「急げ! 何としても一命を取り留めるんだ!」
「全身に聖水による火傷が…。これではフェニックスの涙を持ってしても……」
ライザー眷属の負傷は凄まじく、クドラクに振り回されたマリオンは全身骨折だらけの上に内臓破裂と脳内出血。ビュレントは大量に血を吸われて意識不明。そしてレイヴェル・フェニックス、カーラマイン、ニィ、リィ、イザベラ、シーリスは聖水に中に全身が浸かった為に大火傷を負い、ライザーも意識不明の重体だ。奇跡的な効能を持つフェニックスの涙も応急措置にしかならず、予断を許さない状況だった。
そして、その原因となった一誠達だが今は貴賓室に通されていた。
「お兄ちゃん! あたし頑張ったよ!」
「お兄ちゃん! わたし頑張ったわ!」
「うん! 全部見てたよ!」
ありすとアリスは褒めてくれと言わんばかりに一誠に近寄り、一誠は二人の頭を撫でる。グリンパーチとクドラクはもう仕事が終わったのだからとダラけた格好で用意された食事をかっ込んでいた。そんな中、玉藻も撫でて欲しそうに一誠に頭を近づけ尻尾を盛大に振るも無視されていた。
「用意された料理は何が仕込まれているか分かったもんじゃないからコレ食べようか」
「わぁ! 稲荷寿司だぁ!」
「グリンパーチの手作りね。あの人の美味しいけど、作っても自分で食べちゃうから中々食べられないのよね」
一誠が取り出したのはお重に詰め込まれた大量の稲荷寿司。餓鬼という食べ物に執着する性質からか料理が上手なグリンパーチが作った物で、油揚げが好物の玉藻からすれば垂涎物の一品だ。一誠は持ってきた小皿に稲荷寿司を取り分け、部屋に居る者達に配っていく。ただし、玉藻を除いてだが……。
「うぅ~、ご主人様ぁ。私何かお気に障る事でもしましたかぁ?」
先程からの一誠の態度に玉藻は涙ぐむ。すると一誠は彼女を手招きして近づいて来た彼女に対し、
「てい!」
「きゃう!?」
不意打ちでデコピンを喰らった玉藻は赤くなったデコを抑えてその場にしゃがみ込み、涙目で一誠を見上げる。すると一誠は溜息を吐いて稲荷寿司を乗せた小皿を彼女に差し出した。
「はい。これで身バレしかねない発言をしたの許してあげる。まったく、狐を飼ってたとか玉藻が死んだ時の事故の事とか迂闊に話しすぎだよ? ゲームフィールドは映像に残されるんだからさ。正体バレたら面倒臭いでしょ?」
「あっ……。ご、ごめんなさ~い!」
「反省しているのなら宜しい。さぁ、狐に戻って。久しぶりに撫でさせてよ」
「承知しました!」
死んだ当時の姿である子狐の姿になった玉藻は一誠の膝に飛び乗り、彼に撫でられながら気持ち良さそうに目を細める。玉藻はそのまま大きなアクビをするとスヤスヤと眠りだした。
「……全く、玉藻は生きてた時と全然変わらないね。甘えん坊で少し間抜けで……ハハッ、飲み水をひっくり返して全身ずぶ濡れになった時も有ったっけ? いつも俺に着いて来てベットに潜り込んだり、座ってたら今のように膝に飛び乗ったりしてさ。そしてあの日、初めてのお使いに行く俺の後を追おうと道路に飛び出して……」
「次のゲームで奴に制裁を与えるべきです!」
「しかし、リアス殿も同じような目にあっては……」
「ふんっ、どうせ使える手駒は全て使っているに決まっているわ! フェニックス家を圧倒すれば恐れをなして棄権するだろうと思っておるのだろうよ!」
一誠達が貴賓席で休んでいる頃、次のゲームに関して貴族達の間で大いに揉めていた。リアス達もライザーと同様な目にあってはいけないので中止すべきと言う者達と、人間の手駒ごときに誇り高い悪魔が負けっぱなしではいられない、と主張する者達。サーゼクスからすれば棄権させたいが、貴族の多くを次のゲームを行いリアスが一誠を殺す事を期待する者が占め、魔王という立場から彼らを黙らせる訳にもいけない。そんな中、ベンニーアを隣に控えさせたハーデスが話しかけてきた。
《大分揉めているようだな。なら、このようなのはどうだ?》
「お~い、玉藻起きて」
「……ふみゅう?」
気持ちよく寝ていた玉藻は一誠の声に反応して寝ぼけ眼で辺りを見回す。一番先に目に入ってきたのは清潔なシーツが敷かれたベット。それを見て覚醒した玉藻は人間の姿になると一誠に飛びかかった。
「きゃぁぁぁん! ご主人様ったら相変わらずエッチなんだからぁ♪ でも、ご主人様がお求めとあらばこの良妻狐。誠心誠意ご奉仕させて……」
「ごめんね~。この子、馬鹿なんだ。ほら、玉藻。とりあえずこの子達治して」
一誠が玉藻を連れてきたのは医療室。其処には意識のないライザーとその眷属達がベットに寝かせられていた。
「おい! 本当にソイツに治せるのであろうな!? 出来なかった時にはその命で償ってもらうぞ!」
「うん。治せるよ。んじゃ、玉藻お願い。ちゃんと治したらご褒美あげるよ」
「はい! お任せを! ……後、そこのオヤジは呪ってやる」
玉藻は遅効性の呪いを食って掛かってきた貴族にかけた後、再び八本の尻尾を追加で出現させる。そして面倒臭そうに手を翳すとライザー達を光が包み傷があっという間に癒えていった。
「ご苦労様。ご褒美は何が良い? 狐饂飩? 稲荷寿司?」
「う~ん、それも魅力的ではございますが、できればご主人様とお風呂に入りたいな~って、きゃっ☆」
「別に良いけど? じゃあ、そろそろゲームだから俺行くね?」
「あぁん、そんな所まで……。ご主人様ぁ♥」
妄想に耽っている玉藻を無視して一誠達は指定された場所に行く。するとその途中でリアス達と遭遇した。
「やぁ、白音ちゃんとその他の皆さん」
「……失礼な奴ね。貴方が小猫の本名を知っているのかは後にして、毎回話しかけているけど小猫みたいな子が好みなのかしら?」
「ううん。俺は白音ちゃんみたいにツルペタストンなロリよりもセクシー系が好みなんだ。まぁ、ドライグはロリ龍帝だから好みみたいだけどね♪」
『相棒っ!?』
ドライグは冤罪を広められて泣きそうな声を上げ、小猫は体型の事を言われて今にも一誠に殴りかかりそうだ。
「ただ、可哀そうだなって思ってね。な~んにも知らないで、苦しんだ原因の一人が偶々助けてくれたからって感謝して、本当に感謝しなければならない存在を恨んでるんだからさ。現魔王さえしっかりしてれば君達姉妹にあんな悲劇は起きなかったのにね」
「……どういう事ですか?」
一誠の言葉に訝しそうな顔をする小猫だったが、一誠は含み笑いをすると横を通り過ぎていく。
「さぁね~♪ ゲームの時に力尽くで聞いてみたら? たっぷりハンデあげたんだからさ」
『それでは只今よりリアス・グレモリーさまと赤龍帝様のゲームを開始いたします。なお、今回のゲームはスクランブル・フラッグとさせて頂きます』
スクランブル・フラッグ。レーティングゲームのルールの一つで制限時間内で旗を取り合うというルールである。そして今回のゲームでは一誠側に過大なハンデが付けられていた。
① 一名を除き赤龍帝及びその仲間からは攻撃できない。
② リタイアする相手に攻撃してはならない
➂ 旗はリアスの陣地側に多く配置する。
④ 赤龍帝側のリタイア判定は厳しくし、簡単には退場できない
このハンデの代わりに一誠が勝った場合は冥界への無条件の入国とはぐれ悪魔を一体所有しても良いっという約束を取り付けた。貴族達もはぐれ悪魔の一匹くらいどうでも良いと判断し、リアスが一誠を抹殺しやすいようにと最後のハンデを付ける事で合意した。ゲームの舞台は迷宮のように入り組んだ三つの十階建ての塔。三つ横並びになるように配置されており、塔の五階に隣の塔に行く為の通路がある。そして一誠の陣地である右の塔には一割の旗、リアスの陣地の左の塔には六割の旗が隠されており、残り三割の旗は中央の塔に配置されていた。
「んじゃあ、作戦開始と行こうか。レイナ…レイナ! シャドウ! ブイヨセン!」
「クスクス…頑張るヨ……」
「はっ!」
「アァ……、腹減ッタァ……」
レイナーレの偽名を適当に決めた一誠は後ろに控える三人に指示を出す。後ろにいるのは不気味に笑っているブイヨセン、仮面で顔を隠してスーツを着ているレイナーレ、そして黒い粘液のようなもので体を構成した巨人だった……。
「それじゃあ作戦開始よ! ハンデは腹立たしいけど仕方ないわ。向こうからは一人しか攻撃できないのならコッチは攻めるわよ! 私と祐斗とアーシアはこの塔の旗の回収と防衛。朱乃は単独、小猫は一郎と組んで中央の塔で旗を集めてちょうだい! そしてある程度回収したら陣地で旗の防衛よ!」
松田の名前は一郎である。なお、特に意味はない。ただ苗字で進めるのは大変だから名前が決定した。
この時、リアス達は勝機があると思っていた。いくら何でもあんな実力者が何人も今まで知られずに居られるはずがなく、ライザー戦に主戦力を投入しただろうから厄介なのは赤龍帝位だろうと。そう、思ってしまっていた……。
「クスクス……。待ってたヨ」
「あらあら、変わった方ですわね」
朱乃が中央の塔を散策していると急に扉が閉まり見つけた旗が宙に浮く。旗はそのまま天井に浮かんでいたブイヨセンの手に収まった。
「あらあら、それ渡して頂けません? それとも貴方が攻撃可能な方なのかしら?」
「どうだろうネ……。ウフフイ…」
「……堕天使? それにいきなり本命の登場ですか……」
「ち、ちくしょう! やれるだけやってやる!」
「あはははは! 足が震えてるよ、松田君」
「主よ。あの坊主は私にお任せを!」
小猫と松田の前には一誠とレイナーレが現れる。そして、リアスの自陣がある塔の内部では何かが這いずる様な音が聞こえていた……。
その頃、玉藻は、まだ妄想の世界にいた。
「あん! もうそんな事までされては我慢できません☆」
「馬鹿が居るね、あたし」
「伝染るから近寄っちゃダメよ、わたし」
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