霊感少年の幽雅な生活 (完)   作:ケツアゴ

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二十五話

冥府の死神の間での一誠の評価はかなり高い。当初はたかが人間の子供と侮られていたが月日を重ね実績を上げる事で徐々に認められ、今では正式な所属ではないにも関わらず幹部クラスの扱いを受けている。先日一誠と初めて会った死神は彼の事をよく知らなかったので若干上から目線の話し方であったが、今では口調を改めている。

 

 

「あらぁ、やっぱり首都は賑やかでいいわねぇ」

 

「まぁ、貴族達も金を注ぎ込んでますからね」

 

だから今回のように要人の護衛という重要な任務も任されるのだ。ハーデスが一誠を呼び出したのは、妻であるペルセポネーが冥界観光に行きたいと言っているので護衛を頼みたいというものだった。国賓として向かったり、ゾロゾロ護衛を引き連れて行くのは息が詰まるという彼女の願いから幼い頃からの顔見知りで実力もある一誠が適任だろうという事になった。

 

《奥方様。飲み物を買ってきましたよ》

 

流石に冥府の者を付けないというのも問題なのでプルートも同行している。一誠はギリシア観光の合間に冥界観光をする位のつもりで引き受け、玉藻と共に冥界に来ていた。なお、その間の総責任者は口裂け女とランスロットが引き受け、他のマトモな連中も問題児組を見張るらしい。そして、ペルセポネーの願いもあり、他に二名の者が同行していた。

 

「お兄ちゃん、あたしアレが欲しい!」

 

「お兄ちゃん、アレ買って!」

 

一緒に冥界に来ているのは、ありすとアリス。どうやら 屋台のクレープが食べたいらしく一誠に強請っている。するとペルセポネーが財布からお金を出して二人に渡した。

 

「じゃあ、私の分も入れて三個買って来てくれるかしら?」

 

「うん! 有難うオバさん!」

 

「有難うね!」

 

柔和な笑みを浮かべる彼女からお金を受け取った二人はお礼を言うと嬉しそうに屋台へと駆けていく。ベルセポネーはその姿を慈しむように見ていた。

 

「……やっぱり子供は良いわねぇ。私とあの人の間には子供が居ないからあの二人を護衛につけて貰って良かったわ」

 

「すいません、ペルセポネーさん。お金は後で返します」

 

一誠はペルセポネーにそっと頭を下げる。普段は敬語を使わない一誠だが、彼女に対しては何故か敬語を使っていた。本人も理由は分からないが使わなければならない気がするらしい。

 

「別に良いわ。旅費の全てをあの人が持つ約束だったでしょ? ウチでは財布を握っているのは私なのよ。それに遠慮なんかしなくて良いのよ。一誠ちゃんも玉藻ちゃんも昔から知っているんですもの」

 

そう言って彼女は再び微笑む。ペルセポネーの見た目は三十路に差し掛かった位だが、ハーデスを魅了した美貌は全く色あせず近くを通りかかった者達の殆どが一度は振り返って彼女を見ている。そんな彼女だが持ち前の性格から冥府では母親的存在として慕われていた。

 

それは彼女が持ち合わせた性質なのか、それとも先程言っていたように子供が居ないのでその分の愛情を周りに振りまいているのか。それは夫であるハーデスにも分からない。ただ確かなのは彼女が優しい性格であると言うだけだ。

 

 

「ほらほら、口元にクリームが付いているわよ」

 

今もありすの口に付いたクリームをハンカチで拭っている所を見ると子供好きの様だ。

 

「……そういえば私やご主人様もお世話になりましたねぇ。私は生まれて直ぐにご主人様の家に貰われましたから、母親ってあの人みたいなのを言うんだなぁって思いましたよ」

 

「俺も母さんは居るけど、あの人の事も母親みたいに思ってるよ」

 

ありす達と戯れる彼女の姿を見た二人はシミジミと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらあら、やっぱりこういうのは冥界まで出向かなきゃいけないわねぇ」

 

クレープを食べ終えた一行が次に向かったのは大型のショッピングモール。ペルセポネーがアクセサリーが見たいと言うので一誠と玉藻が同行し、ずっと病院暮らしだったせいかアクセサリーに興味がないありす達はプルートに連れられて玩具売り場に行っている。プルートもプルートで子供好きのようで、いつも付けている道化の仮面のせいで寄ってくる子供達の相手を嫌な顔一つせずにしていた。

 

「わ~、ピエロさんだぁ」

 

「ねぇねぇサーカスでもやるのぉ!?」

 

《はいはい、騒がない騒がない。……何ぃ! 迷子ぉ!? こ、この子のお母さんは何処ですかぁ!?》

 

「プルートさんって相変わらず人気ね、あたし」

 

「プルートさんって相変わらず人気よ、わたし」

 

二人は買って貰ったばかりのビックサイズのクマのヌイグルミを抱えながら慌てふためくプルートの姿を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はわぁ~! コレ、良いなぁ」

 

護衛の途中、玉藻の目にとある指輪が入ってきた。オリハルコン製の指輪であり、玉藻はソレを一誠から婚約指輪として渡される自分の姿を想像して顔を赤らめる。今まで何度も好きと言って貰ったり結婚の約束はして貰ったが肝心の指輪は貰っていないのだ。

 

「ま、まぁ、リボン買って頂きましたし、ご主人様も高校生ですから将来に期待という事で!」

 

「玉藻! そろそろ行くよ!」

 

「近くにある高級焼肉店に行きましょぉ!」

 

「焼肉!? 行きましょう♪」

 

玉藻は自分にそう言い聞かせると一誠達と共に店を出ていく。既に彼女の頭の中は焼肉で埋め尽くされ、指輪の事など何処かへ行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミノタウロスの上カルビ、ケンタウロスの馬刺し三人前お待たせ致したぁ!」

 

「あらあら、其処に置いてくれるかしら?」

 

網の上では炭火にあぶられた肉が食欲を誘う匂いを漂わせながらジュージューと音を立てる。時折滴り落ちた油のせいで火が立ち上るも一行はそれを気にせず肉に箸を伸ばしていた。

 

「ほら、二人共。ちゃんと野菜も食べないと駄目ですよ」

 

「……ピーマン嫌い」

 

「わたしは玉ねぎ……」

 

ありすとアリスは嫌そうにしながらも玉藻の言う通りに野菜を口に運ぶ。それを見た一誠は二人の皿に次々とお肉を入れていった。

 

「あらあら、こうして見ると貴方達って親子みたいね」

 

《そう言えば玉藻さんには子供は出来るのですか? 普段から子供は三人は欲しいと言っていますが霊体ですよね?》

 

「……」

 

プルートの質問に玉藻は急に黙り込む。拙い事を聞いたかとプルートがたじろいた時、急に笑い声が聞こえてきた。

 

「……ふふふ。あーっはっはっはっはっは! よくぞ訊いてくださいました! 本来なら霊体の私には子はできませんが、ご主人様から色々やって注いで頂いた霊力と精力によって肉体を作れるの御座いますよ!」

 

「わぁ! オバ様って凄いんだね。じゃあ、あたしもお兄ちゃんのお嫁さんになれるのかなぁ?」

 

「オバ様って意外に凄いのよ。じゃあ、わたしもお兄ちゃんのお嫁さんになれるわね」

 

「誰がアンタラの分まで肉体を作ってやるかぁ! ってかオバ様言うなっ! 言っとくけどアンタらの方が年上ですよっ!?」

 

子狐の玉藻が死んだのは十年前。ありす達が死んだのは二十年以上も前だった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『魔法少女レヴィアたん☆』

 

「……何かしら、コレ」

 

食事を終えて街中を散策していた一行は電気屋のテレビで流れていた、玉藻曰く『コスプレババア一号』の主演する番組を見てペルセポネーは固まっている。悪魔や堕天使が嫌いなハーデスであるが冥界の情報は仕入れており、妻である彼女も情報としてセラフォルーの実年齢を知っている為に目の前の光景が信じられないのだ。

 

「あはははは! これ本人は本気らしいですよ?」

 

一誠が画面内のセラフォルーの姿を笑った時、路地裏から一人の少女が出てきた。年の頃は一誠と同じくらいで少し窶れており髪はボサボサで服は薄汚れている。

 

「た、助けて……。訳も分からない内にこんな所に連れてこられて、『お前はもう私の眷属なのだから言う事を聞け』って……」

 

「……まだこ~んな闇が巣食っているって言うのにね」

 

「あらあら、それは可哀想に……」

 

《奥方様。此処は冥界です。あまり勝手な事は……》

 

一誠が少女が無理やり悪魔にされたのだと理解した。もっとも一誠にとってはどうでも良く、ペルセポネーも少女に同情するが立場があるのでどうにも出来ない。少女は追いついてきた追っ手に捕まり、彼女を無理やり悪魔にした悪魔の所に連れて行かれた。

 

「悪魔って人間を拉致しても良いのね、アリス」

 

「魔王が黙認しているんだから合法なのよ、ありす」

 

実際に魔王達は無理やり悪魔にされた者や不利な契約をさせられている者が多く居るのを知っていながら大した対策を取っていない。駒を渡す前に素行調査をしたり、あまりに扱いが酷なものは眷属を取り上げたりなどしておらず、中学生に上がる頃に駒を貰った者も居る。そしてもし主を殺して逃げた場合、どんな理由でも親族にまで責が及ぶのだ。それを聞いたペルセポネーは悲しそうに顔を俯けた。

 

「……酷いものね。無理やり悪魔にされた子の為に元の種族に戻す研究もされていないのでしょ?」

 

「ええ、少なくてもそんな話は聞いた事がございません。どうせ悪魔の滅びを防ぐ為には貴族の協力が必要、とか思っているのでしょう。まぁ、私もご主人様も汚れるだけ汚れている身ですからこれ以上は言いませんが……」

 

玉藻はそう言うと一旦言葉を切り、目をスっと細める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「呪殺は私の十八番なんですよ♪」

 

その日一人の貴族が死に絶え、彼が無理やり悪魔にした眷属達は消息を絶った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、すっかり気疲れで窶れたランスロットだったが一誠の労いの言葉一つで復活し残りの日程も頑張ろうと張り切る。ありす達は疲れたのかヌイグルミを抱き抱えて眠り、大人組もハーデスがペルセポネーに秘密で買って隠しておいた高級酒を飲み干して酔いつぶれていた。そして玉藻がそろそろ寝ようとしていた時、一誠から小箱を手渡された。

 

 

 

「ほら、言葉だけでちゃんとした物を渡していなかったからさ」

 

箱に入っていたのは昼間彼女が見とれていた指輪だった。

 

「ご、ご主人様ぁ……」

 

玉藻の目に涙が貯まり、玉藻はソレを思わず手で拭うとそっと手を差し出す。

 

「……嵌めて頂けますか?」

 

「……ああ」

 

一誠は玉藻の手をそっと取ると指輪を近づけ……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ、ごめん。指どれだっけ?」

 

「ご主人様ぁ~!」

 

何とも言えない間抜けな空気が流れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なお、余談だが一夫多妻去勢拳はギリシア女神が全員習得しており、玉藻もペルセポネーから教わったのである。




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