霊感少年の幽雅な生活 (完)   作:ケツアゴ

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十五話

「え~と、牛乳買った、砂糖買った、粉唐辛子買ったっと……」

 

その日、一誠は近くのスーパーまで買い物に出かけていた。少し住宅街から離れた所のスーパーは良い商品が揃っており、袋の中には直ぐに完売する稲荷寿司やお菓子等が入っている。その帰り道、前を歩いていた少年の尻ポケットから財布が落ちたのを見つけた一誠は慌てて追いかける。

 

「お~い、そこの人。財布落としたよ~!」

 

「ん? あ、マジだ。いや~、悪いな」

 

少年……フリード・セルゼンが一誠から財布を受け取ろうとした時に二人の目が合い、一瞬の内に理解した。コイツは自分と同じ自覚ありの狂人だと……。

 

「……お前名前は?」

 

「ん~、こういう時は名乗らない方が後々面倒事にならなくて良いよ」

 

「そうか。なら、俺っちも名乗らないでおくわ!」

 

ふたりは最後に握手を交わすと互いに名乗らないまま別れる。珍しく自分の同類に会った事に機嫌を良くした一誠はそのまま街中まで足を運び、甘い物でも食べようと思って店を目指していた。

 

 

 

 

 

 

 

「赤龍帝、久しい」

 

「……また君か」

 

だが、途中でオーフィスと再会したことで折角の気分も台無しになる。相手にせずに横を通り過ぎてもオーフィスは着いて来て、一誠は仕方なく相手をする事にした。公園の屋台でクレープを買った一誠は片方をオーフィスに差し出す。オーフィスは首を傾げながらもクレープにかぶりついた。

 

「それで何の用?」

 

「我、次元の狭間帰りたい。力を貸して欲しい。赤龍帝、沢山仲間いるから戦力になる」

 

「う~ん、悪いけど面倒だから嫌。君が死んだら考えてあげても良いよ」

 

一誠は話を切り上げるとそそくさと立ち去り、オーフィスは後を追ってこなかった。そしてその帰り道、

 

 

 

 

 

 

 

 

「こうなったらエクスカリバーで脅してでも金を……」

 

「そうね! 異教徒相手なら主もお許しになるはずよ!」

 

犯罪を行うと宣言している幼馴染とその相棒の姿を見つけた……。

 

「……うわ~」

 

見なかった事にしてその場を立ち去ろうとした一誠であったが、二人は極度の飢えの為か野生の勘を発揮し一誠を発見する。そして一誠が早歩きで立ち去る前に肩に二人の手がかかった。

 

「イッセー君! 丁度良かったわ!」

 

「人違いです人違いです人違いです人違いです人違いです」

 

「聞けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「いや、耳元で叫ばなくても聞こえてるから。年取ると短気になる人って結構いるよね」

 

「その言い方だと私が若くないみたいじゃない! 私は若いわよ!」

 

「同じ年なんだから当たり前でしょ? 誰も君が年寄りだなんて言ってないでしょ。何言ってるの?」

 

「殴って良い? これは殴って良いのかしら!? ゼノヴィア!」

 

「……落ち着け」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後、とあるファミレスのテーブルに大量の料理が並べられ、イリナとゼノヴィアがそれを掻き込むという光景が繰り広げられていた。

 

「……ふ~ん、二人は役者でエクスカリバー云々は演技の練習中だったと。良かったぁ。昔の友……知人が中二病に罹ったり、犯罪に手を染めたと思ったよ。それで二人の役は何? 経費着服しちゃったから金を稼ぐ為に犯罪を犯しても許されるってセリフからして、アホで傲慢な狂信者?」

 

「ぐぬぬぬぬ!」

 

「落ち着くのよ、ゼノヴィア。此処で怒ったら駄目よ!」

 

とりあえず先程の発言の事を言及された二人は芝居の練習だったと一誠に嘘をつく。一誠は取敢えず騙されたフリをして好き勝手述べだした。二人は顔を引きつらせながらも後ろ冷たさと食事を奢って貰っているという負い目から何も言い返せない。なお、一誠はそれを計算ずくで言っていた。

 

「いや~迫真の演技で騙されたよ。でも、路上で舞台度胸をつける稽古も良いけど気をつけなよ? おまわりさんにご厄介になりたくなかったでしょ? それでどんな芝居? やっぱ行き過ぎた信仰で起こる悲劇でもテーマにしてるの?」

 

「わ、悪いけど内容は封切りまで秘密なの。……今となっては警察でカツ丼コースの方が良かったかもしれないわね。……あれ?」

 

一誠の相手をする事に疲れを感じたイリナは少し目眩を感じて頭を押さえる。幸いな事に目眩は一瞬で消えてくれ、一誠はイリナを心配そうな目で見つめた。

 

「大丈夫? そういえば年取ると食べた後に直ぐ眠くなるって言うよね」

 

「私はまだ若いわよ!」

 

「誰もイリナちゃんが年寄りだって言ってないでしょ? 全くこの短時間で二回も同じ事言わせるなんて……。 君って被害妄想気味で怒りっぽいよね。良くないと思うから直しなよ」

 

「ふふふふふ! これはもう神の名の下に断罪するしかないわね。……あれ? あの子は……」

 

「……お話があります」

 

イリナがついに狂った笑いを上げだした時、小猫が一誠達に近づいて来た……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は買ったものが痛むといけないから帰るね」

 

小猫から席を外して欲しいと言われた一誠は料金だけ置いてファミレスを出る。そして人目につかない所まで来た所で立ち止まり呟いた。

 

「……玉藻、メディアさん。二人の記憶は操作してくれた?」

 

その言葉と共に現れたのは玉藻と魔術師を思わせるどこか高貴な風貌の女性。女性の名はメディア。かつてオリンポス神々と夫の裏切りによって人生を狂わされた悲劇の女性である。なお、エルフ耳だ。

 

「は~い! ちゃんと後で違和感を感じない様に正体バレに繋がりそうな記憶を消すのではなく、どうでもいいと気にも止めなくなる暗示をしておきました。褒めてください♪」

 

「ちゃんとやったわよ、坊や。それで約束の報酬は何時貰えるのかしら? あと、そこの馬鹿狐が原因なんだから褒めなくても良いわ」

 

メディアは他の霊と違い居場所と報酬で協力するという関係である。彼女自体の魔術的能力が高いのと、オリンポスの神々への憎しみから完全には支配できず、中途半端に支配するよりは協力関係の方が性能をフルに発揮できると判断したというのが理由だ。

 

「ちゃんと報酬は払うよ。子供服の雑誌とお金で良いんだよね?」

 

「ええ、そうよ。あぁ、ありすや花子達にどんな服を着せようかしら……」

 

メディアは恍惚とした表情で妄想の世界に入る。それを玉藻は呆れたように見ながら肩をすくめた

 

「……これで神代の魔術師だってんだから驚きですよね~」

 

「いや、玉藻も人の事言えないからね?」

 

「……何か言いましたか? ご主人様☆」

 

その時一誠は思った。これ以上は何も言わないほうが良い、と……。

 

「稲荷寿司食べる?」

 

「はい!」

 

 

そして再び帰り道で一誠は不安そうに呟いた。

 

「……ねぇ、三人共。俺が家を出て行く時もお願いね。両親や周囲の人に俺に関する記憶を気にも止めなくなる暗示をさ。本当は出て行きたくないけど、ドラゴンは戦いを引き寄せる。霊使いの力も普通に暮らすには邪魔なだけ。いくら護衛を置いても俺が近くにいたら危険すぎて守りきれないかもしれないからね。……あ~あ、玉藻達と一緒にいられるのは嬉しいけど、なんで俺は神滅具やこんな力を持って生まれてきたんだろうね?」

 

「坊や……」

 

『……すまんな相棒』

 

「大丈夫ですよぉ、ご主人様ぁ! この玉藻がご両親の分までお側にいます。寂しい思いなど決してさせません!」

 

「……うん、玉藻の能天気っぷり見てたら楽になったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ!? 白音が聖剣破壊に協力を申し出たぁ!? ゴホゴホッ!」

 

「うん。そうだよ。木場君は聖剣を扱うために集められて最後は殺された被験者達の生き残りらしくってさ。グレモリーとの交渉の後に戦いを挑んで負けてから様子がおかしいんだって。それを心配しての事らしいよ?」

 

黒歌は妹の行動に驚いて立ち上がろうとして咳き込む。どうやら風邪は結構悪化しているようだ。

 

「あ~もう、あの駄狐に頼るのは癪だし、ポチ達の方が私より強いから任せるけど心配にゃ~」

 

そして、その心配は的中する事となる。一誠とは違って素直な小猫に癒された二人は本部に黙っている事を条件に協力を承諾。二人から神父の服を借りた小猫と祐斗はエクスカリバーを所持しているフリードを探索していた。そして探索から数日後、襲ってきたフリードと戦っていた二人であったが祐斗の作り出した剣は尽く砕かれ、小猫も修行を始めた仙術でサポートするも苦戦する。そして、フリードは聖剣の力を扱いきっていた。

 

「ひゃっはぁ! 其処のオチビちゃんは妙な技を使ってるけどまだまだ練習不足ってとこか? ま、来世では頑張りな!」

 

そう言ってフリードがエクスカリバーを小猫目掛けて振り下ろしたその時、フリードの片手が宙を飛ぶ。フリードの横には一人の侍が立っていた。侍の瞳は黒く、犬歯を剥き出しにしているその風貌は狼を連想させる。そしてその手には妖しき力を発する刀が握られていた。

 

「拙者の名は犬飼ポチ。義によって助太刀致す!」

 

「ぐっ! な、なんだ!? 力が入んねぇ……」

 

フリードはエクスカリバーを杖がわりに立ち上がろうとするもガクッと膝から崩れ落ちる。その脱力は出血だけでは説明できず、フリードは直ぐに原因に行き着いた。

 

「その刀の仕業かよ……」

 

「然り。先ほど貴様を斬った時に傷口から魂の力である霊力を吸い取った。さぁ、小僧。復讐を果たすのなら今だ」

 

「……そうだね」

 

祐斗は急に現れたポチに戸惑いつつもフリードを睨み、エクスカリバーを砕こうと斬りかかる。だが、突如飛来した光の槍によって遮られてしまった。

 

 

 

 

 

 

「……やれやれ。今其奴を殺されては困るのだがな」

 

「コカビエルの旦那ぁ!」

 

何時の間にかフリードは十枚の羽を持った堕天使……コカビエルに抱えられていた。コカビエルは小猫達を一瞥しポチの所で表情が固まる。まるで思い出したくない記憶が蘇ろうとしているような顔だった。どうやら受けた仕打ちがかなり堪えたらしく、軽い記憶喪失に陥ったようだ。

 

「……ぐっ。あの男を見ていたら頭痛が。何だ? 絶対に思い出してはいけない気が……。糞っ! ここは引くぞ!」

 

 

 

「見つけたぞ、コカビエル! 怪我はないか、小猫!」

 

「小猫ちゃん、やっほ!」

 

コカビエルはフリードを連れて逃げて行き、騒ぎに気付いて駆けつけたイリナ達はその後を追う。その時、小猫の傍を通り過ぎる際に笑顔を見せた。直前まで一誠の相手をしていた反動から小猫の好感度がかなり高い事になっているようだ。

 

「僕もっ!」

 

「……行かせません」

 

祐斗は二人の後を追おうとするも小猫に羽交い締めにされて足止めされる。その間にコカビエルは遠くまで離れていき、ポチはその場を微動だにしなかった。

 

「……貴方は行かないんですか?」

 

「拙者の役目は仲間である黒歌の妹の貴様を守る事。奴の相手をするのは別の奴よ」

 

その時、近づいてくる気配を察知したポチが横を見ると困ったような顔のリアスが立っていた。

 

「二人共説明してくれるかしら? 其処の貴方にも付いてきて貰うわ」

 

「……良いだろう。言わなければいけない事も有るで御座るからな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それじゃあ貴方は赤龍帝の部下なのね?」

 

「然り。拙者は死霊四帝が長、犬飼ポチ。誇り高き人狼族の侍で御座る。此度は主君の命令により小猫を守る事になった」

 

オカルト研究部の部室にはお仕置きとして尻を叩かれた小猫と祐斗が蹲っており、リアスの質問に答えるポチの姿があった。

 

「……そう。仲間がコカビエルの相手をするんでしょ? どうせ私達がやるから介入するなと言っても聞かないだろうし協力しましょ?」

 

それはリアスに出来る最大限の譲歩だった。本来なら魔王に援軍を要請するべきなのだが、プライドの高い彼女は自分の縄張りの問題は自分達で解決するべきと考えそれを嫌がる。本当ならポチ達にも介入されて欲しくないのだが言っても聞かず、下手したら戦いに巻き込まれる可能性もあるので協力して戦おうと言ったのだ。だが、当のポチは困惑した顔をしていた。

 

「……すまぬ。今の話では貴様らも戦う気に聞こえるのだが、拙者の理解力不足か? あの程度の雑魚相手に勝ち目のない貴様らが拙者達に協力? 正直言って足手纏いで御座る。……まぁ、そこの小僧はエクスカリバーに因縁がある様だから同席を許すが、残りは冥界にでも避難するか街の住人の警護にでも回っておるがいい」

 

「……なんですって! 私にはこの土地を任された責任があるわ!」

 

「笑止! 堕天使に短期間で二回も好き勝手されておきながらよく言う。先日の件でも此度の件でも既に犠牲者が出ているというのに、それで管理できていると? 言っておくが貴様らが勝手に首を突っ込んでも、拙者は小猫以外は守る気はないで御座る。勝手に討ち死にして自己満足に浸るが良い」

 

ポチはそう言うと部室から出て行こうとし、最後に侮蔑の混じった声で告げる。

 

「先日の契約者が惨殺され、此度の一件でも神父達が殺されていると聞く。それに何程の民草が怯えていると思う? 彼らは不安なのだ。殺人鬼の牙が自分達に向けられるかもしれぬとな。……忘れるな。それらは貴様ら悪魔と堕天使の争いが引き起こした事だっ!」

 

ポチはそう叫ぶと乱暴に戸を閉めて出ていき、その言葉はリアス達の心に重く伸し掛った……。




松田君は原作イッセーと違って祐斗との友情イベントが少なく探索に協力してません。匙も一誠が引き込んだから協力してません。

意見 感想 誤字指摘 活動報告でのアンケート お待ちしています

犬飼ポチ GS美神麗子極楽大作戦 人狼の侍で仲間を殺し宝を持ち出し人を殺して狼王になろうとしていた

メディア フェイトステイナイト 可愛い物と寡黙で誠実な男性が好きな魔女

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