霊感少年の幽雅な生活 (完)   作:ケツアゴ

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閑話 異界の住人との邂逅

”学校の怪談”といえば何を思い浮かべるだろうか。真夜中に一段増える階段? 幽霊が映る鏡? やはり定番といえばトイレの花子さんだろう。じゃあ、そんなオバケ達は普段何処に居るのだろう。そもそも何処で生まれ、何故似た話が全国に広まったのだろうか……。

 

 

 

「あれ? 此処何処だろう?」

 

それは幼稚園が休みのある日の事、公園にない遊具目当てで近くの小学校に忍び込んだ一誠は気紛れを起こして旧校舎に忍び込んだ。中は埃っぽく教室内には古ぼけた机が置かれている。誰かに見られているかのような気がした一誠は奥を目指して曲がり角を曲がり、何時の間にか先程までとは違う場所に居た。それと同時に感じる視線が増し、背後から声が掛かる。

 

「赤いチャンチャンコ着せましょうか?」

 

「まだ春だよ? 着る訳無いじゃない」

 

後ろに居たのは鋭い爪が生えた腕を持つ男性。血走った目で一誠を見てはいるものの何処か戸惑っているようだ。

 

「……何、この子。普通は逃げ出すとか悲鳴を上げるとか色々有るだろ。あと、それを言ったら怪談は夏がシーズンなのに……」

 

暫く立つ尽くした後、男性は消え去る。その後、廊下を歩いている人体模型に挨拶をし、音楽室のベートーベンに音楽センスのダメ出しをされた一誠は飽きてきたのか廊下に座り込んでいた。

 

「もう帰ろうかな?」

 

「此処に来て生きて帰れると思ってるのかい? ねぇ、アタシ綺麗?」

 

声が掛けられると同時に肩に手が置かれ、振り返ると其処には口は耳まで裂け、空いた手にハサミを持った赤いコートの女が座っていた。

 

「さあ? 美的センスは人其々だし、需要はあるんじゃない?」

 

「……変な餓鬼だね。アタシが怖くないのかい?」

 

「お姉さんみたいのは昔から見てるから。え~と、口裂け女さんだよね?」

 

「ああ、そうさ。なら、この後どうなるか知ってるかい? アタシに口を切り裂かれるの…さっ!?」

 

一誠に鋏を突き出そうとした口裂け女の手が止まる。背後からその脳天に踵が振り下ろされていた。

 

「ご主人様、お怪我はありませんか? ……少しお離れを。すぐに始末いたしますので」

 

「言ってくれるじゃないのさ悪霊風情がっ! 綺麗に取り付くていてもアタシには分かるよ。アンタがとんでも無い悪霊だってねっ!」

 

玉藻と口裂け女は同時に仕掛け、決着は一瞬で付いた。玉藻の鏡は口裂け女の鋏を破壊しても尚止まらず、そのまま胴体に当たって壁まで吹き飛ばす。木造校舎の壁が崩れ、口裂け女はフラつきながら立ち上がると肩を竦めた。

 

「こりゃ負けたね。……食うなら食いな。それがルールだ。だが、他のモンには手ェ出すんじゃないよ」

 

「……良いでしょう。では、貴女を吸収し私の力に……ご主人様?」

 

負けを認めた口裂け女を吸収しようとした玉藻だが、袖を引っ張らられて動きを止める。一誠は静かに首を振っていた。

 

「駄目だよ、玉藻。僕、此処の住人と友達になりたいし」

 

「……はい、分かりました。でも、今度危害を加えようとしたら止めても無駄ですよ?」

 

二人の話を聞いていた口裂け女は頭を押さえて溜息を吐くと窓を指さす。先程まで白一色だった風景が其処だけ変わり一誠が忍び込んだ小学校の新校舎が見える。

 

「……帰りな。アンタ、霊が見えるどころか従えれる程の力を持っているみたいだけど、生者は生者と友達になるもんだよ。それに人間と友達なんて冗談じゃない。勝手にアタシ達を生み出し、勝手に忘れ去っていくような人間と友達なんてなる訳がないだろ」

 

口裂け女はそれだけ言うと影に吸い込まれるように消えて行き、一誠も素直に窓から出ていく。窓から出たあとで振り返ると先程開いていた窓は中から鍵が掛かっていた。

 

「ねえ玉藻。彼処って何だったの?」

 

「異界、と呼ぶべきでしょうか? 人が考え出した話が人の恐怖で具現化し、条件のあった場所から出入りできるようになった場所です。彼女達も同じく人の恐怖が具現化した存在。ゼロから生まれた者も居れば元々の噂に組み込まれて其の姿になった者も居ます。そして共通点は忘れ去られれば存在自体が消えるという事。少し哀れですね……」

 

玉藻は悲しそうな瞳を旧校舎に向けると狐の姿に戻り一誠の懐に飛び込んだ。

 

「では、帰りましょう。今日はぁ~、助けたお礼に沢山ナデナデして欲しいなぁ♥」

 

「はいはい、じゃあ早く帰ろうか」

 

 

 

 

 

「……良かったの?」

 

「何がだい?」

 

一誠が帰った後、異界の纏め役をやっている口裂け女は自室にしている保健室の椅子に座っていた。その横ではおかっぱ頭の少女がベットに寝転んでおり、不意に声をかける。

 

「だってあの子、私達を怖がってなかったのに……」

 

「それがどうかしたかい? アタシは人間が嫌いなんだって何度も言ってるだろ。くだらない話は止めな、花子」

 

「……」

 

花子は無言で消えて行き、口裂け女は天井を見つめて黄昏た。

 

 

 

『……知ってる? 四丁目に口裂け女が出たんだって』

 

『で、出たぁぁぁぁっ!! ポマードポマードポマード!』

 

『べ、べっこう飴、何処だっけっ!?』

 

 

「……あの頃は存在してるって実感があったねぇ。今じゃ口裂け女なんて飽きられて存在が希薄だよ……」

 

口裂け女は大きく溜息を吐くとベットに横になる。思い起こすのはかつての記憶。全国に口裂け女の噂が広がり小学生達は懐に彼女の好物と噂されたべっこう飴を忍ばせて登下校したものだ。恐怖から生まれた彼女達は恐怖が静まれば出現できなくなる。今では異界から出る事さえままならなくなった。異界では万全の力を振えるが、それも何時まで持つか分からない。異界の住人によって異界は安定しており、このまま彼女達が忘れ去られれば異界すら消え去っていくのだ。

 

「まっ! 生者も何時かは死ぬんだ。アタシ達も消えいく運命なんだろうさ」

 

まるで自分に言い聞かせるかの様に言葉を発した口裂け女は外に出れる程の力を持った仲間が持って帰った酒を煽ると静かに瞼を閉じた。

 

 

 

そして数日後の事……。

 

「また餓鬼が入って来たって? 一々報告しなくて良いよベートーベン」

 

「だが、例の小僧なのだ」

 

音楽室のベートベンから報告を受けた口裂け女が入り口に向かうと其処には人形を連れた一誠の姿があった。

 

「やっほ~!」

 

「私、メリーさん。この子に連れてこられたの」

 

「……大体の事情は把握したよ。その子は預かるからアンタは帰りな。此処は生きてる奴が来る所じゃない」

 

「……でもさ、僕は生きてる人が嫌いなんだ。友達は外国に行った一人を除いて霊だし……。また此処に来て良い?」

 

「アンタ、ボッチかい。……好きにしな。だけど、友達になんてなってあげないからね」

 

口裂け女はメリーを受け取ると異界の奥へと消えていく。この日から一誠は異界に通いつめ、街で見かけた霊や口裂け女達の同類を異界に連れてきた。やがて花子やメリーと仲良くなり、人体模型やベートベンとも打ち解け、口裂け女とも相談事を持ちかける仲になった。

 

 

 

 

 

そして数年後、小学生になった一誠はデパートで開かれたギリシア展で悲しみに染まった瞳をした一人の女性と出会った。

 

 

 

 

《最近、妙な小僧がいる?》

 

《ええ、おそらくは霊使いだと思うのですが力が桁違いのようでして》

 

《フォフォフォ、少し興味がわいた。調べて参れ、プルート》




次回で過去編終了!

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