霊感少年の幽雅な生活 (完)   作:ケツアゴ

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真女王<覇龍 で良いんでしょうか? いくらなんでも二天龍なみの強さとは思えませんし


放課後のラグナロク
四十一話


《起きてくだせぇ、一誠様》

 

「う~ん……」

 

ある日の朝、一誠は頭に直接響く声によって起こされる。寝ぼけ眼で目覚まし時計を見るとそろそろ起きなくては朝飯を食べ損なう時間。なんとか睡魔の誘惑を振り切った一誠は上体を起こし、そのまま小さな柔らかい双丘が顔を包む。彼の上に跨って体を揺り動かしていたベンニーアの胸に顔を埋めていた。

 

「おはよう、ベンニーアちゃん」

 

《反応無しでやんすか!? それは乙女心がちょっと傷つくんでやんすが……》

 

「早くリビングに行かないと母さんが怒るよ」

 

朝っぱらからラッキースケベを起こしていても一誠はマイペースだ。その反応に少々不満そうなベンニーアだが、彼女も朝飯に遅れまいとリビングへ向かった。二人がリビングに行くと朝食の準備の真っ最中で、コーンスープが入った鍋からは湯気が立ちフライパンの上では目玉焼きが作られていた。

 

「あら、二人共起きたのね。もう直ぐ出来るから顔を洗って来なさい」

 

「も~! 休日だからってノンビリしてたらダメですよ? 良妻狐たるもの、ご主人様が規則正しい生活を送れるよう管理しますからね! あ、焼き方は両面焼きで良いですよね?」

 

「うん、ありがと」

 

一誠は言われた通り顔を洗うと食卓につく。今日の朝食は洋風となっており、全て一誠の母親の指導の下、玉藻が作ったものだ。調理技術は高いものの和食しか作れなかった彼女だが、最近は洋食や中華も作れるようになって来ている。会議の為に朝早く出かけた父親を除き、一誠達は四人全員で朝食を取った。そう、四人である。そもそも何故ベンニーアが兵藤家に居るのか。それは数日前に遡る。

 

 

 

 

 

「一誠。そういえばベンニーアって子は貴方のサポートとしてコッチに来ているのよね? 誰かと一緒に住んでるの?」

 

一誠は両親に全てを打ち明けて以来、関係する者達を紹介していた。さすが彼の両親というべきか、動く西洋人形のメリーや有名な怪談の花子や口裂け女等とも打ち解けてた。なお、ありす達は特にお気に入りのようだ。その適応力は、

 

「……適応力高すぎでしょ」

 

とそれを見た一誠は思わず突っ込んでしまった程。ベンニーアも勿論紹介しており、彼女が一人暮らしという事を教えると、

 

「駄目よ、家に連れて来なさい。いくら死神でも女の子だし、テロリストに狙われるかもしれないんだから」

 

と言われ、ハーデスや親に確認した所、全然オッケーだそうで空き部屋に入る事となった。ちなみに玉藻は一誠の影の中の異空間にある屋敷の自室に繋がる扉を既に設置済みだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばベンニーアちゃん。前から聞きたかっんだけど……なんで君がサポートに選ばれたの?」

 

《あ、それはあっしと一誠様をくっつける為だそうでやんすよ。まぁ、冥府での地位を確立する為の政略結婚みたいなもんでやんす》

 

「あ〜、やっぱりそんな所だったんですねぇ」

 

一誠の突然の質問にベンニーアは素直に答え、玉藻は平然と反応する。どうやら一誠も予想済みだったようで驚いた様子がなかった。

 

「いくら俺がオリュンポスや冥府勢に認められてても対外的な物があるからねぇ。玉藻が正妻なのは決定だから、愛人として嫁がせるには人間と最上級死神のハーフの君が丁度良いでしょ。……玉藻も怒らないんだね。メル友の清姫ちゃんと協力して焼き殺すかと思ったよ」

 

「そんな事しませんよぉ。まぁ、気に食わない事では御座いますが、ご主人様、そして将来生まれる子供の為にも盤石な地位が必要となります。その為にはまぁ、我慢致しますとも。でも、私が一番ですからね?」

 

「分かってるって。俺にとって玉藻は何よりも愛しい宝だよ」

 

一誠が上目遣いに拗ねた顔で睨んでくる玉藻の頭を撫でると尻尾がピョコピョコと動き出す。どうやら機嫌が直ったようだ。その様子を一誠の母親とベンニーアは疲れたような眼で見ていた。

 

「ラブラブねぇ。……其れで貴女は納得してるの?」

 

《勿論でやんすよ。ハーデス様は無理やり結婚させる方ではありやせんし……あっしも一誠様と会った瞬間に体に電流が流れるのを感じやしたから。あれが一目惚れっていう奴なんでやんすねぇ》

 

一誠の母親はその言葉を聞いてじっと考え込む。なお、この数日で染まったのか一誠達の物騒な会話を気にした様子はなかった。

 

 

 

 

 

 

「……一誠。このまま流されるまま結婚するのも良くないしデートでもしてきたら? 丁度ベンニーアちゃんの部屋に置く小物を買わなきゃいけなかったし。玉藻は着いて行っちゃダメよ?」

 

「……は~い」

 

「そう不満そうにしないの。貴女には一誠の好物のレシピを教えてあげるわ。言っておくけど教える時は厳しく行くわよ?」

 

「頑張ります、お母様!」

 

現金なもので先程までの不満そうな顔はどこぞに行き、尻尾も盛大に振られている。

 

 

 

「……犬だね」

 

《……犬でやんすね》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……こんな物かな? 次は服でも買いに行く?」

 

一誠の手には大量の小物が入った袋が下げられており、その全ての料金を一誠が払っていた。最初は本人が払おうとしたのだが一誠はそれを固辞し、荷物も彼が持っている。

 

《いや、別に服は今度で構いませんぜ》

 

「だ~め。今度今度っていう奴ほど今度が来ないんだからさ。ほら、行くよ?」

 

一誠は半ば強引にベンニーアを連れて服屋を巡り、彼女に似合いそうな服を幾つかチョイスする。買い物が終わった頃には丁度昼食時だったので二人はランチが旨いと評判のオープンカフェに来ていた。一誠の前には大盛りの料理が何品も並び、彼はそれを平然と平らげていく。その光景にベンニーアは呆然としていた。

 

《よ、よく食べるでやんすね》

 

「まぁ、この位食べないとね。修行が結構きついから。特に今日の相手はランスロットとポチだからさ」

 

《そ、それは大変そうでやんすね》

 

そして一誠がパフェに手を付けようとした時、突如パフェが消失する。

 

「お兄ちゃん、これ貰うね!」

 

「これ貰ったわよ」

 

何時の間にか出てきたありすはパフェを食べながらそう言う。どうやら退屈だったので勝手に出てきたようだ。隣ではアリスがジュースを飲んでいた。

 

「こらこら、ちゃんと椅子に座って食べなきゃ駄目だよ」

 

「「は~い」」

 

素直に言うことを聞く二人を見て一誠は優しげに微笑んだ。

 

《前から思ってたんでやんすけど二人に甘いっすね》

 

「うん。……俺さ、妹か弟が欲しかったんだ。両親には霊が見えなかったけど、俺の弟妹なら見えてかもしれないじゃん? 色々分かち合う仲間が欲しかったんだ。あ、君も付き合いは短いけど妹みたいに思ってるよ」

 

《……妹でやんすか》

 

ベンニーアは一誠に聞こえないように小声で呟くと何やら思案しだした。その後ありす達は帰り、一誠もそのまま帰ろうと思ったのだがベンニーアに行きたい店があると言われ引っ張られていく。そのまま二人がたどり着いたのはホテル街だった。

 

「……こんな所にお店があるの?」

 

一誠が疑問を口にした時、ベンニーアが一誠の腕に強く抱きつき小ぶりな胸で腕を挟む。一誠は彼女の鼓動が高まっているのを感じ取った。

 

《……一誠様。あっしにも女のプライドがあるでやんす。あそこまで女として見てないという様に言われては黙っていられやせん。……少し休憩して行きやせんか?》

 

「いや、拙いって……」

 

《えぇい! 玉藻様としょっちゅうシてるくせに何怖気付いてるんでやんす! 据え膳食わぬは男の恥でやんすよ!》

 

「いや、その据え膳は食ったら色々死ぬから!」

 

ロリィな彼女の見た目や良妻狐の仕置き的な意味で一誠の色々な生命が危険に晒された時、知った声が聞こえてきた。

 

「ホッホッホ、久しいの。しかし昼間から女を抱こうとするとは。……この場合は逆かの?」

 

「兵藤君! 君はまだ学生なんだからこんな所に来たら駄目ですよ!」

 

そこに居たのはオーディンとロスヴァイセ、そして筋骨隆々の男性だ。その男性を見た一誠は微かに笑った。

 

「やっと会えたね、バラキエルさん。さ、後で娘さんに会いに行こう。感動の親子三人の対面と行こうじゃない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、一誠の母親からの指導を終えた玉藻が今でノンビリとしているとランスロットがソワソワしながら近付いてくる。その手にはロスヴァイセからの手紙が握られていた。

 

「玉藻殿、少々ご相談が……」

 

「え~、なんですか? も~」

 

「……自意識過剰だと思ったら笑ってください。私の思い込みだとは思うのですが……ロスヴァイセ殿は私が好きなのでしょうか?」

 

「は?」

 

その言葉を聞いた玉藻は思った。何を今更、と……。

 




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