霊感少年の幽雅な生活 (完)   作:ケツアゴ

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最近エロが多すぎと指摘を受け 自粛しようと思います エロを書きたかったんだから仕方なかったんやぁぁぁ

その代わり、番外編で2番目に票が入った禍の団ルートをR18で書く予定 黒歌と玉藻メイン? 多分二~三話で終了


六十七話

「……あの小僧も運が無いのぅ。まぁ、それも運命か」

 

観覧室で最終試合の組み合わせを聞いていたハンコックはワインを煽りながら呟く。その口調は、どうでも良い、といった感じだ。

 

サイラオーグは貴族の中で最も高い地位を持ち、滅びの魔力という強力な特性を持つバアル家に生まれながら、全く魔力を持たずに生まれたせいで母親と共に辺境で貧しい生活を強いられた。そして苛められながらも体を鍛え強くなったら母親が未だ治療方法の判明していない奇病を発症。時期当主の座を腹違いの弟から奪い取った今でも人質になる危険性からシトリー領の病院で眠っている。

 

禍福はあざなえる縄の如し、と言うが不幸の割合が多すぎるのだ。

 

「……この世に生まれた者は全て、決められた道を進むしかない。運命という名の道を変えられるのは一部の力有る者のみ。さて、貴様は何方じゃろうなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この試合、絶対に俺は負けん。持ち合わせてた力と志に相応しい居場所を得られる世を作る為、俺は魔王になる。その為に踏み越えさせて貰うぞ、ソーナ!」

 

「それはこちらのセリフです。全ての者に上を目指す為のチャンスを与えられる世の中を作る為、私は魔王になります.ですから貴方は踏み台になってください、サイラオーグ」

 

試合前の舌戦は互角。互いに似通った夢を持つために譲れない二人はジッと睨み合う。そして試合開始のアナウンスが今流れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サジ! ゼノヴィア!」

 

「「了解っ!」」

 

ソーナの掛け声と共に二人はサイラオーグに向かい、サイラオーグが闘気を全身に漲らせ待ち構える。その闘気はまさに鉄壁の鎧。生半可な攻撃では通用しない上に唯でさえ高い彼の攻撃力を底上げする。

 

「来いっ!……ぬっ!? ソーナの仕業か……」

 

『なんと! フィールド全体を濃い霧が覆っています。直ぐに高機能カメラをご用意いたしますので少々お待ちください』

 

フィールドを包み込んだ濃霧はサイラオーグの視界を封じる。しかし、彼の耳は後方から向かってくる足音を捉え、霧に中に見える薄らとした人影を目が捉える。サイラオーグは人影目掛けて拳を振り抜いた。まるでジェット機のエンジン音のような轟音と共に空気が震え衝撃で地が削れる。そして人影は霧散し辺りに水が飛び散った。そう、彼が殴った人影はソーナが作り出した水の人形。何時の間にかサイラオーグの周囲を無数の人影が囲んでいた。

 

「……少々多いな。だが、全て倒すだけだ!」

 

サイラオーグは片っ端から人影に殴り掛かり、辺りに水がぶちまけられる。そして半分ほど破壊した時、背後から聖剣のオーラが飛来してきた。

 

「ぬんっ!」

 

サイラオーグは闘気を集中させてオーラを防ぐと飛んできた方向を見据える。濃霧の中にうっすらと剣を持ったシルエットが見え、一気に接近しようとしたその瞬間、足元が大きく滑る。何時の間にか破壊された人形の水が集まり、彼の足場は大きくぬかるんでいた。

 

「しまっ……」

 

先程から水の人形を破壊させたのは足場に水をぶちまける作戦だったと気付いた瞬間、デュランダルを構えたゼノヴィアが飛びかかる。刀身からは何時もの様にオーラが立ち上て取らず、その代わり、刃の部分に高密度のオーラが集中していた。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「くっ! ……俺の闘気がっ!?」

 

とっさに闘気を纏った腕で防ごうとした時、サイラオーグの体から闘気が急速に失われる。何時の間にか地を這うようにして飛ばされた無数のラインが彼の足に付き、闘気を流出させていた。デュランダルの刃は闘気の薄くなった腕に食い込み、其の儘切り落とすかに思えたが半場で刃が止まった。

 

「くっ! 硬いな……がぁぁぁっ!」

 

「っ!」

 

ゼノヴィアは咄嗟にその場を飛び退こうとしたが剣が抜けず、そのまま殴り飛ばされる。しかし、殴られる瞬間に後ろに飛んでいた為に一撃死は防げたが、デュランダルはサイラオーグの腕に食い込んだままだ。匙は彼女の悲鳴に思わず叫んでしまいそうになるのをジッと堪える。もし叫んでしまえば声で場所を悟られるからだ。サイラオーグは服を破ると剣が刺さった右手にキツく巻き、デュランダルを引き抜く。血が吹き出るもキツく縛っている為にそれ程の量はない。

 

「コレは此処で破棄するっ! はぁっ!!」

 

サイラオーグは地面にデュランダルを置き拳を叩きつける。轟音と共に刀身にヒビが入り、連撃によって広がっていく。そしてあと一撃で砕けるまでヒビが広がった時、伸びてきたラインによって最後の一撃は避けられた。

 

「会長! デュランダルがヤバイっす。あの作戦をっ!」

 

匙は通信機に向かって叫ぶとソーナの誘導でゼノヴィアに接近してデュランダルを渡す。壊れかけたデュランダルを見た彼女は眉を顰めた。

 

「……あと二回オーラを放って一回切りつけたら壊れるね。まぁ、やるしかないか」

 

 

 

「見つけたぞっ!」

 

その時、直ぐ其処までサイラオーグが接近していた。ようやく二人を見つけた彼は一気に仕留めようと猛スピードで走り寄る。その時、ソーナからの通信が入った。

 

『今です!』

 

「うっすっ! 龍王変化(ヴリトラ・プロモーション)!!」

 

その合図と共に匙はヴリトラへと姿を変え、サイラオーグに接近する。そしてその後ろでゼノヴィアはデュランダルで突きの構えを取り、突きと共にオーラを放つ。オーラは匙を追い越すとサイラオーグへと迫った。

 

「はぁっ!」

 

それを正面から向かえようとしたサイラオーグであったが、オーラは彼を通り越し彼方へと向かっていく。そして彼がそれに気を取られた瞬間匙が直ぐ其処まで近づき黒炎を放った。

 

「ぐ! 囮かっ!」

 

 

 

 

 

 

 

「……いや、本命さ。ぶっつけ本番で通用してよかったよ」

 

「なっ!? がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

サイラオーグが黒炎を振り払ったその瞬間、背後より先ほど放たれたオーラが直撃する。離れた場所のオーラを操作したゼノヴィアはサイラオーグの背後からオーラを当てたのだ。予期せぬ方向からの攻撃に吹き飛ばされそうになった時、正面からも匙が襲いかかる。全速力全体重を乗せた体当たりが直撃し、前後からの攻撃によって逃げ場を失った衝撃がサイラオーグの体を襲う。しかし、彼は吐血しながらも匙の体を掴み取った。

 

「ぬぅんっ!」

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

地面に強く叩きつけられ、拳をまともに食らった匙は悲鳴を上げ元の姿に戻る。ダメージによって威力が下がっていたのかリタイアはしなかったがまともに動ける状態ではない。そしてサイラオーグはトドメを刺そうと足を振り上げる。しかし、ゼノヴィアが先ほど同様に刃にだけオーラを集中させて斬りかかった。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ」

 

「そう何度も……がぼっ!?」

 

サイラオーグが迎え撃とうとしたその時、フィールドを覆っていた濃霧が晴れる。そして霧を構成していた水滴は一つの水球となってサイラオーグの顔を覆った。突然呼吸を奪われた彼は対処しきれずゼノヴィアの剣をまともに受ける。デュランダルはヒビが広がり欠け始め、サイラオーグの体は左肩から右脇腹まで斜めに深く斬り付けられた。

 

「ぐ、ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

聖剣は悪魔にとって弱点であり、その一撃をまともに食らったサイラオーグは叫び声と共に膝をつく。しかし、次の瞬間、彼はゼノヴィアを殴り飛ばした。既に目は虚ろで今にもリタイアしそうであるに関わらず、意地だけで意識を保ってリタイアを防いでいるのだ。

 

 

「か、会長……後は任したよ……」

 

ゼノヴィアはデュランダルからオーラを放ちながら消えていく。デュランダルが粉々に砕け、ゼノヴィアが消え去った今でもオーラは消えずソーナが出現させた水に吸い込まれていく。

 

「……木場君の聖魔剣が存在するになら、聖剣のオーラと魔力を合わせる事も可能と思い編み出した技です。『聖魔水』といった所でしょうか? さぁ、お喰らいなさい!」

 

ソーナはデュランダルのオーラと混ざり合った水の魔力をサイラオーグへと放ち、サイラオーグはそれに向かって拳を振るった。

 

「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

既に理性など吹き飛んだ状態にも関わらず彼の拳は魔力の中心を捉える。しかし、彼の拳が触れた瞬間、魔力は形を大きく崩し彼の体を包み込んだ。ソーナは疲労からか膝をつき息を切らす。フィールド全体を覆う霧や水の人形、そして先ほどの技の反動で魔力を殆ど使い果たしもう戦える状態ではない。

 

 

 

 

そして、サイラオーグはボロボロになりながらも立ち上がって来た。彼は匙を目にくれずソーナへと近付いていく。

 

 

 

「くそっ! 動け、動けよ俺の体!」

 

必死に動こうとする匙であったがダメージのせいで指先すら動かせず、ソーナに近づいていくサイラオーグを見ているしかできない。

 

 

 

 

 

 

しかし、

 

 

「動けって言ってんだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

その叫びが響いた瞬間、彼の神器の脈動が激しさを増して行き、彼の体を光が包む。次の瞬間、彼の体は全身を覆う鎧を纏っていた。放たれるその力に無意識下で反応したサイラオーグは匙に振り返り、匙はフラつきながらも立ち上がる。

 

「これが俺の禁手『罪科の獄炎龍王(マーレボルジェ・ヴリトラ・プロモーション)』だ!!」

 

「グォォォォォォォォォォォッ!!」

 

二人は正面から殴り合う。匙の鎧は黒炎や鎧から生えた触手でサイラオーグの力を奪い、サイラオーグの拳は彼の鎧の中の限界を迎えた体にさらなるダメージを与える。

 

 

 

 

 

そして、サイラオーグの拳が顔面に直撃した時、ついに匙の体は倒れ、鎧は解除されてしまった。至ったばかりの禁手に加え既に彼の体は限界を向かえており、もはや戦える状態ではなかったのだ。

 

「会長……皆……ごめん……」

 

匙は涙を流しながら消えていく。しかし、匙を倒したにも関わらずサイラオーグは動こうとしない。いや、動けなかった。彼もまた限界をとうに超え、それでも立ったまま気絶していたのだ。

 

 

 

 

 

『なななな、なんと! 当初の予測を超えソーナ・シトリー選手の大勝利です! 皆様! 両選手に惜しみない拍手をお願いします!!』

 

 

会場は拍手の嵐に覆われ、ハンコックや一誠さえも軽く拍手を送る。こうして若手同士の最後のゲームは大衆の予測を裏切り、ソーナの勝利で幕を閉じた。




次回、『赤龍帝と大人げない神々』 学園祭です 大集合です

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