霊感少年の幽雅な生活 (完)   作:ケツアゴ

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前話で玉藻が一誠に対してお仕置きする所を修正しました isのノリになってたので……


十四話

紫藤イリナが兵藤一誠に抱いた初印象は、”変な子”、だった。浮かべている表情はどこか貼り付けているような印象を感じさせ、誰もいない方向をジッと見たり、まるで誰かと話をしているかの様に独り言を言っている時がある。ただ、ペットの狐と遊んでいる時だけは年相応のあどけない表情を見せていた。そんな彼にイリナは訊いた事がある。なんで人に対してそんな表情を向けるのか、と。それに対し、一誠は面倒臭そうに答えた。

 

「イリナちゃん達が彼らに見向きもしないのと同じだよ。僕にとっては彼らの方が興味深くて、生きてる人には興味が湧かないんだ」

 

「変なの。まるで幽霊が居るみたいじゃない」

 

「……そうだね。今のは忘れて」

 

その言葉を聞いた一誠はどこか寂しそうな顔をした。まるで其処に居ないはずの誰かを哀れんでいるように……。

 

当時のイリナには結構な数の友人が居たが、その誰もが一誠の事を不気味がり、彼自身も人を避けるように他人を誂うような態度をとっていた為に殆ど遊ぶ機会はなかった。だが、勝手に持ち出した祖母の形見の指輪を林で失くした時に見付けてくれた事を切っ掛けに一方的ながら友人と思うようになり、彼女が親の都合で海外に行くまでの間は一緒に遊んでいた。そんなある日、イリナは一誠に尋ねた事がある。なんで仲良くもなかった自分の為に指輪を探してくれたのか、と。

 

「簡単だよ。彼らの姿が見え、声が聞こえるんだから力に成りたいじゃない。あの時は君のお婆ちゃんに頼まれたんだ」

 

その時の一誠の顔が何処か誇らしげだったのをイリナは覚えていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イリナちゃん、何時日本に帰ってきてたの? ……あ、ごめんね。すっかり忘れてたよ。兵藤一誠です」

 

一誠は先程から話題にも上がらず所在なさげにしている青髪の少女に話しかける。ようやく話題を振られたことに青髪の少女は安堵のため息を吐いた。

 

「……ゼノヴィアだ。ああ、別にイリナは帰ってきた訳じゃない。ちょっと任務で近くに来たんだが、イリナがついでに寄りたいと言ってな」

 

「任務? へ~、その年で働いてるんだ。でも、変わった格好だね」

 

「そ、そうなのよ。ねぇ、ゼノヴィア」

 

「あ、ああ。何の任務でこんな格好をしているかは機密上言えないんだがな」

 

二人の格好は白いローブと日本では大いに目立つ格好をしており何の仕事か分からない。最も、一誠は二人がエクソシストであり、ポチがボッコボコにしたという堕天使関連だろう事は予想がついていたがあえて訊いてみた。二人は一誠の目論見通りにどう言っていいか困った顔をし、苦しい言い訳をして足早に去っていく。それを見送った母親は買い物に出かけ、一誠は自室のベットに寝転んだ。

 

 

 

 

 

 

「……玉藻、枕」

 

「はいは~い♪ どうぞお使いくださいませ!」

 

玉藻はそっと自慢の尻尾を差し出し、一誠はそれに頭を乗せる。そしてそのまま顔を埋めると手触りの良い毛を手で軽く掻きだした。

 

「あ~疲れた。あの子には色々喋っちゃてたから内心ヒヤヒヤだったよ。母さんが心配するから無関心な態度は取れないしさ。親不孝はしたくないんだ」

 

「ご主人様がお望みなら呪い殺しますが?」

 

「……別にいいよ。天界が介入してきたら面倒でしょ? どうせあの程度だったらバレないけどさ。玉藻がこうやって尻尾を貸してくれるだけで俺は十分だからさ」

 

一誠はそう言って玉藻の尻尾に頬擦りする。よく手入れされている尻尾は枕としては最高だった。枕にされている玉藻もどこか嬉しそうであり、部屋に和やかな空気が流れる中、一誠はポツリと呟く。

 

「……ねぇ、玉藻。俺は生きてる人が好きじゃないんだ。皆、同じようになろうとしていて気持ちが悪い。両親や一部の人を除いて興味が湧かないんだ」

 

「ええ、ご存じですとも。死人には社会のしがらみがございませんから本性を出す者が多く居ますし、生者の中にも他とは全く違う者が居ます。ご主人様はそんな彼らには興味が向くのでしょう?」

 

「わぁ♪ 俺の事を分かってるね。俺はそんな玉藻が大好き……」

 

一誠は気疲れからかそのまま寝息をたて出す。母親が買い物から帰って来るまで玉藻はその頭をそっと撫でていた。

 

 

「……貴方が何時の日か冥府へ行くという事は、ご両親とはお別れする事となります。貴方がそれを親不孝だと思っているのならその日まで親孝行を続けましょう。私も出来る限りのお力添えを致します。だから、ずっとお側に置いてくださいませ、ご主人様……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あっ、できましたらバカ猫は無しの方向でお願いしたいな~♪ それと子供は最低でも三人程、キャッ☆」

 

とことん締まらない玉藻であった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イリナとゼノヴィアが来日した理由は聖剣エクスカリバー奪還任務の為だった。かつての大戦で砕けたエクスカリバーは七本に鍛え直され、行方不明の一本を除いて教会の三宗派がそれぞれ二本ずつ保管していた。だが、堕天使の幹部であるコカビエルが一本ずつ奪い去った。そしてこの街に潜伏しているので活動する許可が

欲しいのでリアス達の所に来たのだ。もっとも、悪魔と堕天使が手を組む事を危惧している彼女達は一切の手出し不要と言ってきたのだが。

 

「堕天使や悪魔にとって聖剣は脅威だろう? 上層部は貴方達の介入を望んでいないんだ。……予め言っておく。もし貴方がコカビエルと手を組むようなら魔王の妹でも容赦なく斬り捨てる」

 

ゼノヴィアは持参したエクスカリバーを軽く握って挑発的に言い放つ。その時、不気味な声と共に異形が天井をすり抜けて部室に入ってきた。

 

 

 

「ウフフイ……。中々面白そうな事になっているじゃないか…」

 

「リアス・グレモリー。コイツも貴様の眷属か?」

 

「……いえ、違うわ。此奴は今代の赤龍帝の部下よ。……何の用かしら? 今忙しいんだけど」

 

ゼノヴィアはいきなり現れた異形に警戒し、リアスは不快げにブイヨセンを睨む。貴族達が流した風評によってリアスの評価は下がり、グレモリー家にまで影響が出ているからだ。

 

『グレモリーの次期当主は自分の才能を扱いきれていない』

 

もちろん自分が情けなく負けたせいである事は理解しているが、それはあくまで理性での話。感情の面では単純にはいかない。故にリアスにとって原因となった一誠の部下の来訪は好ましくなかった。だが、当のブイヨセンは特に気にした様子もなく小猫へと近づいていく。

 

「黒歌の奴が風邪をひいたヨ…。悪いが居場所を知られる訳にはいかないから見舞いは断るが、一応知らせておけと言われてネ…。ま、軽い風邪だから心配はないヨ…」

 

「……そうですか。では、安静にする様に伝えてください」

 

ブイヨセンは軽く頷くと再び天井へと吸い込まれるように消えていく。しばらくその光景に呆然としていたゼノヴィア達であったが、すぐに我を取り戻しリアス達に向き直った。

 

「今代の赤龍帝は悪魔の手先なのか? それにしては少々様子が変だが……」

 

「違うわ。ただ、ちょっと揉めただけよ。正体も不明よ。分かっているのはペットの狐が事故死した事とこの街に住んでいるという事だけね。ああ、あと今はバイトだから正式な所属ではないけどハーデスの部下をやってるみたいよ」

 

「……そうか。なら、任務中に接触してきたのなら勧誘してみるか。正式な所属でないのなら問題あるまい」

 

「そうね! 正しい道に導いてあげなきゃ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……余計なお世話だよ。玉藻ぉ。下手したら正体バレるかも知れないじゃないかぁ」

 

「も、申し訳ございません、ご主人様!」

 

一誠は異界の保健室で寝ている黒歌の見舞いに訪れていた。膝の上には狐姿の玉藻が乗っており丁寧にブラッシングされている。だが、ブイヨセンからの報告を受けた一誠の手が止まってしまった。先日のポカの件は許したが、再び訪れた正体発覚の危機にブラッシングどころではなくなったようだ。

 

「……隙をみて記憶を消去しといて。なんなら俺に関する記憶全てを変換しても良いから。……とりあえず今回の件で使う部下を今から見繕っておいて」

 

「お任せ下さい、ご主人様!」

 

玉藻はそう叫ぶと一誠の影の中に消えていく。影の中には手駒にした霊のための異空間が存在しているのだ。

 

「……それにしてもコカビエルかぁ。ねぇ、イッセー。白音だけでも守ってくれないかにゃ? 私も風邪ひいてなかったら戦うんだけど……」

 

どうやら黒歌は小猫の身に何かあったらと心配なのか今にでも無理してベットから立ち上がりそうだ。

 

「別に良いけどさ。何ならポチにでも頼む? 群れの仲間の妹なら喜んで守ると思うよ。……玉藻に治してもらったら良いのに」

 

「あの駄狐を頼るのはごめんにゃ!」

 

黒歌が不快そうに言い放ったその時、お粥を持ったレイナーレがノックして入ってきた。

 

「お粥を持ってきたわよ、黒歌。……一誠様、折り入ってお願いが御座います。今の私は我が強くないというだけで玉藻様の配下の幽死霊手ではなく側近である死霊四帝の末席を汚しております。なので、どうかコカビエルの相手は私にさせて頂きたいのです。貴方の側近に恥じぬ力があるか確かめさせてください!」

 

「あ、良いよ。でも、危なくなったら交代させるからね。……最近良いのが手に入ったから力を試したいんだ」

 

一誠の背後には何時の間にか好戦的な笑みを浮かべた龍の姿があった。




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