霊感少年の幽雅な生活 (完)   作:ケツアゴ

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今回は神様たちの出番なしです


六十九話

「これより緊急会議を執り行います」

 

もうすぐ学園祭という大変忙しい最中、眷属を生徒会室に集めたソーナは疲れきった顔で告げ、眷属達はただならぬ様子に固唾を呑んで言葉を待った。

 

「今度の学園祭ですが、オリュンポスの神々が一般客として来られます。その時、もし不敬な行いをする者がいたら学園の管理責任が問われかねません。なので、今から対策を考えますよ」

 

『はい!』

 

サイラオーグという遥かに格上の相手との激戦を通して彼女達の絆は一層強まり、次々に対策案が上げれていく。そんな中、目の下にクマを作ったゼノヴィアがふと呟いた。

 

 

「……後ろから警護して、怪しい奴は片っ端から気絶させれば良いのでは?」

 

『それだ!』

 

学園祭の準備や学校設立の援助を申し出てきた者達への対応、そして今回の件で心労のピークを迎えていた彼女達は冷静な判断力を失い物騒な意見を採用してしまう。

 

 

 

 

 

 

 

後日、それを聞かされたセラフォルーから、

 

「ソーナちゃんが壊れたっ!? いくら何でも物騒すぎるよ!」

 

と諭され、よりにもよって彼女に諭された事にショックを受けつつも冷静さを取り戻したソーナは実行犯のみ気絶させる、という比較的平和な方向に修正したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次はぁ、マッサージでお願いします♥」

 

「はいはい、全く凝っていませんがお揉みします、お嬢様」

 

「あ~ん♪ 玉藻、至福の一時ですぅ。貴方に触れて頂いているだけで私は幸せなんですよ」

 

目に入れるだけでも深刻なダメージを受けるほど凶悪な『お仕置き♥メイド部隊』が質の悪い客を追い返してから数十分。玉藻は未だに一誠を傍に置いて注文を続けていた。メイド限定で肩もみのサービスが有り、メニューを全て平らげた彼女は高めの料金を払って様々なサービスを堪能していた。

 

 

 

 

「店長! 他のお客さん達が一斉にブラックコーヒーを注文して製造が追いつきません!」

 

「……しまったわね。制限時間をつけるべきだったかしら」

 

あまりの忙しさに店長である桐生含めスタッフ達はてんてこ舞いになる。それでも注文せずに居座っている訳でもないので文句も言えずに困っていた。

 

 

その後、一誠が交代する時間まで玉藻は居座り、合計八万五千円という大金を払って去っていった。なお、冷たくしていたお詫びとして学園祭での支払いは一誠が行う事になっており、いくらなんでも使いすぎと後でお仕置きされる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

《やっとデートの時間が来たでやんすね》

 

「待たせて御免ね。お詫びに何でも奢ってあげるよ」

 

約束通りに一誠と学園祭を回る事となったベンニーアは一誠の腕に抱きつき、頬を緩めながら鼻歌を歌っている。冥府育ちの半死神とはいえやはり年頃の少女。好きな相手とのデートは嬉しいようだ。二人はまずお腹を満たそうとクレープ屋を目指す。

 

クレープ屋をやっているのは菓子作りのコンテストで何度も賞を貰った調理部だ。一誠が期待して向かった時、異臭が漂ってきた。

 

《良い匂いでやんすね~♪》

 

「正気!?」

 

正直言って今すぐUターンしたい一誠であったが、嬉しそうなベンニーアの顔を見たら離れようとは言えず、恐怖心を抱きながらクレープ屋に近づいていく。

 

なお、この時の恐怖はメディアに初めて会った時に”オバさん”と言ってしまった時や、玉藻にエロ本を見つけられてしまい、笑顔でにじり寄られた時に匹敵する恐怖だった。そして、メニューを見て更に恐怖する事となる。

 

 

「……え~と、『納豆バニラ』に『くさやカスタード』。『はちみつオデン』に『絶対安全危険性皆無の謎の物体』……何これ?」

 

《じゃあ、納豆バニラをお願いしやす!》

 

「マジで!? じゃあ、俺はチョコバナナで……」

 

一誠は、一応あったマトモなメニューを選んだ。

 

「はい! 納豆バニラとチョコバナナ……っぽいナニカですね!」

 

「っぽい何か!? ……あっ」

 

確かにメニューをよく見ると細かい文字で”っぽい何か”と、うっすらと書いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、以外にいけるや。食感や味は絶対にチョコバナナじゃないけど」

 

《じゃあ、コッチも食べてみやすか? あっしもそっちを食べてみたいでやんすよ》

 

ベンニーアは食べかけのクレープを差し出し、一誠が差し出し返すと食べかけの部分に迷いなく齧り付く。実に堂々とした関節キスである。どうやら此方もお気に召したようで、凄く幸せそうだ。

 

《幸せでやんす~♪》

 

「甘いの好きなの?」

 

 

 

 

 

 

 

《ええ、それも有りやすが……貴方と一緒に食べるのが幸せなんでやんすよ》

 

ベンニーアは年頃に見合った少女らしい笑みを浮かべ、一誠も釣られて微笑んでしまった。

 

「……今度二人でケーキバイキングに行こうか?」

 

《是非っ!》

 

 

 

 

 

 

そして数日後、一誠はそのケーキバイキングの店員一同に土下座されて時間内に帰る事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お化け屋敷? こんなの入りたいの?」

 

次にやって来たのは体育館を丸ごと使った特殊メイク研究会と映像技術部合同のお化け屋敷。しかし、二人は霊能力者と死神。少しも楽しめそうにないのだが、ベンニーアはどうしても入りたいようだ。

 

《ほら、あっしはお二人に押されてタグに影薄が付きそうでやんすから、暗がりで抱きついてアピールしようかと。……好きな所触っても良いでやんすよ?》

 

「……お願いだから君まで痴女にならないで。アレはあれで良いけど、そればっかじゃキツイから」

 

二人は何だかんだ言いつつも入っていく。そして、二人を……いや、ベンニーアを卑猥な眼差しで見ている者達が居た。その中の一人は『お仕置き♥メイド部隊』にお仕置きされた男であり、その時の記憶が抜け落ち、頭頂部の髪の毛も抜け落ちている。

 

 

「おい、見たか? 外人の可愛い子だぜ。これは国際交流しておくべきだと思わねぇか?」

 

「おいおい、どんな交流だよ。そうだな、暗がりで口塞いでよ」

 

「ちゃんと俺にも回せよ?」

 

先程から聞くに耐えない会話を続けているのは近隣の不良校の生徒達。この学園に通っている知り合いから招待状を脅し取り、好みの相手を物色しようしていたのだ。当然、生徒会は既に尾行しており、体育館の中で匙がダンボールを被って待機していた。

 

『此方ブラックフレイム。奴らはどうですか? オーバー』

 

『此方パワー・イズ・パワー。体育館に入ったぞ。……だが、よりにもよって兵藤の連れを獲物に選んだみたいだ。兵藤が口パクで手を出すなと伝えてきた。 オーバー』

 

匙とゼノヴィアはトランシーバーで連絡を取り合う。最終的に報告を受けたソーナが下した決定は手出し無用。彼らの行いを噂と招待状を奪われた生徒から聞いていた彼女は彼らに容赦する気がなかった。

 

 

 

 

と言うよりも、一誠が下すお仕置きに巻き込まれたくなかったのだ。賢明な判断である。

 

 

 

 

 

《あぁん! 怖いでやんすぅ♪》

 

ベンニーアはちっとも怖がっていない口調で一誠に抱きつき、頬をすり寄せる。ついには背中に飛び乗ってオンブされるまでになった。

 

《此処はあっしの特等席でやんす。あ、乗るのは好きでやんすが、ベットの中では乗られる方が良いでやんすよ? 昨日も上から体を密着されて唇を奪われて……イヤン》

 

「……棒読みでイヤンって言ってもなぁ。それにしても君の足ってスベスベだね」

 

一誠は背負っている彼女の足を撫でる。ベンニーアはくすぐったいのか身をよじらせ、一誠の背中と彼女の胸が擦れた。

 

 

 

 

 

 

二人がイチャついている頃、二人を追っていた不良達は迷っていた。墓場を模した内装と暗幕によって薄暗く不気味な内部を歩いているのだが、先程まで見えていた二人の姿が全く見えない。

 

「おい、どうなってんだよ? たかが体育館だろ?」

 

「知らねぇよ! ったく、こうなったら絶対にあの女を好きにしなきゃ気がすまねぇ! あん? 何してんだよ?」

 

「……なぁ、今なにか聞こえなかったか? フクロウの声とか……」

 

「演出だろ? にしても腹減ったなぁ」

 

彼らは好き勝手言いながら歩き回り、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて三時間が経過した。この時になると流石に何かおかしいと気付き、慌て出す。

 

「おい、どうなってんだ!? 同じ所を回っていたとしても変だろ!? うわっ!?」

 

「へ、蛇!? なんでこんな所に!?」

 

「お、おい! ……コレ」

 

一人が指差した先には三人の名前が彫られた墓石。すっかり苔むしている墓石の周囲を青い火が舞っていた・次第に生臭い風が吹き、声が聞こえてくる。

 

『クスクスクス』

 

『アハハハハハ』

 

『ホーッホッホッホッホッホ!』

 

『キシシシシシシシシ!』

 

 

 

「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」

 

三人は一目散に逃げ出し、墓場を走り回る。やがて墓場を抜けるとなぜか山の中になっていたが、今の彼らに変だと思う冷静さはなく、そのまま山の中を駆ける。後ろからは木を揺すりながら何かが追ってきており、何処までも、何処までも彼らは逃げ出す。

 

 

 

 

「ゆ、夢!?」

 

 

そして体感時間で一ヶ月が過ぎた頃、彼らは漸く日の下に出る事ができた。すると其処は学園祭の真っ最中の駒王学園。ふとガラスに映る自分の顔を見た時、目に入ってきたのは髪の毛がすっかり白く成り果て、やつれ切った自分の顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふふ。今まで散々好き放題してきたみたいだし、この位は仕方ないよね? ま、数十年早く歳をとっただけだし、気にしない気にしない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~ん♪ アーシアちゃん可愛いわぁ♥ 紅茶とクッキーを持って来てくれるかしら?」

 

その頃、オリュンポスの神を避けて喫茶店に入ったメディアは執事服のアーシアに夢中になっていた。

 

 

 




次回、自重しない神々の活躍です 後ついでに黒歌メイン


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