霊感少年の幽雅な生活 (完)   作:ケツアゴ

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難産でした


七十九話

「部屋をご用意致しましたので、どうぞ其方へ」

 

クドラクの問いを有耶無耶に誤魔化したマリウスの部下に案内され、レイナーレ達は客室に向かう。その途中、クドラクはずっと首を傾げていた。

 

「なぁぁ、レイナーレェ。アイツ等ってぇ、誇りある吸血鬼なんだろぉぉぉぉぉ?」

 

「ええ、自分達でそう言ってるわね。それがどうしたのかしら?」

 

「だったらぁ、なんでぇ同族に対してあんな扱いをするんだぁ? 仲間はぁ、大切だろぉぉぉ? それにぃ、聖杯の力で強化したらしいがぁ、貰い物の力の何処が偉いんだぁぁぁ?」

 

このクドラクは正式には伝説の吸血鬼であるクドラクでは無く、古代の吸血鬼の怨念にクドラクへの恐れの念などを混ぜてクドラクの姿に作り上げた存在だ。その為か知能は非常に低い。しかし、古代の吸血鬼としての記憶を持つ彼には今の吸血鬼達が誇りが有るようには見えなかった。

 

「……そうね。狭い世界しか知らないから、他人を見下さないと自分を保てないんでしょ。……昔の私みたいにね」

 

レイナーレはクドラクの疑問に対し、自嘲するように微笑んだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『え~と、織物に木彫り細工、絨毯は全部買ったし、後は何だ?』

 

「紅茶とお菓子ね。人間から吸血鬼になった者用のお菓子があるそうよ。娯楽が殆ど無いから、その分味が期待できそうね」

 

その後、城下町まで出たレイナーレとグレンデルは頼まれた土産を買っていた。買った物は片っ端から転移させ、メモに書かれたリストは殆ど買い終わっている。邪龍の視力で細かい汚れや傷を見逃さない目利き役のグレンデルと値下げ交渉役のレイナーレという組み合わせで、クドラクは馬鹿だから留守番だ。

 

『……おい、アレってもしかして』

 

「オ、オーフィス!? ど、どうしましょう!?」

 

そんな中、グレンデルは露天の商品をジッと見ている少女を見つけ指さす。其処に居たのは紛れもなく封印されたはずのオーフィスであった。

 

 

 

「お、お嬢ちゃん、それが欲しいのかい?」

 

店主が話し掛けるもオーフィスらしき少女はドラゴンの姿をしたアクセサリーをじっと見ていて何も話さない。するとグレンデルが近づいていき、店主にお金を差し出した。

 

『……端っこに細かい傷がある。少しまけろ』

 

「は、はぁ……」

 

グレンデルが差し出した金額は値札の金額と然程変わらなかったので店主も文句を言わず受け取り、アクセサリーを渡す。そしてグレンデルからオーフィスらしき少女に手渡された。

 

『ほれよ。これが欲しかったんだろ?』

 

「……懐かしい気配が三つ。何で?」

 

少女はグレンデルを見上げて首を傾げる。その時、少女の腹が盛大に鳴った。

 

 

「……ご飯にしましょうか。その子が誰か知りたいしね」

 

レイナーレは肩を竦め、二人と共に近くのレストランに入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、それでお日様は明るくて暖かいんですね」

 

「そうだぞぉ。お日様はぁ、ポカポカでぇ、ピカピカなんだぁぁぁ!」

 

その頃、ヴァレリーとクドラクは庭園でお茶を飲んでいた。最も、クドラクにマナーなんて理解できず、カップを傾けて紅茶を口に流し込み、クッキーは食べ滓をボロボロと零している。明らかなマナー違反にも関わらず、そんな姿を見ているヴァレリーは楽しそうだ。

 

「ふふふ、クドラク様って伝説とは随分違うんですね。ええ、貴方達もそう思うわよね」

 

「そうかぁ、お前らもそう思うかぁぁ!」

 

普通ならヴァレリーとしか会話ができない亡者達も、同じ亡者のクドラクとは話ができるので話は弾んでいる。

 

なお、伝承のクドラクは悪疫や凶作を振りまく悪の魔術師である吸血鬼で、決まった倒し方をしないと更に強力になって復活するという。

 

狂った同士話は進み、徐々お開きといった頃、クドラクはヴァレリーの顔を覗き込んだ。

 

「なぁぁ、なんでお前逃げないんだぁ? このままだとぉ殺されるぞぉぉぉ?」

 

「逃げる? 一体何処にですか? 私は外の事を何も知りませんから……」

 

その時の彼女の瞳は先程までの狂った瞳とは違う瞳。それは全てを諦め切った瞳だった。

 

 

 

 

 

 

「当たり前だぁぁ。行った事も聞いた事もない場所の事を知っている奴なんていなぁぁぁい。お前、馬鹿かぁぁぁぁぁ? ……安心しろ小娘。余が助けてやろう。真の吸血鬼の誇りを持つ余は同族を見捨てぬ。それが半吸血鬼であってもな」

 

「……え?」

 

「どうかしたかぁぁぁぁ?」

 

ヴァレリーは一瞬だけ印象が変わったクドラクを見て驚くも、次の瞬間には先程までの馬鹿丸出しの姿に戻っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それで、どうしてこんな状況に?」

 

「え~と、細胞分裂?」

 

「あ~、はいはい。玉藻って単細胞生物だったんだ」

 

一誠の目の前には正座している九人の玉藻。なお、先ほど抱きついて来たのは裸エプロンで、残りの八人は右からスク水、ナース、メイド、ゴスロリ、花嫁(和)、花嫁(洋)、学生服、そして最後に婦警。一体どこのコスプレ風俗店だと言いたくなるラインナップだ。

 

「うぅ、そこはもっとノリよく突っ込んで下さいよぉ。あ、別の物を突っ込んでも……痛ーい!?」

 

「それで、一体全体どうしてこんな事に?」

 

「ワンモア!? ……分かりましたから、そのゴミを見る目を止めてくださいよぉ。癖になっちゃいそうです♥ ……さて、冗談は此処までにします。実はご主人様が死神となった事で強化され、私としても妻として今まで以上に尽くす必要が御座います。故に、至らぬのなら人数を増やせば、と思いまして」

 

「……ゴメン。君が其処まで考えていてくれているんなんて思わなかったよ」

 

急に真面目に話しだした玉藻(裸エプロン)の言葉を聞き一誠は心を打たれる。彼女はそこまで自分の事を思っていてくれたのだな、と。

 

「何をおっしゃいます、旦那様(・・・)! 夫を支えるは妻の役目。私は良妻を目指す身として当然の事をしたまでです。……それとも、ご迷惑でしたか?」

 

最後の言葉を放つ時の玉藻の顔は不安に映震えている時の顔。一誠は思わ玉藻を抱きしめていた。

 

 

「……迷惑なんかじゃない。此れからも俺を支えてくれ。ただし、無理はダメだよ?」

 

一誠は抱きしめる腕の力を強め微笑む。玉藻も彼の背中に手を回し……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっしゃぁぁぁぁぁぁっ! 捕まえたぞ、者共ぉ!」

 

 

「……へ?」

 

急にテンションを上げて一誠を拘束する。後ろに控えていた八人はヨダレを垂らしながらにじり寄り、もれなく九人とも目が怖い。

 

「ふっふっふっ! 掛かりやがりましたね、ご主人様。いやぁ、一回多人数プレイやってみたかったんですよねぇ♥」

 

「私はぁ、獣の様に責めて欲しいなぁ♥」

 

「私はとことん攻めて差し上げます」

 

「一緒に愛し合いましょう?」

 

「ご、ご主人様と子作りなんかしたくないんですからね! あ、嘘です嘘です。したいですぅ~」

 

「ご主人様、お覚悟を。何、すぐに済みます。……二~三十時間くらい?」

 

「「「あ~、もう! 色々メンドくせぇ!」」」

 

どうやら先程までのは彼女の策略だった様だ。どこまで行ってもシリアスブレイカーの玉藻×九。彼女たちは一斉に飛びかかる。

 

 

 

 

 

しかし、襲いかかろうとしたその瞬間、部屋の景色が変わり、玉藻達は木造の旧校舎に転移していた。

 

「なっ!? どうやって!?」

 

「……死神になってから旧校舎を通らなくても異界に来れるようになってね。後、あの人に念話を送っておいたから」

 

「ま、まさか……」

 

玉藻は後ろから放たれるプレッシャーを察知してゆっくりと振り向く。

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ、説教の時間だよ馬鹿狐。SAN値の貯蔵は十分かい?』

 

そこには久しぶりの出番に張り切っているのか、迫力三割増の口裂け女が立っていた。




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