「(……私はどうすれば)」
一誠からの誘いに対し小猫は思い悩んでいた。リアスや他の眷属達とは長い付き合いであり、既に家族のような関係だ。だから彼らの前という事もあって先程は断ったが、やはり黒歌とは一緒に居たい。リアス達への義理と姉への愛情。その二つは小猫の頭を悩ませ、その日の昼食は三人前しか食べれなかった。
『騎馬戦』
昼食も終わり午後の部第一競技は騎馬戦。四人一組で帽子を取り合うというこの競技に異様なまでの情熱を燃やしている者達がいた。
「良いですか! 我々は元円卓の騎士の名に恥じぬ戦いを見せなければなりません! 貴方達は情けない戦いをしても平気ですか!?」
『否!否! 否!』
「そうですとも! では次に問います。我々の勝利は磐石でしょうか!?」
『然り! 然り! 然り!』
ゲストチームの殆どは円卓の騎士だった者達で占められ、ガウェインが彼らを鼓舞している。彼らを包む熱気は一気に上昇した。
「頑張れダーリン! 勝ったらキスしてやるぞ! まぁ、負けてもキスしてやるがな!」
そして一気に熱気は冷める。なお、ランスロットを除いて一誠配下の元円卓の騎士達は妻どころか彼女すらいない。しかも生前からである。普段から一誠が玉藻達とイチャつき、ランスロットはロスヴァイセを送っていって朝帰り。そしてガウェインは死んでからも美人の嫁さんをゲット。……これでは士気が下がらない方がおかしいだろう。
「え? あ、あの、皆さんどうしたんですか?」
状況が飲み込めないガウェインは士気の急落に戸惑っている。しかし、騎士たちは誰も理由を話さない。まぁ、無理はないのだが。
「私達はモテないのに貴方がモテてるからやる気無くしました」
とは言えないだろう。もう直ぐ試合開始だというのに志気が上がらない事にガウェインが悩んでいると、一誠とハンコックが近づいてきた。
「皆。この試合で活躍したらハンコックが部下の女性陣との合コンをセッティングしてくれるって」
「試合をするのならば勝たねばならぬ。その程度の事で士気が上がるのならば安いものじゃ。……ボンキュッボンの美人とツルペタストンの美少女の二通り用意しておこう」
『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 漲ってきたぁぁぁぁぁ!!!』
騎士達の熱気はガウェインが鼓舞した時よりも上がり、士気も生前にガウェインが見た事無い程に上がっている。
「行きますよ、皆さん! ……蹂躙しろぉぉぉぉぉぉ!!」
『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!』
ガウェイン率いる元円卓の騎士達は破竹の勢いでハチマキを奪い続ける。そんな中、若手ナンバーワンのサイラオーグが立ち塞がった。
「これ以上暴れさせん!」
「面白いですね。年季の違いを見せて差し上げます!」
ガウェインはサイラオーグと正面から組合い、全力で押し合う。単純な力だけならサイラオーグが勝っているが、騎馬になっている三人のチームワークの差で互角に渡り合っている。しかし二人が押し合う中、横合いからアザゼルが突撃してきた。
「ひゃっはぁぁぁぁぁ! まとめて頂きだぁぁぁぁ!!」
どこぞの世紀末のモヒカンのようなセリフを吐きながらアザゼルは二人の帽子に手を伸ばす。先程から活躍している二人を此処で潰そうという考えだろう。だが、騎馬になっていたバラキエルの足が不自然に崩れ落ち、アザゼルは顔面から地面に激突する。
「のわっ!? 何やってやがる、バラキエル!」
「す、すまん。だが、突然足に妙な力が加わって……」
バラキエルはアザゼルに平謝りに謝り、アザゼルは仕方ねぇな、っと言いながら頭を搔く。何時の間にか帽子が無くなっていた。
「ウフフイ…。帽子は頂いたヨ…」
ポチ、レイナーレ、グリンパーチと組んだブイヨセンは細長い指先で弄ぶかの様にアザゼルから奪った帽子をクルクルと回している。
「確かテメェは……。あぁ! 霧吹き山のブイヨセンじゃねぇか!? さてはさっきは念動力使いやがったな!?」
「はて、何の事かな? 証拠でもあるのかい? クスクス……」
どうやらアザゼルは一誠の配下になる前のブイヨセンを知っているらしい。先程の転倒もおそらくブイヨセンの仕業なのだろうが証拠がないので追求できない。アザゼルが歯噛みする中、歓声が上がった。
「この勝負、私の勝利です!」
「くっ……」
ガウェインはサイラオーグの帽子を高々と掲げる。その瞬間、競技終了のホイッスルが鳴り響いた。
「うむ! 流石は私の夫だ! 父上も鼻が高い事だろう。……腰を屈めろ」
「いやはや、トール様には未だ叱られてばかりですよ」
ガウェインは妻の言う通りに腰を屈めて頭を下げる。すると妻はその首に手を回し、つま先立ちになってガウェインの唇にキスをした。体格差があるが為にそうしないとキスできず、傍から見れば幼い娘と父親くらい身長差がある夫婦だが、この時ばかりはカップルにしか見えなかった。
「んっ……れろっ…くちゅ…」
二人は人前で大胆に舌を絡め、数秒後に唇を離した。既に松田と元円卓の騎士達は唇を噛み締めながら血の涙を流して二人を睨んでいる。
「これ合コン相手のプロフィールね」
『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』
そして直ぐに機嫌が直った。騎士達にプロフィールを渡した一誠が応援席に戻ると漸く落ち着いたのか座っている玉藻と黒歌。二人は一誠に向かって手招きし、一誠が近づいた途端……押し倒した。
「大丈夫ですよ。幻覚張ってますから外からは見えません」
「先っちょ。先っちょ入れるだけだから」
「誰か、誰か助けてください!」
誰も好き好んでバカップルの触れ合いに関わりたくない。なので誰も止めず幻覚の外へと出ていった。
『玉入れ』
「おい、コラ! いくらなんでもそれは反則だろ!?」
選手全員参加の玉入れでアザゼルはゲスト側の選手に文句をつける。……大人げないが仕方ないだろう。グレンデルやシャドウの全長はカゴの高さを遥かに超えているのだから。
「背が高いのは個性でしょ?」
「ぐぎぎ……。お前ら、こうなったら悪魔や天使には絶対勝つぞ!」
最早ゲストチームには勝つのは無理だと悟った各陣営は敵を絞り、
『悪魔は死にさらせぇぇぇ!!』
『あの時の憾みじゃぁぁ!!』
各陣営、玉じゃなく光の玉や光の槍、魔力弾を打ち合う。阿鼻叫喚の地獄が広がりアナウンスが止めるも騒ぎは収まらない。
『これで全部か?』
「うん、この辺のは全部拾ったよ」
その間にも一誠達は青い玉を集めてはグレンデル達に渡して行く。そして全ての玉を入れ終わると、
「ウフフイ……」
『ぐわっ!?』
ゲストチーム以外の全選手が上から掛かられら圧力によって顔面から地面に倒れ、地面に縫い付けられる。サーゼクス達でさえ起き上がるのがやっとで玉を投げる余裕はなかった。
「入れた玉の数が点数になるから、点差は稼がないとね♪」
結局ゲストチーム以外は一個も入れられないまま制限時間がやって来た。
『綱引き』
『まずはゲストチーム対天界チームですが……』
見るからに勝敗は明らかだった。後ろにはグレンデルやフェンリルと化したポチが控え、極め付きには覇龍状態の一誠。そして前側にはハンコックを筆頭に美女軍団。
『オーエス! オーエス!』
「む、胸がぁぁぁぁ。へそがぁぁぁぁ!!」
「い、いかん! このままでは堕ちる……」
女性陣が綱を引く度に胸がブルンブルンと揺れ、へそがはみ出る。中には服がめくれ下乳が見えている者までいた。男性陣は殆どの者が前屈みになり、天使側など羽が黒く点滅している。
「……棄権します」
ミカエルの英断がなければ何人かか堕天使になっていただろう。なお、彼も一瞬だけ前屈みになっていた。
「バカ野郎! せっかくのサービスシーンだぞ!? もっと楽しもうぜ!」
「私もそう思う……はい、嘘です。だからそのハリセンを仕舞ってくれ、グレイフィア」
「却下です」
その日、グレイフィアはどこかから受信した電波によって習得した奥義を発動する。その奥義の名はゴールデンボール……。
『円盤投げ』
「……これって運動会の競技かな?」
一誠は移動した先で首を捻る。この競技は円盤がどこまで飛ぶか分からないような選手が居るのでゲームのフィールドではなく、冥界の一角で行われる事となった。代表者三人が投げ、合計飛距離を競うというものだ。
そして、その競技の様子を遠くから伺う影が一つ。毎度おなじみ漢服の青年である。彼は解体予定で鉄骨が剥き出しになったビルから双眼鏡を使ってみていた。
「こんな時期に幹部を動員して運動会とは、俺たちも舐められたものだね。ま、風評操作には使えるかな? この大会中にテロを起こせば……」
青年は悪巧みをしつつも様子を伺い続ける。この時に帰っていれば不幸な目には合わなかったのに……。
『グハハハハ! 俺の番だな!』
『boost!』
グレンデルが気合を入れると手の甲に出現した宝玉から音声が響き彼の力が倍増する。そしてグレンデルは洗練されたフォームで円盤を構え、一切に無駄なく円盤に力を加える。円盤は一気に加速して飛んで行き周囲を衝撃波が襲う。円盤が通り過ぎた後、地面は摩擦熱で焼け焦げていた。
「そ、測定不能です……」
円盤は空の彼方へと消えて行き、この時点でゲストチームの勝利が決定した。
そして飛んでいった円盤は摩擦で真っ赤になり、徐々に溶け出す。そして高熱の散弾となって青年が居るビルのフロアに降り注いだ。
「くっ!」
しかし青年も中々の強者。急に飛来してきた灼熱の礫を槍で叩き落としていく。しかし全ては落としきれず、体中に刺さった礫が内側から彼の肉体を焼き、気が狂うような痛みが青年を襲う。
「拙い!」
本当に気が狂ったのか青年は痛みを堪えながら駆け出すとビルから飛び降りる。その瞬間、礫で柱をいくつか壊された事で自重を支えきれなくなったビルが倒壊し、鉄骨が地面に降り注ぐ。青年は落下していく鉄骨を踏み台にしながら飛び跳ねビルから離れていき、最後に全力で跳躍した。
「ぐっ! まだまだぁ!」
ついに足が限界を迎え血が吹き出し力が入らなくなる。空中で大きくバランスを崩した青年は真っ逆さまに地面に落ちていく。このまま落下して死ぬと思いきや青年が構えた槍の矛先から神々しいオーラが吹き出た。オーラを噴射する事で青年は落下のスピードを弱め、何とか着地する事ができた。
「……ふぅ。それにしても最近ツイテいない……」
青年は額の汗を拭うとその場に座り込む。
頭上から鉄骨が迫って来るのにも気付きもせずに。偶然一本の鉄骨が他の鉄骨とぶつかり合い、大きく跳ねて青年へと迫ったのだ。まるで青年に死の運命が付き纏っている様に……。
『それでは優勝を発表します! 優勝は……ゲストチーム!!』
一誠達の優勝を告げるアナウンスが流れる中、青年がいた場所には鉄骨が深々と刺さっていた。
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