霊感少年の幽雅な生活 (完)   作:ケツアゴ

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七話

「ライザー! 私は貴方と結婚しないと前にも言ったはずよ!」

 

「ああ、それは聞いたよ。でも、そういう訳にもいかないだろ? 君の家のお家事情は相当切羽詰っているって聞いたぜ?」

 

「余計なお世話よ! 大体、婿くらい私が決めるわ! それに本当なら大学卒業まで自由にさせてくれるって話だったじゃない!」

 

ライザーとリアスの話し合いは一向に終わる様子もなく、松田達はそれを離れて見守るだけしかできない。話題は悪魔社会の重要な事に移り、純血悪魔の血を残すのは大切だというライザーの言葉にリアスは黙り込む。そんな中、一誠は……、

 

『だけど兄貴、俺分かんなくなっちゃたよ。抱かれてるのは確かに俺なんだが、抱いてる俺はいったい誰なんだ?』

 

「あははははははは!」

 

会話の内容に全く興味がない為、暇つぶしに落語を聞いて笑っていた。グレイフィアはそれを咎めるような視線を向けるも、先程の話し合いの際にライザーが彼に同席していた冥府の王であるハーデスに失礼な態度を取った為、これ以上面倒事を増やさない為にと口には出さなかった。

 

 

 

 

 

「俺は君の下僕すべてを焼き殺してでも君を冥界に連れて帰るぞ!」

 

そんな中、頑ななリアスの態度に業を煮やしたライザーは炎を纏う。室内全体に放たれた敵意と殺意にアーシアは震え、祐斗と朱乃は何時でも臨戦態勢に入れるようにする。そして一誠はコクリコクリとうたた寝を始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《おい、起きんか》

 

「ん~? あれ? またお客さんでも来たの?」

 

だが、一誠が少しの間眠った時、突如頭の中にハーデスの声が響く。どうやら遠くから部室内部の様子を観察し念話を送ってきたようだ。一誠が欠伸を噛み殺しながら目を開けると、先程までより人数が増えていた。計十五人もの女の子がライザーの後ろに控えていた。この時になってライザーは漸く一誠に視線を向ける。

 

「所でさっきから部屋に居る此奴誰だ? 人間……だよな?」

 

「この方はどうやら冥府の王であられるハーデス様が部下にしたがっていらっしゃる方でして、最近この街でお嬢様達と揉めましたので、今日は話し合いをする為に来られました」

 

グレイフィアの言葉にライザーは顔を青くする。先ほど自分がやった事を思い出し、ハーデスの機嫌を損ねたと思ったのだ。そんな中、一誠はハーデスに話の流れを聞き、更にはとある提案をされた。

 

「……やっぱり企んでたんじゃん。ねぇ、さっきの事でハーデスの爺さんより伝言があるんだけど。『先ほどのフェニックスの小僧の態度は非常に遺憾である。後日正式に政府に抗議したいと思うが、私の提案を飲むのなら内々に済ましても構わない』、だそうだよ」

 

「ほ、本当か!? それで、その条件というのはなんだ!? 金ならいくらでも出すぞ!」

 

ライザーは一誠の言葉に安心した様子を見せる。当然だろう。故意では無いとはいえ、ギリシア神話体系の主神の兄弟であり、冥府の王であるハーデスに喧嘩を売ったも同然なのだ。そんな醜聞が広まればリアスとの婚約が破談になるばかりか、婿入り先が無くなる危険すらありえる。それ所か勘当さえも考えられるだろう。それが避けられるのなら多少の無茶も辞さない覚悟のライザーであったが、一誠から伝えられた条件は意外なものだった。

 

「なんかね、即結婚か婚約破棄かをレーティングゲームで決めるんでしょ? それに俺と俺の手駒を第三チームとして参加させたいんだって。君が俺に勝ったら今回の件は無かった事にして、俺が勝ったら示談交渉に決定。ついでにグレモリーとも戦わせたいってさ。俺が負けたら顔を晒して名前を教える。どう? 悪い話じゃないでしょ? グレモリーと戦わせるのなら、話し合いの場に余計な客が入ってこれるようにしていた事は忘れてやるってさ」

 

「はははは! 何だ、そんな事でいいのか。なら、明日にでも早速やるか? 十日後のリアスとのゲームの良いウォーミングアップにはなるだろう」

 

「……良いわ。というかそんな事言われたら受けるしかないじゃない。でも、貴方には何も得が無いんじゃない?」

 

ライザーは所詮は人間と侮り、リアスは正体不明な相手に警戒しながらもライザーを闖入させた責任を突かれては受けるしかない。だが、そこで彼女は疑問を口にした。今回の件で彼が勝っても彼には得がないのだ。

 

「うん? ああ、その事ね。俺が全勝したら今度ギリシア神話体系の世界への旅行に連れて行ってくれるってさ。しかも交通費や宿泊費だけじゃなくて遊興費も向こう持ちだって。ああ、それと俺とのゲームの日取りなんだけど、爺さんは暫く忙しくなるから五日後に同時に行ってくれってさ。片方は俺の代役を派遣するって」

 

「そうですか。では、サーゼクス様達にお伝え致します。……所で貴方が身に纏っているのは神器でしょうか? ドラゴンの気配がいたしますが」

 

「う~ん、言っても良いのかなぁ。まぁ、良いや。そうだよ。俺の神器は神滅具の中で中間的な強さを持つ『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』。そしてこの鎧は禁手(バランスブレイカー)の亜種で名前は『死を纏いし赤龍帝の(デット・オブ・ブーステッド)龍骨鎧(・ギア・ボーンメイル)』だよ。んじゃ、そういう事で!」

 

最後の最後でとんでもない事を伝えた一誠はリアス達が止める前に姿を消す。グレイフィアさえも一誠の居場所を察知できずに帰してしまった。

 

「……へぇ、神滅具、しかも禁手の亜種か。少しは面白くなりそうだな。じゃあな、リアス。そこで震えていたハゲを少しは使えるようにしないと大恥をかく事になるぞ」

 

ライザーは一誠が思ったより強そうだという事に嬉しそうにし、自分の殺気に震えていた松田を馬鹿にしながら転移していく。後に残されたリアスは少々顔色を悪くしていた。

 

「……後五日で神滅具の相手をしなきゃならないなんて。負けてもペナルティはないけど、人間に負けた事を口実に冥界に送り返されるかもしれないわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は~い、そういう訳で五日後にレーティングゲームをする事になったから、出る奴を決めるよ。グレモリーの相手は俺と死霊四帝から三体。ライザーは爺さんが俺の代役出すそうだから……幽死霊手を出すよ」

 

一誠は帰宅後、ある程度の理性が有る霊達に今後の方針を告げる。ブイヨセンはその内容を可笑しそうに笑い、最近部下になったばかりのレイナーレは聞きなれない言葉に首を傾げる。

 

「ウフフイ……。クスクス…。容赦ないネ…」

 

「……あの~、一誠様。死霊四帝は私を含む側近と言うのは聞いていますが、幽死霊手とは?」

 

「簡単に言うと言う事は聞いてくれるけど我が強すぎて側近には向かない問題児達だよ。でも、その強さは俺の持ち駒の中でもトップクラスの強さを持つから。あっ、レイナーレは顔を知られてるから仮面付けて出てね」

 

一誠はそう言うと自分の霊気で顔の上半分を覆う仮面を作り出しレイナーレに渡す。それを受け取った彼女は恍惚の表情を浮かべていた。

 

「ああ……。一誠様からの贈り物……」

 

「うん。俺はある程度の強さになった奴には贈り物をしてるんだ。ゲームでは活躍を期待してるよ?」

 

「はっ! お任せ下さい!」

 

レイナーレは仮面を愛おしそうに付けると片膝を付き、右腕で左胸を叩いて忠義を誓う返礼を行う。その時に胸が揺れたのを一誠はジッと見ていた。

 

 

 

「……ご主人様?」

 

「はい! ごめんなさいっ!」

 

 

 

 

 

 

 

その頃、一誠の影の中に潜む者達は歓喜の声を上げる。どれも狂気に満ちた声だった。

 

「旅行だって! 頑張ろうね、わたし!」

 

「うん。そうだね、あたし!」

 

「うぉれは、うぉれは、がんばるぞぉ!」

 

「やれやれ、皆さん張り切ってますねぇ。此処は私も張り切って良妻ポジを確立しなくては! あの駄猫や新米鴉には負けられません。見ていて下さいね、ご主人様♪」

 

「ヒッヒッヒ。沢山吸っちまうよぉ」

 

 

 

 

 

 

 

「こんなもんかな? どう思う? ドライグ」

 

 

ゲーム当日、一誠は雨水がたっぷり溜まったプールに小瓶の中の液体をドバドバ入れながら尋ねる。彼の足元には同じ様な小瓶が幾つも転がっており、まだ中身が入っている小瓶も幾つも置かれていた。一誠の質問に対し、ドライグは疲れ果てた様に答える。

 

『ああ、なんで今回の相棒はこんなに外道なんだ。……一応残りも入れておけ』

 

「うん! ドライグが入れろって言ったから入れておくね。いや~、ただのロリペドドラゴンかと思いきや、外道ドラゴンでもあったんだね!」

 

『何時までそのネタを引きずる気だ!? というか俺のせいにされた!? うぉぉぉぉぉん!』

 

ドライグの精神がガリガリと削られていく中、ゲームの時間が近づいてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回のゲームは非公式とは言え、グレモリー家とフェニックス家の婚約を賭けた戦いであり、多くの家の利権が絡んでいる。そしてコレから行われるゲームは婚約自体には関係ないものの、ハーデスに目をかけられている上に赤龍帝を宿す者が出場するとあって多くの貴族が観覧席に集まっていた。

 

「いや~、たかが人間とはいえ、神滅具を持っていますから少しは楽しめそうですな」

 

「まぁ、せめて眷属の一人は倒して欲しいものですな。まぁ、ゲームには事故がつきものですし死んでも仕方ないでしょう」

 

「もしそうなったら息子の眷属に迎え入れたいものです。神滅具持ちを眷属にしたら箔がつきますからな」

 

貴族達の殆どは一誠が勝つなど思ってもおらず、どれだけ足掻けるかという事を話し合っている。というよりも、生意気な人間が甚振られるのを見て楽しもうという想いの者が大半だった。そんな中、ハーデスに付き従うかのように一誠は観覧席へと入ってくる。まずはハーデスが選んだ一誠の代役対ライザーのゲームが行われるので試合を見に来たのだ。

 

《久しぶりだな、サーゼクス》

 

「これはハーデス様。お久しぶりです」

 

ハーデスの席の隣にいたのはリアスと同じ赤い髪をした青年。彼こそが四大魔王の一人であるサーゼクス・ルシファーだ。彼はハーデスに挨拶したあと、一誠の方を向く。

 

「やぁ、君が今代の赤龍帝だね? グレイフィアから聞いてたけど、本当に今までとは違う禁手なんだね」

 

「へ~、貴方が現ルシファーなんだね。うわっ、爽やか~。とても王族に逆らって王座を奪い取った人には見えないや~。お嫁さんと同じで綺麗に取り繕うのが上手だね!」

 

「はっははは……。これはキツイ事を言うね」

 

一誠が楽しそうな声で言った言葉にサーゼクスは頬を引きつらせながらも笑顔を浮かべ続ける。後ろに控えるグレイフィアは明らかに敵意を発し、貴族達も一誠を睨んでいる。だが、一誠はそんな事など気にした様子もなくゲームフィールドを映す画面に目をやる。其処には異形に囲まれたベンニーアの姿が映っていた。

 

 

 

 

《見ているでやんすか? ハーデス様達~! 期待に添えるように頑張るでやんすよ~》

 

 

 

 

「期待してるの?」

 

《いや、適当に選んだだけだ》

 

 

『それでは今よりライザー・フェニックス様と赤龍帝代理ベンニーア様のゲームを開始いたします』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ、あの人間の手駒ってどんなだと思う?」

 

「さぁ、どうせ大した事ないでしょ」

 

「お喋りは其処までよ。来たわ!」

 

ゲームの舞台は駒王学園を正確に模した空間。ベンニーアの拠点は新校舎の生徒会室でライザーの拠点は旧校舎のオカルト研究部の部室だ。そして中間地点にある体育館は重油拠点であり、ライザーも其処には四人もの眷属を送っていた。そこに居たのは中華風の衣装を纏った『戦車』の雪蘭。体操服にスパッツ姿の双子の『兵士』のイルとネル。そして棍使いで同じく『兵士』のミラ。彼女達が体育館に入ってくる気配に身構えるも、その姿を見て拍子抜けした表情を見せる。

 

「……子供?」

 

そう、入ってきたのは双子なのか瓜二つの幼い少女達。髪型も同じ三つ編みで違いと言ったら服の色くらいだろう。それぞれ白と黒の服を身に纏い、仲が良さそうに手を繋いでいる。

 

「わぁ! お姉ちゃん達が一杯だね、わたし(アリス)

 

「お姉ちゃん達が一杯だわ、あたし(ありす)。じゃあ、早速鬼ごっこでもしようか」

 

二人はそう言うと両手を繋ぎ、同時に言葉を発する。

 

 

 

 

「「此処では鳥はただの鳥。此処では人はただの人。名無しの森にご招待!」」

 

「ッ! させない!」

 

異変に気付いたミラは二人に飛びかかろうとするも時すでに遅し。二人の姿が掻き消えたかと思うと遥か遠くに移動しており、何時の間にかミラ達は見知らぬ森の中に居た。それは転移したというよりも空間其の物が上書きされたかの様であり、四人は何か違和感を感じながらも二人の後を追いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、観覧席ではフィールドに突如起きた異変に大してどよめきが走る。そんな中、ハーデスは静かに笑っていた。

 

《ファファファ……。あの女童共中々やりよるわい。まさか世界を塗りつぶすとはな。……どういう者達だ?》

 

他の者には聞こえないように防音の術を施したハーデスは一誠に訪ね、一誠は得意げに答える。

 

「ふふん。正確には者達じゃなくて者なんだよ。あっちの白い子の名前は『ありす』。ずっと病気がちで、病室の窓から見える景色があの子の知る外の世界の全てだったんだ。友達も居なかったあの子は空想の友達を作り出し『アリス』と名づけた。其れはやがてあの子のもう一つの人格となり、死してなお一緒に居るんだ。……純粋な想いほど強い力を持つ。穢れのないまま死んだあの子の力は凄いんだ。……そして、もう直ぐあの『名無しの森』の恐ろしさが分かるよ」

 

愉快そうに笑みを浮かべて一誠は再び画面に目をやる。其処には『ありす』と『アリス』を行き止まりまで追い詰めたにも関わらず立ち尽くす四人の姿が映っていた。

 

「ねぇ、私達の名前って……ナンダッケ?」

 

「さぁ? と言うよりナマエってナニ?」

 

「何でこんな所に居るンダッケ……?」

 

「……」

 

四人は次第に目が虚ろになり呂律も回らなくなる。やがてその姿が透け始め、

 

 

 

 

「ふふふ。勝ったね、わたし(アリス)

 

「ええ、勝ったわ、あたし(ありす)

 

二人が無邪気な笑みを浮かべて向ける視線の先で完全に消えて無くなった……。

 

 

 

 

 

 

 

『ライザー・フェニックス様の『戦車』一名 『兵士』三名  リタイア……なっ!? 帰還していない!?』

 

グレイフィアは機械に表示されたゲームフィールド上から四人が居なくなったという情報を元にアナウンスを行うも、彼女達の帰還を告げる表示は何時まで経ってもされず、流石の彼女も少々取り乱す。観覧席にもどよめきが走り、先程まで黙って見ていたサーゼクスは一誠に話しかけた。

 

「ライザー君の眷属が帰ってきていないそうだが、どういう事だい?」

 

「あれの事? 『名無しの森』に入ったら二人を捕まえるか自分の名前を叫ぶまで出られないんだけど、名無しの言葉通り彼処に入ると名前を忘れ、やがて存在そのものが消えて無くなるんだ。でも、仕方ないよね。さっき貴族のオジさんも言ってたじゃん。『ゲームには事故がつき物』ってさ」

 

一誠は口角を吊り上げながらそう告げる。その笑みはサーゼクスでさえ身の毛のよだつ不気味なものだった。

 

 

 

 

 

 

そしてゲームは中盤戦に移行する。旧校舎周辺の森には『兵士』三人が配置され、先ほどのアナウンスを受けて残りのメンバーは旧校舎に集められ入り口前に待機している。そして森の上空と旧校舎に怪しい影が近づいていた……。


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