーリアではなく一誠だった。

 

「や~っぱり罠だったか。てか、気付かないとでも思ったの? あ、ご苦労様、バイパー」

 

「まぁ、報酬を貰うからには仕事はこなすよ、ボス」

 

何時の間にか一誠の背後には幻術士であるバイパーが立っており、八岐大蛇はクレーリアに襲いかかっていた。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 痛い痛い痛いぃぃぃぃぃっ!!」

 

「あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「さて、愛する恋人の魂を邪龍の呪いで穢した気分はどう? ねぇねぇ、今どんな気持ち?」

 

「流石ご主人様。まじブレねぇ……でも、そんな貴方が大好きです♥」

 

「俺も君が大好きだよ。さて、彼を殺して……あ、既に死んでるか。じゃあ、魂を消滅させて……ッ!」

 

一誠は咄嗟に玉藻を抱えてその場から飛び去る。次の瞬間には小さな影が高速で動き、天叢雲と八重垣を抱えていた。

 

「リゼヴィムの頼み。邪魔するなら殺す」

 

「あ~、はいはい、この公園はお気に入りだから壊したくないし、今は戦わないよ。でも、次は相手してあげるね♪」

 

其処に居たのはオーフィスの蛇から作り出されたもう一体にウロボロス、リリスだ。流石に今彼女と戦う気はないのか一誠は肩を竦めて不戦の意思を示し、リリスはそのまま消えていった。

 

「……帰ろっか。折角のデートが散々になったね」

 

「いえいえ、中々楽しかったですよ? 私はどの様な場所で、どの様な状況でも、ご主人様と一緒なら幸せですから♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……僕が傍に居るのにイチャつかないでよ、ボス」




意見 感想 誤字指摘お待ちしています

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。