霊感少年の幽雅な生活 (完)   作:ケツアゴ

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つ、ついに評価が7を下回った (´;ω;`)

お気に入りも前回でぐっと減ったし 感想こそが動力源です


四十八話

人と神は姿形が似ていたとしても全くの別物だ。脆弱で短命な人と違い、神は強靭で永遠に近い寿命を持つ。其れ故に神には生きながら死んでいるに等しい者がいる。万能ゆえに達成感がなく、長寿ゆえに生きる事に飽きている。要するに彼らは退屈し娯楽を求めていた。彼らはその力ゆえに傲慢で人を見下している。天照もそんな神の一人。

 

―――なぜ人はあんなに弱いのに生きているのだろう。なぜ一目も見た事もない自分に祈れるのだろう。

 

雲の上から自分に祈る人を見ていてそう思った彼女は気紛れを起こし、一匹の野干に自分の分身を宿らせ、記憶を消した上で人に仕えさせてみる事にした。神の王である天照にとって誰かに仕えるという事は初めてであり、分身を通して夢で見る人としての生活は彼女を楽しませ、それなりに幸せな生活だった。

 

―――人としての生活も悪くない。

 

だが、分身――玉藻の前が人間で無い事が発覚するとその幸せは一変、絶望へと変貌する。分身から押し寄せてくる胸を締め付けるような絶望と悲しみ。長らく忘れていたその感情に天照は苦しみ、やがて玉藻の前は自分の正体を思い出した。一度目は朝廷の追っ手を撃退した玉藻の前は二度目は和平を説きながら無抵抗のまま三日三晩矢の雨を受け続け死に絶え、その魂は天照の元に戻る。

 

―――神が人になりたいなど思うべきではなかった。やはり人と神は相容れぬ関係。互いの為にも関わりあうべきではないのだ。

 

後に残ったのは言い表しようのない絶望感と玉藻の前の怨念。もう悲しみと絶望を天照に送り続けるだけの其れを天照はあえて放置した。それが自分への戒めと決めて……。

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ! これも防ぐか。いや、愉快愉快!」

 

雷神は撃ちだした雷球が一誠に防がれたのを見て豪快に笑う。隣の風神も愉快そうに笑っており、二人からは一誠を見下す視線も敵意も感じられない。いうならば体育会系のOBが後輩を鍛えている、といった感じだ。

 

「……調子悪い。覇龍は詠唱時間が隙になるし、卑怯な手を使ったら玉藻に何があるか分からないし……」

 

一誠は口内ににじみ出た血を床に吐き捨てると破損した鎧を修復する。その体は雷撃で焦げ風の刃で切り裂かれ負傷していた。見るからに本気で無い攻撃にも関わらず一誠は追い詰められつつある。それは人と神の差であり、神器の不調による物だった。

 

『相棒、もう少しの辛抱だ。今神器はパワーアップの時を迎えようとしている。後はその方向性が定まれば良いのだが……』

 

玉藻を天照から守りぬく。その誓いをした時、神器に異変が起きた。皮肉な事に玉藻を守るという意思によってもたらされた強化の兆しが玉藻を救う為の障害となっている。今も雷神の爪の一撃を避けようとしたもののスピードが出ずに避けきれず、何時もより強度の低い鎧は一誠の体ごと引き裂かれる。その姿を玉藻は悲痛な面持ちで見ていた。

 

「ご主人様……」

 

玉藻は自分を閉じ込めている結界を殴りつけるも微動だにせず彼女の拳が痛むばかり。結界の効果かそれでも玉藻は結界を壊そうと足掻き続ける。すると彼女にだけ聞こえるように天照の声が届いて来た。

 

『もう止めて欲しいですか? なら玉藻の前の怨念を差し出してくださいませ。そうすれば今すぐ止めて……』

 

「黙りやがってくださいませ、クソ神さん。私は今の私を捨てる気なんてありませんよ」

 

『……そう。やっぱり自分が一番可愛いんですねー。愛しているとか言っておきながら危なくなったら自分を優先する。ま。それが気まぐれな神らしいですけど?』

 

天照の声は玉藻と同じように巫山戯た感じでどこか本心を隠している様にも思える。そしてその言葉を聞いた玉藻は、

 

 

 

 

 

 

「はっ! 何を言っているのやら。私とある程度繋がっているのに、そんな事も分からないんですかぁ?」

 

心底呆れているといった様子で鼻で笑う。最後にはオマケとばかりに吹き出した。

 

「私とご主人様は相手の為に死ぬといった関係の更に上を言っているんです。相手が自分の為に死んだら迷わず後を追う。だから私達は自分を犠牲にしない。それに私のご主人様は最強なんですよ? ……ま、今はちょっと弱っているから心配しましたけど」

 

得意げに胸を張る玉藻の視線の先では籠手から出現した黒い刃で掴みかかった雷神の腕を切り飛ばす一誠の姿があった。

 

 

 

 

「……あ~、もう難しい事考えるの辞めよ。君達ぶっ殺した際の冥府と日本神話体系の関係とか気にしなくて良いや。どうせそっちが仕掛けてきたんだし……さっさとブッ殺して玉藻と一緒に帰る! この『神喰龍剣(かみくいりゅうけん)』でね!」

 

一誠の鎧は先程までの不安定さは消え去り、むしろ以前より強く安定した力を放っている。そして右手の籠手から生えた刃。それこそが新しく手に入れた力だろう。一誠は右手の籠手から生えた黒い刃を二人に向ける。その刃先からは神殺しの力が放たれていた。

 

「ははははは! やはり人間とは凄まじいな。短期間でどんどん強くなっていく! だが、我らもまだまだ負ける訳にはいかんな、太刀風の!」

 

「全くだな、雷電の! 見ていて清々しいな。惚れた女の為に神殺しに挑むとは。だが、我らは世界最強コンビ。そう易々と首はくれてやらんぞ!」

 

人であるにも関わらず神である自分達を殺すと宣言した一誠に対し、雷神風神のコンビは楽しそうに笑う。その瞳は生徒を見守る教師、あるいは子を見守る親の様であった。

 

 

「ドライグ、聞いた? あの二人が最強コンビだって。本当の最強コンビは誰か教えてあげようよ」

 

『……そうだな。おい、よく聞け! この俺ドライグと……』

 

「最強コンビは俺と玉藻だよ。それ以外は有象無象に過ぎないね!」

 

『兵藤一誠こそが……へ?』

 

てっきり自分と一誠の事を言っているのだと思ったドライグは得意そうに叫ぼうとし、途中で言葉を切る。幸いな事にその事に気付いた者は居なかった。一誠が刃を構えると凄まじいオーラが溢れ出し、やがて凝縮されて球体となる。風神雷神の二人も雷と風を合わせ、巨大な獅子を作り出していた。

 

「「(らん)……」」

 

「神喰い……」

 

 

             「「  獅   子(じ し) !!!」」

 

               「 断 末 魔 砲 !!」

 

暴風と雷で構成された巨大な獅子と神殺しの力を込めた怨念の砲撃が同時に放たれる。その二つはまっすぐぬ向かい合い衝突しようとしたその時、砲撃が無数の枝分かれして獅子を避ける。

 

「なんと! あの様に動くとは!」

 

「だが、それでは獅子の直撃を喰らうだけだぞ!」

 

 

後方に飛び退いた一誠目掛け、獅子は意志を持つかのように向かって行き、枝分かれした砲撃は防御の構えを取った二人に向う、

 

 

 

 

 

 

 

 

「「何!?」」

 

かに思えたのだが、雷神風神の横を素通りし玉藻の方に向かっていく。それを見た玉藻は微動だにせず、砲撃は彼女の横ギリギリを掠めるようにして結界を破壊する。

 

「玉藻!」

 

「はい!」

 

結界から解放された玉藻は一誠に呼び出され直ぐ傍まで転移する。そして正面から向かってくる獅子に対して鏡を構え、結界術を発動する。

 

「……触れないで下さいまし」

 

「断末魔砲!」

 

玉藻の張った結界は獅子の威力を大幅に弱め、一誠の砲撃が完全に吹き飛ばし、残った砲撃は雷神風神へと向かっていく。

 

「「ぬぅぅぅぅ!!」」

 

二人も同様に結界を張ってそれを防ごうとしたが上空より放たれた術によって結界が破壊されてしまう。

 

「塵すら残らないかも♪」

 

玉藻の術で体勢を崩された二人を砲撃が襲い、二人の視線が一瞬覆われたその時、一誠が二人に迫っていた。

 

 

 

「言ったでしょ? 最強コンビは俺と玉藻だってさ」

 

一誠は刃を一閃。二人の胸から血飛沫が盛大に上がり地面に仰向けに倒れる。そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、これは適わん!」

 

「まいったまいった! 降参降参!」

 

二人の朗らかな笑い声が聞こえ、一誠の視界が再び光に包まれる。光が収まると其処は先程天照と会った部屋。そして一誠は転移前の体勢を取っており、体の傷も痛みもない。護衛の二人も先程と同じ場所にいる。ただ、天照だけは先程居た場所ではなく、床に跪いていた。

 

「誠に無礼ながら貴方様の精神のみを飛ばし、力を試させて頂きました。……この度の一件、誠に申し訳ございません」

 

 

 

 

 

天照が自分への罰にと玉藻の前の怨念を放置してから数百年したある日、急に悲しみも絶望も感じられなくなった。昨日までは確かに送られてきたのに何故? 気になった天照が地上を見ると目に映ったのは怨念と同化して悪霊になった子狐の霊。そしてその霊に顔を舐められている子供の姿だった。

 

―――どうせあの子も拒絶するでしょう。また裏切られる絶望を味わうんですね。

 

天照は子供が何時の日か子狐を恐れ拒絶する。そしてまた悲しみや絶望の念が送られてくるものと思っていた。しかし、子狐が天照ソックリの人の姿をとっても子供は拒絶せず、悲しみや絶望の念は何時まで経っても送られてこない。反対に胸を満たす幸福感や胸を温める喜び、そして胸の高鳴りが送られてくる。それは天照がかつて手に入れ、そして失った物だった。何時しか天照は子供と子狐を見るのが日課となり、送られてくる幸福感とその姿を見るのが何よりも楽しみになっていた。

 

 

―――あの子なら大丈夫。もうあんな思いはしないわ。でも……。

 

だが、子供が成長し戦いの場に出るようになると天照を別の不安が襲う。彼が死んだ時、これまで以上の悲しみを感じるのではないか、と。幸せな生活を知ってしまった彼女にはそれが耐えられず、こういう結論に至った。

 

―――もしあの子が力不足なら玉藻の前の怨念を私の中に戻そう。そうすればあの子を失う悲しみを味合わなくて済むから……。

 

自分でも身勝手と思いつつも天照はそう決意する。だが、自分の手で一誠に攻撃できるとは思えず、人に絶望しながらも未だ人を愛し続けている二人の神に目を付け、釈放の代わりに戦って貰う事にした。二人は天照の気持ちを汲んでそれを承諾。そして一誠は玉藻と共に試練を突破して力を示したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これが今回の件を引き起こした理由でございます。全ては私の不徳の致す所。どうぞこの首で此度の一件をお収め頂けませんでしょうか」

 

天照は神妙な面持ちで一誠の前に座り込む。一誠は無言で神器を出現させる。精神世界の出来事であったが強化はされているようで禁手状態の比べると弱々しいが無抵抗の相手を殺す程の力はあった。そして一誠は右手を振り上げ、そのまま神器を仕舞う。

 

「……行くよ玉藻。ランスロット達が待ってる」

 

「はい!」

 

一誠は天照に背を向けると部屋から出ようとする。その背中に天照の声が掛けられた。

 

「私を罰しないのですか……?」

 

「玉藻は無事に俺の下に戻った。俺はそれだけで十分なんだ。それに今君を殺したら厄介な事になる。そうしたら今度こそ玉藻を失うかも知れない。だから、今回だけは今の玉藻と出会わせてくれたお礼に見逃すよ。……でも、次があると思わないでね?」

 

一誠は最後に特大の殺気を放つと部屋から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふふふ、見逃して頂きましたね」

 

「全く、無茶しすぎではないか? もしあの小僧が殺しにかかったら……」

 

「安心しろ、雷電の。仮にも天照の惚れた男だ。その程度の判断がつかんはずがない。……そろそろオーディンとの会談だな」

 

風神はそう言うとテレビの電源を切る。高速道路で起きた玉突き事故で制服の上に韓服を着た青年が重傷を負った、というニュースの途中で画面が消えた。

 

 

 




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雷神風神は 俺の屍を越えていけ というゲームからの出演です

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