霊感少年の幽雅な生活 (完)   作:ケツアゴ

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五話

「……そうですか。謎の術師は彼ではなかったのですね。それで、松田君は?」

 

松田がフリードに殺されかけた翌日、リアスは生徒会室に赴き昨日の事を報告していた。

 

「何とか命は助かったわ。でも、足に光を喰らっちゃたから大事をとって休ませたの。……家に電話したら部屋に閉じ篭ってるそうよ」

 

フリードはリアス達の姿を見た途端、形勢不利と見てアーシアを担ぎ上げて逃走。堕天使の気配が近づいている事を察知したリアス達は直ぐに松田を連れて部室に戻り彼の手当をした。彼の事を信じなかった事やそのせいで説明が不十分だった事を詫びるリアスだったが、松田は恨み言を言うと部員達を振り払うように部室を飛び出していった。

 

「……彼は大丈夫でしょうか? 貴女の他の眷属は幼い頃から此方の世界に居ますが、彼は最近まで普通に暮らしてきました。価値観もあの年齢では固まっていますし、これからが大変でしょうね」

 

「……もっとあの子の事を信じてあげれば良かったわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全然同情の余地なんてないわね。その子も話を詳しく聞こうとしなかったんでしょ? じゃあ、自業自得よ」

 

「うわ~、言い切るなぁ」

 

その日の放課後、異界で松田の事を聞いた黒歌はそう言い捨てる。彼女は松田が悪魔になった理由を聞いた時点で不快そうな顔になって居た。上級悪魔になれれば領地が貰え、眷属が持てる。自分の眷属ならエッチなことをしても構わないので正しくハーレムだろう。だが、一つ忘れている事がある。そんな事をするであろう人物の眷属になる事を了承する者が居るだろうか? もし居たのなら最初から上級悪魔になって眷属にしなくてもハーレムは形成できるはずだ。

 

「……ソイツ、覗きやセクハラ行為の常習犯なんでしょ? どうせ上級悪魔になったら好みの子を無理やり眷属にするんじゃないの? 今の冥界の政府は貴族至上主義。実際に何人も無理やり悪魔にされているのを知っていながら貴族なら誰でも駒を渡し、下僕が逆らったら大して調べないで罰する。……腐ってるわ」

 

黒歌は唇を噛み締め、拳を震わせながら呟く。それは松田に怒ってるというよりも、悪魔全体に怒っているという感じだった……。

 

「俺はどうなの? 霊を従えたり餌にしたりしてるけど?」

 

「貴方は自分が最悪で最低だと自覚しているでしょ? 腐ってるのに綺麗なふりをしたり綺麗だと思い込んでる奴らより遥かにマシよ」

 

「ふ~ん、そんなものか。まぁ、俺のミスが発端だしフォローは入れておくよ。明日の晩には教会に殴り込みに行って貰わなきゃいけないしね。黒歌の言うように俺は外道で最悪最低だね。でも、毒を食らわば皿まで。行き着く所まで行き着いてみせるよ」

 

「……そう。まぁ貴方とは付き合いが長いし私も付き合うわ。一緒に落ちる所まで落ちましょ」

 

二人は微笑みながら見つめ合い、そっと二人の唇が触れる。そしてそのまま一誠は黒歌を押し倒し、胸元を完全に露出させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ああ、ごめんごめん、君達にも期待してるよ」

 

「どうしたの?」

 

一誠の手は黒歌の胸の先端に迫った所で止まり、目を閉じてその瞬間を待っていた黒歌は怪訝そうに目を開けて尋ねた。

 

「いや、ある程度知能がある霊達が、我等もお供しますって騒いでるんだ、エロ猫だけに良い格好はさせないってさ。……あと、玉藻がかなりご立腹」

 

「ふぅん、良かったじゃない。私や此処の住人以外にも慕っていてくれる相手が居て……て、今までの会話聞かれてたの!?」

 

「うん。基本的に僕の影の中か体内に飼ってるから筒抜けだよ? ふごっ!?」

 

「ばばばば、馬鹿ぁ~!! 見られてるなら見られてるって言いなさいよ! あ~、もう! 今日はお預け! そして次の時には今日の分もして貰うわよ!」

 

「……助けて」

 

一誠が黒歌のレバーブローで受けたダメージを回復させた頃には既に日が沈んでしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソクソクソ! 聞いてないぞ! 戦わなきゃいけないなんて聞いてない! 命の危険があるなんて聞いてないぞ!」

 

その夜、松田は頭から布団をかぶってガタガタ震えていた。今まで怖い思いといえば覗きがばれて追い掛け回されたり、不良に絡まれた事ぐらいだった彼には昨日の一件はショックが大きすぎた。惨殺死体を目の当たりにした上に初対面の相手に殺されそうになり、更にはこれから自分は嫌でも戦いをしなくてはならないというのだ。彼が安易に悪魔になった事を悔やんでいた時、突如誰かが部屋の中に出現した。現れたのはリアス達の前に現れた時と同じ格好の一誠だ。

 

「だ、誰だよ!? お前」

 

「う~ん、誰って言われてもどう答えれば良いのか。まぁ、君の生徒手帳を拾った後でうっかり落としちゃった人物って所かな?」

 

その言葉に松田はリアス達が言っていた事を思い出す。自分を疑ったのは生徒手帳が落ちていたからだ、と彼女達は言っていた。

 

「……あんたか! あんたのせいで俺は!」

 

「はぁ? あのさ、最終的に悪魔になったのは君の意思でしょ? 俺を責めて良いのは身に覚えのない事で問い詰められた事だけ。……大体さぁ、簡単に貴族になれるとでも思ったの? それとも契約だけで貴族に上り詰めれるほど自分が有能だとでも思ってた? 甘いよ」

 

「ッ!」

 

「ま、よく考えてみなよ。君はもう人間には戻れない。そして、もう人間じゃないんだから人間としての倫理なんか捨てちゃったら? きっと楽になるよ。……じゃあね」

 

そう言って一誠が消え去った後、松田が呆然と立ち尽くしていると部屋に魔方陣が現れ、そこからリアスが現れた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……結局、あの胸に抱き寄せられて慰められるだけで立ち直るって。時間の無駄だったね」

 

「……気にしない方が良いわ。ほら、そろそろ計画の時間でしょ? 行って来たら? 白音によろしくね」

 

あの後、リアスは松田に諸々を謝罪した後、彼を抱きしめ慰めた。どうやら一誠の容赦のない言葉の後にそんな事をされた為か彼は立ち直り、次の日には元気に登校していた。流石にまだ戦うだけの気持ちの切り替えは出来ていないが人間を辞めた事への後悔は吹っ切ったようだ。そしてその日の放課後、異界でむくれていた一誠は黒歌に慰められた後、契約を始動させにかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……しかし、堕天使の目的が分からないわね。兵藤くんを狙ったかと思いきや彼は生きてるし」

 

その頃、リアス達は部室で堕天使の動きの不審さについて話し合っていた。最初は一誠を殺しに街に潜入したかと思いきや彼は未だ生きている。それ所か彼に再接触さえしようとしないのだ。まだそれだけなら神器の一見が間違いだったなら説明がつくのだが、それでも堕天使達が未だ街に留まる理由が分からない。部屋の空気が重くなる中朱乃が立ち上がった。

 

「まぁ、今ある情報では考えようがありませんわ。紅茶のお代わりでも淹れましょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、俺にも頂戴。角砂糖は1個でいいよ」

 

「あらあら、ちょっとお待ちに……」

 

朱乃は紅茶をティ-カップに注いだ所で固まる。何時の間にか部屋の中に一誠の姿があった。

 

「な、なんで貴方が此処に居るのよ!? まぁ、良いわ。今日こそ詳しく話を聞かせて貰うわよ!」

 

「え~、面倒臭いから嫌だよ。……ねぇ、堕天使の目的知りたくない? 堕天使の所にアーシアっていうシスターが居るんだけど、その子の神器は悪魔さえ癒せるんだけど……それを抜き取る気なんだ。神器を抜き取られたら死ぬって知っていながらね」

 

「……そう。それで、そんな事を態々私達の所に言いに来る理由は?」

 

「うん。そこなんだけど、堕天使達は上を騙してやってるんだ。でも、そろそろ誤魔化しきれなくなったから儀式を今晩行う気だよ。ねぇ、任務外て事は殺しても小競り合い扱いになるけど……散々舐められた真似されて悔しくないの? ……これで松田君の件はチャラね。んじゃ!」

 

「ちょっ!? 待ちなさ……」

 

一誠は話を終えるなり立ち上がり、リアスが止めるのも聞かずに溶けるように消えていった……。

 

 

 

 

 

「……それでどうしますの?」

 

「……行くわ。グレモリー家を舐めた報いを受けさせてあげなきゃいけないもの。……貴方は留守番してなさい」

 

リアスに残るように言われた松田だったが、少しの間悩んだ後に決意を決めた顔で立ち上がった。

 

「……行きます。まだ戦う勇気はないけど、それでも此処で逃げ出したら、きっと何時までも逃げ続けるから……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウフフイ…。此れで良いんだろ…? 簡単だったヨ…。クスクス……」

 

 其れは堕天使が根城にしている教会を監視していた使い魔達を気付かれる事なく皆殺しにした後、愉快そうな声で一誠に報告してきた。真っ白な肌と目にアリクイにような細長い口と舌。その存在の名はブイヨセン。一誠が従える悪霊に中でも知能や力が特に高い者達の中の一体である。今、正体が悪魔に露見するリスクを考えた一誠は、万が一にも見つからないようにリアス達と堕天使達を戦わせる直前を選び、更に奇襲向きの能力を持つブイヨセンに仕事を任せた。視認できない場所にも攻撃可能かつ強力な念動力。それが彼の能力だ。

 

「うん。引き続き監視を続けてくれる? 見つからないように気をつけてね」

 

ブイヨセンの視界を通して教会の様子を見ていた一誠はソファーに座って指示を出す。その後ろにはレイナーレの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……恐ろしいものですね。私も生きていたら、あの魔力で消し飛ばされていました」

 

レイナーレはテレビに映った教会での戦いの様子を眺めてそう漏らす。画面にはリアス達に追い詰めら荒れているレイナーレと部下達の姿が映っていた。

 

「あはははは! まさか既に堕天使達は死んでブイヨセンが死体を操ってるとは思わないだろうね。ねぇ、部下の魂は美味しかった?」

 

「ええ、一誠様から初めて頂いたものですもの。美味しく頂きましたわ。それに、私の守護霊をしていたのは仲の良かった先輩の上級堕天使。その魂を食べた事で……ほら♪」

 

レイナーレは笑みを浮かべながら翼を広げる。その背中には六枚の黒い翼が存在していた。レイナーレは翼を仕舞うと一誠の隣にそっと腰掛ける。

 

「ああ、昔はアザゼルの愛が欲しかったですが、今は一誠様にお喜びになっていただくのが私の望みですわ。何でしたらこの体を貴方のお好きなように……」

 

何時の間にかボンテージ姿になっていたレイナーレはそっと一誠にしな垂れかかる。一誠はそんな彼女から距離をとり、彼の後方で狐の尻尾が揺れていた

 

「……いや、惜しいけど止めとくよ。怖いのが居るからね」

 

一誠の視線の先には体の半分を吹き飛ばされながらもリアスに向かって光の槍を放とうとした堕天使の一人の腕を松田が光の矢で撃ち抜く姿が映っていた。その姿を見たブイヨセンは可笑しそうに笑う。

 

「クスクスクス……! ようこそ! 暴力と殺戮の渦巻く非日常の世界に……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとレイナーレ! イッセーは女には不自由してないから、貴女はご奉仕しなくていいわっ!」

 

「あら? 私は一誠様の下僕です。私がお世話するのに何か問題でも? 貴女、余裕がないんじゃない? 自分の魅力に自信がないとか? アハハハハ!」

 

「キー! ……こうなったら! どっちがイッセーを満足させられるか勝負よ」

 

「あら、男を誘惑するのも堕天使の女の仕事なのよ。私が負けるはずがないわ」

 

黒歌とレイナーレが睨み合う中、一誠はこっそり逃げ出して倉庫に隠れていた。

 

「ねぇ、イッセー。何してるの?」

 

「あっ、メリー。悪いけど俺が此処に居るのを黒歌とレイナーレには黙っていてくれない? 二人に襲われそうなんだ」

 

「二人共ー! イッセーは此処に居るよー! ……ベーだ!」

 

メリーは不機嫌そうにそう言うと何処かに消えて行き、一誠は呆気なく二人に捕まってしまった……。

 

 

 

「「さぁ、イッセー(一誠様)! お相手して貰うわ(貰います)!!」」

 

「誰か! 誰か助けてください!」

 

だが、現実は非情である。結局、拗ねていた大本命の側近に助けて貰うまで一誠は逃げ続けた。


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