霊感少年の幽雅な生活 (完)   作:ケツアゴ

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五十一話

一筋の光すらない闇の中、黒歌は意識だけの存在となっていた。体の感覚は既になく、指先一つ動かせない。先程までは妹を守ったという誇りで心を保っていたが、今は恐怖が心を染め上げている。見渡す限りの闇、闇、闇。暗闇でも目が利く猫であり悪魔である黒歌からすればその光景は初めて見る物であり、恐怖の対象でしかなかった。

 

「(怖い、怖い、怖い! 誰か、誰か、誰か……助けて!)」

 

恐怖で心は蝕まれるも悲鳴すら出ない。徐々に黒歌の心は擦り切れていき。意識が徐々に沈んでいく。しかし、その耳に誰かの声が聞こえてきた。

 

「……た。……歌。……黒歌!」

 

「(イッセー?)」

 

まるで氷付けになった様に冷め切っていた体に徐々に熱が戻りだし、闇に一筋の光が差し込む。そしてその光は段々大きくなり、やがて闇が完全に晴れると黒歌は一誠の胸に抱かれていた。

 

「おはよう、黒歌」

 

「おはよう、イッセー!」

 

黒歌は思わず一誠に抱きつきそのまま押し倒す。その胸に一誠の顔を埋めさせ首筋に手が回っていた。玉藻も一瞬怒ったような顔をするも直ぐに溜息を吐いて顔を逸らす。その口元は僅かに微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん~! (い、息が……)」

 

「って、貴女の胸でご主人様が窒息死しそうです! 今すぐ離れやがりなさい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロキとリアス達との戦いの後に行われた一誠による圧倒的蹂躙後、一誠は黒歌の死体を抱いてその場を去った。彼にとって霊を従える儀式は神聖なものであり、またアザゼルが自分を幽世の聖杯を所持していると勘違いしているので手の内を隠す為にも見られる訳には行かなかったのだ。そして玉藻が見守る中、黒歌の魂は一誠の正式な下僕となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後、ヴリトラに変化する能力を身につけた匙が駆けつけたが、全てが終わった後なので微妙な空気になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ふんっ! 随分と待たせたな。言い訳の一つでも考えてきたか?》

 

ハーデスは不機嫌そうな声を出し、空洞の眼で会談相手を睨む。ハーデスは今回の件で話があると三大勢力のトップ陣を呼び出したのだ。やって来たのはサーゼクスとアザゼルとミカエル。今はテロリスト対策で忙しい身なのだがハーデスの呼び出しとあらば応じない訳には行かない。

 

 

既に一誠がロキを圧倒した事と部下であるポチがフェンリルと同等の力を得た事は報告されており、冥府はより一層重要な同盟相手となっていた。

 

《……今回の報告書を読ませて貰った。経験の浅い学生が要人の警護の殆どを占めていたなど、随分と身内を高評価しておるのだな》

 

「申し訳御座いません。何分テロ対策で人員が不足しておりまして……」

 

《人員が不足? 貴様らコウモリは魔法使いと契約しておるし、懇意にしている魔法使いの協会もあるだろう。何なら金で傭兵を雇っても良い。……メンツの問題か?》

 

「ッ!」

 

ハーデスの言葉にサーゼクスは言葉を詰まらせる。自分達から協力を申し出てきた上にアルビオンを宿すヴァーリ達やドライグを宿し強力な部下も居る一誠に協力して貰うにならまだ良かったが、そんな特別な存在でない魔法使いや傭兵に一時的とは言えテロへの警備、ましてや要人への襲撃者の撃退を任せるということには上層部から反発があったのだ。

 

ゆえに若手の顔合わせの場で言った、力は借りない、という言葉を撤回してリアス達にロキの相手をさせ、その結果、冥府所属の黒歌が死んだ。契約で戦場に出た以上死ぬ可能性があるのは分かっていたし、ハーデスは彼女自身には何の思い入れもないが、一誠が大切にしている存在が普段から気に入っていない相手の怠慢で死んだということが許せなかったのだ。

 

《……カラスや天界に至っては派遣したのは一人。しかも天界側は新人一人か。ご自慢の最強のエクソシストはどうした?》

 

ハーデスは問いながらもミカエル達の言葉には大して興味がなさそうにしている。どうせ言い訳か謝罪しかしないと踏んでいたからだ。事実彼らの口から出るのは謝罪の言葉のみ。ハーデスは辟易しながら本題に入る事にする。その手にはサマエルの封印解除に関する書類が握られていた。

 

《早速だがこれにサインして貰おう。……文句はないな?》

 

その時のハーデスは普段の間抜けなオッサンといった感じの空気は何処かに行き、世界TOPテンの一角に相応しい気迫を纏っている。サーゼクス達はその気迫に飲まれ書類にサインをした。ようやくハーデスから先程までの威圧感が消え去り彼らがホッとした時、ハーデスの口から思いもよらない言葉が飛び出した。

 

《……儂は貴様らがテロリスト共の一部とと繋がっていると思っておる》

 

「なっ!? おいおい、そりゃ冗談が過ぎるぜ爺さん」

 

アザゼルは思わず立ち上がって抗議し、サーゼクス達も遺憾といった様子だ。しかしハーデスは特に気にした様子もなく言葉を続ける。再び強者の威圧感が溢れ出した。

 

《ヴァーリ・ルシファーによるフェンリルの子の強奪。これは貴様らと違い神が居る神話体系からすれば脅威じゃ。もしロキがミドガルズオルムを量産したように神殺しの牙を持つ魔獣が大量に攻めて来たら目も当てられん。おっと、魔獣創造を持つ者もテロリストに居たか。参考にならなければよいがのぅ。確かヴァーリはアザゼル、貴様が育てたのであろう? そしてルシファー。貴様ら悪魔にとっては重要な存在じゃ。繋がっておらんと思わぬ方がどうかしておる》

 

「しかし! 我々もテロの襲撃を受けています!」

 

《敵を騙すにはまず味方から、っと言うじゃろう。それに全てと繋がっているとは言っとらんよ。一部と繋がり、他神話を再び追い込もうと考えておるのではないかと言っておるのじゃ。……まぁ、良い。明確な証拠が無い以上は此処で終わりじゃ。儂は天照や貴様らへの請求の為の書類を作らなければならんのでな》

 

ハーデスはそう言うと止められる前に転移して行った。

 

 

 

 

 

《……一誠の奴。あまり気落ちしておらんと良いが……》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お父様、お母様。これから宜しくお願いします」

 

その頃、一誠の家のリビングでは猫を被った黒歌が深々と頭を下げていた。霊になった事をきかっけに彼女も居候する事にしたのだ。何時ものように肌を露出させず清楚な女性を演じている。……猫なのに猫を被るとはこれ如何に。

 

 

「あらあら、立派なお嬢さんね」

 

「こんなお嬢さんがウチの息子と結婚するなんて。……一誠、必ず大切にしなさい」

 

「……風呂行ってくる」

 

黒歌の演技にまんまと騙された両親を尻目に一誠は浴室に向かう。その姿を見る黒歌の瞳は怪しく光っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お二人共、お茶が入りましたよ♪ あれ、馬鹿猫は?」

 

玉藻がお茶を入れてリビングに入ると黒歌の姿がない。一誠の母親はお茶を啜りながら玉藻に言った。

 

「あら、その呼び方からしてやっぱり猫被ってたのね、あの子」

 

「ありゃりゃ、お分かりでしたか」

 

「当然。何年一誠の親をやっていると思うのよ。ねぇ、アナタ」

 

「……う、うん! 分かっていたさ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……今日は疲れたな」

 

一誠はシャワーを浴びながら呟く。今日の戦いは精神的にも肉体的にも堪えたらしく顔に疲労の色が出ている。とにかく体を洗おうとボディソープを取ると空だった。

 

「はい、新しい奴」

 

「有難う、黒歌……うぉい!?」

 

背後から差し出されたボディソープを受け取る為一誠が後ろを向くと其処に居たのは全裸の黒歌。一誠は思わずツヤのある黒髪から絶世の美貌を持つ顔、白魚のような白い肌に豊満な胸、くびれた腰、そして大切な部分、と細い足の爪先までまじまじと見つめ、もう一度見直す。そして固まった。

 

「にゃん♪ そんなに見ないで……」

 

いかにも照れていますといった演技をしているが大根すぎてバレバレである。どうやら彼女に役者の才能はないようだ。

 

「……玉藻がかけた浮気防止の呪いは?」

 

「解けたわ♪ 多分霊体になって今のままじゃ子が出来なくなったから解いてくれたみたい。……だ・か・ら♪ 私の処女を貰って欲しいにゃ♥」

 

黒歌は一誠の背中に抱きつくと胸を擦りつける。弾力と柔らかさを併せ持つ肉の感触と吸い付くような肌の触り心地に混ざりヌメリとした感触が伝わってくる。黒歌は自分の胸の上でボディソープを泡立てると一誠の背中に擦り付けていた。細い指先は鍛えられた胸板を撫で、耳元に吐息を吹きかける。

 

「一誠ってほんと鍛えてるわね♪ 触っているだけで……あっ、あぁ……興奮してきちゃった」

 

黒歌の息遣いは徐々に荒くなりより激しく胸を擦りつけて一誠の背中を洗う。胸の先端が固くなり手も徐々に下の方に移動してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、やっぱり死んだ事落ち込んでる?」

 

「……なぁんだ。バレてたのね」

 

一誠の言葉に黒歌は動きを止めるとペロリと舌を出す。一見すると巫山戯ている様に見えるが隠しきれない憂いの色があった。

 

「……私、死ぬって事を甘く見てた。あんなに明るく振舞ってる玉藻達もこんな喪失感を感じているのね」

 

「……」

 

黒歌はしみじみと語り一誠は無言で耳を傾ける。黒歌はその姿を持てふっと笑うと再び一誠の背中に抱きついた。

 

「……だからイッセーが助けてくれた時は嬉しかった。ずっと私を傍に置いてくれる?」

 

「……うん」

 

「ありがと♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……じゃ続きね♪ 次は前側を洗うついでに貫通式を……きゃっ!?」

 

黒歌が一誠を押し倒そうとした瞬間、逆に押し倒されマウントポジションを取られる。上から黒歌を見下ろす一誠は嗜虐的な笑みを浮かべていた。

 

「悪いけど俺は上の方が好きなんだ。……手加減しないからね」

 

「Sにゃ! どSが居るにゃ!? あっ!? ちょっと、何処を触って……そんな所を舐め……」

 

一時間後、すっかりグッタリとした黒歌とスッキリした表情の一誠が浴室から出てきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……随分とお楽しみでしたね、ご主人様? 次は私の番ですよ」

 

当然、玉藻が黒い笑みを浮かべて待ち構えており、その晩一誠は絞り尽くされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ロスヴァイセ殿」

 

数日後、ランスロットはロスヴァイセを近所の喫茶店に呼び出していた。そもそもなんで彼女が日本に居るかというと、オーディンに忘れられて置き去りになったのだ。護衛が後から一人で帰るわけにも行かず、実質的にリストラになった彼女をリアスは眷属に誘うも実力が足りずに眷属にできず、仕方なしに教員として雇おうとした所、ハーデスが現地派遣員として雇ったのだ。

 

これには彼女が優秀である事と友であるオーディンの頼み、一誠の部下であるランスロットとの仲が発展しそうなので冥界側につかせるわけにはいかないという思惑が込められていた。

 

「あの、ランスロットさん。お怪我の方は……」

 

「ええ、今はすっかり治りました」

 

ランスロットは笑顔を見せるもロスヴァイセの表情は暗い。英霊と接っしてきた彼女は主から賜った剣が騎士の誇りである事は熟知しており、それを破壊される要因になった事が未だ気を苛んでいた。そしてもう一つ。ガウェインから教えられた事が理由の一つである。

 

「……ガウェインさんから聞きました。私って貴方がかつて愛した人にソックリなんですよね? 私に親切にしてくださったのもそれが理由ですか?」

 

彼女は心の中では、何を聞いているんだ、失礼だ、と自分に言い聞かせているが言葉は止まらない。ランスロットは彼女が話し終えるのを待ち、落ち着いた頃に口を開いた。

 

「……ええ。最初はそうでした。グィネヴィア様に似ているからこそ貴女に好意を持ったのでしょう」

 

「ッ!」

 

その言葉にロスヴァイセは泣き出しそうになるのを必死に堪える。しかし、ランスロットは彼女の手を握り締め、真剣な瞳で彼女の目を見つめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも、今は違います! 貴女の姿を見て、貴女の書いた手紙を読んで、私はロスヴァイセさんが好きになりました。……私とお付き合いして頂けませんか!?」

 

「……はい! 此れから宜しくお願いします」

 

その時の彼女は涙を流していたがそれは悲しみの涙ではなく、心からの喜びの涙だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ、電池切れてました。仕方ないですね。ハニーへのお土産買って帰りましょう」

 

その頃、同じ店の中にビデオカメラを持った太陽の騎士が悔しそうに呟いていたという

 

 

 




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