霊感少年の幽雅な生活 (完)   作:ケツアゴ

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やはりキャスターは貧弱貧弱ぅ 礼装を探索用のままランサー二回目に挑んで焦った焦った 適正レベル+10でなかったら負けてたかも


六十六話

「……おい、アレ見ろよ」

 

「よく顔を出せたもんだな。冥界の恥さらし、兄の七光りの無能姫のクセに……」

 

貴族の為に用意された観覧室へと続く廊下で彼らは前方から歩いてくる相手に侮蔑の視線を送る。送られた主であるリアスと眷属達は歯を食いしばり、反応しないようにしながら与えられた部屋を目指した。

 

「……何とか間に合ったわね」

 

リアスは用意された部屋の椅子に座るとゲームフィールドに目をやる。今まさに第一試合が開始されようとしていた。先日大怪我をした木場達もアーシアの神器により、今は日常生活を送るには不自由のないレベルまで回復していた。

 

「そういえばソーナに何か頼まれたって言ってたわね、祐斗」

 

「ええ、短剣タイプの聖魔剣を渡しました」

 

二人が話していると試合開始のアナウンスが流れ、彼女らは試合に集中した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「匙、分かっていますね? 貴方はゼノヴィアと並ぶ切り札的存在。危険が多い『龍王変化』は禁止ですよ」

 

「……でも、副会長」

 

匙も頭では真羅の言う事が理解できる。暴走の危険性がある『龍王変化』は危険と隣り合わせの為、サイラオーグに使うのが望ましいからだ。しかし、今相手をしようとしているのは素の能力で格上の三人。そして自分と真羅はどちらかと言うとテクニックやカウンターを得意とし、決め手に欠けていた。

 

「……会長を勝たせたいのなら黙って言うことを聞いていなさい」

 

しかし、真羅は匙に再び言い聞かせると敵の方を向き長刀を構える。そして試合開始のアナウンスが流れた。

今回は石柱の立ち並ぶゲームフィールド。

 

「……ぬんっ!」

 

そして、アナウンスと共にサイラオーグの『戦車』であり、怪力を特徴とするガンドマ・バラムが石柱を掴むと二人目掛けて投げつけた。二人が避けようとした瞬間、周囲の空間が歪んだ。

 

「か、体がっ!?」

 

「甘かったね。ボクは『騎士』のリーバン・クロセル。断絶したクロセル家の末裔でハーフだから神器も持っている。僕の神器の名は『魔眼の産む枷』。見つめた先に高重力を発生させる能力さ」

 

ライトアーマーを着た金髪の優男は匙達を見つめ続ける。そしてガンドマの投擲した石柱が二人を押しつぶそうと飛来してきた。

 

「ッ! 鏡よっ!」

 

真羅は咄嗟に自らの神器を発動させる。彼女の神器は破壊された時に衝撃を倍返しする『追憶の鏡』。しかし、返っていった衝撃は距離が空いていた為に簡単に避けられ、次の石柱が何本も投擲される。

 

「……匙っ! ラインをっ!」

 

「はい!」

 

真羅の合図と共に匙は後方にラインを伸ばし、重力に抗いながら真羅の体を掴むと一気に収縮させる。ラインに引っ張られる形で退避した二人が先程まで居た場所に無数の石柱が突き刺さった。

 

「……拙いですね。私の神器は単発式。波状攻撃には対処しきれないとバレています。おそらくカウンターを警戒して遠くから倒すつもりでしょう」

 

「……先ずはあの『騎士』を倒しましょう。じゃないと攻めも回避もままなりません」

 

二人して頷くと匙はリーバンの周囲を黒炎の壁で包み込む。アザゼルより貰ったヴリトラ系神器『龍の牢獄』の能力だ。これによって彼の視界を封じる作戦だ。しかし、匙の足元に突如魔方陣が出現した瞬間、黒炎の壁は消え去る。最後の一人である『僧侶』が膝を着きながらも笑っていた。

 

「私の名はミスティータ・サブノック。私の神器は自分の力の殆どを消費する事で相手の力を封じる『異能の棺』。ヴリトラの力は封じさせて貰ったっ!」

 

「くそっ! 神器が使えないっ!」

 

匙は何とか神器を発動させようとするも発動せず、再び二人を高重力が縛り付ける。そして視線の先ではガンドマがありったけの石柱を持ち上げ投擲したその時、真羅は匙の方を向くとフッと微笑んだ。

 

「この後の事は任せましたよ、匙。……ぐっ!」

 

そして彼女は懐に忍ばしていた短剣を自分の脇腹に突き刺す。聖なるオーラを込めた短剣によるダメージで彼女の体はリタイアの光に包まれ始め、匙もルールによって光に包まれ出す。彼女が行った行為に動揺したのかリーバンの神器が解かれた。

 

「副会長、どうして!?」

 

「……貴方とゼノヴィアは私達が勝利する為の希望です。ですから、こんな所でリタイアさせる訳には行きません」

 

彼女が懐に忍ばせていた短剣はもしもの事態に備えてソーナが渡した物。そして、この事態に動揺したガンドマ達は動揺して動きを止める。此れこそが彼女の狙いであった。本来ならばリタイアするという方法もあったが、自ら重傷を負うという行動で動揺を誘う狙いだったのだ。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

消えいく体で真羅は三人に向かって突撃していく。その手にはありったけの魔力が込められていた。彼女の体は徐々に薄れ始め、大ダメージを与えられるだけの射程圏内に入れるかも分からない。心無い貴族達はその姿を嘲笑したが、ガンドマ達はその姿を侮らず追撃を行った。

 

「侮っていては敗れる! ボクはヴリトラ使いを倒すからガンドマは奴を倒せ!」

 

「……了解した」

 

リーバンは再び匙を重力で縛ると魔力を打ち出す。それと同時にガンドマは真羅へと石柱を投げつけた。真羅が一度に出現させられる鏡は一つの筈。ならば真羅が自分を守った場合は匙を仕留めれ、匙を守った場合は最後の一撃を阻止できる。

 

 

そして、鏡は匙の前に鏡が現れ真羅に石柱が迫った時、彼女の前にも鏡が出現した。

 

 

「驚きましたか? 敵を騙すにはまず味方からですよ」

 

匙に向かった魔力は鏡で防がれ、ガンドマには石柱の衝撃が跳ね返る。今度は近居るで放たれたので避けられず、顎にモロに食らってしまった。これによって彼の意識は一瞬混濁し真羅への対処が遅れる。そして彼女は消え去る瞬間、魔力をリーバンに、短剣をミスティータへと投擲する。

 

 

 

 

 

「皆、勝利報告を待っていますよ……」

 

 

 

『ソーナ・シトリー選手の『女王』一名リタイア。サイラオーグ・バアル選手の『僧侶』一名リタイア』

 

惜しくもリーバンはリタイアに追い込めなかったが、フェニックスの涙の支給がないこの試合では足枷になる。それも出場選手を選べないこのゲームでは致命的だろう。それを理解していた真羅は満足しながら意識を手放した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ!」

 

待機室に戻った匙は自責の念から机に拳を叩きつける。他のメンバーが声を掛けれずにいる中、ソーナの冷静な声が響いた。

 

「落ち着きなさい、サジ」

 

「でも、会ちょ……すいません」

 

冷静なソーナに思わず怒鳴りそうになった匙だったが、彼の瞳にソーナの握り込まれて震えている拳と涙が滲んでいる瞳が映る。今回自分が真羅に頼んだ作戦により彼女が誰よりも自責の念に責められながらも必死に耐えていると気付いた匙は椅子に座り込んだ。

 

「(畜生! 俺がもっと強かったらこんな事にはっ!)」

 

この時、彼自身も気付かないほど僅かではあるが彼に宿る神器が脈動しだしていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご主人様ぁ~♥ はい、あ~ん♪」

 

玉藻は手頃な大きさに切ったステーキをフォークで刺して一誠の口に運ぶ。すると今度は黒歌がコップを手に持つと一誠の口に近づけた。

 

「ほら、これ美味しいわよ」

 

「……さっきからどうしたの? ……ああ、そういう事」

 

戸惑っていた一誠だったが二人の顔に差した赤みと匂ってくるアルコール臭に気付き自体を把握する。要するに二人ともすっかり酔っ払っているのだ。

 

「グハハハハ! おい、試合はどうでも良いのか? まぁ、俺も酒の肴程度にしか見てねぇがな! おぉ! 良い飲みっぷりだなぁ」

 

《そうでやんすか? じゃあ、もう一杯》

 

ベンニーアは注がれた酒を一気に飲み干すとお代わりを要求する。彼女の後ろには度数の強い酒の瓶がいくつも転がっていた。そう、これは全て彼女が飲み干したのだ。

 

「こらっ! 餓鬼に酒なんか飲ましてるんじゃないよ! ったく、これだからウチの馬鹿共は……って、何してるんだい、玉藻!?」

 

ヘラが呆れたように見回した室内では殆どの者が酔っ払い試合に集中していない。そんな中、玉藻など胸を大きく露出させて一誠を組み伏せていた。

 

「え~? 体が火照ってきたから甘えようかと。良いじゃないですかぁー。私はご主人様の魂を予約しているんです。もちろん私の魂もご主人様の予約済み♪ 先に死んだ方が相手に魂を食べさせ、未来永劫一緒に居ようって契約済みなんですよぉ♥」

 

「ついでに言うと何らかの要因で死にかけた時、もう駄目なら殺すって約束もしてるよ」

 

「……ああ、そうかい」

 

二人のヤンデレっぷりに言葉を失ったヘラではあるが、とりあえず玉藻を引っぺがす。すると何を思ったかベンニーアがブドウをひと房持って一誠に近づき、一粒咥えると口移しで一誠の口に入れる。最後などは舌でねじ込んでいた。

 

《ファーストキス捧げちゃったでやんす》

 

「あれ? まだだっけ?」

 

「……うわぁ、流石にご主人様鬼畜過ぎませんかぁ? キスもまだなのにBまではしてやがるんでしょ?」

 

流石に玉藻も若干引いているようでジト目で一誠を見ている。

 

「ガハハハハ! 別に良いじゃねぇか。それもアリだろ? なんなら女神からも嫁貰うか?」

 

「これ以上増やすようなら殺します。何方かはご想像にお任せしますが♪」

 

「……そ、そうか。それで一誠。このゲームお前は何方が勝つと思う?」

 

「……サイラオーグがやや優勢かな? 地力で負けてるから会長はジリ貧。……ほらね」

 

一誠が指し示した先ではソーナ眷属の『戦車』と『僧侶』二名がリタイアしていた。流石に人間社会で一般人として生きてきた彼女達には少々厳し切ったようだ。

 

「にしてもバアルの所は強いわね。……無能姫が試合無しになるほど無能で良かったにゃ。白音が怪我しかねないもの。ねぇ、私もチュウ~♪」

 

「あ~、はいはい。んっ」

 

黒歌は一誠に抱きつくと胸に頬擦りして甘える。一誠は耳の付け根あたりを軽く撫でるとキスをした。すると黙っていられないのは正妻である玉藻だ。

 

「……むぅ。ご主人様? 私もキスして頂けるのでしょうか? てか、しなかったら怖いですよ」

 

「……そうだね。じゃあ、今晩部屋に来てよ」

 

「みこーん!? いやぁん♥ だ・い・た・ん・なんだからぁ」

 

「まぁ、今のままだったら会長の負けだね。相手が悪い目を引いて自分が良い目を引けたら分からないけど、そんな幸運は然う然う……」

 

 

 

 

 

 

 

「なんと! サイラオーグ選手痛恨の不運! 出場選手が『王』一人です。それに対し、ソーナ選手は『王』と『騎士』の一番と『兵士』の一番。残った主戦力そろい踏みです!」

 

「……あったよ」

 

 




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