霊感少年の幽雅な生活 (完)   作:ケツアゴ

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今回は閑話的話です 


十九話

セラフォルー・レヴィアタン。彼女は最強の女性悪魔であり、魔王の一角である。外交担当としての仕事に励む一方で自らが主演する魔法少女物の番組制作も行っているのだ。なお、その格好は日本で人気のある魔法少女の格好そのまんまである。なお、彼女の同年代であるサーゼクスには既に子供が居る事からして、彼女が少女を名乗るのは少々無理があるだろう。もっとも、誰も後が怖くて指摘できないが……。

 

「いやさぁ、別にコスプレ自体をどうこう言う気はないよ? でも、此処は公共の場なんだし、相応しい服装があると思うんだ」

 

『キツい』。その誰も言えなかった一言を一誠は初対面で言い放ち、周りに居た知り合い達も内心で頷く。ソーナなどは心の中で一誠に声援を送っていた。もっと言ってくれ! と……。

 

「ぶ~! これが私の正装なの! この格好で魔法少女レヴィアたん、って番組だって作ってるんだから!」

 

溺愛する妹の心中など知る由もないセラフォルーは幼い少女のように頬を膨らませて抗議する。見た目が若いから似合っているが、彼女の実年齢を知る者、特に実妹のソーナなどは徐々胃がキリキリと痛み出しそうになっていた。普通ならドン引きして其の場を離れる所だが、生憎一誠は普通ではない。

 

「え? でもその服装ってCMで同じようなの観た事あるけど、確かミルキーだっけ? 著作権とか大丈夫? それと魔法少女物の服装って認めたって事は正装じゃないじゃん。あれはああいう子供向け番組の為の衣装なんだからさ。ねぇ、会長。お姉さん怒ってるけど、俺さっきから何か間違ったこと言ってる?」

 

「やめてあげて!? 会長のライフはもうゼロだ!」

 

一誠の容赦ない言葉に先にソーナの方が限界を迎え、慌てて匙が止めに入る。そしてセラフォルーも涙目になるまで追い詰められていた。

 

「ソーナちゃんなら分かってくれるよね? 私ってキツくないよね!?」

 

実の姉であり魔王でもあるセラフォルーの問いにどう答えて良いか困ったソーナは思わず目を逸らす。そしてそれが彼女が出した答えを表していた。見る見る内にセラフォルーは泣き出しそのまま走り去っていってしまった。

 

「うわ~ん!! ソーナちゃんがお姉ちゃんを虐めるぅぅぅぅ!!」

 

なお、未だに彼女の服装は魔法少女のコスプレのまま。そしてその服装でソーナの名を叫びながら学園の廊下を走っていく姉の姿に呆然としていたソーナはハッと我に帰った。

 

「学園内をその格好で私の名を叫びながら走らないでください、お姉様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……呆れた。貴族の掌握もロクにできてないっていうのに自由気侭すぎるわね。セラフォルーって子供が居てもおかしくない年齢なんでしょ? それは痛々しいわね」

 

「だよね~。玉藻も時たま痛々しい時があるけど、あれ程ではないよ」

 

翌日、メディアに用があると呼び出された一誠はお茶を入れながら授業参観の時に出会ったセラフォルーのことを話していた。メディアは呆れ半分怒り半分といった様子だ。

 

「全く! ミルキーは少女の夢なのよ! それを自称少女が汚すなんて!」

 

「……あ、やっぱ好きなんだミルキー。あっ、何でもありません。だからその物騒魔法陣消してください」

 

「分かれば良いのよ。じゃあ、お願いなんだけど……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メディアさん、大砲大砲!」

 

「え、ええ! って、突撃してきたわよ!? え、え~と、こんな時は……」

 

「大銅鑼大銅鑼!」

 

メディアの頼みというのは大人気の怪物狩猟ゲームの手伝いをして欲しいというものだった。仕事に関係する機械はサッパリな彼女だが娯楽関係の機械は使いこなせているようだ。もっとも、ゲームの腕前は下の下ではあったが……。

 

 

「ま、まさか下位で五回連続失敗なんて……」

 

「え、ええ、悪かったわね、坊や。な、何とか撃破したわ」

 

どうやらメディアが足を引っ張りまわり、何度目かで漸く目的を果たしたらしく一誠は心身ともに疲れきっていた。だが、当の本人であるメディアはまだまだやる気の様だ。

 

「さぁ! 次はイベントクエストを手伝って貰うわよ!」

 

「……勘弁してください」

 

「はん! 坊やの意見は聞いてないわ。……そういえば馬鹿狐とは上手くやってるの? いい子なんだから大切にしてあげなきゃダメよ?」

 

「あ、うん。この前、冥府に行った時にデートしたんだけど、結婚式場とか見て回ったよ」

 

どうやら玉藻を普段から馬鹿呼ばわりしているメディアだが、それなりに長い付き合いからか気にかけているようだ。一誠と玉藻が上手くやっていると聞いた彼女は安心したような顔をする。

 

「そう、なら良かったわ。……私はオリンポスの神々に人生を狂わされたから貴方達の事が心配なのよ。坊やには感謝しているわ。幽霊として彷徨っていた私に実体化に必要な霊力を分けてくれて現在の常識を教えてくれたんだから」

 

「あ、気にしないで。俺もメディアさんにはお世話になってるし」

 

「そう。此れからも宜しく頼むわね、坊や。馬鹿狐との結婚式には呼びなさい。会いたくない奴らも居るけど出席してあげるわ。……所で其処にある禍々しいオーラを放っている包みは何なのかしら?」

 

メディアが訝しげに見つめる先には怨念に塗れた包みがある。一誠が包の中身を取り出すと人間の皮肉で作られた本だった

 

「あ、コレは爺さんから貰った呪いの本。確か『螺湮城教本(プレーラーティーズ・スペルブック)』だったかな?」

 

 

 

 

 

 

 

昔々ある所に三人の兄妹達がいました。一番上の兄が十歳の時に両親を亡くした三人は教会の孤児院に入り、やがて神父とシスターになりました。三人は常に神への感謝を忘れず、兄妹仲良く暮らしていたのです。ですが、ある日一番下の妹が居なくなり、数ヵ月後に悪魔になって帰ってきました。見え麗しく成長した彼女には強力な神器が宿って降り、それを狙った悪魔に連れ去られ無理やり悪魔にされて逃げてきたのです。当然兄と姉は妹を庇いますが教会が悪魔を見逃す筈も無く、妹を守る為に二人は教会から飛び出しました。旅の途中何度も辛い事がありましたが兄妹は力を合わせ、神への祈りも忘れませんでした。

 

「きっと神様が助けてくれる。それまでの辛抱だ。これは神がお与えになった試練なんだ」

 

そう思い、教会にいた誰よりも兄は神への信仰を抱き続けます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

堕天使のはぐれ悪魔狩りによって妹二人を失うまでは……。上の妹は悪魔になった妹を守ろうとして殺され、下の妹も殺されてしまい、残された兄は全てを呪いました。

 

なぜ神はこのような仕打ちをしたのか。なぜ悪魔は妹を悪魔にしたのか。なぜ堕天使は何もしていない妹達を殺したのか。なぜ自分は二人を守れなかったのか。やがて信仰心は憎しみに変わり、その憎しみは普通に暮らしている人々へも向けられます。なぜ、妹達は殺されたのに、この人達は普通に生きているのか。狂気に染まった兄はやがて多くの人を殺し、自分の命を代償にして一冊の魔道書を作り上げます。

 

込めたのは三大勢力への憎しみ。やがてその本はハーデスの手に渡りました。

 

 

 

 

 

 

 

「それがこの本? うわ~、すっごい怨念♪ 常人なら発狂してるね」

 

《ファファファ……。お前なら大丈夫だろう? くれてやるから好きに使うが良い》

 

一誠が本を手に取ると込められた怨念が彼の体に纏わり付き、直ぐに本へと戻っていく。どうやら彼を主と認め服従したようだ。ハーデスはそれが最初から分かっていたかのように驚いた様子を見せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それは本当か? 赤龍帝は邪龍の魂を蘇らせたり悪霊を操ったりしたのか……」

 

その頃、会議室で悪魔側に忍ばせたスパイからの報告を受けたアザゼルはしばらく思案した後に、とある結論に行き当たった。

 

「……間違いねぇ。赤龍帝は『幽世の聖杯(セフィロト・グロール)』を誰から奪って宿している。もしくは協力者に所有者が居るに違いねぇ。……その場合は報告にあった半死神の嬢ちゃんが怪しいな」

 

「なぁ、アザゼル。ハーデスがスカウト中というなら霊使いの可能性は無いのか? たしか数百年前には結構居ただろ?」

 

アザゼルの出した結論に対し、一人の幹部が鋭い事を言う。だが、アザゼルは否定するように首を横に振った。

 

「いや、いくら何でも強力すぎる。滅んだ魂を復活とか人間の領分を超えすぎだ。絶対に有り得ねぇよ。……会談に出席するらしいから聞いてみる必要があるな。禁手の亜種ってのに興味がある。くぅ~! 研究してぇ」

 

こうして盛大な勘違いをしたままアザゼルは会議室を後にした……。




意見 感想 アンケート(傲慢・幹部の両方) 誤字指摘お待ちしています


勘違いが進む(笑)

螺湮城教本 フェイトゼロ キャスターの宝具 ハイスクにはクトゥルフ系のは出ないらしいので少々変えました

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