霊感少年の幽雅な生活 (完)   作:ケツアゴ

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八十二話 退場者リストあり

「うひゃひゃひゃひゃっ! 君強いねぇ。どう、ウチ来ない?」

 

「却下だ、下郎めが。貴様、確かリゼヴィムとか言ったな?」

 

クドラクの前に現れたリゼヴィムは愉快そうに笑い、クドラクは油断なく彼と、その傍に居るリリスを見る。心なしか冷や汗が流れていた。

 

「そーだよ。俺っちがりぜヴィムだ。んで、君らが須弥山に引き渡したヴァーリの祖父。あ、誤解しないでね? アイツの事はどうでも良いから」

 

「……」

 

実の孫の事をどうでも良いと言い切るリゼヴィムにクドラクは眉を顰めたが何も言わない。ただ、自分をジッと見るリリスから意識を逸らさない様にしていた。ヴァレリーや兵士達を庇うかの様に背後にやり、代わりに自分が二人にジリジリと近づいていく。

 

「……それで貴様は何を企んでいる? 英雄派が創り出そうとした新しいオーフィスを使い、何をする気だ?」

 

「おっ! 聞いちゃう? 聞いてくれちゃう? 実はさ、ママンが悪魔なら大きい事をやれって言ってたか、何が良いか考えて思いついたんだよ。……グレートレッドを倒そうってな」

 

リゼヴィムは大袈裟な身振りをしながら嬉しそうに話す。どうやら誰かに聞かせたくて堪らなかったようだ。しかし、グレートレッドを倒すという目標にクドラクは疑問を感じる。完全なオーフィスでも倒せなかったのに、どうやって倒す気だ? と。

 

「……まさかっ! 貴様、『666(トライヘキサ)』を復活させるつもりかっ!?」

 

「うっはっ! さっすが伝説の吸血鬼なだけあんね。察しが良すぎんだろ。そう、聖杯を使って命の根源に触れてる間に見付けちゃったのよ♪ 黙示録の皇獣(アポカリプティック・ビースト)をねっ!」

 

黙示録の皇獣(アポカリプティック・ビースト)とはグレートレッドと並んで語られる伝説の魔獣で、その存在すら定かでないとされていた。リゼヴィムはそれを蘇らせ、グレートレッドを倒そうというのだ。

 

「愚かな。グレートレッドが居なくなれば次元の狭間にどのような影響が出るか分からんぞ。それがわからぬ程愚かでもあるまい。もしや、それしきも分からぬ阿呆なのか?」

 

「ん~? 分っててやってるよ? 俺は結構生きたし、最後にでかい事やったなら死んでも良いかなって感じなのよ。刹那主義っていうの? そんな感じ。ま、今の所は聖書の神が厳重な封印を掛けてるから蘇らせないんだけどね。……ねぇ、ヴァレリーちゃん。此れ何か分かる?」

 

「聖…杯……?」

 

ケラケラと笑うリゼヴィムの手の中にはヴァレリーの身に宿っているはずの聖杯が握られていた。

 

「実は君の聖杯って三個一セットだったのよ。マリウスちゃん達は気付いてなかったみたいだけどね。で、此れ返して欲しい? 返す気は無いけどね♪ っと! あっぶね~!」

 

リゼヴィムに向かって黒い風が放たれるも、リリスが手をひと振りして風を散らす。余裕のある笑みを浮かべるリゼヴィムに対し、クドラクは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 

「……ちっ! それで、貴様はまだ続ける気か?」

 

「うひゃひゃひゃひゃっ! 別にもう此処には用がないから帰るけど? ってか、帰って欲しいでしょ? 俺とのタイマンなら兎も角、後ろに其奴らが居る上にリリスちゃんが居るからね♪」

 

リゼヴィムは足元に魔方陣を出現させ、その場から消え去った。

 

「……覚えていろ、リゼヴィム。貴様は余が手ずから殺す。……さて、怪我はないな、小娘共?」

 

「はい。クドラク様が守って下さりましたから、私達は無事です」

 

「我ら一同感謝致しますっ!」

 

ヴァレリーは深々と頭を下げ、兵士達はその場に膝を付く。クドラクの目から先ほどまでの怒りは消え去り。温和なものへと変わっていた。

 

「さて、では外に出るぞ。再びクーデターが起きた事に対する会議を開かねばな。ぬっ!?」

 

突如城が激しく揺れ、クドラクはヴァレリーを抱えて部屋を出る。兵士達もその後に続き、彼らが外に出た時、無数の邪龍が街を襲っていた。

 

「あ、あれは……。クドラク様。私には分かります。アレは聖杯の力で強化された吸血鬼の成れの果てです……」

 

聖杯を宿している事で邪龍から放たれる聖杯の力を感じ取れたヴァレリーは力無く言う。自分に宿っていた聖杯が元でこの様な事になったのが心苦しいのだろう。その頭をクドラクはそっと撫でた。

 

「気にするでない。奴らは借り物の力で躍進を目指した恥知らず共だ。さて、貴様らに命じる。直ぐ様城下町に向かい、民を避難させよ。余は奴らを始末する」

 

「はっ! お気を付けてっ!」

 

兵士達の声援を背に受けながらクドラクは邪龍に向かって飛び立っていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『グハハハハッ! 脆い! 脆すぎんだろがぁぁぁっ!!』

 

「数だけで私達に勝てる訳がないでしょうっ!」

 

グレンデルとレイナーレは次々と邪龍を葬っていく。一体あたりの強さは中級悪魔より上程度。既に大部分が倒され、残った邪龍達は一斉に二人に襲い掛かる。だが、突如吹き荒れた黒い風に触れた瞬間、街に墜落していった。

 

「待たせたな」

 

「あら、まだ正気に戻ってるのね。この里の空気のおかげかしら?」

 

「……だろうな。では、余はカーミラ派の街に向かう。恐らく其処にも邪龍になった吸血鬼が居るだろうからな」

 

普段は魂の劣化で知能が低下して狂いきっているクドラクが正気に戻った理由。それはこの町の空気にあった。吸血鬼の魂が刺激を受ける事によって正気が戻りかけ、マリウスの手によって串刺しにされた際にクドラクの能力で強化されて蘇ったのだが、どうやら知能も強化されたようだ。

 

たとえ派閥は違っていても同じ吸血鬼なら助けなければならない。そう言ってカーミラ派の下に向かおうとしたクドラクであったが、グレンデルがマントを掴んだ事で動きを止められる。

 

『止めとけ止めとけ。さっき連絡したら、あの餓鬼共をカーミラ派の方に送っておいたらしい。あっちに黒幕が現れた時用だったが……今は二人が新しい玩具を使って遊んでるだろうよ』 

 

「尚更放って置けるかっ!!」

 

クドラクはグレンデルを振り払うとカーミラ派の下に急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

英雄派が一誠達の手によって敗れた時、彼らの神器もしっかりと抜き取られていた。アーローニーロに食われた曹操の『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』は勿論、ゲオルクの最強の結界系神器『絶霧(ディメンション・ロスト)』、レオナルドの想像した魔獣を創りだす『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』、そして帝釈天に引き渡されたヴァーリの『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』。

 

黄昏の聖槍を除く三つは冥府・アースガルズ・須弥山で分け合う事となった。アースガルズは絶霧を取得し,須弥山は当然、白龍皇の光翼。そして冥府が取得した魔獣創造はとある二人に渡された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次はゾウさんね♪」

 

「じゃあ、あたしはクマさん♪」

 

カーミラ派でも邪龍が街を襲いだしたが、急に現れた妙な魔獣によって討伐されていく。其れのドレもが絵本から抜け出したような可愛らしさと無邪気ゆえの凶悪さを兼ね揃え、街の被害を気にせず暴れまわる。そして、その全てがゴスロリ風のドレスを着た少女達によって生み出されていた。

 

そう、魔獣創造を与えられたのは、ありすとアリス。元は一つの魂だったものが分裂した二人だからこそ、一つの神器を共有できていた。二人は遊び感覚で次々と魔獣を創り出し、魔獣は邪龍相手に暴れまわる。街が無残に壊れる中、二人は手の平を合わせたまま腕を上げる。

 

「「出てきて! ジャイアント・ジャバウォック!!」」

 

二人の影から今まさに現れようとしているのは全長三十メートルを越えようとしている正体不明の怪物(ジャバウォック)。徐々に形作られていく怪物が咆哮を上げようとしたその時・

 

 

「止めぬか、馬鹿者共ッ!」

 

クドラクが二人の頭を叩き、創造は途中で中断された。クドラクは次に魔獣ごと邪龍を黒い風で包み退治する。可愛らしく凶暴な魔獣達は死ぬと同時に死体も残さず掻き消えた。

 

「ふぅ……」

 

少々疲れたのか息をつくクドラク。その時、彼の足に軽い衝撃が走る。見下ろすとアリスが彼の足をポカポカと殴りつけており、ありすは大泣きしている。

 

「クドラクがブったぁ~! うぇ~ん!!」

 

「アリスに何するのよ! この、このぉ!!」

 

 

「……やれやれ。此れだから子供は苦手なのだ。ほれ、余が飴をやるから泣きやめ」

 

クドラクは懐から飴の入った袋を取り出すと中から二個取り出し二人に差し出す。ありすは泣きやみ、

 

 

 

「ありがと! 行くわよ、ありす!」

 

「うん!」

 

アリスの手によって袋ごと持って行かれた……。

 

 

 

 

 

 

 

その後、壊滅的な被害を受けたカーミラ派とツェペシュ派は冥府主導の下に和平を結ぶ事となり、代表者であるクドラクの演説が行われる事となった。

 

 

「諸君! この度起こった悲劇は吸血鬼の誇りを忘れ、聖書の神に与えられた力を使い、獣のごとく力のみで覇を通そうとした愚か者共の手によるものである!! 忘れてはならない! 真に誇りある者は自らの力のみを使い、相手を力で屈服させずとも従えるのだ! 真の吸血鬼の誇りが何であるか、それを努々忘れるでないぞっ!! 以上である!」

 

『オォォォォォォォォォォォっ!!』

 

それは数分にも満たない僅かな時間。その僅かな時間でクドラクは民の心を掴んでいた。そして、彼がルーマニアを離れる当日、帰りの魔方陣の上にはヴァレリーの姿があった。今後の復興には冥府が大きく関わり、今回の一件には彼女の神器が利用された事もあって女王を退任。元々女性で半吸血鬼という事もあり、すぐに承認。今後は人質の名目でペルセポネーの下で働く事となった。

 

「うぉまえ、だいじょうぶかぁぁぁ?」

 

「はい。元々、下働きをさせられていましたから平気です。……あの、クドラク様。将来私をお側に置いてくださいませんか?」

 

この時、クドラクは再び正気を失っており、知性を感じさせない口調だったが、ヴァレリーの事を心配していた。それに対しヴァレリーは笑顔で答え、少々照れながら恐る恐る尋ねる。それに対しクドラクは理解できなかったのか首を傾げるだけだった。

 

 

 

「……では、私は此処で」

 

冥府に着いたヴァレリーは死神達に案内されてクドラクと別れる。その顔には一抹の寂しさが込められており、

 

 

 

 

 

 

「貴様が余に相応しい女になったら考えてやろう。それまで研鑽を忘れぬ事だ」

 

「……はい!」

 

その言葉で笑みに変わった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……クリフォト? へぇ、そんな組織名にしたんだ」

 

数日後、ハーデスに呼び出された一誠はリゼヴィムから各勢力に宣戦布告の書状が送りつけられたのを聞かされる。組織名はクリフォト。セフィロトの名を冠する聖杯を悪用する事から名付けられたらしい。

 

《ファファファ、それで流石の他の神々も手を取り合う事にし、テロ組織対策特殊チームを結成する事となった。貴様、それに参加しろ。……とは言わんよ。既に貴様の部隊の方が連携やら総合力でチームより上だろう? まぁ、対外的な物もあるし、独立部隊的な扱いをゴリ押しで得ておいた。まぁ、適当に相手してやれ》

 

「……面倒臭いなぁ。まぁ、良いや。その役目、最上級死神・兵藤一誠が謹んでお受けします。ハーデス様」

 

一誠は恭しくお辞儀をし、ハーデスは気持ち悪そうな顔をしている。

 

 

《……貴様に敬語を使われるとキモい。……そうそう、貴様の屋敷が完成したぞ。見に行ったらどうだ?》

 

「あ、そうだった。じゃあ、今日は泊まろうかな? 玉藻」

 

一誠の言葉に玉藻()は反応する。まだ、一人に戻っていなかった。

 

「「「「「「「「「みこーん! お泊りですね! お風呂でお背中お流しします、ご主人様ぁん♥ ……ぬっ!?」」」」」」」」」

 

九人の玉藻は互を牽制するかの様に睨み合い、ピリピリと空気が張り詰めた。

 

 

 

 

 

 

 

《鬱陶しいから早く元に戻さぬか。あ、今言ったの秘密な》

 

「……頑張ります。あと、絶対バラす」

 

 




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死亡者

アザゼル

松田

リアス

ヴァーリ

英雄派幹部

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