霊感少年の幽雅な生活 (完)   作:ケツアゴ

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幼少期のゴーストテイマー
閑話 死者を受け入れた日


 ”僕”が”彼ら”と初めて出会ったのが何時だったかは覚えていない。だってそうでしょ? 犬や猫に初めて出会ったのが何時だったか覚えている人なんて多分居ないからね。僕にとって彼らは其のくらい居て当然の存在だったんだ。

 

 

 

「ねぇ、イッセー君。其処に誰も居ないよ?」

 

誂うと面白……仲の良い友達のイリナちゃんはそう言うけど、僕には確かにお兄さんの姿が見えた。このお兄さんは二日前に交通事故で死んだらしく、頭から血を流している。僕の視線に気付くと驚いた後で嬉しそうな顔で何か言っている。そう、僕には幽霊の姿が見えたんだ。でも、僕には姿は見えても声を聞いてあげる事は出来ない……。

 

「……ゴメンね」

 

「? 変なイッセー君」

 

これ以上此処に居るのも辛いし、早く立ち去ろう。だって、あの人の顔があまりにも悲しそうだったから。

 

「お兄ちゃん、まだ此処に居るのかなぁ」

 

「大丈夫よ。あの子はきっと成仏してる」

 

「……うん。きっとそうよね」

 

多分、あの人の家族だったんだろうオバさんとお姉さんは其処に居るお兄さんの目の前で居る事を否定する。お兄さんは必死に叫んで触ろうとするけど出来ず、また悲しそうな顔になった。

 

「イッセー君? さっきからどうしたの?」

 

「……何でもないよ。ただ、何でイリナちゃんは両足で犬の糞を踏んでいるのかなって思ってただけ」

 

「嘘っ!?」

 

「うん。嘘」

 

やっぱりイリナちゃん(この子)は面白いな。こういうのをリアクション芸って言うんだろうかな? ……僕は生きてる人があまり好きじゃない。彼ら(幽霊)は確かに存在して、意思もちゃんとあるのに生きてる人はそれを否定する。確かに見えないから仕方はないんだろうけど、理性と感情は別だ。だけと、両親とイリナちゃんは別。生きてるし見えないけど何故か嫌いになれないには何でだろう? 僕はそんな事を考えながらイリナちゃんと別れ、家に帰る。すると足音を立てずに駆け寄ってくる小さな影があった。

 

『キュン!』

 

「……ただいま、タマモ」

 

僕は決して触れないタマモの頭の辺りで手を動かす。とっても可愛く大切なペット(家族)だったタマモ。生まれて間もない子狐の時にウチに来て、僕の不注意で死なせてしまった時はずっと泣いていた。でも、庭に作ったお墓の傍で幽霊になったタマモを見つけ、今もこうして一緒に居る。……声が聞こえるのはなんでだろう?

 

「一誠。旅行の準備は出来たのー?」

 

「うん。もう終わってるよ、お母さん」

 

僕は昨日のウチに旅行の準備を済ませた。っと言っても着替えはお母さん達が入れてくれたし、邪魔にならない程度の玩具とお菓子を入れただけだけど。そうだ、タマモも連れて行こう。二人には見えないし逸れない様にしないとな。

 

 

そしてこの時の判断が僕の人生を大きく変える事になった……。

 

 

 

「一誠は寝てるようね。……タマモが死んでから落ち込んでいたけど立ち直って良かったわ」

 

旅行先に向かうバスの中、僕は後部座席でウトウトしていた。隣にはタマモが座っていて必死に僕にじゃれつこうとしてるけどすり抜ける。少し悲しそうな声で鳴く所も可愛いな。そうこうしている内に最初の目的地が見えてきた。

 

宿泊先は僕が福引きで当てた栃木県那須の温泉宿へのツアー。そして『九尾の狐ツアー』とかいうツアーで九尾の狐が討伐されたと伝わる那須野原に行くんだ。タマモの事があるから僕を気遣って渋った二人だけど、僕も前々から興味があったから行きたいって二人を説得した。バスが目的地に着くとお母さんは僕を揺り起こし、タマモは僕の後ろからピッタリ付いて来ていた。

 

 

そして少し歩いた先で僕は”彼女”に出会った。

 

「私、トイレに行ってくるわね」

 

「俺もだ。一誠、少し待ってなさい」

 

二人は僕を置いてトイレへと向かっていく。僕は自分でも手が掛からない子供だって自覚があるけど、二人が僕を置いていくなんて有り得ない。ほかの人たちも次々に離れていき、残されたのは僕だけだった。

 

 

「君の仕業?」

 

そう。誰かに術でも掛けられていなければ。僕とタマモの目の前には黒い靄の様な姿の幽霊が居た。何時も目にするような死んだだけの人達とは違い、一目でヤバイと気付く。……多分、逃げられないや。

 

「……貴方には私が見えるのですね。でも、眠ってる力を完全に引き出していない様です」

 

黒い靄は優しそうで…少し悲しそうなお姉さんの声で話し掛けてくる。その姿をよく見ると頭に狐の耳、お尻の辺りに九本の狐の尻尾があるように見えるけど、この人がバスガイドさんが話してくれた『玉藻の前』なのかな?

 

「ええ、そうですよ。と言っても私は残りカスの怨霊。本体が戒めの為に残したに過ぎません。……でも、もう一人は嫌になりました」

 

どうやら僕の心を読んだらしい玉藻の前さんはタマモの方をジッと見る。思わず僕が庇う様に前に出るとクスクスと笑いだした。

 

「大丈夫。その子に害は成しません。……ただ、その子の願いを叶えるだけです。貴方と一緒に過ごし、前のように撫でて欲しい。ただそれだけの、単純で尊い願い。幽霊のその子を守ろうとする貴方なら、きっと受け入れて下さいますよね?」

 

次の瞬間には玉藻の前さんの体が崩れ出し、タマモに吸い込まれていく。やがてタマモの体が光り輝き、露出の高い着物を着たお姉さんが立っていた。少し頭が弱そうでお調子者に見えるけど……間違いない。

 

「タマモ?」

 

「……はい! 私、可愛くなってリニューアルです☆」

 

「少しお馬鹿な所はそのままなんだね。ビニール袋の持ち手に頭を突っ込んで抜けなくなったのにパニックを起こして、おしっこを漏らしながら駆け回ったり、自分の尻尾を追い掛け回して目を回してたタマモのままなんだ」

 

「……うっ。あの~、ご主人様? 私、子狐のタマモがベースですが、玉藻の前の記憶や精神も引い継いでますので、その話は避けて欲しいかなぁ? ……ご主人様?」

 

「……もう少しだけ」

 

自分でも気付かないうちに僕はタマモに抱き着いていた。今まで触れなかった幽霊の体からは体温こそ感じられなかったが手に触れる尻尾の感触は生前のままだ。

 

「ええ、何時でもお触りください。……その前に」

 

屈んだタマモは両手で僕の両頬を優しく包み、そっと唇を重ねる。僕の中に何かが入ってくるのを感じた。

 

「私の霊力を送り込み、ご主人様の眠っていた霊力を目覚めさせました。中途半端に垂れ流していたらかえって危ないですし、声が聞けない事を苦悩してらっしゃいましたからね。私の声だけが貴方に届いていたのは私への愛情のおかげ。其れを考えると悔しいですが、少し位なら分けて上げます。でも、貴方の一番は私ですよ?」

 

僕の耳に先程までは聞こえなかった声が聞こえてくる。苦悶、絶望、そして孤独。望んでいない死を迎え、死してなおこの世に留まり人を求めるも気付いて貰えない彼らの慟哭が聞こえて来たんだ。

 

「……おいで。一緒に行こう」

 

だから僕は無意識の内に彼らを受け入れた。慟哭は歓喜の声に変わり、周囲に居た数多の幽霊達が僕に付いて来る。この時僕は誓ったんだ。彼らが生者に相手にして貰えないのなら、僕が相手をしよう。それがきっと僕の生まれた意味なんだ。この時、僕は心の底からそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

「……また子供が迷い込んだのかい? 久しぶりだねぇ」

 

そして旅行から帰った僕は迷い込んだ場所で新しい友達を得る事になった……。




さて、新刊発売がたしか今月 それまでに過去編を終わらせたい

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