『……相棒。何のつもりだ?』
「何の事? あっ、フォーカード」
突如現れた少女からの告白を受け入れデートの約束までした一誠に対しドライグは問いかける。だが、一誠は何の事だかさっぱり分からないといった様子で黒歌との遊びに興じていた。
「むぅ、また私の負けにゃ。……え~と、罰ゲーム罰ゲーム」
ポーカーで負けた黒歌はティッシュの空き箱に入れられた罰ゲーム用のくじを引く。互いに相手にさせたい罰ゲームを書いて相手用の箱に入れているのだ。そして黒歌が引いた内容は……。
「……下半身だけ露出か全裸で靴下だけ着用。……うわぁ。相変わらず変態だにゃぁ」
「それがどうかした? ……ああ、ドライグが言ってるのはあの堕天使の事でしょ? 確かレイナーレとかいう奴」
堕天使。それは欲に負けた天使の成れの果て。純白の翼は黒く染まる。彼らはアザゼルという堕天使を筆頭にグリゴリという組織を作り悪魔や天使と敵対している。そして、彼らの行動の一つに神器所有者の抹殺があるのだ。強力な力を力の扱い方も知らない者が持っていても危険だし、もしかしたら敵対するかもしれない。そんな理由で彼らは人間を殺している。最も、一誠はその事を黒歌から聞いても興味なさそうにしていたが。
「ふ~ん。ついにイッセーにも刺客が放たれたんだ。……ちょい待て! なんで名前知ってるの!?」
「守護霊引っペがして従えて聞いた。後で他の霊にでも食べさせて強化しようと思う」
『……相棒は歴代最強にして歴代最悪の赤龍帝だな』
「……うん。今のは付き合い長い私でも引く。それで、ソイツはどうするの? 殺しちゃったら面倒じゃない?」
一誠が平然と言ってのけた発言に少々引きながらも黒歌は一誠を案じる。力を持っていると知られればさらに強い刺客か勧誘等が来かねないからだ。
「まぁ、其の辺は適当に考えるよ。……罰ゲームは? ハリーハリー!」
「うぅ、この格好は流石に恥ずかしい。……Bまでしてあげるから勘弁してくれない?」
「さっ、保健室行こうか! 深夜の保健室で秘密の課外授業っ!?」
一誠が黒歌の手を取って保健室まで連れて行こうとした時、頭に鈍痛が走る。見上げるとメリーが金槌を一誠の頭に振り下ろしていた。
「何すんだよ、メリー」
「……ふ~んだ」
一誠が頭を押さえながら睨むもメリーは不満そうな声を上げて闇に消えていく。すると部屋の隅にいた口裂け女がクスクス笑いだした。
「クックック、アンタも罪な男だねぇ。まぁ、此処には餓鬼もいるんだ。程々にしときな」
一誠が居る教室には花子さんなどの子供のお化けも居てお菓子を食べている。確かに子供の前でする話ではなかっただろう。だが、
「……いや、皆俺より年上じゃん。あっ、これがリアルロリ婆……すいませんでした。そのラバーカップを向けないで下さい」
「……分かれば良い」
花子さんはトイレの詰まりを直す例のアレ(男子便所用)を一誠から遠ざけると再びお菓子を食べだした。
『それで実際の所どうするんだ? 悪魔にお前の力がバレたら厄介だろうに』
「まぁ、一応作戦は考えてある。悪魔にバレたらその時はその時で対応するよ。……とりあえずあの堕天使には死んで貰うけどね」
一誠のその言葉に応えるかのように、ジャキンという金属音が鳴り響いた……。
「それで堕天使はウチの生徒を狙っているのね?」
「ええ、そうですわ、リアス。確か、兵藤一誠という方でしたわね」
駒王学園の旧校舎にあるオカルト研究部で二人の少女が話をしていた。二人の手元には一誠や彼に告白してきた少女の写真が貼られており、一誠に関する事が記載されている。そこには極々一般的な人生を送ってきたというような事が載っていた。
「……やっぱり強力な神器を宿しているのかしら?」
「おそらくそうでしょうね。この方もツイていらっしゃらないわ。狙われない方もいらっしゃるというのに」
二人は他人事のように話を続ける。二人の内、赤髪の少女の名はリアス・グレモリー。黒髪をポニーテールにした少女の方は姫島朱乃という名だ。何を隠そうこの二人の正体はこの地を縄張りにする悪魔。そして、この二人がこんな事を話しているのは一般人である一誠が狙われているからという事ではなく、敵対している堕天使が自分達の管轄地に入り込んだからという理由が大きかった。
「イッセー君。お願いがあるの」
「何?」
デート当日、一誠は待ち合わせの場所で渡されてチラシを直ぐに捨ててデートをした。表面上は楽しんでいるよなふりをしながら相手を観察する。そして夕暮れの公園で一誠は告げられた。
「死んでくれないかな?」
一誠に告白をしてきた少女は黒い翼を羽ばたかせ、手に光る槍を持って一誠を見下ろす。その瞳には侮蔑の念が込められており、
「お前が死ね」
「ぐふっ!?」
一誠がそう言った瞬間、その瞳が驚愕と苦痛に染まる。その胸から真紅の刃が突き出ており、明らかに心臓を貫いていた。振り返った彼女が見たのは身の丈ほどもある大バサミを持った上半身だけの悪霊。テケテケと呼ばれるそれが自分の体から引き抜いたハサミで首を切り落とそうとしている所だった。そして、一瞬感じた激痛とともに彼女の意識は完全に途切れた。
「はいはい、ごくろうさん。いや~、監視の目が無くて良かった良かった♪」
一誠はテケテケに労いの言葉をかけると胸に穴が空いた上に首を切り落とされている堕天使の死体に近づく。そして彼が手を翳すと死体から光る玉が飛び出し、やがて人の姿となった。
「お前の名前は?」
「レイ……ナーレ……」
一誠の問いにレイナーレは虚ろな目で答える。
「じゃあ、次の質問だ。お前は俺の何?」
「私は一誠様の……下僕です……」
「そう。お前は俺の下僕だ。じゃあ、最初の命令だ。俺の事は適当に誤魔化して、適当なタイミングで失踪して俺の所に来い」
「は……い……」
一誠は満足げに頷くとレイナーレの死体を指さす。すると一誠の背後に無数の霊魂が集まり死体に殺到したかと思うと其処には無傷の死体があった。
「とりあえず自分の死体にとり憑いておけ。戻ったら何時も通りに振舞うこと」
「了解しました、一誠様」
レイナーレは一誠に跪いて一礼すると、その場から飛び立っていった。
『……相棒。また玩具を増やすのか?』
「いいじゃん別に。結構美人だったし。それにまだ堕天使は持ってなかったしね。爺さんも堕天使や悪魔より人間を優先するようにって言ってたし。それに、堕天使はそっちの方面も仕事らしいから試してみたかったんだ」
『……玉藻に怒られても知らんぞ』
一誠はそう言うと家まで帰っていった。その晩、何時もの様に小学校の旧校舎に出かけようと一誠が家から出ようとすると玄関に立っている者がいた。ローブを着用し髑髏の仮面を被っており、手には大鎌を携えている。そして一誠の姿を見るなり口を開いた。
「兵藤一誠だな? 魂を受け取りに来た」