霊感少年の幽雅な生活 (完)   作:ケツアゴ

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な、長くなりました

今年のタイプムーンのエイプリル企画はなんだろう?


外伝 最凶の赤龍帝と最弱の赤龍帝 ②

「いやぁ~今日はついてますね、お母様♪」

 

「そ、そうね」

 

一誠の母親と買い物に出かけた玉藻は尻尾と狐耳を隠し、一誠の服を借りて出かけている。その右肩には商店街の福引で当たった米俵が担がれており、大勢の注目を色んな意味で集めている。絶世の美女なのだが米俵を軽々と担ぐ其の姿にナンパする者も居らず、中には声をかけようとする剛の者も居るがひと睨みされた瞬間に謎の腹痛に襲われる。

 

「おめでとう御座います! 貴女方が当店百万人目のお客様です!」

 

「ああ! それは私の落とした二千万! コレはお礼のニ百万です!」

 

このように先ほどから幸運が続き、帰る頃には最高級の牛肉やら蟹やらが荷物に加わる。財布の中身も一誠の父の年収を超え少々持ちづらくなっていた。そんな中、二人を建物の屋上からジッと見ている影が一つ。

 

「……あれが赤龍帝の母親と手下か。此処は一つ仕掛けて……」

 

学生服の上から韓服を纏った彼は何もない所から槍を取り出しスっと目を細め、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然雷に打たれた。

 

「あばばばばばば!?」

 

「落雷よ!」

 

「牛丼屋の屋根の上にいた青年が死んだ!?」

 

……多分死んでない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何かしら、あの騒ぎは?」

 

「いえいえ、お気になさらずに。ちょ~っと虫にお仕置きしただけですから♪」

 

母親の疑問を軽く流した玉藻は家の玄関まで辿り着きドアに手をかけた所で動きを止める。何時の間にか飛び出た尻尾と耳の毛が何かを警戒するように逆立っていた。

 

「……これは術の痕跡? ちっ! お母様はポチの所へ! 私は家の中に突入します!」

 

「わ、分かったわ!」

 

一誠の母がポチの所に行ったのを見届けた玉藻は尻尾を全て出した状態で家に突入し感じ取った術の痕跡を追う。リビングに入った彼女が見つけたのは一誠と他数名の匂いの痕跡と時空の歪みだった。

 

「待っててください、ご主人様!」

 

玉藻は迷う素振りも見せず歪みに干渉して空いた時空の穴に飛び込んだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え~と、並行世界の君が、何故、無能姫と呼ばれるかだったよね? 実は最近までは高評価だったんだけど、ここ最近で急に転落したんだ」

 

「そんな短期間で!?」

 

一誠の言葉にリアスは息を呑む。並行世界とは言え自分の評価が急落したのだ。その理由は自分の為にも聞いていた方が良い。そう判断した彼女は真剣な顔で耳を傾ける。

 

「まずは学習能力の無さだね。こっちの……もう一々何方のとか言うの面倒だから無能姫で良い?」

 

「……構わないわ」

 

「まぁ不快だろうけど我慢してね? 実は無能姫は短期間に同じ失敗を繰り返すというミスを二つもしてるんだ。一つ目は領地への堕天使の侵入。一回目は下っ端に侵入され、挙句の果てに契約のお得意様を殺されるというミス。二回目なんて幹部であるコカビエルが部下と共に聖剣持って侵入したのにも気付かないんだ。ね? 無能でしょ?」

 

「……」

 

一誠は気付いていないが、リアスは全く同じミスをしているので無言で返すしかない。その拳は握り締められ僅かに震えていた。それは悔しさだけでなくイッセーと同じ顔同じ声で自分を無能と言われる事の悲しさも含まれているのだ。それに気付いた朱乃達は心配そうに見ている。そんな事など気付かないで一誠は続きを話しだした。

 

「二回目なんてあと少しで街が崩壊する所だったんだ。俺が居なきゃ危なかったよ。大体さぁ、そんな大物が侵入したならちゃんと助っ人の要請しておくべきだよね。そしてもっと酷いのは二個目。なんとアルジェントさんとヴラディ君がテロに利用されたんだよ。どっちも自衛手段を身に付けさせてれば防げたかもしれないのにさ。後は我が儘で婚約を破棄させようとしたり、学校を私用で十日も休んだのに兄の権力利用して公欠にしたり、旧校舎を私物化したり。……ほんと、無能な上に街の人間にとって疫病神としか言いようがなかったよ」

 

一誠はそう言い終えたあとに笑いだしたが様子がおかしい事に気付く。イッセー達が自分に敵意を向けており、リアスなどは俯いて泣いているようだ。その姿を見て一誠は全てを悟った。こっちのリアスも無能姫だったと。

 

「……何だ、こっちの君も無能なんだ」

 

「ッ! テメェ! 取り消せ! 今すぐ取り消してリアスに謝れ!」

 

激高したイッセーは一誠の胸ぐらを掴んで睨むも一誠の表情は冷めた表情のまま変わらない。

 

「俺が言ってるのは本当の事でしょ? 彼女の無能さでどれだけの人が危険な目にあって迷惑を被ったっと思ってるの?」

 

「俺達はすべて自分で解決してきた! ギャスパーだってアーシアだって自分達で助けたし、攫った奴らはぶっ飛ばした!」

 

一誠の言葉でついにリアスは本格的に泣き出してしまいイッセーの怒りは最高潮に高まる。そして一誠の顔面にイッセーの拳が迫った時、

 

 

「させないよ」

 

「させないわ」

 

「がっ!?」

 

ありすとアリスによって蹴り飛ばされる。数メートルもの距離を幼女二人に蹴り飛ばされた一誠は小猫によって受け止められた。

 

「……大丈夫ですか?」

 

「な、なんとか。有難う、小猫ちゃ……」

 

イッセーは小猫にお礼を言おうとした時に一誠を見てしまう。彼は心底自分を見下した目をしていた。

 

「……あのさぁ、ミスしたらそれを補うのは当然でしょ? ミスした時点で大勢に迷惑掛けてるんだから、後でそうしようと意味がないんだよ。例えばさぁ、会社の取引先を怒らせて大事な契約を切られかけたとするでしょ? その後何とか契約打ち切りを防いだとして、評価は上がる? 下がる? 変わらない?」

 

「……くっ!」

 

イッセーはその質問に答えられない。もし答えてしまえばリアスが無能だと認めてしまう事になるから。その時、彼の頭に疑問が過ぎった。あっちの自分が眷属でないならディオドラがアーシアを攫った時、どうやって装置から開放したのかと。その質問に彼は笑って答えた。

 

「あれ? 枷が邪魔だったから手足ぶった切って開放したよ。ちゃんとフェニックスの涙を使ったから安心してよ」

 

アーシアは一誠の言葉に青ざめる。何度も自分を助けてくれた人と同じ姿の人が自分の手足を切り落としたと平然と言っているのだ。彼女の体を震えが襲い、思わずイッセーにしがみついた。

 

「……随分嫌われたね。ま、並行世界でも君達に好かれたいとは思わないけどさ。……所でこの家随分広いけど隣家の人はどうしたの? まさか無理やり奪ったんじゃないの?」

 

「違うわ! ちゃんと代わりの家もお金も用意したわ!」

 

流石に聞き逃せなかったのかリアスは涙を流しながら一誠を睨む。だが、一誠は呆れた様な目を彼女に送った。

 

「どうせ洗脳や暗示を使ってでしょ? そういうのは無理やりって言うんだよ。合理主義の君達悪魔にはわからないかもしれないけど、家ってのは家族の思い出が篭った場所なんだ。お金や代わりの家があれば良いって物じゃないの」

 

一誠は話してる間にこれまでの事を思い出して腹が立ってきたのかピリピリした空気を放ってアザゼルの方を向いた。

 

「なんか此方の無能姫も大概だね。ねぇ、総督さん。俺の禁手について教えて欲しそうにしてたよね?」

 

「おっ! 調べさせてくれんのか!?」

 

アザゼルは嬉しそうに反応し、一誠ははコクりと頷くとリアス達を指さす。

 

「彼女達との実戦形式での中なら調べさせてあげても良いよ。こっちは俺とグレンデルと……」

 

「上等だ! 今すぐ俺がテメェをぶっ飛ばして……」

 

一誠が言葉を言い終わらない内にイッセーが飛びかかる。だが、又しても横から放たれた蹴りによって吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご主人様と同じ姿とは言え、魂は全くの別物。ならば遠慮など致しません! 時空の壁すら乗り越えて、良妻狐のデリバリー! 玉藻、参・上!」 

 

「……あ、コイツを入れて五人で戦うからそっちも適当にメンバー選んで」

 

「む、無視ですか、ご主人様ぁ!?」

 

「玉藻が俺の傍に居るのは当たり前なんだから、並行世界までついて来ても不思議じゃないでしょ?」

 

先程までの険悪ムードなど何処かに忘れ、鬱陶しいバカップルなムードを醸しだす一誠と玉藻。そんな中、イッセーの視線は玉藻に注がれていた。抜群のスタイルに露出の多い服装。次第にその目はイヤらしい物へと変わっていく。それに気付いたのか一誠は玉藻を背中に庇うようにしてイッセーを睨んだ。

 

「……こんな状況でよくそんな目を向けられるね。ねぇ、コイツって何時もこうなの?」

 

「……恥ずかしい事ですが、そうです」

 

「……そう。決めた、お前は俺がぶっ倒す。グレンデル達は他の連中をお願いね」

 

『グハハハハハ! 任せとけ!』

 

そして一誠達は急遽用意されたゲームフィールドへと向かった。フィールドは端から端が何とか見えるくらいの広さで障害物は何もない。

 

 

「リアス、アイツは俺に任せて下さい! あなたを無能だなんて言った事、絶対に謝らせます!」

 

「……ええ」

 

イッセーは闘志を燃やしているがリアスの表情は何処か浮かない。どうやら先ほど言われた事が心に突き刺さって抜けないようだ。今回のゲームに参加するのはリアスとイッセー。そしてギャスパーと祐斗とアーシアだ。

 

 

 

 

 

『それではゲームを開始します! なお、このゲームは相手を先に全員倒した方の勝利といたします』

 

アナウンスと共に飛び出したのは祐斗。聖魔剣を片手に持ち、聖剣創造の禁手で創り出した騎士達を従えてグレンデルに切りかかる。その動きは研ぎ澄まされており、あっという間にグレンデルに接近した彼は騎士達と一斉に切り掛り、あっさりと堅牢な鱗によって全ての攻撃を弾かれる。

 

『あぁん? 何だ、そのヌルイ攻撃はよぉ。攻撃てのはこうするもんだぜ!!』

 

「がはっ!」

 

グレンデルが尾をひと振りしただけで騎士達と剣は粉々に砕かれ祐斗は空中に投げ出される。素早くい羽を出して退避しようとした祐斗だが、既にグレンデルは間近まで迫っていた。

 

『ドラゴンラリアァァァァァトッ!!』

 

横薙ぎに振るわれたグレンデルの腕は祐斗の胴体に絡みつくように振り抜かれ、その衝撃の逃げ場がないまま祐斗は地面へと叩きつけられる。この時点で彼の意識は途絶え、

 

『ドラゴン・ローリングソバットォォォォ!!』

 

回転してからのソバットキックをマトモに受けてしまう。グレンデルの巨体から放たれたソバットキックは彼の全身を襲い、衝撃で地面は砕け激しく揺れる。祐斗は全身から血を吹き出して消えていった。

 

「き、木場ぁぁぁっ! テメェ! もう勝負をついてただろ!」

 

『あぁん? 実戦形式って言っただろ? イタチの最後っ屁を警戒して何が悪いんだよ?』

 

「あはははは! 仕方ないよ、グレンデル。きっと彼らは紳士的な敵としか戦ってないんだね。にしてもさ、さっきから聞いてたら彼だけ苗字なんだね。彼の事嫌いなの?」

 

「んな訳ねぇだ……」

 

イッセーが一誠の言葉を否定しようとした時、一誠の手からオーラが放たれる。ギャスパーがそれを止めようとしたが、間に入ったグレンデルの炎で視界を防がれてしまった。

 

『グハハハハ! 目を媒介とした神器は幾らでも対処できんだよ。んで、お姫様はちゃんと守れよ?』

 

「キャァァァァァァッ!」

 

「アーシア!?」

 

イッセーがいくら待っても来ないオーラに警戒していると、後ろからアーシアの悲鳴が聴こえてくる。炎が晴れた先の地面には穴が空いており、アーシアの足元からオーラが飛び出して彼女を吹き飛ばしていた。龍のオーラをまともに食らった彼女は宙を舞いリタイアの光に包まれた。

 

「おい! お前は俺を相手にするんじゃなかったのかよ!?」

 

「そうよ、この卑怯者!」

 

「……はぁ? 君達は敵の言葉を鵜呑みにするの? 実戦形式って言ったじゃん。それに集団戦で弱い奴と回復役を先に潰すのは定石でしょ?」

 

「信じる方が悪いよね」

 

「信じる方が悪いわ」

 

リアスとイッセーは嘘をついた一誠を攻めるも逆に言い負かされる。そして言い返しに参加しなかった玉藻はギャスパーへと迫っていた。

 

「まずは金的! 次も金的! 覚悟しやがれ、これがトドメの金的だぁぁぁぁっ!!」 

 

「ぶ、部長……」

 

いくら女装していてもギャスパーは男。股間に連続の打撃からの飛び蹴りを全て股間にくらっては耐えられなかったのかふらついている。そう、玉藻の攻撃を受けたのにリタイアしていなかったのだ。それは彼が頑丈だからではなく、玉藻が手加減したからだ。フラつくギャスパーに近づいた玉藻は彼の股間を蹴り飛ばし壁に激突させる。そして執拗な蹴りの嵐を股間へと放った。

 

「往生しやがれ、これが新技! ゴールデンボール・クラッシャー・ヘルスペシャルだぁぁぁぁっ!!」

 

股間へのサマーソルトキックで彼を打ち上げた玉藻は彼より上空に飛び上がり回転し出す。そして遠心力が加わって威力を増した踵を股間へと落とし、最後に落下しながら膝を曲げ地面でバウンドしたギャスパーの股間目掛けて一気に伸ばす。全体重を乗せた蹴りが股間へと決まり、今度こそ彼はリタイアしていった。

 

「な、なんて恐ろしい技を!」

 

その技を見た男性陣は股間を押さえて竦み上がり、いい顔をして汗を拭う玉藻を見る。一方、あの痛みが分からない女性陣はそれ程反応していない。

 

「あれって痛いのかな、わたし?」

 

「あれって痛いらしいわ、あたし。そんな事より戦うわよ。無能姫をやっつけましょ」

 

「「おいで、ジャバウォック!」」

 

「な、何!?」

 

二人によって呼び出された怪物は唸り声を上げながらリアスへと迫る。滅びの魔力を放って撃退しようとしたリアスだが首を吹き飛ばしても腹に穴を開けてもその動きは止まらず、振るった拳が掠っただけで吹き飛ばされ、再び拳が向けられる。

 

 

「キャァァァァァァ!!」

 

「リアス!」

 

だが、龍星の騎士となった一誠が彼女を抱き抱え拳を避ける。ジャバウォックの拳は地面を砕くだけに留まった。

 

「へぇ、面白いね。他にもあるの? あるなら見せてよ」

 

その姿に一誠は興味津々といった態度をとり、イッセーは得意げに笑う。

 

「へっ! 見たいなら見せてやるよ。最強の形態をなぁぁぁっ!!」

 

このままでは負けると判断した一誠は最強の形態である真紅の赫龍帝になる為の呪文を唱え出す。

 

『我……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして一誠の投げた唐辛子粉をまともに吸い込んで中断させられた。

 

「見せてよ、とは言ったけど、変身させるとは言ってない」

 

「目がっ!? の、喉が……」

 

唐辛子粉をまともに吸い込んだせいで喉が焼けたイッセーはもはや呪文を唱えられる状態ではなくなり、リアス共々喉を押さえている。

 

「ってか、実戦で相手のパワーアップを律儀に待ってる奴はアホでしょ? ……禁手化」

 

二人が隙だらけの内に一誠は禁手を纏う。その異様な姿に誰もが息を呑んだ。

 

「これが俺の禁手である『死を纏いし赤龍帝の(デット・オブ・ブーステッド)龍骨鎧(・ギア・ボーンメイル)』。能力は通常の力に加え、一定の条件を満たした相手を吸い込み自分と同時に力を倍加する!!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

合計一六回もの倍加を受けたグレンデルはまっすぐに二人に向かって行き、そのまま轢き飛ばした。

 

「う~ん、圧勝♪」

 

 

 

 

 

 

そしてようやく二時間後になり一誠達は元の世界へと強制的に送り返される。玉藻は一誠の影に入って一緒に帰るようだ。

 

「じゃあね。あまり人間に迷惑かけないでよ、無能姫とそのお仲間さん」

 

一誠は最後にそう言い残し、玉藻にアザゼルに対して五年以内に生え際が頭頂部まで後退する呪いを掛けさせて帰っていった。こちら側のリアス達に大きな心の傷を残して……。

 




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