霊感少年の幽雅な生活 (完)   作:ケツアゴ

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四十七話

――――それは人の身なら気の遠くなる程、神からすれば少し前程度の昔の事。とある二人の神が雲の上から地を見下ろすと飢えと寒さで次々と人が死んでいた。見兼ねた二人は地に降り立ち、火の熾し方と風の御し方を説く。勿論、他の神々には内緒でこっそりと……。

 

「聞いたか、太刀風の? 我々のやった事がバレたらしい」

 

「本当か、雷電の? まぁ、構わん構わん!」

 

他の神は火風の理を勝手に教えたのを責め立てるも二人はどこ吹く風、全く気にしていない。たとえ咎めを受けようとも、人を救うのが二人の望みだったから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ついにこの日がやって来ましたね。今度こそはと思いますが……」

 

とあるホテルの一室で一人の女性が憂いに満ちた表情で外を眺めている。彼女の名は天照。日本神話体系の王であり、今はオーディンとの会談の為に下界へとやって来ている。そして彼女は赤龍帝・兵藤一誠と玉藻の二人との会談を望み、その事に不安になっていた。

 

「なぁに、大丈夫だろう。少なくても今までは問題がなかったんだろう?」

 

「平気平気! 少しは信じてやったらどうだ? ……まぁ、同じ事を繰り返したくないという考えは分かるがな」

 

「……ええ。だから今日見極めさせて頂きます。もし駄目だと判断したならば……」

 

天照は後ろに居た護衛らしき二人に対しそう呟き、部屋から出て行く。その際、彼女の桃色の髪の毛が微かに揺れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んじゃ、作戦を確認するぞ。ロキの襲来と共に戦闘班と一緒に指定場所に転移。戦闘班は堕天使側からバラキエル。悪魔側からタンニーンとグレモリー眷属とシトリー眷属のゼノヴィアと匙。ただし匙は少々遅れる。天界側からはイリナ、北欧側からはロスヴァイセとガウェイン。そしてヴァーリチーム。後は冥府側からだが……」

 

会談当日の夜、アザゼルは作戦の最終確認を始める。最近のテロの影響で何処も人手が足りず、連携重視でメンバーが選抜されたのだが、冥府からのメンバーが問題だった。

 

「こうして共闘するのはお久しぶりですね、ガウェイン」

 

「ええ。円卓の騎士の力を見せてやりましょう」

 

まだガウェインと仲間だったランスロットとその部下はまだ良いだろう。だが、他のメンバーが問題だった。

 

「ひっ! ふ、フリード神父……」

 

「ん? どうしたんだよアーシアちゃ~ん。まだ手足ぶった切ったの根に持ってるの?」

 

「にゃん♪」

 

「……血がたぎる。八房が神の血を吸わせろと騒いでいるでござるよ」

 

「ちょっと、ポチ隊長にフリード。後ついでに黒歌。一応アザゼル総督が話してるんだから聞いてあげたら?」

 

『グハハハハ! 今から楽しみだぜ!』

 

一誠が派遣してきたのは何奴も一癖ある者ばかり。リアス達と二回も敵対したフリードに目が血走っている侍の犬飼ポチ。そして黒歌と堕天使レイナーレと邪龍グレンデル。とても他の者達と共闘するといったメンツではない。本来ならばシャドウを派遣して欲しかったアザゼルだが一誠から今は無理だと断られた。アザゼルも会談の仲介の為に戦闘には参加できずバラキエルを代役に立てている。

 

「……本当に大丈夫か?」

 

アザゼルが思わず呟く中、会談場所であるホテルの上空の空間に穴が空き、中からロキとフェンリルが出てきた。

 

「目標確認。作戦開始」

 

バラキエルの合図と共にホテル一帯を結界魔法陣が包み、ロキ達をリアス達ごと転移させていく。ロキはそれを感じ取りながらも何の抵抗もしなかった。一行が転移したのは古い採石場跡地。そして転移が済むと同時にグレンデルが飛び出す。その手には何時の間にか巨大なトンファーが握られており、真っ直ぐにロキへと向かって行った。

 

『グハハハハ! 一番槍は貰ったぜ!』

 

「ほぅ。滅びたはずの邪龍が相手とは! これは胸が高鳴るぞ!」

 

ロキは迎え撃つべく無数の魔法陣を出現させ光の帯を放つ。だがグレンデルは気にせず真っ直ぐ突っ込み、光の帯を真正面から受けながらもその疾走は止まらない。いや、邪龍でもトップクラスの防御力を持つ龍鱗に弾かれ光の帯はほとんど効果をなしていない。

 

「オォォォォォォォォォン!!」

 

フェンリルがロキの元へと行かせまいとグレンデルに噛み付く。グレンデルの強固な鱗もフェンリルの牙には耐えられずその身に牙が食い込み血が流れるもグレンデルは止まらない。その収まる事のない戦闘欲求こそが彼が大罪の暴龍と呼ばれる所以なのだから。

 

『行くぜ! 必殺!!』

 

「くっ!」

 

グレンデルはフェンリルに食いつかれたままロキに迫り、右手に持ったトンファーを回転させながら振り抜く。回避不能と判断したロキはその方向に防御魔法陣を設置して衝撃に備え、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのまま反対方向から迫った足に蹴り抜かれた。

 

『トンファーキィィィィィィク!!』

 

「がぼっ!?」

 

『ハッハァァァァァ! おい、犬っコロ。いい加減離しやがれぇ!』

 

右手のトンファーにばかり注意位を放っていた為に反応が遅れ、ロキはそのまま地面に蹴り落とされる。そしてグレンデルは噛み付いたフェンリルを下にするように地面に急降下していった。だが、フェンリルは咄嗟に牙を離すとついでとばかりにグレンデルの背中を爪で引き裂く。黒板を爪で引っ掻くような嫌な音と共にグレンデルの鱗と血飛沫が当たりに散った。

 

『グハハハハ! 痛いな、オイ!』

 

かなりのダメージを食らったにも関わらずグレンデルは楽しそうに笑ってフェンリルの方を向く。するとフェンリルの背後からポチが迫っていた。空中を飛び跳ねる彼の体中は何時の間にか狼の毛に覆われ顔は既に狼のソレとなっている。

 

「不意打ち御免!」

 

「ギャゥゥゥゥゥゥゥン!!」

 

ポチが放った神速の居合抜きは一撃でフェンリルの強固な毛皮に八つの傷を付け血を噴き出させる。グレンデルと同様に戦闘欲求が強いフェンリルもその一撃には耐えられなかったのか悲鳴を上げ怯む。その様子をタンニーンは空いた口が塞がらなかった。

 

「し、信じられん。フェンリルに易々と傷を負わせるとは……」

 

「それは当然でしょう。ポチ殿は主の側近である死霊四帝の長。そして彼の身が扱える妖刀八房は魔剣聖剣の類以外は強度に関係なく切り裂き、その際に吸った力を主に還元します。……頃合ですね。黒歌殿!」

 

「にゃん♪」

 

ランスロットの合図と共に黒歌は巨大な鎖を出現させる。この鎖の名前はグレイプニル。ドワーフが作ったこの魔法の鎖は一度は効かなかったのだがダークエルフの協力を得て強化されていた。それをヴァーリチームとタンニーンが持ち上げ投げつける。だが、フェンリルは咄嗟に飛び退き鎖から逃れ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『トンファー超天空×字拳!!』

 

「ギャンッ!」

 

グレンデルのクロスチョップによって鎖まで弾き飛ばされた。フェンリルに命中した鎖は意志を持つかのようにフェンリルに絡みつきその動きを封じる。苦しそうな狼の叫びが響き渡った。

 

「トドメで御座る!」

 

そしてポチはフェンリルの喉元目掛けて刀を振るう。だが切っ先がフェンリルに迫った瞬間、ポチは横合いから飛び出た灰色の塊に弾き飛ばされた。

 

「……まさかグレイプニルを強化してるとはな。さて、フェンリルの息子達よ! 父を捉えた者達を受け継いだ神殺しの牙で葬るが良い!!」

 

突如現れたのはフェンリルより少々小柄な灰色の狼二匹。二匹は唸り声を上げながらランスロット達の方へ向かって来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご無理を言って申し訳ありませんでしたね、兵藤一誠君。そしてお久しぶりと言うべきでしょうか、玉藻の前……」

 

グレンデルがトンファーを全く使わずに戦っている頃、一誠は天照と会っていた。その体から放たれる輝きは命を育む春の日差しの様であり、その顔は玉藻と瓜二つであった。だが一誠はその事を予め知っていたのか驚いた様子もなく、玉藻に至っては不機嫌そうな顔をしている。

 

「……それで何の用ですか? 私の一部である玉藻の前の怨念を放置していたのは貴女でしょうに。それと、私をその名前で呼ばないでくれます? 私の名前はご主人様から頂いた『玉藻』だけです」

 

玉藻から放たれる明らかな敵意を気にした様子も無く、天照は着物の裾で口元を隠しながらクスクスと笑っている。その姿がカンに障ったのか玉藻の目付きはますます鋭くなっていった。

 

「……ええ、玉藻の前の怨念を放置したのは私です。……ですから今日は回収しようと思いお呼びしました」

 

その瞬間、天照の放つ空気が変わる。先程までの暖かい日差しから一変し、まるで命を奪う砂漠の灼熱の日差しを思わせる物になり、後ろで控えていた護衛二人でさえも冷や汗を流していた。

 

「ああ、別に全てを持って行く訳じゃないですよ? ちゃんと代価はお支払いいたしますし、持って行くのは玉藻の前の部分だけ。子狐の玉藻ちゃんの部分はお残し―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「巫山戯るな。今の玉藻は玉藻の前と子狐の玉藻が合わさって初めて存在しているんだ。それを横合いから持っていく? 俺にとって一番大切なのは、俺が一番愛しているのは今の玉藻だ! 絶対に渡してたまるか!」

 

「ご主人様……」

 

一誠は珍しく声を荒らげながら叫ぶ。天照は一誠が庇う様に後ろにやった玉藻をチラリと見るとワザとらしく溜息を吐いた。

 

「……そうですか。なら、力尽くです」

 

その瞬間天照の体が激しく光輝き、光が晴れた時には一誠と玉藻は真っ白な部屋に居た。二人が警戒していると何処からともなく天照の声が聞こえて来た。

 

「貴方が渡さないと言うのなら力尽くでも奪います。それが嫌なら力を示しなさい。ちゃんとその子を守れる力があるかを!」

 

「きゃっ!?」

 

「玉藻!?」

 

一誠が玉藻の悲鳴に振り返ると彼女は半透明な球状の結界に閉じ込められ、部屋の中央へと移動していく。そして反対側から先ほどの護衛二人が現れた。

 

「さぁ、坊主! 今直ぐ掛かってこい!」

 

「手下の力を借りずに試練を突破できたら彼奴は無事に返してやるぜ!」

 

二人は着ていたスーツを脱ぎ捨て正体を現す。そこに居たのは大きな袋を担いだ緑色の鬼と太鼓を背負った紫色の鬼。風神と雷神という名で有名な鬼神だ。

 

「では、太刀風五郎参る!」

 

「んじゃ、雷電五郎行くぜぇ!」

 

一誠目掛けて雷撃と嵐が放たれ、部屋に轟音が響き渡った。

 

 

 

二人の神が人に火風の理を授けた事によって地上は笑顔で溢れ、その笑い声は雲を突き抜けて二人に届く。それを聞いた二人は後悔せぬと高笑いをしていた。だが、それも長くは続かない。人々は二人から教わった術を戦いの道具に使い、地上には怨嗟の声が満ち溢れ出す。それを見た二人は嘆き悲しみ、自ら牢に囚われた。それは二人が地上に降り立って、たった半年後の事……。

 

 

 

 

 




意見 感想 誤字指摘お待ちしています

さて、今回登場したのはとあるゲームでゲーム中最高クラスの強さを持つボスコンビです。一誠の相手として何がいいかと考えてこの二人にしました。っていうかこの二人が好きだったんで(笑)

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