霊感少年の幽雅な生活 (完)   作:ケツアゴ

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四話

「……そうですか。では、私の方から言っておきます」

 

松田からリアスが強引な勧誘を行っているという相談を受けた生徒会メンバーの話を聞いた生徒会長支取蒼那は頭痛を堪えながらそう言った。実は彼女も悪魔であり、生徒会メンバーも彼女の眷属なのだ。この学園はリアスの家が管轄しているが、昼間は生徒会として彼女が仕切っており基本的に相互不干渉となっている。だが、相談を受けた松田は強引な勧誘の事を他の生徒にも話しており、彼の普段の行動もあって信じる者は少ないが、相談を受けた事が知られている以上は放っては置けない。故に今回は動かざるを得なかった……。

 

 

 

 

 

「……それでリアス。彼の素性は洗ったのですか?」

 

「ええ、徹底的にね。でも何も出てこなかったわ。でも、はぐれ悪魔を倒した奴が落とした生徒手帳は確かに彼の物だったのよ」

 

「……そうですか。貴女の家の調査力を持ってもなお正体を掴ませないとは、かなりの術者の様ですね」

 

まさか偶々拾っていた生徒手帳を偶然落としただけとは思わない二人の中で、一般人である松田は凄腕の術者となっていった。

 

「……眷属に誘ってみようかしら。あれだけの術者だから兵士八個で足りれば良いけど」

 

 

 

 

 

 

その後、色々と証拠を見せられた松田は悪魔の存在を信じ、兵士の駒三つで眷属となった。実は彼にも光の矢を放つ『青光矢』という神器が宿っており、彼もソコソコのスペックを持っていた為に三個の消費となったのだ。その後リアスは彼の正体の事を改めて問いただすも、当然彼の答えは同じく、知らない、と言うもの。その答えに少々業を煮やしたリアスであったが、眷属になったのだからとグッと堪える。何時か正体を暴いてみせると心に誓いながら……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふ~ん。上級悪魔になってハーレムかぁ。アイツも相変わらずだなぁ。反逆とか考えてないのかな?」

 

流石に気になっているのか部室の盗聴を続けている一誠は、松田が悪魔になった経緯を聞いて苦笑する。

 

『まぁ、相棒には縁のない話だな。……所でなんで異形ばかり手駒にしているんだ?』

 

「なに? ドライグも女の子が好きなの? まぁ、分からなくもないけどさ」

 

『ドラゴンの雄はそういうものだ。俺を宿す相棒も戦いと女を呼び寄せる宿命にある。まぁ、今の所は黒歌と彼奴以外は人形やら便所の幼女にしかモテておらんがな。……だからな、もう少し下僕にまともな見た目の女を増やせ。できれば見ていて楽しめるような美人を頼むぞ』

 

一誠は無数の霊魂を従えては居るものの殆どが異形であり、マトモな見た目の女がいない事をドライグは常々不満に思っていた。別に一誠はそういう事に興味がない訳でなく、やや嗜好が偏りがちだが性欲は強い方である。にも関わらず彼を取り巻く女性にはマトモなのが少ないのだ。

 

「五月蝿いよ、むっつりドラゴン。エロ龍帝」

 

この時、本来の歴史とは違うドライグの不名誉な名前が作り出された。朱に交われば赤くなる。長い付き合いの中ですっかり染められてしまったようだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はい。部下には計画を進める様に言っております。それと今日は部下の一人が悪魔との取引の常連を殺しに行くと言っていました」

 

「ご苦労様♪ 多分その内に悪魔と敵対する事になると思うから交戦してね。悪魔に死んだと思わせて回収するから。あっ! 滅びの魔力は魂ごと吹き飛ばさるんだっけ? まぁ、別の手段があるから安心して」

 

その日の晩、レイナーレから連絡を受けた一誠は今後の指示を告げる。普段なら戦争を避ける為に極力争わないようにしている悪魔と堕天使だが小競り合いは時偶起きている。そして今回の彼女達は上を騙してある計画の為に動いているのだ。もしリアス達と戦ってもそれは小競り合い扱いされ戦争は起きない。だからあえてその情報を流して彼女の死を偽装しようというのだった。

 

「ああっ! 流石です一誠様! それでこそ私の主だわ! ……それであの、この任務が終わったら……」

 

「ああ、分かってるよ。ちゃんと仕事を終えたらご褒美をあげる。それで君は生前なりたかった至高の堕天使にしてあげるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……部下の魂と君の元守護霊を食べる事でね」

 

邪悪な笑みでそう告げる一誠に対し、レイナーレは恍惚の表情を浮かべていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ」

 

……どうしてこんな事になったのだろう? 少女はそう思いながら溜息を吐く。彼女の名はアーシア・アルジェント。かつて聖女と崇められ、魔女として追放された悲劇の主人公だ。両親に捨てられたアーシアは教会の孤児院で育ち、傷を治す神器に目覚めた事で聖女と呼ばれるようになった。それからは周りの者達は彼女を聖女としてしか見なくなる。彼女のたった一つの望みである友人が欲しいという願いも叶いそうになく、それでも彼女は懸命に人の傷を癒してきた。そしてある日、その日々は崩壊する。

 

「魔女めが! 出て行け!」

 

ある日、傷ついた悪魔を癒したアーシアは悪魔を癒せる魔女として教会を追放され、やがて生きる為に堕天使の組織に入る事となった。神器とは神が人に与える物。彼女はその神器によって人生を狂わされながらも神への信仰を失っていなかったのだ。彼女は今日は悪魔に力を貸す者にお仕置きをすると聞かされ、邪魔が入らないように結界を張るように命じられていた。だが、何やら不審な物音が気になった彼女は言い付けに背き部屋を覗いてしまう。そこには磔にされた惨殺死体があった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……松田さんは上手くやっているかしら?」

 

「まぁ、あれだけの術者ですもの。上手くやっているでしょう」

 

悪魔は人間の願いを叶えて代価を得る契約によって力を蓄える。今は悪魔を呼び出せるだけの術者が居ないので魔方陣が書かれた使い捨てのチラシを使っている。そう、一誠がすぐに捨てた例のチラシである。新人はチラシ配りからだが、松田は本日より契約の仕事を任される事となった。まだ彼が凄腕の術者だと勘違いしている彼女達は特に心配もせずに彼の帰還を待っていた。その時である。彼は突如部室内に姿を現した。

 

 

「やぁ、久しぶりだね」

 

そこにいたのはリアス達が松田だと勘違いした一誠の姿だった。

 

「……松田君? いや、彼はまだ転移先に居る。……まさか! 彼は本当に別人だったのか!?」

 

「うん、そうだよ。いや~、たまたま拾った手帳を落としちゃってさ。君達の勘違いには笑わせてもらったよ。まぁ、無関係な一般人なのに問い詰められ、甘い話だけ聞かされて危険たっぷりの世界に彼が誘い込まれたのは俺にも責任があるし、今日は良い事を教えに来たよ。……堕天使の手先が彼の転移先にいる。早く行かないと殺されちゃうよ?」

 

その言葉を聞いたリアスは慌てて立ち上がり、一誠を睨みながらも今は急ぐべきと判断して転移して行く。一人残された一誠はボソッと呟いた。

 

 

「さ、予定調和の茶番劇の始まりだ。……アーシアとか言う子はどうでも良いか。死んだらレイナーレの餌にでもしよっと」

 

『相棒。やはりお前は最悪だな』

 

「……何を今更」

 

その日の夜、何時もの様に旧校舎から異界に入り込んで異界の住人と話をしていた。

 

「あ~、俺もバイク乗ってみたいんだよね。免許ってどの位かかるの?」

 

「!$%#&‘*」

 

「え!? 本当にバイク貸してくれるの? まぁ、確かに此処なら無免で乗っても咎められないからね」

 

一誠と話をしているのはバイクに乗り、特攻服に身を包んだ暴走族と思しき男。二人はバイク談義で盛り上がっており、随分と仲が良さそうだ。そう、一見すると暴走族と普通の生徒の会話にしか見えないだろう。暴走族の頭部が無い事を除けば……。

 

「ねぇ、ねぇ、黒歌ぁ~。なんでイッセーはアイツの言葉が分かるの~?」

 

「さぁ、私にも分からないにゃ、メリー」

 

 

首無しライダー。敵対する暴走族の用意したピアノ線の罠によって首を飛ばされた暴走族の霊……という都市伝説によって生まれた存在だ。なお、首が無いのに話す事ができる彼だが、その言葉を理解できるのは一誠と纏め役の口裂け女だけである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日は松田の悪魔としての初契約の日だった。身に覚えのない事で疑われ問い詰められてはいたが、やはり美少女揃いの為に彼は部に馴染み悪魔になる事も平気で受け入れる。自分にはそれなりに役に立つ神器もあり、彼はいい気になっていた。力がある事と力を扱える事は別だとは知らずに……。

 

 

 

 

 

「な、なんだよ!?これは……。うっ、おぇぇぇぇぇぇ」

 

彼が召喚されてまず見たものは部屋の主らしき人物の惨殺死体だった。逆さ十字に磔にされ、臓腑が丸見えという異常な光景に一般人の感性を持つ彼が耐えられるはずもなく、胃の内容物を床にぶちまける。口の中に広がる酸っぱい味と溢れ出す涙に耐えながら壁を見ると血文字で何か書いてあった。

 

「これは……」

 

「それは、悪い事する子にはおしおきよ~♪ って書いてあんだよ」

 

「だ、誰だ!?」

 

松田が振り返った先に居たのは白髪の少年神父。腰には銃を携え手には刀身のない剣を持っていた。

 

「これはこれは、悪魔君じゃあ~りませんか。んじゃ、早速で悪いけど……死んでくれや!」

 

少年神父は銃を抜き剣を構える。何時の間にか剣には光る刀身が現れていた。

 

「ま、待て! なんでいきなり襲ってきてんだよ!?」

 

「ん~? な~んか変だな~。あ~、なる程。お前、この世界の事よく知らないまま転生したって奴だな。んで、主から詳しい説明受けてねぇんだろ?」

 

リアス達は松田が術者だと勘違いしていた為、自分達の世界の事を詳しく説明していなかった。少年神父は彼の反応に不信感を覚えた後、すぐにその答えに行き着いたのかニヤニヤ笑いながら松田に視線を向ける。

 

「まぁ、冥土の土産に教えてやんよ。僕ちゃん出血大サービス! まぁ、出血すんのは君オンリーだけどよ。君達悪魔と敵対してる天使や堕天使は自分達に従う人間に力を与えて悪魔と戦わせてんのよ。んで、俺っちは堕天使の手先ってわけ。この部屋の奴は悪魔を呼び出す常連だったからちょっとキツめのお仕置きをしてやったのよ。……にしても君も不幸だね~」

 

「な、何がだよ!?」

 

「いやいや、何も知らない一般人を態々手駒にするって事は神器持ってんでしょ? 君も少しは鍛えてるようだけど所詮は一般人。……そんなもん持ってなきゃ殺されずに済んだのによ」

 

神父はそう言うと銃で松田の太股を撃ち抜く。その瞬間、強烈な痛みが彼の全身を駆け巡った。

 

「あぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「痛いっしょ? 君達悪魔にとって猛毒になる光力をたっぷり込めた祓魔弾はよ」

 

「く、くそっ! 俺だって……」

 

松田は痛みに耐えながら神器を発動させる。彼の神器は青い光の矢を放つ『青光矢』。だが、矢を神父に放とうとした松田の脳裏に浮かんだのは、全身を撃ち抜かれ血潮をまき散らしながら悶え苦しむ神父の姿。今まで喧嘩くらいしかして来なかった彼にとって、他人に殺傷しかねない攻撃を放つなど難しかった。それは当然だろう。ある日いきなり剣や銃を持たされ、目の前の動物を殺せ、と言われて実行できる人はそんなに居ない。ましてや相手は自分と同じ人間だ。それを感じ取ったのか神父の表情には多少の哀れみさえ込もっていた。

 

「……なぁ、どうせお前を悪魔に誘った奴から対して説明されてねぇんだろ? 上層部は転生悪魔を見下してるって事やレーティングゲームの事とかよ。レーティングゲームって知ってるか? 悪魔が異空間で行う模擬戦だよ。相手を斬ったり火で焼いたりするのを悪魔はスポーツみたいに思ってんだよ。ま、一応死なないようにはなってるらしいけどよ。……お前に出来んのか? 相手が戦闘不能になるまで殴ったりとかをさ」

 

「な、なんだよ、ソレ!? 俺は聞いてない! そんな話は聞いてないぞ!? ただ頑張れば上級悪魔になってハーレムができるって部長が……」

 

「……そりゃ騙されたんだよ。言っとくがよ、上級悪魔になろうと思ったらゲームで活躍しなきゃなんねぇぜ? ……ま、選んだのはお前自身だ。安心しな、せめて楽に殺してやんよ」

 

神父は松田の首筋めがけて剣を振り下ろそうとする。その時、部屋の戸が開き一人の少女が入ってきた。

 

 

「あの~、フリード神父? その人は……キャァァァァァァァっ!?」

 

「あ~あ、大人しく外に居ろって言ったじゃんアーシアちゃん。壁の奴は悪魔に力を貸してたから殺したの。此奴は悪魔。はい、説明完了!」

 

死体を見て腰を抜かして悲鳴を上げるアーシアに対し、神父……フリードは頭が痛そうに溜息を吐く。どうやら彼女が部屋の惨状を見たらこうなると予想していたのだろう。先程の松田と同じように吐きそうになっている彼女に近づくとハンカチを差し出し、彼女の背中をさすっていた。

 

「ダメだよ~? 言いつけ破っちゃ。大人しくしてろって言ったじゃん。さ、今からアイツの首をスパリンチョするから外に出てろよ」

 

「あ、あの人も殺すんですか?」

 

「そうだよ? だって、それが仕事だもん」

 

そう言ってフリードが立ち上がろうとした時、その裾をアーシアがガッシリと掴んだ。

 

「……止めてください。いくら悪魔に力を貸しても人を殺すなんて間違ってます! それにそこの人を殺すのも……」

 

「……はぁ? あのな~、君って学習能力ないの? そんな考えで悪魔を助けて追放されたんっしょ? それに君が教会にいた頃からエクソシストは悪魔を殺してきてたんだぜ。それを目の前で殺されそうなのだけ助けるなんて……偽善に過ぎねぇよ。なぁ、そんなこと言うなら聖女時代にも中世の魔女狩りを批判したんだよな? 悪魔を殺すなって訴えたんだよな? ……そうじゃねぇなら黙ってろよ」

 

フリードはそう言って手を離して黙り込むアーシアから視線を外し、再び松田に銃口を向ける。その時、部屋に魔法陣が出現しリアス達が転移してきた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一誠様。即急にお伝えしなくてはならない事が……」

 

「……何?」

 

その頃、異界に戻った一誠は保健室のベットで黒歌と絡み合っていた時にレイナーレから送られてきた念波に動きを止める。黒歌が不満そうに睨んでくるのを無視してベットの横に腰掛けるとレイナーレは要件を告げた。

 

「一誠様の神器が普通の神器だったと上には報告しましたので、後は殺られたフリをして合流する手はずでしたが……どうやらグレモリーとは別の悪魔に監視されています。このままでは計画に支障が出る恐れが……」

 

「……分かった。じゃあ、今日の所は交戦を避けておいて」

 

「御意!」

 

「……悪かったね。さぁ、続きをしようか」

 

レイナーレとの交信を終えた一誠が続きをしようと振り返ると其処には鬼の形相をした黒歌が居た。

 

「ねぇ、ヤってる最中に他の女と話するってどういう神経してるのかにゃ?」

 

「……御免なさい」


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