霊感少年の幽雅な生活 (完)   作:ケツアゴ

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八十話

「……非常に拙いですね。同じ吸血鬼なら取り込めると思ったのですが……」

 

クドラクとヴァレリーが談笑する中、マリウス達は会議室で焦りの色を見せていた。伝説の吸血鬼であるクドラクによる彼らの行動の否定は兵や一部の貴族に動揺を与え、このままでは計画に支障が出かねない。当初は仲間に引き入れて旗印にでもしようとしていたのだが、その目論見はまんまと外れてしまった。

 

「彼らはお帰りになり、その道中で何かあったが此方は何も知らない。……そうですよね?」

 

マリウスの出した結論に出席者達は頷き、その為の準備に掛かる。その様子をクロウ・クルワッハは冷めた目で見つめていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、口元にソースが付いてるわ」

 

レイナーレ達が入ったレストランではルーマニア料理を中心に多国籍な料理が楽しめ、オーフィスらしき少女は口元にソースや食べカスを付けながらグリルされた肉や野菜を頬張っている。グレンデルは店長の青ざめた顔を無視して十皿目のチャレンジメニューを完食し、追加を頼もうか迷っている所だ。レイナーレは自分の食事をそっちのけで少女の世話を焼いている。

 

『それで、お前は誰だ? 何の目的でこの里に来やがった?』

 

「……リリス。リゼヴィムを守る為に着いて来た。……懐かしい匂いがする。赤いのと白いの?」

 

もう十食べたのか、少女はフォークを置き、グレンデルの質問に答えた後、徐ろに彼の体を嗅ぎだした。

 

「止めておきなさい。其奴からは汗の匂いと加齢臭しかしないから。 ああ、私はレイナーレよ」

 

『いや、最近絵画も始めたから油絵の具の匂いもするぜ? 今度、異界の音楽家共に楽器習う事になったしよ、現世って楽しいよな。 ……俺はグレンデルだ』

 

もはや邪龍って何だっけ? といった会話を二人がしている間に何時の間にかリリスの姿は消えていた。

 

『んで、どうするよ? ハーデスには連絡したんだろ?』

 

「ええ、したわ。お土産ご苦労ですって。ヴァレリーに関しては好きにしなさいって言ってたわ。だって、私達は『女王』である彼女に招待されて来たんですもの。……その女王が殺され様としているのを見過ごすか、防ぐかは現場の判断に任せるそうよ。……それに、面白い名も聞けた事ですしね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ささ、どうぞ此方へ」

 

「うぉれに、なんのようだぁ?」

 

その頃、クドラクはマリウスに案内されて城から少し離れた場所にある建物に入っていく。案内された部屋の真ん中には椅子とテーブルが有り、テーブルの上にはご馳走が用意されていた。

 

「クドラク様の為にご用意いたしました。どうぞ心ゆくまでお食べ下さい」

 

「おぉ! うぉまえ、よくやったぁぁぁ! メシ、メシィィィィィィィ!」

 

クドラクは一目散にテーブルへと駆けていき、マリウスは部屋の外に出て扉をそっと閉める。その手は壁に隠されたスイッチに触れられていた。

 

 

 

 

「……どうですか? 最後の晩餐は。……いえ、最後の昼食ですね」

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

この部屋は騙した連れてきた相手を殺す為の物。スイッチを押すと床が抜け、銀の槍が姿を現す。そして運良く床の槍に刺し貫かれなくても、銀の槍が出現した天井がゆっくりと降りてきて刺し貫き押し潰す。所詮伝説は伝説。此処まですればクドラクでも死ぬと判断し、マリウスは計画を最終段階に移そうとしていた。

 

 

 

「ああ、もう直ぐですね。誇り高い我々吸血鬼が世界の覇者になる日まで……」

 

マリウスは自己陶酔しながら城へと向かう。クドラクの死を確認しないまま……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ。私達も舐められたものね。多少強化したくらいで私達に勝てる訳無いじゃない。これなら新しい奥の手はいらないかしら?」

 

『油断すんな、レイナーレ。直に面白い奴らがやって来るぜ』

 

取り敢えず城へと戻ってきた二人を待ち構えていたのは武器を持ち、殺気を放った吸血鬼達。我々は聖杯で強化されている! と自信満々に掛かってきた彼らはあっさり返り討ちにされた。レイナーレには灰にされ、グレンデルには挽肉にされた彼らは強化された再生能力も発揮できず息絶えている。そして、退屈そうに欠伸をしたレイナーレをグレンデルが諌めた時、二匹のドラゴンが出現した。

 

 

「……俺はグレンデルと戦う。お前はあの女を殺せ」

 

「やれやれ、アナタの方は楽しそうで良いですね。早めに終わらせますので、その時混ぜてくださいよ?」

 

二人の前に現れたのは最強の邪龍と呼ばれるクロウ・クルワッハ。そして、木の様な体を持つドラゴンだった。

 

「このタイミングで切り札投入って事は、やっぱり神器を抜く気ね。クドラクは何してるのかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、レイナーレの予想通り、城の地下室ではヴァレリーの神器を抜く儀式が行われようとしていた。

 

 

 

「喜びなさい、ヴァレリー。混ざり物の貴女が我々純血種の役に立てるのですから光栄でしょう? 聖杯の力により我々は人間を支配し、世界を手にするのです!」

 

「クドラク様……」

 

神器を抜かれた者は死ぬ。死を前にしたヴァレリーが呼んだのは、かつて逃がした幼馴染の名ではなく、会ったばかりの男の名。マリウス達はクドラクを殺した事を教えたら目の前の彼女がどの様な反応を示すのかと嗜虐心をそそられる。

 

「ああ、彼なら……」

 

そしてクドラクの死を教えようとした瞬間、ヴァレリーの体が魔法陣の上から消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……愚か者共が。力で相手を支配する事しか出来ぬのは三流の証。同族を犠牲にしなければ目的を果たせぬのならそれ以下だ。もはや貴様らが吸血鬼を名乗る事すら虫酸が走るわっ!」

 

「クドラク…様……?」

 

其処に居たのはヴァレリーを抱き抱えたクドラクの姿。その目には確かな理性、そして燃え上がるような憤怒が宿っていた。

 

「……貴様は其処で待っていろ。道具の力に酔っている屑共には余が引導を渡してやる。そうだな、全部終わったら余が直々に日本を案内してやろうっ! 日本は良いぞ。食に対する欲求が桁違いだから飯が旨い!」

 

ヴァレリーを下ろしたクドラクはマントを翻し、カラカラと哄笑するとマリウス達に向き直った。

 

「さて、仕置の時間だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ったく、アンタは毎回毎回っ! 大体良い事言ったなら其処で止めときなって言ってるだろ? だいたいアンタの所には餓鬼も居るんだから」

 

「いや、見た目や中身は子供ですが、全員生前と合わせると……」

 

「あぁん? 私の言葉になんか文句でもあんのかい?」

 

「い、いえ! なんでもありません!」

 

口裂け女の説教が始まってから数時間が経過し、一誠は離れた所でメリーや花子達と遊んでいた。

 

 

「そう言えばガウェインさん所、漸くご懐妊だって。ランスロットが言ってた。あ、三連続で天鱗。でも、要らないんだよな~。重殻が一個も出ないや」

 

「ご懐妊って何?」

 

「……赤ちゃんが出来る事。私は厚鱗ばっかり……」

 

一誠がゲームをしているのを頭の上に乗りながら見ていたメリーは首を傾げる。花子もゲームをしているようだが手に入ったアイテムに不満そうだ。

 

 

 

 

 

「……それで、乱交をしたかったから増えたって言うのかい?」

 

「……だってぇ、折角赤ちゃんができる体になったんだから、一日も早く産みたくって。ガウェインさんの所が出来たって聞いてつい……。数が多ければその分確率も上がりますし……。後は孕んだ体を中心に同化すれば良いかなって……」

 

耳と尻尾を垂らして落ち込んでいる玉藻達の姿に口裂け女は頭を押さえる。

 

「……同時にできた場合はどうするんだい? あと、増えた分一人当たりの時間は減るよ?」

 

「「「「「「「「「あっ! その発想はなかった!」」」」」」」」」

 

「……取り敢えず一誠を全員で襲ったら元に戻りな。あの馬鹿も九人を相手にする大変だろうしね。まぁ、一回くらいは旦那の甲斐性だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な~んか嫌な予感が。いや、良い事かも? ん? どうしたの、アリス?」

 

「お兄ちゃん。私、これに行きたい」

 

ありすは一誠の袖を引っ張ぱりながら一枚のチラシを差し出した。

 

 

 

 

 

「……実写版ミルキーのオーディション? ……コスプレババアが来そうだけど、面白いものが見れる予感がするなぁ」

 

その時、とある学園の生徒会長は謎の寒気を感じたという……。

 

 

 




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