霊感少年の幽雅な生活 (完)   作:ケツアゴ

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八十一話

『ハッハァァァァッ!! 楽しいなっ! 楽しいな、おいっ!!』

 

グレンデルは全身から青い血液を流しながらも高らかに笑いクロウ・クルワッハに襲い掛かる。しかし、傷だらけの彼に対しクロウ・クルワッハには殆ど傷がない。今もグレンデルが拳を突き出すも身を僅かに逸らして避け、反対に彼の胸に爪痕を付ける。堅牢さが売りのグレンデルの体はあっさりと切り裂かれていた。

 

「昔に比べて動きに無駄がなくなった。格闘技を身に付けたか。……だが、鍛えていたのは俺も同じだ。俺は滅んだと思われている間、世界を回って修練を積み、既に二天龍に匹敵する力を得た。今のお前では俺に勝てん」

 

彼から放たれるオーラは言葉に違わず全盛期のドライグ達に匹敵するだろう。グレンデルも格闘技の他に様々な敵の魂を食べてパワーアップしているといっても彼には及ばない。圧倒的な実力差を感じ取ったグレンデルは、

 

 

 

『……ハハハ。グハハハハハハハッ!! 良いぜっ! 最高だな、おいっ!!』

 

高らかに笑った。口から青い血を流しながらグレンデルは笑う。今の彼は心の底から楽しそうだった。此れこそがグレンデルの真骨頂。普段は趣味のせいで忘れられているが、自分が死ぬ事すら楽しみの一つにするほどの戦闘狂。大罪の暴龍とまで呼ばれる所以であった。

 

グレンデルは空間を歪ませトンファーを取り出す。彼が持ち手を軽く捻ると龍殺しの力を持つ刃が出現した。

 

「……戦闘狂め。だが、それでこそドラゴンだ。では、本気で行くぞ!!」

 

『あったりまえだぁぁぁっ!!!』

 

クロウ・クルワッハも楽しそうに笑うと息を吸い込みブレスを放つ。グレンデルは哄笑しながらブレス目掛けて突っ込んで行った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「燃え尽きなさいっ!!」

 

レイナーレは渾身の炎光を放つも、木の様な体を持つドラゴン、宝樹の護封龍(インソムニアック・ドラゴン)ラードゥンには傷一つ付けられない。結界と障壁を得意とするラードゥンの体はグレンデル同様に強固で、障壁と合わせればグレンデルを凌ぐと豪語する。窪みの様な目がレイナーレを嘲笑うかの様に怪しく光った。

 

「貴方、弱いですね。精々最上級堕天使の下の方っと言った所でしょか?」

 

「くっ!」

 

レイナーレはその言葉に歯噛みする。彼女の翼はコカビエルと同じ八枚に増えていたが、やはり経験の浅さが響いて未だ彼以下の実力しかない。

 

 

彼女は死霊四帝の中で最弱。いや、幽死霊手の中にも彼女以上の実力者は数多く居る。彼女が幹部待遇なのは情報収集の為の洗脳をしたので扱いやすいから。

 

 

 

 

「……分かってるわよ。私の力じゃ貴方に勝てないのは分かってる。自分が弱いなんて事……私が一番分かっているのよっ!!」

 

そして、それを誰よりも理解しているのはレイナーレ自身だった。彼女は叫びと共に自分ごとラードゥンを炎光で包む。激しく燃え上がる壁は周囲百メートル程を完全に包み込んだ。

 

「……愚かですね。私の障壁は熱も通しません。それに、此れだけの力を出し続ければガス欠がやって来る。……さて、疲労しきった姿を見て楽しむのも良いですが……さっさと終わらせますか」

 

ラードゥンはグレンデルとの戦いに参加する為、戦いを直ぐに終わらせようとレイナーレの居た場所まで転移する。その瞬間、轟音と共に何かが飛び出しラードゥンの体を障壁ごと貫いた。

 

 

「ば、馬鹿なっ!? 貴女には此処までの力は無かったはず……」

 

ラードゥンの体は左前足と尻尾が吹き飛んでおり、どうやら重要な器官にも損傷を受けた様で放たれるオーラも弱くなり、障壁も崩れ始めていた。そして、その崩れた箇所から周囲の炎光が流れ込み、ラードゥンの体を燃やしていく。炎が晴れた時、レイナーレは神々しいオーラを放つ弓矢を構えていた。

 

「ええ、私には無いわ。でも、力が足りないなら、他から持って来れば良いだけでしょ?」

 

レイナーレはラードゥンに嘲笑を向けながら弓を引き絞る。彼女が持っているのは天照より贈られた天鹿児弓(あまのかごゆみ)天真鹿児矢(あまのまかごや)。地上から高天原まで届いた神の弓矢の前ではラードゥンの障壁も敵わず、今度は頭部を撃ち抜かれた。

 

「……逃げられたわね」

 

だが、次の瞬間にはラードゥンの魂は別の場所へと転移していた。レイナーレも弓矢を使った疲労から追うだけの力が残っておらず、そのまま地上に降りた。

 

「さて、グレンデルの方はどうなってるかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『トンファーキック!』

 

「くっ!」

 

『トンファーラリアット!』

 

「なっ!?」

 

『トンファー鉄山靠!!』

 

「ぐぉっ!?」

 

グレンデルがトンファーを使い出してから彼らの戦闘の流れは一変する。変則的な技にクロウ・クルワッハは翻弄されていた。

 

『トンファー……』

 

「(もう、惑わされん!!)

 

クロウ・クルワッハは次にどの様な攻撃が来ても対応出来るようにグレンデルの体全体を見据え集中する。

 

 

 

 

 

 

 

 

『フラァァァァァァァシュッ!!!』

 

そして、トンファーから放たれた閃光をモロに見てしまい目を眩まされた。

 

「しまっ!?」

 

『つ~かまえたっ!』

 

グレンデルは怯んだクロウ・クルワッハの前足を掴み拘束する。その両腕の甲には宝玉が出現しており、同時に音声が鳴り響いた。

 

 

『Boost!!』

 

『Divide!!』

 

 

 

「なぁっ!?」

 

その瞬間、クロウ・クルワッハの力が半減し、グレンデルの力が倍増される。いや、クロウ・クルワッハから消失した力と同量が彼に付加されていた。

 

『驚いたか? 復活する際に使ったドライグの魂の欠片、そしてシャドウの野郎がヴァーリと戦った時にこっそり奪っていたホモペ……アルビオンの魂の切れ端。その両方を吸収したら手に入った力だ。ま、一回ずつしか使えねぇがなっ!!』

 

「ぐぉっ!」

 

グレンデルの強烈なヘッドバットが炸裂しクロウ・クルワッハの意識を刈り取る。だが、グレンデルはトドメを刺そうとはしなかった。

 

 

『今度は俺だけの力でテメェに勝ってやるぜ』

 

それは戦士としての誇りゆえの決断。意識を失ったクロウ・クルワッハをその場に残したグレンデルはレイナーレの下に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マリウス様っ! 一体何の騒ぎですか!?」

 

その頃、儀式の部屋の騒ぎを聞きつけた兵士達が部屋に雪崩込む。それを見たマリウスは勝ち誇った顔付きになった。

 

「おぉ! よく来たな貴様らっ! さぁ、あの男を殺せっ!!」

 

「なっ!? ク、クドラク様っ!?」

 

兵士達はマリウスが指し示した相手を見て動揺する。クドラクは伝説の吸血鬼であり、信仰の対象である。そんな彼を殺せと言われた彼らは戸惑うが、その様子にマリウスが激高した。

 

「バカ者共がっ! 私が殺せと言っているのだっ! さっさと殺さぬか!!」

 

「は、はっ!」

 

「……」

 

マリウスに威圧されクドラクに武器を向ける兵士達。だが、クドラクは腕を組んで大胆不敵に構えていた。

 

「……貴様ら。誰に向かって武器を向けている? まぁ、良い。余は寛大だ。さて、貴様らに問おう。吸血鬼の誇りがあるのなら余に従い、今の主に従うのなら余が自ら葬ってやろう。さて、どうする?」

 

『……』

 

クドラクから放たれる威圧感、そしてそれ以上のカリスマ性に固まり……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「き、貴様らっ!」

 

マリウス達に刃を向けた。その瞬間、クドラクの笑い声が部屋中に響く。

 

「クハハハハハハハハッ! 良く決断したっ! 褒美に余の力の一端を見せてやろう」

 

クドラクは右手をマリウス達に向け、

 

「―――腐況の風(ふきょうのかぜ)

 

黒い風がマリウス達を包み込んだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて、其処に隠れている者、さっさと出て来い。よもや余に謁見するという幸運を拒否する気ではあるまいな?」

 

クドラクはマリウス達の死体を踏み躙りながら壁を睨む。クドラクが踏んだ衝撃で死体の口から血が零れ落ち、室内に腐敗臭が漂う。流れ出る血も、全ての臓腑も腐りきった状態でマリウス達は死んでいた。これが悪病を撒き散らすと恐れられたクドラクの……正確にはクドラクという形を与えられた彼の力。

 

 

そして彼が睨んだ壁の隠し扉が開き、

 

「うひゃひゃひゃひゃっ! 凄いね、君」

 

「……」

 

リゼヴィムとリリスが現れた……。

 




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