霊感少年の幽雅な生活 (完)   作:ケツアゴ

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二十一話

二天龍、かつて三すくみの戦争に乱入して封印された最強のドラゴン達は他の勢力とも色々とも因縁がある。冥府の王であるハーデスも二匹の事を恨んでおり、一誠がドライグの就寝中に出した提案には直ぐに食いついた。

 

『赤龍帝ドライグはロリペドであり、白龍皇アルビオンは―――』

 

意外とノリの良い死神達の手によってネット内で広がったこの情報は二匹の預かり知らぬ間に広まって行く。幸か不幸かドライグはその事を知らないでいた……。

 

 

 

 

 

「ありゃりゃ、完全に停まってるよ」

 

 一誠は時を停められて動けない小猫の目の前で手を振りながら楽しそうに呟く。他にも警備の者達やシトリー眷属。アーシアや松田、朱乃も停まっているのを見た一誠は小猫達から視線を外す。その目は旧校舎のある方向に向けられていた。

 

「あそこに時を停める神器の持ち主が居るんだよね? 確か……マスターが裏で、だったけ?」

 

「あ~もう、違いますよぅ、ご主人様。カスタードの奈良漬け、ですよぉ」

 

二人は大して興味がないのかどうでも良さそうに言い、先程から黙って聞いていたリアスは我慢できずに叫んだ。

 

「ギャスパー・ウラディよ! って言うか間違いすぎでしょ!? マスターが裏でなにしたの!? って言うか、その不味そうな料理は何!?」

 

「え? 知る訳ないじゃん。前から思ってたんだけど、君ってすぐ叫ぶよね。更年期障害なんじゃない?」

 

「あ~、もう! ……それにしても何処で私の眷属の情報を得たのかしら。私の眷属を使って会談の邪魔をするなんて、これ以上の侮辱はないわ!」

 

今回の会談には神器のコントロールが未熟な彼を連れてこず旧校舎の部室で留守番させていたのだが、どうやらメディアの予想が的中して襲撃が有り、それにギャスパーが利用されたようだ。

 

「いや、木っ端貴族のなら兎も角、公爵家の次期当主の眷属の情報なら手に入れるルートなんて幾らでもあるでしょ。って言うか、いくら警備があるて言っても下手したら即開戦なのに護衛の一人も置いてなかったの? そもそも君の眷属を利用されたんだから、君の手落ちだよね?」

 

「ッ! 分かってるわ。お兄様、責任を取って私があの子の救出に行ってきます! 幸い未使用の『戦車』の駒が旧校舎にありますからキャスリングを使えば侵入できますわ!」

 

「分かった。グレイフィア、すぐに術式に改良を加えて他の者も飛ばせるようにしてくれ!」

 

「はっ! 一人くらいなら直ぐにでもできます」

 

グレイフィアが術式の準備をする中、校庭に魔方陣が現れローブを着た集団が現れた。どうやら魔術師のようで力は中級悪魔程度といったところだろうか? 魔術師達は次々と転移し、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのまま不気味な怪物達と地面から伸びてきた黒い腕によって命を絶たれる。怪物はイソギンチャクやタコなどの海洋生物に似た姿をしており、先程から耳障りな叫び声を上げながら触手で魔術師達を刺し殺していく。

 

『ギィィィィィィィィッ!!』

 

「ひ、怯むな!」

 

急に現れた怪物達にパニックに陥りかけていた魔術師達であったが、一人の魔術師が魔法を放つと怪物は呆気なく死に絶え、血肉を校庭にブチまける。それを見て冷静さを取り戻した魔術師達は次々と怪物達を殲滅していった。

 

「はははは! 何だ大した事……」

 

先ほど最初に怪物を倒した魔術師は言葉の最中に自分の胸部を見つめる。彼の胸から不気味な色合いの触手が生えウネウネ動いていた。後ろを振り向くと先ほどブチまけられた怪物の血肉が蠢き新しい怪物が其処から出現して来る。そして彼の体を貫いた怪物の触手がズブリと引き抜かれると同時に彼の体は崩れ、そのまま押し寄せる怪物によって引き潰されてしまった。

 

 

 

 

 

 

「皆死んで行くのね……。全部、市のせい……」

 

別の場所では一人の美女が次々と魔術師達を薙刀で切り殺していく。その美女はどこか儚げな印象を感じさせる黒髪の女性で、自虐的な台詞を吐きながら薙刀を振るう。まるで舞うかのような動きで魔術師達の放った魔法を避け、防御結界後とその体を切り裂く。そして極め付きは彼女の影から伸びた黒い腕。まるで意志を持つかのように魔術師に襲いかかり、その体を貫き、握りつぶしていった。

 

 

 

 

 

 

 

「……さてと、最初の約定では襲撃者は俺の好きにして良いんだよね? 尋問用に何人か残そうか?」

 

一誠は外の様子を見ながらサーゼクス達に話し掛ける。この会談に出席する事の条件を幾らか出していたのだが、その内の一つが先程言った事だ。そんな中、アザゼルの目は彼の手の中の『螺湮城教本』に注がれていた。

 

「おい、その魔術書であの怪物を生み出してるんだよな!? そんなの何処で手に入れたんだ!?」

 

その言葉を聞いた時、玉藻の目が妖しく光り、実に愉快そうな笑みを浮かべる。まるで獲物を甚振るという狐の性を思い出したかの様な嗜虐的な笑みを浮かべた彼女は大げさな手振りをしながら口を開いた。

 

「この本ですか? もともとハーデスさんから貰った物ですが、貴方達のおかげで手に入れたような物なのですよ。いえね、信仰心の強い神父が居たのですが、下の妹が神器と器量目当てに無理やり悪魔にされ、逃げ出してきたものの教会には戻れない。だから上の妹と一緒に逃げた先で堕天使によって妹を二人共殺されたんですよ」

 

その言葉にサーゼクスとセラフォルー、そしてミカエルの顔が曇る。貴族の管理や自分の不手際によって起きた悲劇を聞かされた魔王達やミカエルが落ち込む中、一誠が続きを話しだした。

 

「そして神父は全てを呪ったんだ。妹達を死に追いやった君達、自分達と違って幸せに生きている他の人、そして妹達を守れなかった自分自身をね。俺には聞こえるよ。この本に込められた神父の叫びがさ……。あ、もう準備が出来たみたいだね」

 

「祐斗、着いて来て!」

 

「はい!」

 

リアスが転移しようとする中、一誠は彼女に話しかける。

 

「あ、どうせ無理だろうから俺の手駒を送っておいたよ。君が失敗したら助けに入るから」

 

「ッ!」

 

リアスは一誠に何か叫ぼうとするも転移するほうが早く、彼女達の体は光に包まれ消えていった。すると先程まで一誠の後ろで黙っていた騎士が剣の柄に手をかける。室内に見慣れない紋章が描かれた魔方陣が出現した。

 

「旧レヴィアタンの紋章……」

 

「首謀者のお出ましって訳か」

 

魔方陣が光り輝き、中から一人の女性が出現する。彼女は胸元を大きく開け、深いスリットを入れている服を着ていた。

 

「ごきげんよう、現魔王のサーゼ―――」

 

「えい」

 

そして、一誠が彼女が転移するに合わせて顔目掛けて投げた袋が彼女の顔に当たり、真っ赤な粉末が彼女の顔の周囲を覆う。一同が唖然として固まる中、女性は顔を押さえながら床を転がりのたうち回る。

 

「め、目がっ!? 鼻が、喉がぁぁぁぁっ!!」

 

仰々しく登場したのに叫びながら醜態を晒す彼女を見た騎士は戸惑った様子で玉藻に問うた。

 

「あ、あの~、玉藻殿。主はあの女人に何を投げつけたのでしょうか?」

 

「唐辛子粉ですよ。それも事前に何度も譲渡を繰り返し辛さを増した奴です。……何か言いたい事がありそうですねぇ」

 

「い、いえ、そのような事は……」

 

玉藻が目を細めて騎士を見ると騎士は言い淀む。どうやら彼の持つ騎士道からすれば不意打ちで目潰しを行うような事はとても見逃せないようだ。でも一誠は主であり苦言を呈するのも憚られる。そんな彼の心情を察したのか玉藻は次のように言った。

 

「貴方はご主人様にお仕えして日が浅いですからまだ慣れていないのでしょうが、あの程度で動揺していたら持ちませんよ? それに、あの方があのような卑劣な策をとるのも全て犠牲を最小限に抑える為。つまり、私達や周囲の者達の事を思っての事なのです」

 

「な、なんと! 主よ、申し訳ございません! その様な深いお考えが有ったなど考えもせず失礼な事を申し上げました!」

 

騎士は玉藻の言葉に感激し、一誠の前で膝をつくと胸を叩き忠義を誓うポーズをとる。その時、パシャンという水音と共に女性が起き上がる。どうやら水の魔力で唐辛子粉を洗い流したようで、真っ赤になった眼で一誠を睨んでいた。

 

「おのれ人間の分際で! 私を真なる魔王の血統であるカテレア・レヴィアタンと知っての所業か!」

 

「え~、たかが人間って言う事は基本的に悪魔より人間を見下してるんだよね。でもさ、その理論からしたら君達に勝った現魔王の方が君達より高尚って事になるんじゃない?」

 

「ッ! おのれぇぇぇ!!」

 

カテレアは一誠の言葉に激昂すると魔力を放つ。だが、その一撃は騎士が持ったアスカロンによって防がれた。

 

「……私が居る限り主に危害を加える事はまかり通らん。貴殿は既に名乗っていたな。ならば私も騎士の礼を持って名乗ろう。私は円卓の騎士が一人湖の騎士……いや、赤龍帝が配下『死従七士』が一人にして『憤怒』を背負いし将、サー・ランスロットなり!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほらほら、動いたら此奴を殺すわよ」

 

「くっ……」

 

ギャスパーを助けに旧校舎に侵入したリアスと祐斗であったが、それを読んでいたのか女魔術師達は縄で縛ったギャスパーを人質にし、動けないリアス達に一方的に攻撃を仕掛ける。彼女達に殴られたのか顔にアザができているギャスパーは涙目になって叫んだ。

 

「部長! も、もう僕の事は見捨てて下さい!」

 

「五月蝿いわよ!」

 

「きゃんっ!」

 

だが、その叫びがカンに触ったのか一人がギャスパーを殴りつける。彼はその一撃を受けて気絶したのかガクリと落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ったく、やっぱり無理だったじゃねぇか……よっ!!」

 

「がっ!?」

 

そして次の瞬間、口調が変貌したギャスパーは縄を力尽くで引きちぎると先程自分を殴った女魔術師の鳩尾に肘を打ち込む。不意打ちで喰らわされた一撃は彼女の肺の中の空気を全て追い出し、意識を一瞬途切れさせる。そしてそのままギャスパーによって蹴り飛ばされ、壁に飾ってあった鎧に激突して気を失った。

 

「ギャ、ギャスパー?」

 

「ん? ああ、コイツってギャスパーって名前だったか」

 

眷属の変貌に動揺したリアスの声が聞こえたのかギャスパーはリアスの方を振り向く。その両頬には丸い模様が現れていた。そしてギャスパーが手を時計に向けると針が動き、旧校舎の時計全てが四時四十四分を指し示す。その瞬間、部屋の風景が変貌した。

 

「さてさて、皆様お立会い。只今の時刻は四時四十四分。誰も知らない授業の始まりだっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一誠の行動を見ていたアルビオンは若干引いた様子でヴァーリに話しかける。

 

『……今回の赤龍帝はアレだな、ヴァーリ。赤いのが最凶と言った意味が良く分かった』

 

「……ああ、外道だな。あの性格の上に最強って言うんだから厄介そうだ。だが、それでこそ面白いじゃないか。どんな策も力も正面から打ち砕いてやるさ。……ところで君に関するあの噂って誰が流したんだろうな」

 

『……あの噂の事を言わないでくれ』

 

その時の彼の声は悲哀に満ちていた……。




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サー・ランスロット フェイト・ゼロ

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