心地よい日差しの中、数名の女性がお茶会を催していた。参加しているのはギリシア神話の女神達と玉藻。女神に相応しい美貌を兼ね揃えた彼女達は優雅に談笑を続け、話題は玉藻と一誠の事に移った。
「しっかし、まさかあのチビ助が婚約指輪を渡すまでになるとはねぇ。人間ってのは成長が早いよ。ま、アンタが正式にアイツと結婚した時には私に万事任せときな。ハッハッハッハッハ!」
玉藻が指に着けた指輪を見ながら豪快に笑うヘラ。ゼウスの正妻であり、かなりの力を持つ女神だ。その姿は若々しく、結婚や子供を守る女神でもある。一誠は小さい頃からハーデスと契約を結んでいた為、ヘラとも知り合いだったようだ。
「ええ。私も昨日の事のように思い出せますわ。ハーデス様に連れられた一誠が子狐の霊だった貴女を抱き抱えて不安そうに私達の顔を見ていたのを。良かったですね、玉藻」
気風の良いヘラと違い静かに優しげな声を出すのはアルテミス。狩猟や多産を司る女神でゼウスの娘でもある。二人の女神からお祝いの言葉を貰った玉藻は照れ臭いのか顔を赤らめながら微笑んだ。
「有難うございます、お二方」
玉藻は礼を言った後、指輪を嬉しそうに眺める。すると急に二人が顔を近づけ、周りを憚るかの様に小声で話しかけてきた。
「それで、夜の方はどうなんだい? アイツもドラゴンのせいで旺盛なんだろ?」
「確か先代所有者の思念を吸収したせいで女好きが増したと聞きましたわ。やっぱり凄いのでしょうか?」
「え、え~と、それ訊きます?」
二人の様子に動揺する玉藻だが、二人は早く話せとでも言いたげな顔で頷く。どうやら人の恋路に興味があるのは女神も同じようだ。
「と、時に優しく、時に激しく、交互に、又は同時にです。あとは~、コスチュームを着てシチュエーションに入り込みながら……かなぁ?」
「ほ~、あのチビ助が成長したもんだ。昔は水浴びに連れて行ってやっても何も反応しなかったてのにねぇ」
「あの当時は子供ですから当然ですわ。……所で、浮気とかはどうなってますの?」
先程まで静かに微笑んでいた二人であったが、浮気の話になった途端、表情が一変する。ギリシア神話の神は浮気性であり、ヘラもゼウスが浮気するたびに相手の女性や子供に呪いをかけてきたのだ。有名な話を上げるとしたらヘラクレスの十二の試練だろう。たとえ幼い頃から知っている相手であっても、いや、幼い頃か知っているからこそ二人は厳しいのだ。
「……黒歌とかいうのとも関係を持ってんだろ? 全く、これだから男ってのは」
「全く、不潔ですわ」
「ま、まぁ、私も浮気防止の呪いをかけてますしー、愛人くらいならギリギリ……嫌々見逃してあげてもいいかなーなんて? 今も私を特別扱いしてくださってるしぃ、ご主人様の性欲が増したの原因となった先代達の思念吸収も私を守る力が欲しいからだったしぃ、キャッ☆」
「……ま、うちの旦那も私との間以外に大勢餓鬼が居るし、アンタがそれで良いんってんならこれ以上は言わないよ。だけどね、一応お仕置き用の技を教えといてやるよ。一夫多妻去勢拳の進化技、ゴールデンボール・クラッシャー・ヘルスペシャルをね!」
「ぜひお願いします!」
「う~ん、なんか嫌な予感がするなぁ。『どうせ治せるんだから手加減無しで行きますね☆』とか『孕むまで搾り取ってから潰しましょうか?』とか思われている気が……」
森の中、地中から飛び出した海魔によってズタボロにされた美猴を見下ろしながら一誠は第六感を働かせていた。
「それにしてもマユリンはやっぱり天才だね。『螺湮城教本』を此処まで小型化した上に強化してるんだから」
『ああ、これまでより量も質も大幅に上がっているな』
「あとは……」
本人が聞いたら怒り狂いそうな渾名でマユリを褒めながら一誠はランスロットの方を眺める。彼は今、アーサーと互角の戦いをしていた。
「流石湖の騎士、と言った所でしょうか? 剣の格が段違いだというのに……」
アーサーの言葉のとおり、コールブラントとアスカロンでは同じ聖剣でも雲泥の差がある。だが、武器にそれだけの差があるにも関わらず互角に戦っている時点で技量はランスロットの方が上という事が見て取れた。アーサーと剣を打ち合ったランスロットは彼と同時に後ろに飛ぶと彼を睨むと不機嫌そうな声を出す。
「……主より賜った剣を侮辱致しましたね?」
その瞬間、彼の体を黒い霧が覆い、目が赤く光り出す。
「……ヤバッ!」
一誠が慌てたような声を出したと同時にランスロットが獣の雄叫びをあげた。
『AaaaaaaaaaaaaaaaaaSaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!』
「なっ!?」
彼の豹変ぶりにアーサーがたじろいだ瞬間、ランスロットが雄叫びをあげながらアーサーに突撃する。彼が駆けた大地は無残に爆ぜ、叫び声は木々を揺らす。先程よりも明らかに速い速度で剣が振り下ろされ、アーサーはそれを咄嗟に剣で防ぐ。だが、それは判断ミス。その一撃は防ぐのではなく避けるべきだった。
「かっ!?」
先程より遥かに速く重い一撃にアーサーの体は吹き飛ばされ、木を数本薙ぎ倒しながら漸く止まる。そして意識が御朧気な彼の視界に剣を振り上げて自分に飛びかかってくるランスロットの姿が映り、
「止めろ!」
一誠のその声が聞こえたと同時に彼の意識は閉ざされた……。
「……主よ、申し訳ございません。許可も得ずに『狂化』を使ってしまいました」
「まぁ、気にしなくていいよ。俺が問題児の抑え役を任せたからストレスが溜まっていたんだろうし」
「! 主には何の問題もございません! 全てはこの私の不徳の致す所でございます!」
「じゃあ、間をとって二人共責任無しって事で。これ以上は言いっこなしだからね?」
先程の一撃をを放つ寸前、一誠の声で理性を取り戻したランスロットは剣の軌道をずらし、その一撃は大地を叩き切るに終わった。彼の一撃を受けた大地は見事に砕かれており、アーサーが受けていたら原型さえ残さなかっただろう。アーサーは美猴と一緒に海魔の触手で縛り上げられている。そろそろ騒ぎを嗅ぎつけた悪魔達が来る頃だと思っていると、変な声が近づいてきた。
『えっほ! えっほ!』
「ほら、もっと急がぬか」
「……なんじゃありゃ」
一誠の視界の先では見知った美女が寝転がった大きなソファーを持ち上げて運んでいるという異様な集団が居て、一誠達の方に近づいてきていた……。
意見 感想 誤字指摘 アンケート お待ちしています
ゼノヴィアって影薄いですよね(笑) 原作でも色仕掛けキャラなのにそういう挿絵は……(笑)
ところでDBzの映画でトランクスが『パパに誕生日に買ってもらったんだ!』 ってシーンを思い出しましたが
ベジータに買ってもらった? お金……