霊感少年の幽雅な生活 (完)   作:ケツアゴ

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六十四話

降りしきる雨の中、古ぼけた西洋屋敷の前に一台の車が止まる。車から出てきたのはいかにも遊び慣れしていそうな一組の男女。彼らは閉ざされた門からは入れないと分かるなり、崩れた塀を潜って屋敷の敷地内へと侵入した。

 

「ねぇ、本当に中に入るの? マジで何か出そう……」

 

「バッカッ! 出なくちゃ面白くねぇだろ?それに、心霊写真撮りたいって言ったのはお前だじゃん」

 

どうやら彼らは肝試しに訪れたようで、屋敷の敷地内を探索し、何処かに入れる所がないか探していた。ちょうど裏まで来た時に裏口のドアがギィギィと音を立てて開いており、二人はそこから屋敷の中に侵入する。

 

「……」

 

二人の姿を二階の窓から眺めていた血まみれの女に気付かぬまま……。女はニタリと笑うと煙のように消えて行く。女が居た場所にはホコリが積もっており、まるで最初から誰もいなかった様であった。

 

 

 

 

 

「結構雰囲気あるなぁ……」

 

「ねぇ、もう帰ろう?」

 

二人はそれぞれ一個ずつ懐中電灯を持って屋敷の中を探索する。室内には家具や調度品がそのまま残ってはいるもののクモの巣やホコリにまみれ、長い年月が経っているのかボロボロだ。床も既にガタが来ており、歩く度にギシギシとという音が鳴る。

 

「なぁ、知ってるか? この屋敷って結構な金持ちが住んでいたんだけどよ。……娘が悪魔に取り憑かれて一家全員呪い殺されたんだって。んで、行方不明になった娘の肖像画は毎晩涙を流すらしいぜ」

 

「……ねぇ、娘の肖像画って……あれじゃない?」

 

冗談半分に話す男に対し、女は恐怖の混じった顔で懐中電灯の光を絵に当てる。彼女達の目に前には美少女の肖像画が有り……その瞳から水滴が垂れていた。

 

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? ……ん? おい、落ち着けよ」

 

女は驚いて懐中電灯を落とし、カラカラと廊下を転がっていった先でスイッチが切れたのか明かりが消える。対して男も最初は驚くも明かりを天井に向けて冷静になる。雨漏りの雫が偶々目の所に当たっていただけのようだ。

 

ヤレヤレと肩を竦めると女が探しやすいようにと懐中電灯の光を廊下に向ける。絵は突き当たりにあった為に自然と絵に背を向ける事となり、絵の中の少女が微かに微笑んだのに気付かなかった。

 

 

「も~、どこ行ったのよ~!?」

 

「ったく、散々だったな。もう帰るか。……あれ? 電池替えたばっかりなのに……」

 

男の懐中電灯はチカチカと点滅すると徐々に光を弱め、ついに消えてしまう。辺は完全に闇に閉ざされた。そして男は気付く。後ろから青白い光で照らされている事に。男が恐る恐る振り返ると、

 

 

『イラッ…シャイ…』

 

絵の中から少女が抜き出て来ており、血塗れの顔で男にほほ笑みかけた。

 

 

 

 

「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……イマイチね、わたし」

 

「……イマイチよ、あたし」

 

ありす達は不満そうな顔をして画面を消す。目の前のテーブルにはお菓子とジュース、そして実際に有ったとされる怪談話を元にしたホラー映画のDVDのケースが置かれていた。

 

 

 

「そりゃまぁ、俺達幽霊だからな。ってか、俺はもっと美形だったぞ。なんだよ、あの役者」

 

不満そうな二人の背後に突如現れたのは同じく不満そうな顔をしたエクボ。彼はキョロキョロと部屋の中を見渡すと腕を組んで体を傾かせる。どうやら首を傾げているつもりらしい。

 

「なぁ、怨群は? お前らと一緒に居たはずじゃ……」

 

「オバさんなら何処か行ったわ、エクボ。上司なのに舐められてるの?」

 

「駄目よ、ありす。そういう事言っちゃ。オバさんなら手紙見て一目散に出て行ったわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まだか。いや、そもそも来るのか?」

 

指定した場所で待つヴァーリは不安そうに呟く。既に覇龍になる寸前で待ち構えている事から唱えている間に攻撃されるのを用心しているのであろう。何故か相手が呪文を唱えたり変形するのを待つ者が多いが、一誠は容赦なくその隙を突く。それを理解する辺り、彼も少しは成長したようだ。

 

そしてヴァーリが欠伸を噛み殺した瞬間、地面から出てきた白い腕が彼の足首を掴んだ。慌てて振り払うと地面の中から這い出るように怨群佳織が出てきた。

 

「貴方ね、一誠さんを狙っているのは。許せない許せない許せない……」

 

「不気味な女だな。……此処は速攻で決める!」

 

ヴァーリは最後の呪文を唱えると覇龍へと化す。そして佳織へと急接近し、一気に拳を振るった。二天龍の力で殴られた彼女の体は四散し、辺りに巻き散らかされる。ヴァーリはその破片の中に果たし状がある事に気付き、先程の狂気から見て手紙を見た彼女の独断だと判断すると溜息を吐いて元の姿の戻る。

 

「……帰るか」

 

反動による疲れからか顔色の良くないヴァーリは転移しようとし、背後から聴こえてくる声に気付く。振り返ると其処には無数の佳織がいた。

 

「私を殺そうたって無駄よ? 私は皆、皆は私。私の一部になった人の数だけ私は居るの。さぁ、貴方も私になりましょう?」

 

何時の間にか佳織達はドロドロの液体になり津波のようにヴァーリに押し寄せる。疲労から満足に動けない彼はなすすべなく飲み込まれていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(……此処は……何処だ……?)」

 

ヴァーリは気付くと一面の闇の中にいた。全くの無音で自分の声すら聞こえず、悪魔の目でも何も見えない。そして指先の感覚すらない中、彼の意識は再び徐々に沈んで行った。

 

 

『そうよ。そのまま眠りましょ?』

 

「(……このまま眠るのか。それも良いな……)」

 

ヴァーリは頭の中に響いてきた声に従うように意識を手放していく。他にも聞き覚えのあるような声が響いてきたが気にも止まらず、彼の意識の最後の一欠片が闇に包まれ完全に消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃっ!?」

 

……かに思われた次の瞬間、急に辺りが明るくなりヴァーリの意識が鮮明になる。目の前には膝をつく佳織の姿。そしてすぐ傍には彼をお姫様抱っこするオーフィスの姿があった。

 

「ヴァーリ、必要。だから、消させない」

 

「……あらあら、ウロボロスが相手だったら分が悪いわね。此処は帰るわ」

 

佳織は懐からカメラを取り出して今のヴァーリの姿を撮影すると地面に溶けていった。

 

 

 

 

 

 

「あのままだったらヴァーリ死んでた」

 

「……有難う、助かったよ」

 

先ほどの攻撃のせいで心身共に弱まっていたヴァーリは素直に礼を言うと思わずオーフォスに抱きつく。

 

 

 

 

 

そして、又してもシャッター音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、ついにソーナとサイラオーグのゲーム当日がやって来た。両名とも掲げる夢がほぼ同じであり、だからこそ絶対に相手に勝たなくてはと意気込んでいる。

 

 

 

『さぁ! いよいよゲームです! なお、今回のゲームは短期決戦で決める為『サーヴァントダイスバトル』となっております。此処でルール説明です。

 

1.お互い最初にリーダーを決める『キングダイス』一個と他のメンバーを決める『サーヴァントダイス』を2個振り、駒の選手を戦わせます。なお、『王』の駒があるのは『キングダイス』だけで、『サーヴァントダイス』には出場者無しのハズレの目もあります。 

 

2.同じ駒が二人以上居るときはあらかじめ番号を指定しておいてください。

 

3.リーダーが負けたら他のメンバーは待機室に一回だけ戻れます。二回目以降は自動的にリタイアになりますのでご注意を。なお、既にリタイアしているメンバーやダブりが出た時は『キングダイス』なら振り直し、『サーヴァントダイス』なら出場なしとなっております。

 

4.そして相手の『王』を先に取った方を勝ちとします!

 

 

 

 実力だけでなく運も試されるこのゲーム。果たして勝負の行方は如何に!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

「……皆、分かっていますね? 私達はサイラオーグのチームに比べ総合的な力量は下です。……ですが、それだけで負けが決定した訳ではありません・私達の夢に為にもこのゲーム、絶対に勝ちますよ!」

 

『はい、会長!』

 

最後のミーティングを終えたソーナは眷属達を激励する。彼女の眷属は全員元人間で、神器持ちや聖剣使いは合わせて三人。悪魔の血を引く者や神器持ちを多用している他の上級悪魔に比べ力不足に思えるだろう。しかし、だからこそソーナ達が勝つ事で下級悪魔を育てる事の意義を示せるのだ。

 

 

 

 

 

 

『それでは両選手、ダイスを振ってください!』

 

いよいよ試合開始。ソーナとサイラオーグは同時にダイスを振る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なんという偶然でしょう! 初戦から互いに『騎士』一名のみの戦いです!』

 

偶然にも二人ともリーダー以外はハズレの目を出し。ソーナは『騎士』の一番、サイラオーグは『騎士』の二番を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が一番手か。まぁ、私達を舐めているお偉いさんに特訓の成果を見せつけて来るよ」

 

ゼノヴィアは笑みを浮かべながら転移用の魔方陣の上に乗る。最初のバトルフィールドは障害物のない荒野。サイラオーグ側の『騎士』はゼノヴィアの姿を見るなりランスを構え、ゼノヴィアもデュランダルを下段に構え、刃先は後ろを向いている。

 

 

 

 

 

 

 

『それでは第一試合開始です!』

 

 

試合開始を告げるアナウンスと共にデュランダルから聖なるオーラが迸った……。




さて最初に出てきた幽霊は何者でしょうか? それはその内

なお、ヴァーリは十一巻で必要なので生かしました 十一巻では必要……

ロスとランスと祖母の会話は次回

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