霊感少年の幽雅な生活 (完)   作:ケツアゴ

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九十九話

「……ケホッ」

 

 正月が明けても一誠の風邪は一向に良くならず、未だにベットの中で寝込んでいた。熱にうなされ視線はボヤけ意識はハッキリしない。要するに非常に調子が悪かった。

 

「ああ、ご主人様ぁ。……調子が悪くて不安そうな顔も素敵ですねぇ」

 

「あ~、はいはい。アンタも体を作った時に死神に近付けたから死神風邪が感染るでしょ。安静にしなきゃいけないんだから早く出ていくにゃ。あと、アンタじゃ不安だから体は私が拭くって話は付けてるから」

 

「あ~ん! ご主人様ぁ~! くそ! 後で猫の丸焼き、なう」

 

 

 玉藻は熱に浮かされている一誠の顔を覗き込みながら涎を垂らしつつ指をワキワキ動かす。その顔は助平親父其の儘で、今にもルパンダイブしそうな所を黒歌に襟首を掴まれ部屋から連れ出された。後には静けさが残り一誠は寂しそうに溜息を吐く。

 

「……何か寂しいなぁ。何時も誰かが傍に居たからかな?」

 

 テロ対策で一誠は部下の多くを各地に派遣しており、今は一誠の不在を補う為に更に数が減っている。今家に残っているのは玉藻達三人と家を守るポチ。それと両親に護衛役の三体だけだった。母親はキッチンで兵藤家の風邪の時の定番である生姜入りの味噌汁を作っており、玉藻達が作り方を習っている声が聞こえてきた。

 

「あら、だいぶ参っているわね、坊や」

 

「あ、メディアさん。締切は大丈夫なの?」

 

「……こういう時は”お見舞いに来てくれたんだ”って言うものよ、坊や」

 

 ノックをして入ってきたメディアはお見舞いのフルーツを机の上に置くと目を逸らしながら椅子に座る。彼女のマンションでは担当の藤村大河が悲鳴を上げていた。

 

「せ、せんせー! 締切今日ですよぉぉぉぉぉっ!?」

 

 

 

「それにしても自己管理がなってないわ。貴方は多くの部下が居るんだからしっかりなさい。だいたい人の上に立つものというのはね……」

 

「……話が長いなぁ」

 

「こら! 人の話は大人しく聞くっ! 坊やはもう少し礼儀というものをね……」

 

 メディアは一誠に上に立つ者の心構えを伝授した後、喉と頭の痛みを抑える様になる魔術を掛けて帰っていった。メディアの術で少し楽になってきた一誠が退屈していると再びドアがノックされる。ドアがゆっくり開いて母親の護衛役のありすとアリスが入って来た。

 

「お兄ちゃん、大丈夫? オバさんには玉藻達が付いてるからお見舞いに来たわ」

 

「あたしが絵本読んであげるっ!」

 

 ありすは無邪気な笑みを浮かべながらベットの横に座ると絵本を広げる。そのまま一誠の返事も聞かずに絵本wの読み出し、アリスもその横に座ると絵本を覗き込む。結局、最後まで読む前に二人は一誠にもたれ掛かってスヤスヤと寝息を立てだした。

 

「……やれやれ、手間の掛かる妹みたいだよ。会った時は俺と変わらなかったのにさ」

 

 一誠は意味がないのが分かっていつつも二人を椅子に寝かせて毛布を被せる。フッと笑いながら二人の頭を撫でていると違う二人が入ってきた。

 

「……ふむ。宴か……仕事が一段落したから様子を見に来ればお邪魔したかの?」

 

「ごめんなさい……。市、お邪魔だった……? デー…仕事が終わったから寄ったのだけど……」

 

 酒樽を担いだハンコックと着飾った市はロリコンを見る目を二人に向けると部屋から出ていった。

 

 

 

「……そう。誤解なの……」

 

「妾は分かっていたぞ。お主は巨乳派だとなっ! ……はっ! 妾、ピンチ?」

 

「……今日は疲れたなぁ。ああ、お腹減ったや。それでさっきから女性陣ばかりお見舞いに来るのは何でかな?」

 

「む? お主は女ばかりの方が嬉しいと思って気を利かしたに決まっておろう。故に仲間内で取り決めをしたのじゃ。お主は色魔だから見舞いは女だけで良い、とな」

 

「レイナーレは書類仕事で忙殺されそう……。だから残った女の子で……あ、ハンコックは”子”じゃないわね……」

 

「お主も言うようになったの、市。……まあ、良い。食事が来たようじゃし、沢山食べて早く治せ」

 

ハンコックと市はありすとアリスを背負うと部屋から出ていき、其れと入れ替わるかの様に食事がやって来た。

 

 

「はい、一誠。とりあえずお粥と味噌汁を作ってきたわ」

 

「有難う、母さん。……ん、おいし」

 

 一誠は食欲がないのか五人前だけしか食べず、再びダルさに負けて眠ってしまう。その顔を母親が心配そうに見ていた。

 

「……ふぅ。早く良くなりなさい、一誠。皆心配してるわよ」

 

 母親が向けた視線の先には取り決めで姿を現さなかった男性陣や異界への入り口から口裂け女達が一誠に対して心配そうに視線を送っていた。

 

 

 

 

 

「……久しぶりだね、ミリキャス」

 

「父様っ! 母様っ!」

 

「元気そうで何よりだわ。……本当に良かった」

 

 伯母であるリアスがアザゼルと共謀してテロリストの親玉であるオーフィスを裏切り者から匿った事でヴァルハラに人質に出されたミリキャスは久々に会う両親の姿を見るなり飛び付いて行く。今日は外交という面もあるので私服ではなく仕事着としているメイド服姿のグレイフィアでさえ仕える男爵家の跡取りとしてではなく息子として接していた。

 

「……さて、もう少し離れると致しましょう」

 

 一応見張りとして付いてきたガウェインは親子団欒を邪魔しないようにと少し距離を取る。だが任務は忘れていないのか少しでもおかしな行動をしたら即処断出来るようにとガラティーンに手を掛け、職務をさぼって携帯に目をやっている様に見せ掛けながら三人の様子を伺っていた。

 

「くっ! まさか私より先にトール(御義父)様の腕の中で安心して眠るとはっ!」

 

もしかしたら職務怠慢なのかもしれない。写メで送られてきた産まれたばかりの我が子は祖父であるトールの腕の中で安らかに眠っていた。なお、子供の名前はアルトリア。金髪碧眼の可愛らしい大食らいの娘である。

 

 

「此方の生活はどうですか? 私達が至らないばかりにミリキャスには辛い思いをさせています……」

 

「大丈夫です! 皆さん良くして下さりますし、悪いのは父様ではなく裏切ったリアスですよ……」

 

「ミリキャス……?」

 

 サーゼクスは息子の言葉を聞き間違えたのかと固まる。あれほど慕っていたリアスに対しミリキャスは態度を一変させていた。そう、まるで憎々しい敵に対するかの様に。

 

「……テロリストの親玉を辞めさせる為って言い訳していたらしいですが、裏切りは裏切りです。オーフィスの蛇で力を増強させたテロリストによってどれほど被害が出たと思っているんですか! 辞めさせる? 辞めた後で大人しくしている保証は? それなら同士討ちさせて弱った所を袋叩きにしても良かったじゃないですかっ! なのに、下手に懐柔策なんか取るから僕は……」

 

「ミリキャス……」

 

 ミリキャスは涙をポロポロ涙を零し、サーゼクスとグレイフィアは例えガウェインが居なくてもリアスの弁護をする訳にはいかなくなった。

 

「お二方、そろそろ宴会の準備が整ったようです。御子息は私が見ていますのでお急ぎ下さい」

 

「あ、ああ……。ミリキャス、また会おう」

 

「手紙、書きますから……」

 

 二人は名残惜しそうに息子に声を掛け宴席へと向かう。既にミカエルとシェムハザとセラフォルーは席に着いており、居心地悪そうな顔をしていた。二人が到着したのを見たオーディンは酒盃を掲げ乾杯の音頭を取る。

 

「さて、昨年度は一部の者の暴走もあって非常に大変であったが、ハーデス殿の部下である兵藤一誠君の活躍もあって見事に解決出来た。今年度も未だに問題は残っているが、再び愚か者が暴走しない事と今ある問題が全て解決する事を願い…乾杯っ!」

 

 その宴席はまるで針の筵。三大勢力の代表者は押しつぶされそうな威圧感の中料理や酒を口に運ぶが全く味を感じない。普段は騒ぐのが好きなセラフォルーでさえも魔法少女の格好すらしていなく大人しくしていた。そんな中、一人の戦乙女がオーディンに何やら耳打ちし、オーディンと彼から小声で何やら聞かされたハーデスの雰囲気が変わった。そう、まるで獲物を前にした肉食獣のような雰囲気に……。

 

 

「ミカエル殿。同盟によって存在意義を奪われて脱走したエクソシストと赤龍帝の不調を知って逆恨みを晴らそうとした愚かな悪魔共が衝突し戦いになったそうじゃ。どうも聖剣のレプリカを手にしたエクソシストが勝ったらしいが、その中に枢機卿が三人居たとか」

 

《フォフォフォ。さてさて、困った事になったな》

 

 

 深刻な内容とは裏腹に二人は非常に楽しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「わあ! 可愛らしい娘さんですね、先輩」

 

「こらこら、今のお前は冥府の所属だろう。それとそう言うお前の所はどうなんだ? 旦那とは上手くヤって居るか?」

 

「それはもう! ランスロットさんは普段は優しいのですが夜になると狂戦士の様になって……えへへ~」

 

「あうー」

 

「おっと、そろそろ母乳の時間だな。ふふふ、沢山飲むのだぞ、アルトリア」

 

 此方の二人も非常に楽しそうだが宴席とはうって変わって和やかな雰囲気だった。




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