霊感少年の幽雅な生活 (完)   作:ケツアゴ

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八話

開始早々に起きた四人もの脱落。予想だにしていなかった事態にライザーの眷属達は慌てふためいていた。本拠地近くの森の中に配置された三人の『兵士』も落ち着かない様子だ。

 

「ちょっと! 人間相手だから楽勝だって言ったの誰よ!? 今のアナウンス聞いたでしょ。強制転移すらされないなんて……」

 

「アンタだって『精々甚振って遊びましょ』て言ってたじゃない! ……ちょっと、どうしたのよ?」

 

見下していた相手の得体の知れない力に彼女達は怯え、不安を紛らわせるかのように口論が始まる。そんな中、口論に参加していなかった一人が森の一角をジッと見ていた。

 

「い、今あそこで何かが動いたの!」

 

「ッ! 迎え撃つわよ!」

 

「で、でも、四人は死亡阻止のシステムがあるのに死んだかも知れないんだよ!?」

 

「そんな事言ったって、やられる以外でリタイアは『王』であるライザー様の意思でしかできないし、ハーデス様と揉めた事が無かった事にならなかったら拙いから、ライザー様は絶対にリタイアなんかさせてくれないわよ!」

 

三人は音がした方向を集中して見張るも誰も出てくる様子はない。三人は風のせいだったのかと三人は思いホッと一息つく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ずっどぉぉぉぉぉぉん!! うぉれ参上だぁぁぁぁ!!」

 

だが、突如後ろから声が聞こえたかと思った時、一人の首筋に激痛が走る。死人のような土気色の肌に白い髪の男が鋭い牙を彼女の首に突き立て血を吸っていた。

 

「あ…、助け……」

 

彼女は首筋から血を流しながら助けを求めて手を伸ばすも、恐慌状態に陥った二人は動けない。やがて彼女はミイラのように干からび、リタイアの光に包まれて消えていった。

 

『ライザー・フェニックス様の『兵士』一名リタイア』

 

彼女の退場を告げるグレイフィアの声には少々安堵が含まれていた。彼女は先ほどの四人と違って生きてリタイアする事ができ、治療によって命は助かるだろう。そして口元を血で濡らしたソイツは貴族を思わせる服の袖で血を拭うと、自分を怯えたように見つめる二人をじっと見て……狂ったように叫ぶ。

 

「だ、だめだぁぁぁ。そんな目で見ても、だめだぁぁぁ。穴が……あくあくあくぅぅぅ~。うぉれ、うぉれの名前はクドラクだぁぁぁぁぁ!!」

 

いや、実際に狂っているのだろう。クドラクはその後も意味不明で支離滅裂な言葉を叫び、ケタケタ笑いながら手を振り回す。そしてその手がぶつかる度に辺りの木々は木っ端微塵になっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《奴は吸血鬼か? 随分と理性がぶっ飛んでおるな》

 

「うん。そうだよ。正確に言うと退治された吸血鬼の怨念にスラブ人に伝わる吸血鬼の姿を与えたんだ。ちょ~っと獰猛で馬鹿だけど強いよ。怨念が古すぎて知能に影響が出て馬鹿だけど」

 

《二度も言う程か……》

 

 

 

 

 

 

 

「アヒアヒ、ヒャッハッハァァァァ」

 

「マリオン!」

 

クドラクと対峙している『兵士』のシュリヤーは仲間の名を叫ぶもクドラクに近づこうとしない。彼女の目の前ではマリオンの足を掴んだクドラクがそのまま彼女を振り回し周囲の木々を薙ぎ払う。理性が吹き飛んでいる彼の辞書には手加減という文字などなく、マリオンは容赦なく木に体をぶつけられた事で手足の骨が折れリタイアの光に包まれ出す。シュリヤーは彼女が消え次第クドラクに接近しようと足場を確かめると足に力を込め、彼の居る方向に視線をやる。だが、目を離した一瞬の内にクドラクとマリオンの姿は消えていた。

 

「ど、何処!? ハッ!」

 

彼女が辺りを見渡すと地面に不審な影が現れており、彼女が上を見た瞬間、跳躍したクドラクが消えかけのマリオンを勢い良く振り下ろした。

 

「ずっどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!」

 

轟音と共に辺りを土煙が包み込み、それが晴れた時には頭から血を流してクレーターの中心に倒れ伏したシュリヤーは、既にリタイアしたマリオンと同じように光に包まれ消えていく。

 

『ライザー・フェニックス様の『兵士』一名リタイア』

 

「ライザー様……。申し訳……あぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

僅かに残る意識の中、彼女は主への謝罪の言葉を口にする。だが、既に彼女の退場が決まったにも関わらず無防備な彼女に追撃がかけられる。クドラクが彼女に頭に足を置きグッと力を込めると彼女の頭からメリメリという音が鳴った。

 

「ウシャシャシャシャ。ギャハハハハハハ。ゲラゲラゲラゲラ。ドシャシャシャシャ。オホホホホホホ!!!」

 

クドラクは狂った笑い声を周囲に響かせ、心の底から楽しそうに無抵抗なシュリアーを甚振る。そして彼女の姿が完全に消えかけ観客達が安堵の息を漏らしたその瞬間、彼女の体を残したまま頭部が消え去る。辺りに血と脳漿が飛び散り、目玉がコロコロと転がっていった。

 

「うぉれは、うぉれは、大活躍だァァァァ!!」

 

『……ライザー・フェニックス様の『兵士』一名リタイア』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう我慢できん! これはゲームへの侮辱だ!」

 

「サーゼクス様! 其処の人間を処分する許可をくだされ!」

 

観覧席ではあまりの蛮行に我慢できなくなった悪魔達が一誠に詰め寄る。他にも詰め寄るまではしなくとも殺す事に賛同の声を上げる者も居て、室内は殺意で溢れかえった。気の弱い悪魔……次のゲームに備えて観覧していたアーシアは余りの光景に気を失い、松田は気絶まではしていないが胃の内容物を豪奢な絨緞にぶちまけていた。

 

 

 

 

 

「だってさ。ゲームのシステムの不備を棚に上げて俺を殺そうって言ってるけどどうするの? サーゼクスさん。別に俺は今から彼らと殺し合いを始めても良いんだよ? ていうか勝手だよね~。ゲームのシステムも完璧じゃないんだから死ぬ事だってありえるのに、其れを楽しんで観てながら、いざ死んだ時に文句言うなんてさ。それに、消えかけでも攻撃できるんだから、警戒して攻撃する事の何が悪いの?」

 

実際にゲームでは相手がリタイアの光に包まれた事によって油断した時にソイツによって倒されるという事がなくもない。だが、見下している人間に反論される事は驕りきった悪魔には耐えられなかった。

 

「ええい! もう我慢ならん!!」

 

一誠の言葉に我慢の限界を迎えた一人の悪魔は剣を抜いて一誠に飛びかかる。だが、何もない空間から突如現れた巨大な腕にその動きは遮られた。その腕は真っ黒でドロドロとした粘液のような物質で出来ており、常に下に滴り落ちてはズルズルと動いて腕に戻っていく。飛びかかった男はその腕の中に入り込むと藻掻き苦しみだし、徐々にその体が痩せだした。

 

「彼を離してくれないか? 賠償はきちんとするよ」

 

サーゼクスは驚く貴族達を手で制しながら一誠に頭を下げた。

 

「……まぁ良いか。シャドウ、出してあげて」

 

一誠は少しの間考えた後、腕に指示を飛ばし男を解放させる。だが、その時には男はやせ細り体は骨と皮のみ。もはや立ち上がる力さえ無くなっていた。

 

 

 

「あははは! じゃあ、賠償についてはハーデスの爺さんと話し合ってね♪」

 

悪魔や堕天使を毛嫌いして嫌がらせをするのを趣味としているハーデスに賠償請求権を譲渡した一誠は画面に集中する。其処には旧校舎周辺が映し出されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レイヴェル様! こうなったら打って出ましょう!」

 

パンダナを頭に巻いた『騎士』カーラマインは金髪ロールの少女にそう提案する。実はこの金髪の少女はライザーの実妹であるレイヴェル・フェニックスなのだ。妹をハーレムに入れる事は意義があるという馬鹿な兄の意見で『僧侶』になった事を彼女は後悔していた。

 

「(全く! 今回の敵はどうなってますの!?)」

 

今まで彼女は形だけの眷属としてしかゲームに参加せず、戦いは全て他の者に任せていた。それでも数の利と一族の特性である『不死』を持つライザーの力によってゲームは連勝続き。だが、今回の相手は今までの相手とはまるで様子が違う。あっという間に七人もの眷属がリタイアし、相手がどのような者なのかも分からない。そんな中で無謀にも敵陣に切り込もうと進言するカーラマインに辟易した彼女が同じ『僧侶』の美南風に視線を向けようとした時、強い風が彼女の隣を通り過ぎる。舞い上がった土埃に閉じた目を開けた時、レイヴェルの隣に居たはずの美南風と猫の獣人の双子で『兵士』のミィとリィの姿が消え、目の前には不気味な男が立っていた。

 

「ヒッヒッヒ! うめぇぇぇ~。やっぱ、悪魔ってうんめぇなぁぁぁぁ!! でもよぉ、すぐに腹の中から消えちまったよぉ」

 

『ライザー・フェニックス様の『僧侶』一名『兵士』二名 リタイア』

 

「な、何ですの貴方は!?」

 

 

目の前に居るのは頭にパンダナを巻き、頭から肩にかけて紫色の刺青をした大男。それだけなら普通の男だっただろう。だが、その体には色の違う腕が余計に四本もついており、その手には巨大なストローが握られている。

 

「レイヴェル様は一旦お退きください! この男、得体がしれません!」

 

「二人は突如消えました! もし封印系の術の使い手ならば『不死』の特性も無意味です」

 

「今すぐライザー様とユーベルーナの所へ!」

 

『騎士』のカーラマインとシーリス、『戦車』のイザベラはレイヴェルを庇うように男の前に出る。レイヴェルはその言葉に従うように炎の翼を背中から出して三階にある本拠地を目指し、三人は一斉に男に飛びかかる。そしてレイヴェルがチラリと下を見た時、三人は男が咥えたストローの中に吸い込まれていった。

 

「うめぇ~!! あぁ、最高だぁ~。……お前はどんな味がするんだろうなぁ」

 

「ひっ!?」

 

男はレイヴェルの方を向いて舌舐りをする。レイヴェルは恐怖に顔を引きつらせ、三階を目指して必死に飛び続ける。だが、全力で飛んでいるにも関わらず一向に前に進めず、それどころか徐々に男の方に引き寄せられる。そして窓から外の異変に気付いたライザーに向かって手を伸ばした瞬間、レイヴェルは完全に吸い込まれた。

 

『ライザー・フェニックス様の『僧侶』一名リタイア』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《……奴は餓鬼の一種だったな? 名前はグリンパーチといったか? 確か腹の中に小部屋を持ち、吸い込んだ物を徐々に消化する力を持っていたが……何故直ぐにリタイアになる?》

 

「うん。本当ならある程度消化されてからリタイアするんだけど、ゲーム前にある物吸い込ませたんだ」

 

《ある物?》

 

「プール一杯の水に力を譲渡した聖水を入れて、更にそのプールにも力を譲渡したんだ。多分部屋一杯に聖水が入ってたんじゃないのかな?」

 

悪魔にとて聖水は触れるだけで火傷するような危険物。そのような物の中に全身が浸かってはいくら『不死』の特性を持つフェニックスでも耐え切れなかったようだ。流石にハーデスもドン引きといった様子で一誠を見ている。

 

《エゲツナイな……》

 

「俺はアソコまでする気はなかったんだよ? でも、ドライグが持ってきた聖水を全部使えって言ったんだ。ひっどいよね~。ロリペドなだけじゃなくって外道なんだからさ」

 

『責任押し付けられた! てか、そのネタまだ引きずる気か相棒!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……こうなったら敵の本拠地に乗り込む。眷属を殆どやられ、ハーデスと揉めたとなれば俺は終わりだ。ユベルーナ、ついて来い!」

 

この時、ライザーは知らなかった。新校舎で待ち構える悪霊の存在を……。




意見 感想 誤字指摘お待ちしています 活動報告でアンケートも行ってます


クドラク 女神転生ソウルハッカーズ この話では吸血鬼の怨念をクドラクという伝説の吸血鬼として形作った存在
 
グリンパーチ トリコ この話では餓鬼の一種にしています

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