霊感少年の幽雅な生活 (完)   作:ケツアゴ

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今回短めですいません あんまり話が進みません 

玉藻のお仕置きのあたりを修正しました


十三話

天気は快晴、絶好の球技大会日和。二年生の学年別競技は野球だった。

 

「イッセー君、頑張ってぇ!」

 

バッターボックスに立つ一誠に向かって女子達の声援が飛び、松田を中心としたモテない男子から嫉妬の視線が注がれる。実は一誠はそこそこモテているのだ。成績も優秀で運動もでき、普段無表情で何を考えているか分からない所がミステリアスで素敵、らしい。最も、一誠はそんな事などどうでも良く、興味の対象外の相手から好意を寄せられても何とも思わなかった。

 

「えい」

 

普段通りのやる気のない声と共に振るわれたバットはボールを芯で捉え、白球は青空へと消えていく。全打席ともホームランを打った彼は対して嬉しそうな顔もせずホームベースへと帰還した。

 

「きゃ~! ステキー!」

 

「お疲れ! 相変わらずの大活躍だな。なぁ、野球部に入ってくれよ」

 

「……面倒臭い」

 

再び向けられた声援や部活への勧誘にも無表情で答えた一誠はベンチに座ると何気なく辺りを見回す。すると、

 

 

 

 

 

 

《次も頑張るでやんすよ~!》

 

「!?」

 

一年生に混じって応援をするベンニーアの姿があり、この時ばかりは一誠の鉄仮面が剥がれ落ちた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベンニーアちゃん!? なんで学園に居るのさ!?」

 

その日の夜、異界にベンニーアを連れてきた一誠は彼女を問いただす。すると、当の本人は首を傾げながら訊き返してきた。

 

《あれ? ハーデス様から聞いてなかったでやんすか? 一誠様のサポートの為にあっしを派遣するってことになったんですぜ。んで、この前の貸しを理由にあっしを入学させたって訳でやんす。貴方がこの街に居ることはバレてるでやんすからね》

 

「困るなぁ。そういう事はちゃんと言ってくれないとさ。……もう一つ訊いて良い?」

 

《なんでやんすか?》

 

「……前から訊きたかったんだけどさ……ベンニーアちゃんって穿いてるの?」

 

一誠がした質問はド直球のセクハラ。ベンニーアの服装は太股を大きく露出させ股の間と後ろにヒラヒラした布があるという大胆な物だが、どれだけ動いても下着がチラリとも見えないのだ。それが気になっていた一誠の質問に対しベンニーアは怒るでも恥ずかしがるでもなく怪しく笑いながら質問を返してきた。

 

《なら、確かめてみやすか? 一誠様なら構わねぇでやんすよ》

 

「マジ!? なら。早速!?」

 

そう言って彼女は布地を両手で持つとヒラヒラと揺らした。思わず太股を凝視した一誠であったが、悪寒を感じて後ろを振り向くと恐ろしい笑みを浮かべている玉藻の姿があった。

 

 

 

 

「何してるのかな~? ……ご安心下さいませ、ご主人様。使い物にならなくなったら私も困るので後で治しますから☆ 秘・奥・義! 一夫多妻去勢拳!!」

 

玉藻は右手にオーラを込めて金的の構えを取る。弱点を一撃で粉砕するその技に対し一誠は臆するでもなくただ立ち尽くし、

 

 

 

「おいで~」

 

「……。は~い♪」

 

両手を前に伸ばして玉藻を誘う。しばし迷っていた玉藻であったが、甘えた声を出して一誠の胸の中に飛び込んだ。一誠はそのまま片手で玉藻の肩を抱き寄せると空いた手で頭をそっと撫でる。

 

「ごめんね~。今度から控えるよ」

 

そしてトドメとばかりにデコにキスをすると玉藻の顔が完全に緩みきり、一誠の胸に顔を摺り寄せる。

 

「もう、ご主人様ったらスケベなんだから。……私の着物の裾を代わりに捲らせて差し上げます♪」

 

「……保健室行こうか?」

 

「キャッ♪ 何処までスる気ですか? ……今回は誤魔化されますが、今度見かけたら一六連撃バージョンですからね♪」

 

「……う、うん」

 

最後に告げられた死刑宣告に一誠だけでなく、男性陣全員が顔を青ざめた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま~。くちゅん!」

 

球技大会を見物して後に小猫と話をしていた黒歌であったが帰る途中に土砂降りに会い、クシャミをしながら異界へと戻ってきた。着物からは水滴がポタポタと滴り、体はブルブルと震えている。心配した口裂け女がもってきた服に着替えて漸く落ち着く事ができた。

 

「大丈夫かい? ほら、生姜湯でも飲んで温まりな」

 

「うにゃ~……。風邪ひいたかも。イッセー、看病して~!」

 

看病されるのを口実に一誠に甘えようと思っていた黒歌であったが、確かに気配がするにも関わらず返事がない。代わりにメリーと花子さんが近寄ってきた。

 

「イッセーなら今は無理よ。さっき玉藻と保険室に行ったから。……あれ、そんなに怖いのかしら? 私、人形だから分からないわ」

 

「……ドスケベ男。潰されちゃえ」

 

「……どういう事? ねぇ、ベートーベン。何があったのにゃ?」

 

黒歌は状況が飲み込めずベートーベンに訊くも、彼は顔を青ざめさせ答えてくれなかった。あと、死霊霊手の男性陣の玉藻への服従度が大幅に上がったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「風邪引いたから狐の襟巻きが欲しかったのよね。丁度良かったにゃ」

 

「あら、私だってご主人様に演奏を聴いて頂くために三味線を作っているのですが、ちょうど猫の皮が欲しかったんですよ」

 

それは球技大会から数日後の休日の昼間の事。玉藻と黒歌は互いに毒を吐きながら睨み合っていた。事の発端は夏休みに行くギリシア旅行の部屋割りについてだ。何を血迷ったのかハーデスは一誠の部屋も含めて二人一部屋だと伝えて来て、その相部屋の相手を争っているのだ。

 

「ご主人様と同じ部屋になるのは私です!」

 

「いや、私にゃ!」

 

「……誰か止めてよ」

 

後が怖いので一方の味方をする訳にも行かない一誠が他の霊に視線で助けを求めるも二人より弱い者達には目を逸らされ、尾が一本の玉藻となら渡り合える者達は余興代わりのつもりなのか静観していた。口論は最終的に取っ組み合いの喧嘩にまで発展し、ただでさえ際どい着物の裾がめくれ上がりだす。やがて二人の着物は肌を隠す働きを果たさないほど乱れ、その時になって漸く仲介役が帰ってきた。

 

 

 

 

「いい加減におし! 人がちょっと出かけてたら喧嘩ばっかして、餓鬼が見てんだろ!」

 

「「きゃん!」」

 

二人は口裂け女の拳で黙らされる。かつて全国の小学生を震え上がらせた都市伝説のお化けは異界でもまとめ役として恐怖の存在であった。その後、二人はジャンケンで争う事となり、術を駆使したイカサマの応酬の末に玉藻が勝利した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま~。……お客さん?」

 

一誠が異界より帰ると玄関には見慣れない靴が二足。そして家の中からは聖なるオーラが漂ってきた。一誠が気にせずに奥へと入ると母親が二人の少女とアルバムを広げて話をしている。

 

「ほら、玉藻はイッセーに懐いて離れなかったから大体の写真に写っているのよね」

 

「あ~、覚えてます。私は何故か嫌われてて唸られてばっかりでした。さっきも庭にいたワンちゃんにも唸られるし、何ででしょうね?」

 

「あらあら、ポチが唸ったの? 普段は大人しいのに変ねぇ」

 

小さい頃から写真を写すと心霊写真ばかりの一誠であったが、そのアルバムはいたって普通の写真ばかりが収められているものだ。一誠に気付いた母親は栗色の髪の少女を指し示す。

 

「イッセー、お帰りなさい。懐かしい子が来てるわよ」

 

「イッセー君、お久! 私が誰か分かる?」

 

「うん。何時か何処かで会った誰かさんだったよね。ちゃんと覚えてるよ。あの時は大変だったよね、何となく」

 

「絶対分かってない! てか、誤魔化す気もない!?」

 

「いや、イリナちゃんでしょ? ちゃんと分かるって」

 

「いや、分かってたならさっきのは何!?」

 

一誠の言葉に栗色の髪の少女……イリナは激しく反応する。どうやら一誠のペースについて行けないらしく、隣にいる青髪の少女も戸惑っている。すると一誠は肩を竦めて言った。

 

「あんまり叫ぶと血管切れるよ?」

 

「誰のせいで叫んでると思ってるのよ!」

 

「俺しか居ないでしょ。何言ってんの?」

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 全ッ然性格変わってないわねぇぇぇぇ!!」

 

その日の事を青髪の彼女は語る。あれだけ叫んでいる人を見るのは初めてだったと……。

 

 




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