霊感少年の幽雅な生活 (完)   作:ケツアゴ

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なんか今日は進みません もう遅いので短めでご勘弁を


三十二話

生い茂る木々と立ち込める霧、ヌカるんだ地面という劣悪な環境の中、彼女は必死に走る。その背後からは五人の少女が追いかけて来ていた。

 

「待ちなさい!」

 

後ろから放たれる魔力は彼女のすぐ横を掠め木を吹き飛ばす。飛び散った破片や倒れてくる木が彼女の逃走を阻害し追跡者との距離を狭める。そしてついに彼女は行き止まりまで追い込まれてしまった。

 

「追い詰めたわよ! ッ!?」

 

五人はジリジリと少女に近寄り武器を構える。しかしその時、木の陰から無数の魔力が放たれ不意を打たれた五人は吹き飛ばされて地面を転がる。泥まみれになった彼女達は立ち上がろうとするも近くの岩陰から飛び掛って来た者達に切られ、光に包まれて消えていった。

 

『ディオドラ・アスタロト様の『兵士』五名リタイア』

 

「……兵士か。まぁ、良しとするわ。囮ご苦労様」

 

「はっ!」

 

先程まで逃げ回っていた少女は高貴そうな少女に労いの言葉をかけられ、感極まったという様子で頭を下げる。高貴そうな少女の名はシークヴァイラ・アガレス。アガレス大公家の次期当主であり、今はディオドラ・アスタロトとのゲームの真っ最中だ。策略を得意とする彼女にとって今回のゲームのフィールドは絶好の場所であり、先程から確実に相手の眷属を倒している。

 

「さて、そろそろ次の作戦を……来たわ!」

 

雨音に混じって近付いてくる気配を感じ取ったシークヴァイラは眷属に指示を飛ばし身構える。すると、顔に解読不能な文字が書かれた布を巻いた和服の少女が……背後から飛び出してきた。

 

「……」

 

「しまっ……」

 

彼女の体から黒い羽が舞い散りシークヴァイラ達に降りかかる。すると彼女たちの視界は闇に閉ざされた。悪魔は闇夜でも目が見えるにも関わらず彼女達の目の前は黒一色となり、戸惑う彼女達の耳にディオドラの笑い声が聞こえてきた。

 

「ははははは! どうだい、僕の助っ人の夜雀の力は。彼女の羽が目に入ったものの視界は闇に閉ざされるのさ! もう君達はロクに抵抗すらできないだろう? ……あ、すいません。貴方のおかげなのに調子こきました。あ痛たたたたたたたたたたっ! 脛蹴らないでください、お願いします!」

 

得意そうに笑っていたディオドラであったが、急に彼を蹴る音と共に悲鳴が聞こえ出す。どうやら助っ人は彼の笑い声がお気に召さなかったらしい。

 

「……貴方は助っ人を使わないのではなかったのかしら?」

 

ゲーム開始前、ディオドラは彼女にある提案をしていた。

 

「人間の手下に頼るのはシャクだし、助っ人は使わないでおかないかい?」

 

何を馬鹿な、使えるものは使ってこそ意味がある。初めて会う者を使いこなしてこそ高い評価が得られるのだ。そう感じたシークヴァイラであったが、なんだか自分だけ使うのもプライドが傷つくので使わないでおこうとしていた。だがディオドラは言いだしっぺにも関わらず自分が負けそうになった途端に助っ人を使ってきた。

 

「……そっちがその気なら」

 

シークヴァイラは懐からクジを取り出す。そして助っ人を呼ぼうとした瞬間、その手からクジが奪い取られた。

 

「君は馬鹿か? 見す見す助っ人なんか呼ばせると思ったのかい? それにしても、良くやったぞ、夜雀。……あ、ごめんなさい。夜雀様のおかげで助っ人を阻止できました」

 

「……」

 

再び聴こえてくる蹴りの音にシークヴァイラは呆れたような顔になりながら思う。こんなアホにしてやられたのか、と。すると何時の間にか視界が元に戻り、夜雀の姿は消えていた。どうやら時間切れのようで、これをチャンスと見た彼女達はディオドラを囲む。

 

「さぁ、覚悟しなさい」

 

だが、絶体絶命の状況にありながらディオドラは勝ち誇ったような顔を浮かべていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、賭けしない?」

 

リアスとソーナの戦いを観戦していた一誠はハーデスやオーディンに対して提案する。その手にはカジノの権利書が収められていた。

 

《賭け事ですか? 全く、君はまだ未成年でしょうに》

 

「他にも二組ゲームしてるし、各陣営の勝者を当てるのはどう? 組み合わせは八種類だから選択は早い者勝ちね。勝者にはカジノの権利書をプレゼント。あ、引き分けがあった時には俺の物のままって事で」

 

プルートの嗜めるかの様な言葉を無視して一誠は話をを進める。ロスヴァイセは賭け事と聞いて眉をひそめるも賞品のカジノの権利書を見て目の色を変える。オーナーとしての月々の収入だけで彼女の年収をはるかに超える内容だった。

 

「ふむ、面白そうじゃな。では、儂はシトリー・アガレス・バアルで頼むぞ」

 

「オ、オーディン様ずるいです! 私はシトリー・アスタロト・グラシャラボラスでお願いします!」

 

組み合わせは八種類なので早い者勝ちとばかりにオーディンは勝ちそうな者の名を口にする。ロスヴァイセも慌てて自分の予想を口にした。

 

「……やれやれ、戦いを賭け事の対象にするとは。私はシトリー・アスタロト・バアルでお願いします」

 

「いや、君も賭けてるじゃんランスロット。…俺はシトリー・アガレス・グラシャラボラスね。まぁ、バアルが勝つだろうけど」

 

《シトリーの小娘を先に散られたのは痛い。グレモリーの小娘もそこそこやるが……心が既に折れかけているからな》

 

ハーデスは空洞になっている瞳でゲームを映し出している画面を見る。今そこではリアスとソーナが対峙していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お待ちしていましたよ、リアス」

 

眷属達のリタイアを受け、リアス達はフィールドの中央にある吹き抜けのショッピングモールへと向かう。互いにリタイアした眷属の数は同じだが、元々の人数に差が有り、更にリアス達の所には前衛を務める者が残っていない。このまま守りに徹しても負けるだけと判断したリアスは朱乃とアーシアを引き連れて進むことにしたのだ。

 

「……王自ら中央にお出ましって訳? それに久しぶりね、ゼノヴィアさん。悪魔になるなんてどういう心境の変化かしら?」

 

リアスの視線の先にはソーナと『僧侶』の花戒と草下、そして椿姫とゼノヴィアと残った眷属が勢揃いしている。

 

「君だって王なのに進軍しているだろう? それと私の事だが色々あってね。……このゲームが終わったらアーシア・アルジェントには正式に謝罪させてもらう。だが、今は敵同士。問答無用でやらせてもらうよ!」

 

ゼノヴィアはデュランダルの切っ先をアーシアへと向け、攻撃的なオーラを迸らせる。リアスと朱乃はアーシアを守るように後ろへと下がらせ、滅びの魔力と雷を放つ。だが、デュランダルから放たれたオーラが膨れ上がると壁の様になって二人の魔力を防ぎきった。

 

「甘かったな。まだ私はデュランダルのオーラを完全にコントロールできないが、会長との特訓である程度の量を留まらせる位は出来る様になったんだ。……あの特訓は本当にに辛かった」

 

エクソシストとしての訓練を受けて来た彼女でもソーナの特訓はキツかったのか顔を青ざめ、ガタガタ震え出す。だが、背後に居たソーナは嘆息を吐くと追い打ちを掛けてきた。

 

「言っておきますが、これからはあれ以上の訓練を受けて頂きますよ。破壊的なオーラを制御できないなど危なっかしいですからね」

 

「!?」

 

その宣告にゼノヴィアは顔を真っ青にし、どこから髪でどこから顔なのかさえ分からなくなる。そして椿姫達が彼女に同情の視線を送る中。ソーナはクジを取り出し、リアスも慌ててクジを取り出す。

 

「来て下さい!」

 

「来なさい!」

 

二人同時に助っ人を召喚したその瞬間、召喚時の煙が立ち込めリアス達の後ろにグレンデルが出現する。フィールドを壊さないように三メートル程度の大きさになった彼はソーナ側の助っ人を見て嬉しそうに高笑いを上げた。

 

『グハハハハハ! まさか俺の相手がアンタとはな! なぁ、大将!』

 

 

「全く、貴方は相変わらずうるさいですねー。呪い殺されたいんですか? それにその下品な声。ご主人様とは大違いですよ」

 

グレンデルとは裏腹に玉藻は嫌そうな顔をしている。ソーナが引き当てたクジには数字の8と狐の絵が書かれていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いや、俺達ってとっくに死んでるだろう』

 

「う、うるさぁい!」




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夜雀 ぬらりひょんの孫

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